不当な取引制限における「意思の連絡」が成立するための要件 - 内容と外延の考察 令和を展望する独禁法の道標5 第7回
競争法・独占禁止法
目次
監修:東京大学教授 白石忠志
編者:籔内俊輔 弁護士/池田毅 弁護士/秋葉健志 弁護士
本論稿は、2020年12月をもって休刊となったBusiness Law Journal(レクシスネクシス・ジャパン株式会社)での連載「令和を展望する独禁法の道標5」を引き継いで掲載するものです。記事の最後に白石忠志教授のコメントを掲載しています。
実務競争法研究会のホームページでは本論稿の長文版を掲載しています。
はじめに
企業にとって、独占禁止法(以下「独禁法」という)を含む競争法コンプライアンス体制の確立は今や最優先の経営課題の1つとなっている。なかでも、不当な取引制限のうちのカルテルや談合等のハードコアカルテル規制への対応は、認定された場合のペナルティその他の不利益の甚大さゆえ、企業が最も関心を持って力を入れている分野だと思われる。
企業は、平時には、営業担当者等に対して、競合他社との接触や情報交換等について許される場合と許されない場合のラインを明確に示しこれを啓蒙するとともに、有事の際には、被疑事実が不当な取引制限に該当するかどうかを見極めてリニエンシーの要否を検討することとなる。そのため、いかなる行為が不当な取引制限に該当するのか、その外延を正確に把握することは極めて重要といえる。
他方で、独禁法の定める不当な取引制限の定義は、後述のとおり非常にシンプルで抽象的であるため、その要件の解釈と意味の補充が必要となる。なかでも、不当な取引制限の中核的要件である「意思の連絡」は、過去の裁判例等の積み上げによる実務上確立された定義・内容があるものの、それ自体が抽象的で曖昧であるため、なおその外延は明確でないように思われる。
たとえば、以下の事例で、X社とY社の間に「意思の連絡」は認められるだろうか。
機械部品Aの市場は、ウイルス感染拡大の影響で需要が大幅に落ち込んでいたが、その後パンデミックの終息に伴い需要は回復基調となり、原材料価格の高騰も相まって市場は需要過多の状況に転じた。
かかる市況を背景に、各社とも値上げ必至の状況にあったところ、シェア3位のX社の営業担当者xは、同2位のY社の担当者yと偶然客先で顔を合わせ雑談した際に、次のやり取りをした。
y:「うちはようやく値上げが決まったけど、お宅はもう決まったの? 各社がしないと客先に切り出しづらいよね。」
x:「うちはまだですけど、近く決まりそうですよ。」
xは一応このやり取りを会社に報告し、その後、X社は値上げを決定した。決定後、業界団体の会合でyと再び顔を合わせたxは、「うちもようやく値上げ決まりましたよ。」とyに伝えた。
お互いに相手が値上げを行うことを期待し合う関係が成立したともいえそうであるが、他方で相手がどの程度の値上げをするのかは不明であり、競争の余地は相当程度残されている。各社が値上げに出るであろうことは自明という業界の状況にあったことも踏まえると、「実質的」といえる程度の競争制限をもたらす「意思の連絡」が成立したといえるかには、議論の余地があり得るように思われる。
この疑問に明確に答えが出せるほど「意思の連絡」概念の内容ははっきりと確立しているのか、が本稿のテーマであり問題意識である。本稿では、「意思の連絡」の内容と外延について、昭和および平成で積み上げられた裁判例・審決例および学者や実務家の考察等を振り返ったうえで、令和に残された課題等を考察する。
「意思の連絡」の要件上の位置付けと機能
不当な取引制限は、例示等を読み飛ばせば、以下のように定義される(独禁法2条6項)。
行為要件のうちの②の要件(「他の事業者と共同して」)が「意思の連絡」であり、「合意」などとも呼ばれる 1。
市場において競争が十分に機能することを阻害する行為にはさまざまなものがあり得るが、独禁法は、そのうち複数の事業者が「共同して」行う行為のみを不当な取引制限として禁止している。このように、単独行為との分水嶺となる共同性の要件が「意思の連絡」要件である。
これこそがまさに「意思の連絡」の意義・機能であり、昭和の早い段階ではすでに「単に行為の結果が外形上一致した事実があるだけでは未だ十分でなく、進んで行為者間に何等かの意思の連絡が存することを必要とするものと解する」との判示 2 もなされていた。すなわち、合法とされる「意識的並行行為 3」(個々の事業者が、他の事業者との連絡や接触なく独自に判断し行動した結果、他の事業者と行動が一致する場合)との外延を画することが、「意思の連絡」の機能といえる。
「意思の連絡」の定義と内容
「意思の連絡」の定義と内容について、法文上に定義はなく、解釈によって意味を補充しなければならない。紙幅の関係上、詳細は割愛するが、現在確立されている一般的な考え方を整理すると以下のとおりである。
意思の連絡の定義と内容
意思の連絡の「定義」 | 意思の連絡の「内容」 |
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【立証に関して】 |
定義について、カルテルや談合といった行為類型に関する部分を捨象し一般化すれば、「一定の行動を互いに認識し認容して歩調を合わせる意思があること」と定義付けることができ、協調的行動をとることを相互に期待し合う関係と言い換えることもできるであろう。
「意思の連絡」の外延の検討
以上が「意思の連絡」に関する考え方の現在の到達点といえるが、個別の事案において答えを導き出せるほどに明快かというと疑問であり、なお不明瞭であるように思われる。
そもそも、リーディングケースとなった東芝ケミカル事件も、同様の定義を示した多摩談合(新井組)事件も、いずれも競争に実質的な影響を及ぼし得る一定の取り決めの存在自体は前提とされていた事案であり、これらの判決がどれだけ限界事例を意識して前記判示を行ったのかは不明といわざるを得ない。外延を画する判断基準を明確化するには、「意思の連絡」に必須の要素とは何かをもう少し具体的に明確化する必要があると思われる。
相互性、拘束性
まず、意識的並行行為との区別が「意思の連絡」の機能である以上当然であるが、一方的な認識・認容では足りず、相互に相手の行動を認識・認容していること(相互性)が必要である。
また、相互性の内容として(あるいは拘束性という別個の要素と捉えることも可能だと思われるが)、相手が「歩調を合わせる」ことを期待し合う関係である必要があるため、相手が一定の行動をとることを条件に自らも協調した行動をとるという程度に拘束されている状態(拘束性)が必要であると考えられる。拘束の程度としては、「相互拘束」における拘束と同じく、不遵守の場合の制裁など実効性を担保する措置までは必要なく、事実上のもので足りる。ただし、他の当事者が相互に認識・認容した行動をとらなくても、自らは当該行動をとったであろうと認められる事情が存する場合には、かかる相互性または拘束性の要素を欠き、「意思の連絡」は認められないことになる 15。
なお、これらの要素は、「相互拘束」要件独自の要素として捉えることも可能だと思われる(法文上はむしろそのように解するほうが自然にも思える)。しかし、「相互拘束」とは「意思の連絡」により相互に相手の協調を期待し合う関係が成立している状態を指すという考え方が主流であることを踏まえると、「意思の連絡」の内容として読み込まれるべきであろう。
何らかの人為的な営為(コミュニケーション)の存在
次に、事業者がそれぞれ独自に判断した結果がたまたま一致したという意識的並行行為と区別するためには、結果の一致が人為的な営為によってもたらされたものであることが必要である。米国では「コミュニケーション」、EUでは「コンタクト」概念として議論されてきたものであり 16、日本でも学説では、相互の認識・認容をもたらす「特定の状況」あるいは「行為」ないし「営為」が重要であると指摘されてきたところである 17。
非難に値する何らかの行為を求める趣旨でもあり、不当な取引制限の違法性を基礎づける所以ともいい得る。
競争に与える影響の程度(認識の具体性の程度)
最後に、不当な取引制限の禁止は、市場における競争を阻害する行為を禁止し、もって市場メカニズムを十分に発揮・機能させることにその目的がある以上、「意思の連絡」により共有される認識の内容(交換される情報の内容)が、反競争的な効果をもたらし得るものである必要がある。
それ自体に異論はないと思われるが、問題は、どの程度競争に影響を及ぼすものである必要があるのかという点である(あるいは、どの程度具体的な認識を共有する必要があるのか、とも言い換えられる)。
この点については、一方で、影響の程度を問題とせず、ほんの少しでも競争を減じ得る内容であれば足りるとする見解 18 があり、公取委は基本的に、このような見解に立って執行をしているものと思われる。かかる見解に立てば、共有された認識(交換される情報の内容)の具体性は問題ではないこととなり、冒頭の仮想事例でいえば、XとYが「値上げを行う」との認識を共有しているため、「意思の連絡」ありとの帰結に至る。
XとYは、値上げ幅や実施時期等について一切共通認識はないため、その範囲で競争は残るが、少なくとも「値上げを行わない」との選択肢が消えている点で競争は減じられたものとして、「意思の連絡」は充足されると説明するわけである。しかし、そうすると、仮想事例のように、各社とも値上げ必至の市況にあり、Xもすでに値上げの検討段階にあったというような事情が存するケースでは、XはYの情報がなくとも値上げを実施していた(少なくとも、値下げして他社のシェアを奪うような行動には出なかった)はずであり、競争は減じられていないのではないかとの疑問がわく。しかし、これに対しては、お互いに値上げの意向があることを認識していない場合に比べて安心して値上げをすることができるので、競争の機能が制限されていると説明される 19。
しかしながら、「安心して値上げできる」という程度の影響で「意思の連絡」を認めてよいのかは疑問が残る。値上げの内容(幅、時期等)で各社が熾烈に競争しシェアを奪い合っているという場合に、競争を減じたとして「意思の連絡」を認めるのは妥当であろうか。
上記見解に立てば、極論をいうと、値上げカルテルのケースでは、「意思の連絡」の内容を「値上げをする合意」と最大限抽象化しておけば、もはやそれ以上に具体的にどのような認識が共有されていたのかを、公取委は明らかにする必要がないことになるが、それは不合理に感じられる(その意味では、この問題はどこまで「意思の連絡」の抽象化が許されるか、という問題ともいえる)。
現在の実務では、「意思の連絡」が認定されれば、残る行為要件である相互拘束は認定され、さらに効果要件についても、前提となる一定の取引分野は当該合意の範囲ということで自動的に画定され、価格カルテルや談合のようなハードコアカルテルについては、当然違法(Per Se Illegal)の考え方のもと、競争の実質的制限もまた難なく認定されるという運用が、原則的にはなされている。要するに、「意思の連絡」さえ認定されれば、不当な取引制限がほぼ認められるのが実務の実態といっても過言ではない。
不当な取引制限が認定された場合に事業者に課されるペナルティその他の不利益が甚大であることに鑑みれば、「意思の連絡」の存否を判断するにあたっては、それ相応の内実を備えたもののみを抽出できるよう、事業者にとっての実質的なリスク(=不確実性)を相応に低減することができるだけの認識の共有を求めるべきではなかろうか 20。
なお、拘束の内容が具体的である必要はないとの文脈で、しばしば前掲の元詰種子カルテル事件が引用されるが、同件では基準価格という目安があった以上、実質的な不確実性の低減があったといい得る事案であると考えられる。
具体的事例
上記の問題意識に関連して、アルミ電解コンデンサ等価格カルテル事件(東京地裁平成31年3月28日判決・審決集65巻第2分冊301頁)と段ボール用でん粉価格カルテル事件(公取委審判審決令和元年9月30日・審決集66巻1頁)という2つの事例を取り上げる。
認識の具体性の程度を検討するうえで参考となる2つの事例
アルミ電解コンデンサ等価格カルテル事件 | 段ボール用でん粉価格カルテル事件 | |
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裁判/ 審決年月日 | 東京地裁平成31年3月28日判決 | 公取委審判審決令和元年9月30日 |
事案の概要 |
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公取委/ 審査官の主張した「意思の連絡」の内容 | アルミ電解コンデンサの販売価格を共同して引き上げる旨の合意 | とうもろこしのシカゴ相場の上昇に応じて、段ボール用でん粉の需要者渡し価格を共同して引き上げる旨の合意 |
判旨/ 審決要旨 |
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(1)アルミ電解コンデンサ等価格カルテル事件
この裁判例は仮想事例に近い事案であり、まさに前述した、少しでも競争が減少すれば「意思の連絡」の要件を満たすとの見解に立った主張が公取委から展開されている。
合計市場シェアが50%を超える2社がすでに値上げを行っている状況にあり、かつ値上げ必至の市場状況等を踏まえたときに、後追いで値上げをする事業者にとって値上げをするという情報にどれほどの価値があるのかは疑問である。裁判所も「極めて抽象的であって、それのみで直ちに『意思の連絡』に該当するといえるかについては、疑問がないわけではない」と判示しているところである。
(2)段ボール用でん粉価格カルテル事件
他方、この審決例では、最終的に被審人X1による「意思の連絡」への参加が否定されているが、その理由は、他の当事者間で共有されていた具体的な値上げ内容について、X1が認識していたとまでは認められないというものである。しかし、同件で審判官が認定している「意思の連絡」は、上記裁判例と同様に「価格を共同して引き上げる旨の合意」という極めて抽象的なものであって、X1も値上げするという抽象化されたレベルでの認識は他社と共有していたことが認定されている以上、(1)の裁判例のロジックを前提にすれば、抽象化されたレベルでの「意思の連絡」への参加は認定が可能であったように思える。
もちろん、事後的な情報交換の態様等の事情が結論に影響している可能性はあり単純比較はできないが、結論の対比のみを取り上げれば、公取委の執行が一貫していないようにも思えるところである。
課題と今後の展望
「意思の連絡」が成立するための必須要素として前述した3要素(4−1、4−2、4−3)のうち、前2要素については、昭和および平成を通して、必要な要素であるとの共通理解が確立されているものと思われる。しかし、3つ目の要素については、以上に説明したとおり、事業者の予測可能性を確保できるほど十分に定式化されているとはいえないのが現状である。
執行サイドの考え方としては、4−3で述べた内容で確立されているのかもしれないが、前述のとおり、その考え方自体の妥当性について議論の余地があると思われ、また、実際の運用としても一貫性があるかという疑問が残る。
これが令和に残された課題であると考える。公取委は引き続き、少しでも不確実性が低減するといえればその程度は問わないという立場を維持すると思われるが、その考え方を徹底することで、結論において妥当とはいい難い事案が集積されれば、議論が進展する可能性はある。
おわりに
事業者にとって関心の高い不当な取引制限について、実質的に唯一の要件ともいい得る「意思の連絡」を取り上げて、従前の議論を振り返り整理した。語り尽くされたテーマではあるが、日々実際の事例に携わっていると疑問がわくことも多く、なお議論の余地は残されているように思う。
本稿では触れなかったが、「意思の連絡」について、今後、AI技術の進展に伴うデジタルカルテルなど、新たな問題との関係で改めてその内容等が議論される可能性も高いと思われる。クリアな解釈と執行によって事業者が予測可能性をもって活動を行えるよう、今後の議論に期待したい。
白石忠志教授のCommentary
意思の連絡をめぐるさまざまな議論
意思の連絡をめぐる興味深い事例は独禁法制定直後の初期から存在したが(たとえば、公取委審判審決昭和24年8月30日・審決集1巻62頁(湯浅木材等合板談合事件))、裁判所のこれといった判断は長い間なかった。
そうしたところ、公取委の判断に対する司法審査において裁判所が見解を示し注目されたのが、東芝ケミカル判決であった(東京高裁平成7年9月25日判決・審決集42巻393頁、判タ906号136頁)。判決に示された意思の連絡の一般論は、今となってよく読むと少し意味の取りにくい内容ではある。しかし、とりわけ、事前の連絡交渉と事後の行動の不自然な一致を立証すれば意思の連絡が推定されるというルールを提示したことなど、当時としては十分な注目を集めるものであった。現在でも、意思の連絡の関係では最も多く引用される判決である。
東芝ケミカル判決後の多くの事例は、特定の事実を立証して同判決の示した推定ルールに乗せていくというより、多数の間接事実を積み上げることによって意思の連絡を認定するというイメージが強いものとなっている。しかし、東芝ケミカル判決の図式は、事前の連絡交渉と事後の行動の不自然な一致が間接事実として特に重視されるのであるという議論の骨格を提示し、そのおかげでその周囲の筋肉も発達しつつあるのだ、と見れば、やはり大きな影響をもたらした判決であるということができるように思われる。
意思の連絡については、他方で、平成17年改正による減免制度の導入により、意思の連絡があったことを積極的に供述して立証を助けようとする者らの出現をみて、議論の様相が変わった、などといった見方がされることもある。そのような状況においても、なお、意思の連絡の成否が争われることは多く、いくつもの興味深い事例が現れている。
ところで、以上のようなこれまでの議論のほとんどは、どちらかというと、意思の連絡をどのようにして立証するか、という立証ルールの問題に関するものである。
それに対し、今回の解説は、立証ルールの問題にも触れつつも、しかしそれだけでなく、そもそも意思の連絡とは何なのかという、意思の連絡の実体法的な点に関する問題提起を、「令和の課題」であると指摘することによって締め括っている点に特色がある。
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もっとも、「意思の連絡」は、条文にも明記されているとおり、契約や協定等によりなされる必要はなく、また黙示のものでも足りるとされており、後述のとおり、互いに一定の行動を期待し合う関係が存在していれば認定され得るため、取引関係実務で想起される「合意」よりも広い概念であることには、企業担当者として留意が必要である。 ↩︎
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意識的並行行為は、「高度寡占市場等において協調が最終的に利益になると独自に判断して競争業者と一致した価格設定等の企業行動をとる事業者の意識的行為」(多田敏明「一実務家から見た不当な取引制限の論点」日本経済法学会年報37号76頁)、「個々の事業者が、自らの行動に対する競争事業者の反応を考慮に入れて独自に判断して行動する結果、行動の一致がもたらされる場合」(金井貴嗣=川濱昇=泉水文雄編著『独占禁止法(第6版)』〔宮井雅明〕(弘文堂、2018))、「事業者間に連絡・接触といった人為的行為が何ら存在しない」もの(武田邦宣「不当な取引制限における意思の連絡要件」日本経済法学会年報37号19頁)などと説明される。 ↩︎
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大石組入札談合事件(東京高裁平成18年12月15日判決・審決集53巻1000頁)では、「各事業者間で相互にその行動に事実上の拘束を生じさせ、一定の取引分野において実質的に競争を制限する効果をもたらすものであることを意味する」と判示されており、東芝ケミカル事件の定義よりも要件が加重されたと読む見解もあったようであるが、基本的には東芝ケミカル事件の定義と同義と解するのが通説であると思われる。 ↩︎
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前掲注4)東芝ケミカル差戻審事件。会合において沈黙を保っていても、暗黙の了解があったものとして意思の連絡が認定された例として、ポリプロピレンカルテル事件(東京高裁平成21年9月25日判決・審決集56巻第2分冊326頁)。 ↩︎
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競争事業者間で直接に連絡等を行うのではなく、仲介者(ハブ)を介して情報交換等をすることで行うカルテル。 ↩︎
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前掲注10)石油価格カルテル刑事事件 ↩︎
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品川武「不当な取引制限の要件事実」商事法務2067号122頁では、「市場における競争の機能が十全に発揮されることが阻害される状態を生じさせ、あるいはその状態を維持・強化させるために必要なレベルの共同の行為が存在することが要件であり、かつそれで足りる」と説明されている。 ↩︎
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元々は入札談合事件での運用であったが(安藤造園土木事件(公取委審判審決平成13年9月12日・審決集48巻112頁)、前掲注6)大石組入札談合事件等)、その後、価格カルテルでも同じ考え方が採用されていることが明示された(前掲注9)元詰種子カルテル事件)。 ↩︎
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宮井雅明「独占禁止法における合意の概念」根岸哲先生古稀祝賀105頁(有斐閣、2013) ↩︎
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武田・前掲注3)20頁 ↩︎
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武田邦宣「企業間コミュニケーションとカルテル合意の立証」根岸哲先生古稀祝賀110頁(有斐閣、2013)。コミュニケーション概念をもって外延を理解するほうが明確であるとする(同114頁)。その他、立証に関する文脈ではあるが、「少なくとも事前の連絡交渉があったことは、単なる間接事実でなく、要件そのものに限りなく近いものであると考えるべきである」との指摘もあるが(白石忠志『独占禁止法(第3版)』207頁(有斐閣、2016))、趣旨は近いと思われる。 ↩︎
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「一定の取引分野における競争に影響を与え得る内容」であればよいとする見解として、菅久修一編著『独占禁止法(第4版)』22頁。また、品川武「不当な取引制限の要件事実」商事法務2067号122頁では、「意思の連絡は、自分が相手の利益を害するような選択をしなければ相手も自分の利益を題するような選択をすることはないと考えられるだけのコミュニケーションが存在すれば十分」であると説明されている。 ↩︎
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品川・前掲注18)126頁および128頁 ↩︎
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渡邉惠理子「価格カルテル事件における防御方法再考」根岸哲先生古稀祝賀129頁(有斐閣、2013)は、「当事者の意思の合致が明確ではない『情報交換』から『黙示の合意』を認定するためには、まず、(明示の場合と同程度の)『合意』の存在を推認させる『対価引上げ行為に関する情報交換』の内容・具体性が必要である」とし、多田・前掲注3)は、「競争により本来生じるはずのリスク(不確実性)の除去・低減と相互性が『意思の連絡』の構成要素になるものと解される」、「価格設定に係るリスクの回避・減少(不確実性の除去・低減)をもたらす程度の具体性は必要である」(77~78頁)と述べる。泉水文雄=長澤哲也編『実務に効く 公正取引審決判例精選』〔山本浩平〕も「複数事業者間に共通の具体的目安を設定することが可能とならないような事業活動の拘束であれば、不当な取引制限に該当することはないものと解される」と述べる(23頁)。 ↩︎

弁護士法人御堂筋法律事務所