契約書修正交渉のコメント実務 法務担当者5人の実践例と伝え方

第2回 契約交渉で自社の事業部に対して説明するときのコメント実例

取引・契約・債権回収

目次

  1. 事業部を説得する必要がある場合の対処法
  2. ビジネス判断まで法務へ委ねられてしまった場合の対処法
  3. 抽出したリスクを事業部へどう伝えるか

法務担当者にとって最も苦労するのは、事業部とのコミュニケーションであるという声もよく聞かれます。
事業部にとって最善の契約内容とするために、リスクの抽出とビジネス判断のサポートをどのように行えばよいでしょうか。
法務担当者5人の経験と実践から、コメント例とともに紹介します。

Aさん(IT・非上場)
多岐にわたる事業を展開し、力関係はさまざま。B to Bでは、商品を仕入れて売る代理店のような立場であり、B to Cでは、ライセンスを受けて商品を開発して販売したり、サービスを一般ユーザーに提供する立場。

Bさん(B to Bメーカー・上場)
エネルギー機器や輸送機器等の製造・販売。売主・買主双方の立場の取引があり、力関係はさまざま。

Cさん(B to Bメーカー・上場)
受注生産が中心のため、取引上の力関係は相対的に弱い。

Dさん(アパレル・非上場)
服飾製品の小売。売主・買主、委託者・受託者双方の立場の取引があり、力関係はさまざま。

Eさん(商社・上場)
事業投資やM&A(買収・参画側=買主、撤退側=売主の両パターン)や、貿易商売に係る売買契約(売主と買主の間に立つため、1つの商売で売主と買主両方になるパターンが一般的)等の契約がある。基本的に、商社はいなくても商売が成り立つことが多いため、取引上の力関係は弱いことが多い。

事業部を説得する必要がある場合の対処法

事業部との間で考え方が合わないというような場合もありますか。

Bさん:
当社の事業部と取引先の言い分を比較すると、法務的には、明らかに取引先の言い分のほうが理に適っているという場合があり、事業部の担当者に納得してもらうのに苦労することがあります(私は“お諌め案件”と呼んでいます)。
当社の利益を最優先にお考えになったうえとは存じますが、」といった枕詞を使って説明しますが、身内だけに、「それでも何とかしろ!」「どっちの味方なのか!」といった反論を受けたこともあり、取引先に説明する以上に骨が折れます。

Aさん:
そういう場面では、私はまず自社の言い分にこだわる理由を聞いたうえで、何らかの理解不足があれば解説しますし、十分に理解しているけれどもあえて戦略的にその主張を通したいというのであれば、よほど重大なリスクがない限り事業部へ任せてしまいます。

Cさん:
私はそういう場合であっても、できる限り事業部の意向に沿った契約条項にすべく、取引先の言い分を覆せるような要素や、法的な原則を適用しなくて済むような「特別な事情」がないかをまずは検討します。
そして、そのような事情が見つからなければ、法務としての経験に基づく「相場観」を伝えて、交渉が困難であることを理解してもらいます。

取引先との交渉に事業部が乗り気でない場合もあるのでしょうか。

Bさん:
法務部としては修正すべきだと考えていても、事業部が当社にとって不利な条件で妥協しようとしているという場面はありますね。
そのような場合は、修正すべき点を念押しするとともに、契約履行時の注意点を伝えています。

From法務 To事業部
◯◯◯◯◯の条件は◯◯◯◯◯といった点でリスクがあるため当部としては修正すべきと考えますが、貴部門として◯◯◯◯◯のリスクを受け入れてでも受注したいといった事情があるのであれば、受け入れていただいても構いません。ただし、その場合には◯◯◯◯◯となる点、念のためご留意願います。

Cさん:
当社の事業部にも残念ながら、交渉を避けて、自社の利益を損ねるような判断や安易な妥協をしたがる担当者がいます。
そういう人に対しては、少し意地悪な質問をすることもあります。

From法務 To事業部
  • それは上司の考えや事業部の方針に合っていますか。
  • これが会社のお金ではなく、あなたのお金であってもそう判断しますか。

ビジネス判断まで法務へ委ねられてしまった場合の対処法

最終判断をすべき事業部が、法務に判断を委ねてしまうこともあるのでしょうか。

Cさん:
事業部で判断すべき問題なのに、自分で考えることを放棄する担当者も見受けられます。そのような人に対しては、「◯◯さんはどうしたいですか。」と尋ねるようにしています。
これは、担当者の主体性を引き出しつつ、問題解決に向けて寄り添い、一緒に検討するという姿勢を示せる魔法のような言葉だと思っていて、私は頻繁に使っています。

Dさん:
契約業務は事業部の担当者にとって負荷の高い仕事ですから、リスクの指摘だけでなくビジネス上の意思決定まで法務に委ねてしまう人が出てくるのは、ある程度仕方ないことなのかもしれません。
皆さんはこういうタイプの人に対してどう対応していますか。

Aさん:
事業部で考えるべきことだと理解してもらえるまで、とにかく丁寧に説明するしかないと思います。
私の経験では、そのように判断を投げてしまうという傾向は、年次が浅い若手の担当者によくみられます。ベテランになると、事業部で判断すべき事項なのか法務意見を聞くべき事項なのかについて、しっかり理解できていることが多いと感じます。

Eさん:
そうですね。やはりしつこく対話するしかないでしょうね。事業部に対して法的リスクをインプットし、それを踏まえた判断を事業部にしてもらうことが、法務として果たすべき職責だと考えています

Bさん:
私も皆さんと同じように、案件を進める実施主体である事業部で判断してもらう必要がある旨を、回答時にしつこく伝えるようにしています。
経験上、ビジネス判断まで丸投げしてくる担当者というのは、どう判断したらいいのかわからず困っている場合が多いと感じます。ですので、法務としては、考え方を整理し、判断基準や各選択肢のメリット・デメリットなどを丁寧に説明するようにしています
こうすることで、次回以降、少しでも事業部自身で判断する意識をもってもらえるよう促しているつもりです。

抽出したリスクを事業部へどう伝えるか

契約書レビューの結果として抽出したリスクを事業部に伝える際、どのような点に苦労しますか。

Bさん:
原則として、事業部が最終的な判断を行うためには、すべてのリスクを認識しておいてもらう必要があると考えています。しかし、それをそのまま伝えると膨大な量になってしまい、事業部での適切な判断を阻害しかねません。
そのため、抽出したリスクの評価(重みづけ)、対応の要否、対応策の提案をセットで提供するようにしています。この中でも特に、リスクを適切に評価し、事業部にわかりやすく伝えるというところが一番難しいと感じていて、いつも苦労しています。

Cさん:
リスクの評価は本当に難しいですよね。
私は最近、法務のパートナー機能強化が求められている昨今の時流においては、契約書レビューにおいてもリスクテイクの勇気が必要なのではないかと考えているのですが、皆さんはどう思いますか。
つまり、リスクの大小や発生可能性を指摘するだけにとどまらず、取引規模や取引の位置づけ等を総合考慮して、究極的には、あえてリスクを指摘しないという選択もあり得るのかという問題意識です。

Eさん:
取引全体を踏まえた総合考慮が必要であるという点はそのとおりだと思いますが、法的リスクを抽出したのに指摘しないというのは、私は考えられません。
ただ、Bさんのおっしゃるように、リスクの指摘だけでなく、重大なものか無視できる範囲なのかといった重みづけや代案の提示まで踏み込むということは、私も常に考えながら仕事していて、これがまさにパートナー機能強化のためのアプローチの1つであると考えています

Aさん:
そうですね。私も、リスクを指摘しないでおくことはできないと思います。
たとえば私が「リスクをとってもよいのではないか?」と考えたとしても、それはあくまで法務の一担当者としてそう思っただけであって、事業部としてはリスクをとれない事情があるかもしれないからです。
もちろん、リスクの大小によって伝え方は工夫しています。
リスクがそれほど大きくないと思われる場合には、「ここは大丈夫ですか? ご検討ください。」とコメントをつけるだけとし、重大な問題だと考える箇所については、コメントに加えてメール本文でも同じ内容を記載し、場合によっては電話でも話して念押しすることもあります。

Bさん:
事業部から「これらの修正は必須なのでしょうか」と質問を受ける場合もあります。
リスクの大きさにもよりますが、最終判断をするのは取引を担当する事業部ですから、取引の実態に合わせて判断してほしいと伝えています

From法務 To事業部
法務部修正案は、当該契約における当社のリスクがなるべく小さくなるようにすべく起案しているもので、すべての内容を反映しなければ当該契約を締結すべきでない、といった趣旨のものではございません。
法務部修正案にてコメントさせていただいた内容が実務に与えるインパクトを、取引先との関係性や、当該契約における取引の実態に応じて、貴部門にてご判断いただき、当部修正案の採否をご決定いただければと存じます。

第3回に続く)

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