コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートの具体的な設計(1)- 概要

ベンチャー
飯島 隆博 弁護士 森・濱田松本法律事務所

 コンバーティブル・エクイティ(新株予約権)とコンバーティブル・ノート(新株予約権付社債)に定める内容と、株式への転換の概要を教えてください。

 新株予約権付社債や新株予約権は、「払込金額の総額÷転換価額」の数の株式に転換されます。新株予約権付社債や新株予約権の発行時(出資時)に、転換価額を決定する際の計算式を定めておくことにより、転換するタイミングの状況次第で、転換価額と株式数が変動します。この計算式を定める際に、早く出資した投資家へのリターンとして、転換価額に「ディスカウント」や「キャップ」を定め、転換される株式数が多くなる(あるいは少なくなりすぎない)ようにすることがあり、スタートアップと投資家・事業会社との交渉ポイントとなります。

 株式に転換される(できる)のは、スタートアップが一定の金額以上などの基準を満たした株式による資金調達(いわゆる「適格資金調達」)を行うタイミングが通常です。

 他方で、適格資金調達がなされる前にM&Aが起きる、あるいは一定期間、適格資金調達が行われないといったこともあるため、そのような場合の処理方法についても定められます。

解説

目次

  1. 新株予約権の発行において定める事項
    1. 募集事項および新株予約権の内容
    2. 新株予約権の投資契約(引受契約)
  2. コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートに定めるポイント
    1. 適格資金調達(転換の条件)
    2. 転換される株式の数の算定方法(ディスカウントとキャップ)
    3. M&Aエグジット時における取扱い(優先分配)
    4. 転換期限
    5. 情報提供や優先引受権等の一定の権利
  3. まとめ

 本解説シリーズの各論点の目次は「「コンバーティブル・エクイティ」をはじめとしたいわゆる「コンバーティブル投資手段」の概要および実務Q&A」をご参照ください。

新株予約権の発行において定める事項

募集事項および新株予約権の内容

 本稿以降の解説では、現在の日本の実務で用いられている新株予約権付社債や有償の新株予約権を前提として、コンバーティブル・ノートやコンバーティブル・エクイティについて検討していきます。

 新株予約権付社債(コンバーティブル・ノート)でも、あるいは有償で新株予約権(のみ)を発行する場合(コンバーティブル・エクイティ)でも、新株予約権を発行することに変わりはありません。そのため、会社法で求められている募集事項(会社法238条1項)を定めることになります。このとき、定めるべき募集事項に含まれる「新株予約権の内容」も併せて定める必要があります(会社法236条1項)。これらの事項は、実務上は「(新株予約権の)発行要項」という名称の書面として作成されることも多いです。

「募集事項」の概要(主な事項)(会社法238条1項)
  • 新株予約権の内容(※筆者注:概要は次のボックス)および数
  • 新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
  • 新株予約権と引換えに金銭の払込みを要することとする場合には、新株予約権の払込金額(新株予約権一個と引換えに払い込む金銭の額)またはその算定方法
  • 新株予約権を割り当てる日
  • 新株予約権と引換えにする金銭の払込みの期日を定めるときは、その期日
  • 新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合、一定の事項
「新株予約権の内容」の概要(主な事項)(会社法236条1項)
  • 新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類および種類ごとの数)またはその数の算定方法
  • 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額またはその算定方法
  • 金銭以外の財産を新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨ならびに当該財産の内容および価額
  • 新株予約権を行使することができる期間
  • 新株予約権の行使により株式を発行する場合における増加する資本金および資本準備金に関する事項
  • 譲渡による新株予約権の取得について会社の承認を要することとするときは、その旨
  • 新株予約権について、会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするとき、一定の事項
  • 会社が合併、分割等の組織再編(M&A)をする場合において、新株予約権者に新会社の新株予約権を交付することとするときは、その旨およびその条件
  • 新株予約権を行使した新株予約権者に交付する株式の数に一株に満たない端数がある場合において、これを切り捨てるものとするときは、その旨
  • 新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く)に係る新株予約権証券を発行することとするときは、その旨
  • 上記の場合において、新株予約権者が記名式と無記名式証券との間の転換の請求の全部または一部をすることができないこととするときは、その旨

 募集事項のうち、(転換型の)新株予約権付社債(コンバーティブル・ノート)は、「新株予約権そのものと引換えに金銭の払込みを要しない」(投資家が出資時に払い込むのは、社債の対価であって、新株予約権は社債に付いてくる)ことになります 1。これに対して、新株予約権そのものを発行するコンバーティブル・エクイティは、「新株予約権と引換えに金銭の払込みを要することとする場合」として新株予約権の払込金額を定め、払込みを受けることで、資金調達を実行することになります。コンバーティブル・エクイティが「有償の新株予約権」とも呼ばれるゆえんです 2

 このようにして発行される新株予約権が転換され、発行される株式が、新株予約権の内容のうち「新株予約権の目的である株式(種類株式発行会社にあっては、株式の種類)」となります(「コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートの具体的な設計(3)- 転換する株式の種類」)。そして、転換時の株式の「数」そのものではなく、「その数の算定方法」を定めることができることが、「新株予約権の発行時点では、転換株式数の計算方法だけを定めて、企業価値評価(バリュエーション)を繰り延べることができる」という、コンバーティブル・ノートおよびコンバーティブル・エクイティのメリットを実現するメカニズムとなります(「いわゆる「コンバーティブル投資手段」のメリット(1)- スタートアップの企業価値評価(バリュエーション)の先延ばし」)。

 なお、会社法の条文上、新株予約権の内容のなかには「新株予約権を行使することができる条件」が含まれていません。しかしながら、これは当然に定めることができると考えられています 3。そのうえで、後述の通り、行使条件として「適格資金調達(一定の要件を満たした株式による資金調達ラウンド)が生じた場合」を(主な)条件として定めておくことが、ポイントになります(「コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートの具体的な設計(2)- 適格資金調達」)。

新株予約権の投資契約(引受契約)

 上記1−1は、会社法上、新株予約権を発行する場合に定めるものとされている事項であり、そのうちの一部については登記するものとされています。

 これに対して、会社法上定めがない(あるいは転換の条件のように新株予約権の内容として定めることができると解釈されているものとは異なる)事項でも、スタートアップと投資家間の合意があれば、契約によって原則として自由に定めることが可能です。コンバーティブル・ノートやコンバーティブル・エクイティを活用する場合も、投資契約(引受契約などと呼ばれることもあります)において、実務上、定めることが多い事項があります。

コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートに定めるポイント

 以上の通り、新株予約権の内容か契約に定めるかの違いはありますが、コンバーティブル・ノートやコンバーティブル・エクイティを発行する際には、標準的に定める事項がいくつかあります。そのなかには、その内容についての交渉が必要となったり、あるいは、そもそも定めるかどうかが交渉のポイントとなる事項もあります。詳細は別稿で検討していきますが、まずはその概要を列挙します。

適格資金調達(転換の条件)

 コンバーティブル・ノートやコンバーティブル・エクイティは、株式による資金調達までに簡易な企業価値評価により迅速に資金調達を行う手段です。その性質から、次回の株式による資金調達の時に転換されて株式になることが想定されます。この次回の株式による資金調達は、多くの場合「適格資金調達」と呼ばれます 4。この適格資金調達が行われることが「新株予約権の行使の条件」とされます(「コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートの具体的な設計(2)- 適格資金調達」)。

転換される株式の数の算定方法(ディスカウントとキャップ)

 新株予約権付社債でも、有償による新株予約権そのものの発行でも、転換される株式数は「(社債または新株予約権そのものの)払込金額の総額÷転換価額」という形で定められます。分母である「転換価額」が低い価額であるほど、転換によって取得できる株式の数は多いことになります。

 早く出資をしてリスクをとった投資家へのリターンとして、この転換価額を低くする、あるいは上がりすぎないようにするメカニズムが「ディスカウント」および「キャップ」と呼ばれる仕組みです。これらが、投資家との大きな交渉ポイントになります(「コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートの具体的な設計(4)- ディスカウント」、「コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートの具体的な設計(5)- キャップ」)。

M&Aエグジット時における取扱い(優先分配)

 シード期の資金調達の直後にはそれほど確度の高いシナリオではありませんが、適格資金調達が起こる前に、スタートアップがM&Aによるエグジットを果たす場合も考えられます。この場合は新株予約権が株式に転換される前であるため、新株予約権の処理について定めることが必要です。コンバーティブル・エクイティの場合には、出資額の「1倍」や「2倍」といった金額を支払うなどの形で、投資家のエグジットを定めることがあります(「コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートの具体的な設計(6)- M&Aエグジットの時の処理」)。

転換期限

 特に、コンバーティブル・エクイティの場合には社債(負債)が発行されていないため、いつまでも適格資金調達もM&Aエグジットも起きないことも想定されます。その場合、投資家は新株予約権のみを保有しているため、ほぼ何らの権利も持たず、かつ、売却希望者が現れる可能性も極めて低いため、いわば「塩漬け」の状態が続くことになります。

 そこで一定の転換期限を定め、それまでに適格資金調達(およびM&Aエグジット)が起こらなかった場合には、投資家からの請求により(普通)株式に転換する等の処理が定められることがあります(「コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートの具体的な設計(7)- 転換期限」)。

情報提供や優先引受権等の一定の権利

 新株予約権付社債や新株予約権の形式で資金調達をする場合、投資家は株式を保有しているわけではありません。そのため、会社法上株式の保有者(株主)に認められる各種の権利を持たないことになります。

 そこで、投資家保護とシード期投資促進のためのインセンティブ設計のため、一定の情報請求権や株式の優先引受権などを、契約上の権利として定めることがあります(「コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートの具体的な設計(8)- 契約上の権利―情報請求権・優先引受権など」)。

まとめ

 以上の通り、新株予約権付社債や新株予約権の形式で資金調達がなされる場合には、株式ではないことや、株式への転換が想定されていることに付随して、定めるべき事項があります。これらの詳細については、次回以降の解説で詳細に検討していきます。

ご意見等
本解説シリーズに係るテーマにおいては、様々なお立場の読者の皆様がおられるかと存じます。ご意見・ご感想や、「ここは異なるのではないか」といったご指摘を以下にてお待ちしております。

takahiro.iijima★mhm-global.com
弁護士 飯島 隆博
(上記★部分を@に置き換えてください。)

すべてのご意見・ご要望にご対応・ご返信できるかはわからず恐縮ではございますが、いただいたご意見等につきましては、反映できる部分は反映し、スタートアップ・エコシステムの関係者の方々にとってより良い解説となるよう、アップデートしていければと考えております。

なお、本解説シリーズに記載した事項は、当職個人の見解であり、当職が所属する組織その他のいかなる見解も示すものではありませんのでご留意ください。

  1. 新株予約権付社債の場合は、株式への転換時に、(すでに保有している)社債を出資して、引換えに株式の交付を受ける(転換する)ため、むしろ新株予約権の内容のなかの「新株予約権の行使に際して出資される財産」が社債である旨、定めることになります。 ↩︎

  2. 同じ有償新株予約権に、報酬パッケージとしてのいわゆる有償ストック・オプションがあります。有償ストック・オプションが、新株予約権取得時に比較的低い金額を会社に払い込み(払込金額)、一定の条件を満たした際にはさらに行使価額(通常はストック・オプション発行時の普通株式の時価)を払い込んだうえで株式を取得する(転換する)のに対し、コンバーティブル・エクイティは、新株予約権取得時(出資時)に出資といえるほどの一定の多額の金額を最初に払い込み、株式に転換する際の行使価額は名目価額として1円を払い込むこととされています。このように、インセンティブとしての有償ストック・オプションと資金調達手段としてのコンバーティブル・エクイティは設計が異なります。 ↩︎

  3. ストック・オプションとしての新株予約権において、行使することができるのは役職員としての地位を維持していることなどを条件とすることなどと同様です。なお、新株予約権の行使の条件を定めたときは、その条件を、新株予約権を発行した際に登記しなければなりません(会社法911条3項12号ニ)。 ↩︎

  4. Coral Capitalの公表しているコンバーティブル・エクイティのひな型である「J-KISS」では、「次回株式資金調達」と表現されています(発行要項5.(2)(a)(x)、5.(5)(a))。 ↩︎

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