契約書修正交渉のコメント実務 法務担当者5人の実践例と伝え方

第4回 契約書レビューの回答日数と急ぎの依頼への対処法

取引・契約・債権回収

目次

  1. 契約書レビューの回答日数
  2. 急ぎの依頼への対処法

多くの法務担当者が契約書レビュー業務の中で直面するのが、事業部から来る急ぎの依頼。
通常は何営業日で戻すようにしているか、また、短納期で依頼されたらどう対応するか。
事業部との信頼関係を維持しつつ、理不尽な業務負荷がかからないようにするために、5社の法務担当者が実践している工夫を紹介します。

Aさん(IT・非上場)
多岐にわたる事業を展開し、力関係はさまざま。B to Bでは、商品を仕入れて売る代理店のような立場であり、B to Cでは、ライセンスを受けて商品を開発して販売したり、サービスを一般ユーザーに提供する立場。

Bさん(B to Bメーカー・上場)
エネルギー機器や輸送機器等の製造・販売。売主・買主双方の立場の取引があり、力関係はさまざま。

Cさん(B to Bメーカー・上場)
受注生産が中心のため、取引上の力関係は相対的に弱い。

Dさん(アパレル・非上場)
服飾製品の小売。売主・買主、委託者・受託者双方の立場の取引があり、力関係はさまざま。

Eさん(商社・上場)
事業投資やM&A(買収・参画側=買主、撤退側=売主の両パターン)や、貿易商売に係る売買契約(売主と買主の間に立つため、1つの商売で売主と買主両方になるパターンが一般的)等の契約がある。基本的に、商社はいなくても商売が成り立つことが多いため、取引上の力関係は弱いことが多い。

契約書レビューの回答日数

契約書レビューは、通常、何営業日で事業部へ戻すようにしていますか。

Dさん:
原則は5営業日と伝えてありますが、都度、依頼者と交渉して柔軟に定めています。

Aさん:
原則6営業日としていますが、個別の要望には応じます。実際は6営業日かけずに戻していることがほとんどです。

Bさん:
依頼から1週間以内での回答をベースとしていますが、緊急対応を要する依頼などには柔軟に対応しています。

Eさん:
法務部として決めている方針はありませんが、私としては自分の中で標準処理期間を設けています。

  • 秘密保持契約、小口売買契約、業務委託契約のような簡単な契約の一次回答は2〜3日
  • 英文M&A契約など複雑な場合は5~7日程度

依頼者から特に希望がなければこの期間内で対応します。たまに、合理性があるとは思えないような急ぎの依頼もありますが、よほどのことがない限り断りません。
仕事が立て込んできた場合など、この日数での対応が難しい場合は、「◯日かかりますがいいですか」と確認しています。

Dさん:
依頼が集中することはよくありますよね。当社法務部では「案件表」を社内に公開し、受付状況が依頼者から見てわかりやすいようにしています。また、二次回答は、一次回答前の依頼より優先して処理しています。

Cさん:
当社の契約書レビュー受付システム上には、契約書審査は最低3営業日、契約書作成は最低5営業日と表示しています。
しかし、電話やメールでの相談に対しては、可能な範囲で、依頼された当日中に回答するように心がけています。時間をかけて100%の品質の回答をするよりも、依頼者の期待を上回る早さで回答することが大事だと考えています

Bさん:
スピードと質のどちらを重視するかという点については、当社法務部内でもいろいろな考え方があり、悩ましいところです。

当社では、法務部への質問フォームに掲載している希望納期を、以前は「最短2~3日」と表示していたところ、まず「1週間」に変更し、その後「10日」に変更しました。
理由としては、ワーク・ライフ・バランスの観点もありますが、十分に時間をかけてレビューし、クオリティの高いアウトプットを実現することが、法務サービスの向上につながるのではないかと考えたからです。

転職してきた同僚によると、前の勤務先では標準納期を2週間としていたそうで、驚きました。何かにつけてスピードが求められる時代ではありますが、社内に対しては、“拙速” に陥ることなく質の高いサービスを提供したいのだということを、機会がある度にアピールするようにしています。

急ぎの依頼への対処法

事業部から無茶な納期でレビューを依頼された場合は、どのようなコミュニケーションをしていますか。

Bさん:
もう少し早めに依頼できたはずなのに、大部の契約書レビューを1〜2日で戻さなくてはならないというような場合には、依頼元である事業部にとっても不都合が生じるかもしれないことを伝えるようにしています。

From法務 To事業部
短期間でのレビューとなりますと、どうしても当部での検討精度に抜け漏れが生じるリスクが高まってしまい、今後の貴部の交渉においても不都合が生じる可能性が否めません。
また、今回は短期間で対応させていただきましたが、当部で抱えている案件状況次第では、短期間での対応ができかねることも生じます。
取引先との交渉状況等もあり難しいこともあるかと思われますが、今後は可能な限り早めにご依頼いただき、適切な検討期間を確保いただけますよう、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

また、取引条件の骨子はすでに覚書などで合意済みで、その他の条件の協議という段階になってようやく法務部に相談が来たという場合もあります。
このような場合も基本的には同様の考え方で、早期に法務部を巻き込めば、依頼元である事業部にもメリットがあることをアピールするようにしています。

From法務 To事業部
契約書案では、◯◯の条件が当社にとって不利な規定となっていますが、この点の原則は覚書で合意済みのため、覆すことが難しい状況です。
このように、骨子となる条件において当社不利な内容で合意済みですと、本契約で手当てできる範囲にも限りがあります。
今後は可能な限り早期の段階から当部も検討に加えていただけますと、このようなケースも貴部とご相談しながら進めることができるかと思われますので、ご検討ください。

Eさん:
私も、契約交渉に入る前の早い段階で相談してくれたほうが、依頼者にもメリットがある旨を伝えることはよくあります。話せばわかってくれる人は結構多いと感じますね。
私の知る範囲では基本的に、法務部への相談が遅れるのは事業部の担当者に落ち度がある場合が多いので、ビジネスマナーはわきまえたうえで、はっきりと要望を伝えるようにしています。

From法務 To事業部
本件は相当な短工期となっており、他業務を押しのけての対応となりました。次回から、より早期での相談をお願いします。

Dさん:
私も「ほかの部署よりも優先して対応することになることを認識してください」と伝えることはよくありますね。

Aさん:
当社の場合、担当者には落ち度がなくても、ビジネススキームや取引先の特性でどうしても法務相談が遅くなってしまう部署や子会社もあります。そのような事業部については、メールではなくSlackでの依頼も受け付けるなど、なるべく簡単に依頼してもらえるよう工夫しています

Eさん:
早期依頼のメリットを示しても改善されない場合は、本人の進捗管理能力が足りないことや、そもそも法務への相談の必要性を認識できていないことが原因になっていることが多いと感じます。

前者については法務の立場からどうこうできるものではありませんが 、後者については、事業部側の「これは法務に相談したほうがいい」と気づく力を養うしかありません
勉強会等、社内での啓蒙を行いつつ、業務上のコミュニケーションで少しずつインプットしていく地道な努力が求められます。

Cさん:
当社では、法務部の “トリセツ(取扱説明書)” のような位置づけで、「法務部の効果的な使い方講座」をオンライン配信しています。その中で、早期相談のメリットと、相談が遅れることによるデメリットを、以下のような図を使って伝えています。
また、法務に相談するハードルを下げるため、「法務に聞くことじゃないかもしれませんが…」という相談をあえて歓迎しています

早期相談のメリット(事業部向けの説明資料)

早期相談のメリット(事業部向けの説明資料)

Cさん作成資料より

(第5回に続く)

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