市場画定の意義と方法 - 不当な取引制限・企業結合・私的独占・不公正な取引方法それぞれの考え方 令和を展望する独禁法の道標5 第9回

競争法・独占禁止法
西本 良輔弁護士 森・濱田松本法律事務所

目次

  1. はじめに – 市場とは何か
  2. 検討対象事例
  3. 不当な取引制限と市場画定
    1. 昭和~平成の動き
    2. 令和への展望
  4. 企業結合と市場画定
    1. 昭和~平成の動き
    2. 令和への展望
  5. 私的独占と市場画定
  6. 不公正な取引方法と市場画定
    1. 昭和~平成の動き
    2. 令和への展望
  7. おわりに
  8. 白石忠志教授のCommentary
実務競争法研究会
監修:東京大学教授 白石忠志
編者:籔内俊輔 弁護士/池田毅 弁護士/秋葉健志 弁護士


本連載は、2020年12月をもって休刊となったBusiness Law Journal(レクシスネクシス・ジャパン株式会社)での連載「令和を展望する独禁法の道標5」を引き継いで掲載するものです。記事の最後に白石忠志教授のコメントを掲載しています。
本稿は、実務競争法研究会における執筆者の報告内容を基にしています。同研究会の概要、参加申込についてはホームページをご覧ください。

関連記事:
第7回 不当な取引制限における「意思の連絡」が成立するための要件 - 内容と外延の考察
第8回 再販売価格拘束を行い得る「正当な理由」とは何か

はじめに – 市場とは何か

 「市場(しじょう)」と聞いてどのようなイメージを持つだろうか。通常は、たとえば住宅市場やエンタメ市場のような、広くてぼんやりした概念が頭に浮かぶのかもしれない。
 しかし、独占禁止法(以下「独禁法」という)の「市場」は、より狭く、事案スペシフィックなものであり、「複数の供給者が、同一の需要者に対して、商品役務を供給しようとする場であり、法2条4項の『競争』が行われる場」と定義される 1。そして、この「市場」を画定すること(以下「市場画定」という)に一定の力が注がれる。

 では、独禁法においてなぜ市場画定を要するのか 2。それは、「公正且つ自由な競争を促進」する目的を達成するうえで、市場を画定しなければ、競争の実質的制限や自由な競争の減殺の有無が判断できないからである。なお、「一定の取引分野」を決定する作業が「市場」画定と呼称されているように、実務上は両者を同義と扱ってよい(以下、その前提で論じる)。

 まずは市場画定の概念を理解するため、以下のようなシンプルな教室事例を設定してみる。

  • 陸の孤島のような場所にそびえ立つX工場には、食堂がない。
  • X工場から片道15分圏内でランチを提供している店舗は、価格帯が同一の2軒の定食屋(A飯店とダイニングB)しかない。
  • 逆に、上記2軒の定食屋のランチ客は、X工場のワーカーのみである。
  • X工場から片道30分以上離れると、上記2軒と同価格帯のランチ提供店舗が3軒ある(C食堂、D亭、Eキッチン)。
  • X工場の昼休憩は1時間である。

 この教室事例で、A飯店とダイニングBがランチ価格を1.5倍に上げる協議をするとどうなるか。X工場のワーカーにとって、他の3軒は昼休憩時間内に往復することが不可能であるため、ランチの選択肢たり得ない。上記協議は「X工場のワーカー向けランチ提供市場」における競争を実質的に制限するカルテルといえそうである。
 他方、もしこのケースで仮に他の3軒がいずれも片道15分~20分圏内にあれば、同市場における競争の実質的制限がないとして結論は異なる可能性がある。

 しかし、ビジネスの現場は教室事例とは違って複雑であり、適切な市場画定を行うことは専門家にとってさえ容易ではない。そもそも、市場画定に絶対解はなく、ケースバイケースで最適解を求める営みであるように思える。

市場画定をイメージするための教室事例

市場画定をイメージするための教室事例

検討対象事例

 市場画定は独禁法に通底する概念であるが、実務においては、「不当な取引制限」「企業結合」「私的独占」「不公正な取引方法」という行為類型ごとにやや異なる取り上げられ方をしてきた。そこで、市場画定に対する理解の一助となるよう、本稿では各行為類型に分けてそのエッセンスを紹介することを試みたい。

事例①
  • 眼精疲労に効果がある健康食品Aにつきシェア30%(第1位)を有する健康食品メーカーα社は、販売代理店を通じて小売業者に健康食品Aを販売している。
  • 今般α社は、効率的な営業網を構築し、シェア25%(第2位)のβ社、20%(第3位)のγ社を突き放すべく、販売代理店契約において、販売代理店ごとに担当販売地域を指定するとともに、当該地域外での販売を禁止する約定を設けた。
  • なお、眼精疲労に同程度の効果があるとされる健康食品は他にBやCが存在し、売上規模も同等で価格差も小さく、消費者は特売の有無や口コミなどを参考に適宜商品選択しているし、これらの製造方法も似通っている。
事例②
  • メーカーδ社が開発するゲーム用機器Dは熱烈な固定ファンがいることで有名だが、ゲーム用機器としてのシェアは7%(第4位)に止まり、他メーカー開発のゲーム用機器Eの50%(第1位)、Fの25%(第2位)、Gの15%(第3位)に及ばない。δ社は、販売代理店を通じて小売業者にゲーム用機器Dを販売している。
  • 今般δ社は、効率的な営業網を構築し、ゲーム用機器内でのシェアを高めるべく、販売代理店契約において、販売代理店ごとに担当販売地域を指定するとともに、当該地域外での販売を禁止する約定を設けた。
  • なお、各ゲーム用機器間に互換性はなく、いずれも複数のアップデート版がリリースされてきているうえ、対応ソフトも一部を除き共通しておらず、関連製品も異なるため、ユーザーは特定のゲーム用機器を保有するのが通常である。また、製造には特許や営業秘密の問題が複雑に絡んでいるため、他社が手がけるのはまず不可能である。

不当な取引制限と市場画定

昭和~平成の動き

 不当な取引制限は、独禁法における市場画定の議論を牽引してきた。とはいえ、昭和末期に登場した石灰石供給制限事件 3 では、「具体的な行為や取引の対象・地域・態様等に応じて相対的に決定される」と曖昧な判示に止まっていた。

 しかし平成に入り、リーディングケースとされるシール談合刑事事件 4 において、「取引の対象・地域・態様等に応じて、違反者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し、その競争が実質的に制限される範囲」という著名な判示がなされた。
 この考え方は元詰種子カルテル事件 5 等で踏襲されたが、平成の末期に社会の耳目を引いたブラウン管カルテル事件(サムスンSDIマレーシア事件)6 では、市場画定の手法に対するトートロジーや論理が逆という批判 7 を意識したのか、「通常の場合、その共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討して、一定の取引分野を画定すれば足りる」と判示され、言い振りに若干の変化が見られた。

 上記批判の当否はともかく、当事者の意思に着目したこのような市場画定の手法はそれなりに合理的と理解され、カルテル・談合を問わず、公取委の実務上は確立している。
 すなわち、事業者は競争制限による超過利潤を得るために不当な取引制限を行うものであるところ、競争に晒されている事業者は、競争が行われている範囲および競争事業者を十分に認識しているから、何についてどの範囲で誰と協力すれば競争制限が可能かを合理的に判断できるはずであり、したがって共同行為が対象とする取引(商品の範囲・地理的範囲)を市場であると推定する。そのうえで、対象・地域・態様等に応じて、当該共同行為によって影響を受ける範囲を検討し、最終的な市場を画定する、という流れである。

令和への展望

 上記のような市場画定手法は、令和になっても大きく変わることはないと思われる。したがって、何らかの合意をした事業者が具体的な市場画定を争うのであれば、相当な合理的根拠がない限り奏功しない(そのような残念な結果に終わる場合が大半である)と理解しておくべきである。

 もっとも、常に違反者の合意の範囲が市場と合致するわけではない。現に、平成後半に登場した多摩談合事件で裁判所は、公取委の認定した市場 8 を拡大し、「公社発注のAランク以上の土木工事」という市場画定を行った 9

 なお、事業者によっては、次で述べる企業結合における市場画定の方法とあまりに違うこと自体を不合理であると主張する向きもあり、たしかに方法次第で画定される市場が異なる可能性は十分にある。しかし、上記ブラウン管カルテル事件(サムスンSDIマレーシア事件)において、このような相違が高裁レベルで正面から是認されており、有意とは考えにくい。

 令和ならではの新しい論点としては、テクノロジーの進化に伴い、アルゴリズムを用いた協調的行為等について、議論や実務運用が活発になっていくと思われるが 10、市場画定については基本を見失わないようにしたい。

企業結合と市場画定

昭和~平成の動き

 不当な取引制限における主観的なアプローチと対極にあって、客観的なアプローチによって市場画定を模索してきたのが企業結合である。
 その萌芽は、昭和の戦後間もない頃に登場した東宝・スバル事件 11 に見られる。
 しかし、議論を発展・深化させ、実務運用を決めてきたのは、平成16年に制定された「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(企業結合ガイドライン)12 であった。そこでは、需要者を確定したうえで、「商品役務の範囲」「地理的範囲」それぞれにつき、「需要の代替性」「供給の代替性」の2つの観点を考慮して市場画定がなされる

 その際、企業結合ガイドライン上は、基本は「需要の代替性」、必要に応じて「供給の代替性」とレベル感の書き分けがなされているが、現実には供給の代替性が重視されたと思われるケースもままあるため(たとえば、出光興産による昭和シェル石油の株式取得およびJXホールディングスによる東燃ゼネラル石油の株式取得 13 における「A重油」という商品範囲の画定など)、両者は常にセットで考えておくべきである(届出を行う事業者および弁護士にとっては、需要の代替性の観点では苦しい事案において、供給の代替性の観点で食い下がって市場を広く画定してもらう、というシーンは少なくないと思われる)。

 近時の公取委実務においては、同一市場・別市場のいずれとすべきか悩ましいケースにおいて、慎重に検討する観点から、それぞれ別市場と捉えたうえで、隣接市場圧力や参入圧力として評価することも見られる(たとえば、ジンマーとバイオメットの統合 14、合同製鐵による朝日工業の株式取得 15 など)。
 なお、一般的には、市場を広く画定するほうが、HHI 16 の点で当事会社にとって有利であると思われる。しかし、クリアランスの見込みが立つ事案では、少なくとも無理筋の主張をして同一市場か否かの議論に拘泥するよりは、その先の論点で勝負するほうが合理的な可能性はある。
 市場画定はあくまで最適解を求める営みにすぎないと考える所以である。

令和への展望

 不当な取引制限と同様、企業結合においても市場画定の実務運用は基本的に確立しており、令和で大きく変化することは想定し難い。ただ、テクノロジーの進歩に伴い、あてはめが困難な事例がより増えていくように思われる。

 たとえば、直近で注目を集めたZホールディングスとLINEの統合 17 においては、①ニュース配信事業においては「有料」と「無料」、②広告関連事業においては「広告事業」と「広告仲介事業」に分けたうえで、前者を「デジタル」と「デジタル以外」、「検索連動型」と「非検索連動型」、後者を「特定デジタル広告仲介事業」、③コード決済事業においては「消費者を需要者としたコード決済事業」と「加盟店を需要者としたコード決済事業」に分ける、という複雑な市場画定がされている。

 また、公取委は従前、企業結合後に価格上昇が起こるのはどの範囲なのかという観点に着目し、上記考え方に基づいて市場画定を行い、一定の制限を試みてきたが、無料やフリーミアムのサービスの増加に伴って、このような発想自体が成り立たなくなりつつある。
 そこで公取委も、商品役務の品質等が悪化した場合に需要者が他に切り替えることが可能かという観点で市場画定する場合のあることを明示するに至っており 18、令和において複数の事例が早晩現れると予測される

私的独占と市場画定

 不当な取引制限や企業結合のような議論の盛り上がりは皆無であるため簡潔に触れるに止めるが、私的独占においても市場画定は必要である。
 そもそも私的独占の弊害要件は、「公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」であり、市場画定を当然の前提としている。そして、「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針」(排除型私的独占ガイドライン)19 によれば、市場画定は、企業結合と同様、需要の代替性と供給の代替性に基づいて検討される。
 昭和から平成、そして令和になっても、この傾向は特に変わらないと考えられる。

不公正な取引方法と市場画定

昭和~平成の動き

 不公正な取引方法については、その定義に「一定の取引分野」が含まれていない点で(独禁法2条9号)、上記3類型と大きく異なる。そのためか、公取委の排除措置命令等においても市場が認定されないことが通常に思われる。

 しかし、一般に不公正な取引方法は、①自由な競争の減殺、②競争手段の不公正さ、③自由競争基盤の侵害の3つに分けて整理されるところ 20、このうち①自由な競争の減殺については、いわば競争の実質的制限の小型版と考えられ、それゆえ理論的には、市場画定をしなければ公正競争阻害性を判断することはできないはずである 21

 昭和には、たとえば不当廉売に関して、「千葉県松戸市に所在するマルエツ及びハローマートの上本郷店の商圏内における牛乳販売」という市場画定が暗黙裡になされたマルエツ・ハローマート事件 22 などが見られた。
 平成に入って、「公正競争阻害性を判断するに当たっては、…『市場』の範囲を画定した上で、行為が当該市場における参入と自由な競争を妨げられるものかどうかを検討すべきである…競争が行われる市場を画定しない限り、公正競争阻害性の判断は不可能である」と明言したウインズ汐留ビル管理業務事件が現れた 23。また、近時の高裁レベルで差止請求が初めて認容された神鉄タクシー事件 24 では、一審と控訴審が「著しい損害」の有無の判断を違えたのは、おそらく一審が「神戸市」を、対して控訴審が「鈴蘭台駅のタクシー待機場所」「北鈴蘭台駅のタクシー待機場所」をそれぞれ市場と捉えた影響が大きいように思われ、示唆に富むものといえる。

 さらに、事業者が頻繁に参照すると思われる「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(流通取引慣行ガイドライン)25 でも、「市場集中度」「市場シェア・順位」「市場における有力な事業者」と言及されていることから、「市場」を見極めることは当然の前提となっている。

 なお、具体的な市場画定の手法は、自由な競争の減殺は私的独占の小型版と捉えられることや、不当な取引制限のように合意が存在するとは限らないことから、私的独占のそれに倣うのが自然であるように思われる。

令和への展望

 事業者にとって、自社のビジネスが独禁法に反するか否かを最も気にする頻度が高いのが、不公正な取引方法ではないかと思われる。その際、たとえば市場におけるポジション(シェアや順位等)はほぼ必ずチェックすることになろうから、そこでいう「市場」とは具体的に何かという検討は不可避である。

 ただ、近時の重要なビジネス形態の1つといえるプラットフォームに代表されるように、世の中が複雑化するほど、最適な市場を見極めることはいっそう困難になる。また、平成末期に導入され、令和時代に入って実際の利用が始まった確約手続が普及するに従って、理屈を示す公取委の判断が公表される機会が減少し、事業者にとっては手掛かりが入手しづらくなる懸念もあり、その意味でも模索が続くものと思われる

 さらに、新たな論点として、ここでもアルゴリズムやAIが活躍し、ランキング操作やパーソナライゼーションなどの手法がビジネス上より一般的かつ戦略的になっていくことに比例して、独禁法の文脈における存在感も増してこようから、市場画定の難易度も増すかもしれない 26

おわりに

 2の検討対象事例①と②を比較すると、行為者の地位は、①ではシェア30%で第1位であるのに対し、②ではシェア7%で第4位に止まり、一見すると、①のほうが違反になりやすいばかりか、②では流通取引慣行ガイドラインにいう「市場における有力な事業者」27 に該当しないようにも思える。
 しかし、需要の代替性・供給の代替性に照らせば、①では一般消費者を需要者として、健康食品Aではなく、BやCも含む「眼精疲労に効果がある健康食品の販売市場」が画定され、その結果α社のシェアが低下すると考えられるのに対して、②ではゲーム用機器Dのユーザーを需要者として、「ゲーム用機器Dの販売市場」が画定され、δ社のシェアは100%になるとも考えられる結果、むしろ違反リスクは①より②のほうが高いと捉えるのが自然であるように思われる。

 以上長々と論じてきたが、市場画定の重要性・難しさ・面白さ等が再認識いただければ幸甚である。最後に、各行為類型の市場画定に関する簡単なまとめを掲載し、本稿を締める。

市場画定に関する行為類型ごとのまとめ

定義に「一定の取引分野」が含まれるか 市場画定を要するか 市場画定をどのような方法
で行うか
不当な取引制限 含まれる 要する 共同行為が対象としている取引およびそれにより影響を受ける範囲を検討する
企業結合 含まれる 要する 需要の代替性と供給の代替性
私的独占 含まれる 要する 需要の代替性と供給の代替性
不公正な取引方法 含まれない 「自由な競争の減殺」について要する 需要の代替性と供給の代替性

白石忠志教授のCommentary


市場画定の総論と各論


 以上の本文において既に意識されていることではあるが、これらを私なりにまとめると、以下のようになる。
 結論を先にいうと、市場という概念の内容や、画定すべき市場の構造は、独禁法のどの分野においても同じである。

 不当な取引制限については、競争関係にある複数の事業者が合意をした範囲が市場となる、といわれる。しかしこれは、本文で解説されているように、事業者は合理的に行動するはずであるから、合意の範囲の外に有力な競争者がいるなら合意しないはずである、という認識を前提としている。
 すなわち、需要者と、その需要者からみて選択肢となる供給者が、市場を形成する、という基本的な考え方から逸脱しているわけではなく、むしろその基本的な考え方に立ったうえで、便法が確立しているわけである。「はずである」が成立しない事例では、例外が認められることになるはずである。

 競争者間の合意が行われる、という、ある種の異常な行為を問題にする不当な取引制限を除けば、他の違反類型における市場画定論は似通っている。

 私的独占と不公正な取引方法のそれぞれにおける市場画定論は、同じである。不公正な取引方法のほうの条文(独禁法2条9項)に「一定の取引分野」という文言がないために少々の紛れが出るだけであり、そのような違いは無視し得る。

 企業結合規制における市場画定論が、私的独占・不公正な取引方法における市場画定論より話題となることが多いことの原因は、いろいろある。
 まず、企業結合規制のほうが多くの事例が公表される。また、私的独占・不公正な取引方法では既に行われている行為を検討対象とするので議論を特定箇所にフォーカスしやすいのに対し、企業結合規制の場合には、企業結合が実行されたならば行われやすくなると考えられるありとあらゆる行動を対象とし、当事会社が関係するありとあらゆる事業分野に目配りをする必要がある。さらに、企業結合規制は、企業結合後の市場の状況を予想しながら違反の有無を検討するものであるから、将来予測という難しい要素を引き受ける必要がある。

 しかし、それらを除けば、企業結合規制の市場画定論は、私的独占・不公正な取引方法と同じであり、したがって、不当な取引制限を含む独禁法全体で共通である。

  1. 白石忠志『独禁法講義〔第9版〕』(有斐閣、2020)33頁、35頁 ↩︎

  2. 世の中には「市場画定不要論」も存在するが、一般的とはいい難く、本稿の趣旨にも反するため、割愛する。 ↩︎

  3. 東京高裁昭和61年6月13日判決・行裁集37巻6号765頁、審決集33巻79頁 ↩︎

  4. 東京高裁平成5年12月14日判決・高刑集46巻3号322頁、審決集40巻776頁 ↩︎

  5. 東京高裁平成20年4月4日判決・審決集55巻791頁 ↩︎

  6. 東京高裁平成28年1月29日判決・審決集62巻419頁 ↩︎

  7. 古田孝夫『最高裁判所判例解説 民事篇(平成24年度)(上)』(法曹会編)191頁など。その要旨は、「本来、市場は、そこで競争が実質的に制限されているか否かを判断するに先立って画定されるものである。にもかかわらず、各裁判例では、共同行為によって競争が実質的に制限される範囲を市場と捉えている」というものである。 ↩︎

  8. 「公社発注のAランク以上の土木工事であって、本件33社及びその他47社のうちの複数の者又はこれらのいずれかの者をメインとする複数のJVを入札参加業者又は入札参加JVの全部又は一部とするもの」であった。 ↩︎

  9. 最高裁平成24年2月20日判決・民集66巻2号796頁、審決集58巻第2分冊148頁 ↩︎

  10. 公正取引委員会「デジタル市場における競争政策に関する研究会 報告書『アルゴリズム/AIと競争政策』」(令和3年3月) ↩︎

  11. 東京高裁昭和26年9月19日判決・高民4巻14号497頁、審決集3巻166頁 ↩︎

  12. 平成16年制定、令和元年最終改定(公正取引委員会) ↩︎

  13. 公正取引委員会「出光興産株式会社による昭和シェル石油株式会社の株式取得及びJXホールディングス株式会社による東燃ゼネラル石油株式会社の株式取得に関する審査結果について」(平成28年12月19日) ↩︎

  14. 公正取引委員会「ジンマーとバイオメットの統合計画に関する審査結果について」(平成27年3月25日) ↩︎

  15. 公正取引委員会「事例5 合同製鐵(株)による朝日工業(株)の株式取得」(平成31年1月18日) ↩︎

  16. ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックスの略で、個別事業者ごとに当該事業者の市場占有率(%)を二乗した値を計算することにより算出され、市場集中度を測るのに有用とされる。 ↩︎

  17. 公正取引委員会「Zホールディングス株式会社及びLINE株式会社の経営統合に関する審査結果について」(令和2年8月4日) ↩︎

  18. 前掲注12)「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」第2の1(注3) ↩︎

  19. 平成21年制定、令和2年最終改正(公正取引委員会) ↩︎

  20. 独占禁止法研究会「独占禁止法研究会報告 不公正な取引方法に関する基本的な考え方」(昭和57年7月8日) ↩︎

  21. 逆に、②や③については、市場画定の議論は原則として捨象してよいと考える。なお、③の優越的地位の濫用に関して、公取委はいわゆる「間接的競争阻害説」を採用し市場を意識しているかのようではあるが、実際にはあてはめ等を読んでも判断に影響を与えているとは見受けられないし、巷間においてもそのように考える向きが多いように思われる。 ↩︎

  22. 昭和57年5月28日・審決集29巻13頁((株)マルエツに対する件)、18頁((株)ハローマートに対する件) ↩︎

  23. 東京高裁平成19年1月31日判決・審決集53巻1046頁 ↩︎

  24. 神戸地裁平成26年1月14日判決・審決集60巻第2分冊214頁、大阪高裁平成26年10月31日判決・審決集61巻260頁、判時2249号38頁 ↩︎

  25. 平成3年制定、平成29年最終改正(公正取引委員会) ↩︎

  26. 前掲注10)「デジタル市場における競争政策に関する研究会 報告書『アルゴリズム/AIと競争政策』」 ↩︎

  27. 前掲注25)「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」第1部の3(4) ↩︎

この特集を見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する