弁護士・法務担当者500名超が登録する「実務競争法研究会」の魅力と活用法

競争法・独占禁止法

目次

  1. 弁護士・法務担当者双方にメリット
  2. 企業実務での疑問や課題を中心に自由闊達な議論を行える場
  3. フラットな雰囲気のなか、気軽に発表や発言をしてほしい

独占禁止法をはじめとした競争法は、実務感覚を身につけるのが難しい法分野。「実務競争法研究会」は、教科書を読むだけではつかみきれない実務的な知見を得られる貴重な場だ。
同研究会は2011年に、公正取引委員会で任期付公務員として実務を経験した4名の弁護士が発起人となり、日常の企業活動で問題になりやすい国内外の独占禁止法・競争法(関連する景品表示法や下請法を含む)のトピックを議論することを目的に発足した。
主な会員は、若手・中堅弁護士と企業法務担当者。登録会員数は500名を超え、毎回20〜30名程度が研究会へ参加する。
同研究会の幹事である籔内俊輔弁護士、池田毅弁護士、秋葉健志弁護士、松田世理奈弁護士の4名に、その魅力や今後の展望を聞いた。

プロフィール
籔内 俊輔 弁護士法人北浜法律事務所 弁護士
2003年弁護士登録。2006年〜2009年公正取引委員会事務総局勤務。著作『論点体系 独占禁止法(第2版)』(共著)(第一法規、2021)ほか。

池田 毅 池田・染谷法律事務所 弁護士
2003年弁護士登録。2005年〜2007年公正取引委員会事務総局勤務。2018年池田・染谷法律事務所設立。著作『論点体系 独占禁止法(第2版)』(共著)(第一法規、2021)ほか。

秋葉 健志 須藤綜合法律事務所 弁護士
2003年弁護士登録。2008年〜2011年公正取引委員会事務総局勤務。著作『独占禁止法と損害賠償・差止請求』(共著)(中央経済社、2018)ほか。

松田 世理奈 阿部・井窪・片山法律事務所 弁護士
2010年弁護士登録。2015年〜2017年経済産業省電力・ガス取引監視等委員会事務局取引監視課、2017年〜2019年公正取引委員会事務総局勤務。著作『エネルギー産業の法・政策・実務』(共著)(弘文堂、2019)ほか。

弁護士・法務担当者双方にメリット

実務競争法研究会立ち上げの背景や狙いについて伺えますか。

池田弁護士:
もともとは、立ち上げメンバーである私と籔内弁護士、内田清人弁護士、柏木裕介弁護士の4名で飲んでいるときに、「勉強会という名目であれば、毎月飲めますよね」という軽いノリで発案した会です(笑)。
独禁法に関するアカデミックな会はほかにありますが、なかなか気軽には参加しにくいと感じる人が多いかもしれません。
私は当初から、企業法務担当者にとっては「会いに行ける独禁法弁護士」が集まる場として、弁護士にとってはネットワーキングの場として、気軽にこの研究会を活用していただきたいという思いをもっていました。法務担当者と弁護士がつながるプラットフォームにできれば、メンバーが途絶えずに新陳代謝していけると期待したんです。
企業の方には、弁護士に実際に会ってみて「独禁法の弁護士って面白いな」「この弁護士は相性が良いな」という発見を得ていただきたいですね。
研究会では毎回発表者を決めていますが、有識者の話を一方通行で聴講するという形ではなく、発表者と聴講者が対等に議論できる雰囲気にしていくことを意識しています。

これまでの開催回数を教えてください。

籔内弁護士:
東京(東京本部)では、2011年10月からほぼ毎月、大阪(関西本部)では2012年10月から隔月で開催しており、2021年7月で東京106回目、関西52回目を迎えました。コロナ前は毎回、懇親会も開催していました。
現在は東京・大阪ともオンライン開催が定着しており、どちらからも参加することができます。
顧問としてお招きしている白石忠志・東京大学教授には、節目となる会を中心に適宜ご参加いただいています。

会員にはどのような方が多いのですか。

池田弁護士:
最近では弁護士の比率がやや増えていますが、企業の法務担当者と弁護士がほぼ半々というメンバー構成です。
入会を希望される方は基本的にすべて受け入れており、業種や年齢層も幅広いです。
企業会員は、独禁法に業務で関わるようになったことをきっかけに入会された方も多く、独禁法についての知識や経験がなくても歓迎していますよ。
企業の中に、独禁法を深く理解されている方が増えれば、外部の専門家に相談すべきリスクに気づきやすくなります。
それは、我々のように独禁法を専門とする弁護士にとっても、そして独禁法コミュニティ全体にとっても、意義が大きいことだと考えています。

懇親会の様子

懇親会の様子

(左から2015年7月開催、11月開催)

企業実務での疑問や課題を中心に自由闊達な議論を行える場

研究会での発表内容や難易度のレベルについてはどのようにお考えでしょうか。

籔内弁護士:
基本的に発表内容は発表者にお任せしているので、正直に言うと難易度のばらつきはあります。ただ、個人的には、立派な研究発表というよりも、「こういう課題で悩んでいるんです」といった具合に、自社で検討されていることを差し支えない範囲で共有していただき、それに関して皆で議論していくような会のほうが面白いと思っています。

松田弁護士:
弁護士側にとっても新しい視点を与えてもらえる場になりますね。弁護士だけで話していると、どうしても法令の条文や審決・裁判例を中心とした議論になりがちですが、企業の方は、実務的な視点から新しいサジェスチョンを提供してくれます。
企業勤務の会員と弁護士の会員それぞれの知見を出し合って議論しますので、双方にとって有益な場になっていると感じます。

池田弁護士:
この研究会の特徴は、企業内での「お困り事」を中心に据えていることです。
たとえば、「再販売価格の拘束」はすでに5回以上、発表テーマとして扱っていると思います。こうした一見ベタなテーマでも、皆さん自身の会社で実際に困っているケースが題材になるので、いつも新鮮で、毎回違う議論になるのが面白いところですね。

研究会での議論の内容を記事にまとめて公表するのも、この研究会の特徴だと思います。

池田弁護士:
研究会での議論を踏まえ、Business Law Journal2013年11月号から2020年12月の最終号まで、「ビジネスを促進する独禁法の道標」という連載を続け、現在は「令和を展望する独禁法の道標5」として、第7回以降の記事をBUSINESS LAWYERSに掲載しています。

この連載では、弁護士が事例を挙げて実務的観点からの留意点を解説するとともに、白石教授から(一部記事では企業会員からも)コメントをいただいています。
もともとは、研究会での議論を再現することで、記事を読んだ人に研究会へ興味をもってもらえれば、というメディアミックス的な考え方でスタートしたものです。
今でも、研究成果の発表の場というよりは、せっかく議論した内容を研究会のなかだけにとどめておくのはもったいないので記事にまとめていただくという意味合いのほうが強いです。
独禁法に関しては、すでにたくさんの論文や書籍が公刊されていますので、それ以上の内容を書けるのだろうか、と身構えてしまう人もいると思います。しかし、研究会での会員からの反応や議論を踏まえることで、自信をもって執筆できるというのも研究会の効用だと思います。

松田弁護士:
私が記事執筆を担当した際には、自分が普段抱えている問題意識について研究会で発表したら、同じ問題意識をもつ人が複数いらっしゃることがわかったため、そこにフォーカスした内容にしようと決めました。やはり、研究会での議論が土台にあるということは、執筆するうえで重要なポイントだと思います。

フラットな雰囲気のなか、気軽に発表や発言をしてほしい

研究会発足当初から約10年が経過し、企業実務における独禁法の位置付けや研究会での話題も変わってきたと思います。

池田弁護士:
独禁法については、かつて「冬の時代」といわれた時期もありましたが、2013年に複数の日本企業が国際カルテルで摘発されて以降、企業にとって重大な法分野と位置付けられるようになりました。
私は常々、世の中のすべての事象は「競争」に関連していると考えています。最近の公取委の問題意識を見ていても、さまざまな問題が競争法の観点から検討されることが増えていると感じます。研究会としては、取り上げる題材に事欠かない良い時代だと思います。

秋葉弁護士:
最近は、独禁法が専門ではない弁護士でも独禁法を扱う機会が増えているようで、独禁法に関わる実務家の裾野が広がってきていると実感します。独禁法のフレームワークを理解しておくことの重要性はいっそう高まっているといえるでしょう。

籔内弁護士:
たとえば近時、「優越的地位の濫用」については、公取委がさまざまなビジネス分野を対象として行う実態調査の報告書のなかで言及されることが目立っています。また、民事紛争のなかでも問題になるケースがあり、ホットなトピックの1つだと思います。
しかし、取引上の力関係が強い企業の行為がすべて優越的地位の濫用になるわけではありません。法律上の要件を正確に把握し、どういう局面であればリスクが高いのか、また、それほど高くないといえるのかを検討することが必要です。そういった検討においてどのような事実に着目すべきかを考えるうえでも、まずは独禁法の基本的な理解が不可欠だと思います。

今後研究会としてやってみたいことはありますか。

池田弁護士:
参加者の年齢層が上がってきていますので、若手の方にもぜひ参加していただきたいですね。そのためには、入り口を広くして、気軽に参加できる会だと感じていただくことが必要だと思っています。
コロナ禍を受けて現在は完全オンラインでの開催となっていますが、懇親会はやはりリアルでの開催に戻していくことが理想です。もちろん、遠方の会員でも参加できるなど、オンライン開催のメリットもあります。
格式ばった会ではありませんから、たとえば会員外からも参加していただけるようなオープンなイベントも開催してみるなど、時代や環境の変化を柔軟に取り込んで発展させていけたらいいですね。

最後に、研究会への入会を考えていらっしゃる方にメッセージをお願いします。

池田弁護士:
気軽に参加して、気軽に発表や発言をしていただきたいですね。
研究会では、発表者に答えを求めているわけではありませんし、ご自身のお考えを聞いているわけでもない。発表という言い方をしていますが、話題提供だけでも十分です。
研究会に興味があると言ってくださった方には、まず名簿に掲載させていただき、開催案内をお知らせするためのメーリングリストにご参加いただいています。
現状はオンライン開催のため会場費等がかからず、無料でご参加いただけますので、「入会」というよりも、来たいときに来ていただき、ゆるくふわっとつながる場として活用してもらえればと思っています。新しいSNSに参加するような気持ちで気軽に参加してもらえるほうが、研究会の雰囲気にも合っているのではないでしょうか。

松田弁護士:
私は後発組の幹事ですが、新参者だからといって心理的なハードルを感じたことはなく、良い意味でフラットな雰囲気ができていると感じています。いつ来ていただいても、新しい方でも、疎外感を感じずに参加していただけます。

秋葉弁護士:
発表の番が回ってくると緊張されるかもしれませんが、テーマがどんなにニッチでも、独禁法から少し外れるような観点の発表でも、池田弁護士と籔内弁護士が、他の参加者にとっても学びがあるようにアレンジしてくれます。気後れせずに飛び込んでみていただきたいですね。

籔内弁護士:
企業の方からは、異動や担当変更によって独禁法を学ぶ必要が出てきた際に、教科書を見ても通りいっぺんの理屈しか記載されておらず、実務的な感覚がわからないという声をよく伺います。
研究会では、素朴な疑問でも気軽に聞きやすいですし、これからもこの雰囲気は大切にしていきたいと考えています。理論と実務の乖離が大きい法分野だからこそ、このような研究会の場での交流は非常に役立つと思います。

実務競争法研究会にご興味のある方はこちらからお問い合わせください。

(文:周藤 瞳美、取材・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)

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