コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートの違いと特徴

ベンチャー
飯島 隆博 弁護士 森・濱田松本法律事務所

 いわゆる「コンバーティブル投資手段」と総称されているもののうち、「コンバーティブル・エクイティ」と「コンバーティブル・ノート」と呼ばれているものの違いとはどのようなものでしょうか。また、それらの特徴についても教えてください。

 株式に転換される証券(投資手段)である、いわゆる「コンバーティブル投資手段」は、大きく分けて、負債性の「コンバーティブル・ノート」と、負債としての側面を取り除いた「コンバーティブル・エクイティ」の2種類があります。米国では、負債としての「コンバーティブル・ノート」がシード期のスタートアップの資金調達に与える問題点をもとに、負債としての側面を取り除いた「コンバーティブル・エクイティ」が、シード期の資金調達手段として発展してきました。

 米国の実務を参考に、日本においても日本法の下で設計が進んだ結果、コンバーティブル・ノートに対応するものとして新株予約権付社債が、コンバーティブル・エクイティに対応するものとして新株予約権が、それぞれ活用されることが多くなってきました。特に、シード期の資金調達の場面では、新株予約権型のコンバーティブル・エクイティが用いられるケースが増えています。

解説

目次

  1. 米国のシード期資金調達におけるコンバーティブル・ノートからコンバーティブル・エクイティへの進化
    1. 米国のシード期資金調達におけるコンバーティブル・ノートの活用
    2. コンバーティブル・ノートからコンバーティブル・エクイティへ
  2. 日本のシード期資金調達における「コンバーティブル投資手段」の進化
  3. まとめ

 本解説シリーズの各論点の目次は「「コンバーティブル・エクイティ」をはじめとしたいわゆる「コンバーティブル投資手段」の概要および実務Q&A」をご参照ください。

米国のシード期資金調達におけるコンバーティブル・ノートからコンバーティブル・エクイティへの進化

米国のシード期資金調達におけるコンバーティブル・ノートの活用

 ここまでの本解説シリーズでは、株式に転換される証券として、経済産業省の「コンバーティブル投資手段」に関する研究会「『コンバーティブル投資手段』活用ガイドライン」(令和2年12月28日)(以下「経産省報告書」といいます)で「コンバーティブル投資手段」と総称される投資手段(証券)について、厳密な区別をしてきませんでした。いわゆる「コンバーティブル投資手段」には様々な形態がありますが、大きく「コンバーティブル・ノート」と「コンバーティブル・エクイティ」に分けることが可能です。

 米国のシード期資金調達においては、スタートアップの株式による資金調達の課題(「いわゆる「コンバーティブル投資手段」のメリット(1)- スタートアップの企業価値評価(バリュエーション)の先延ばし」)から、株式の代わりに「コンバーティブル・ノート(Convertible Note)」が用いられる実務が発展してきました。「コンバーティブル・ノート」とは、将来的に株式に転換する約束が付された負債証書であり、日本法の下での新株予約権付社債に近い証券です。発行時点において、将来の株式への転換の条件や計算式は定めるものの、実際に転換される株式数自体を定めないことから、その時点では、前提となる企業価値を厳密に評価する必要はありません。そのため、株式よりも迅速かつ簡易に資金調達ができる手法として発展してきました。

 もっとも、コンバーティブル・ノートは、形式上は負債にあたります。満期や金利が定められ、満期までに株式への転換条件を満たさない場合には、元本や金利の支払義務を果たさなければなりません。スタートアップのための制度であるという趣旨から、実際には返済を求めないという実務慣行が米国(特に西海岸)で確立していたものの、コンバーティブル・ノートが負債であることには変わりはなく、実際には返済が求められるケースもありました。また、バランスシートに負債として計上されることから、金融機関や新規投資家などの第三者が審査を行う際に不利に扱われるリスクもありました。

コンバーティブル・ノートからコンバーティブル・エクイティへ

 このようなコンバーティブル・ノートの問題点を克服するために実務が深化し、近年では、「コンバーティブル・エクイティ(Convertible Equity)」が米国やそれ以外の国においてもそのシェアを拡大しています。「コンバーティブル・エクイティ」は、コンバーティブル・ノートから支払いの満期、利息の概念を取り払ったものと考えることができます。払い込んだ金額をもとに一定の株式に転換する権利を取得するのはコンバーティブル・ノートと同様ですが、支払いの満期や利息が発生しないため、スタートアップ側は返済を強制されることがありません。また、バランスシートに負債として計上されないというメリットもあります(ただし、米国のコンバーティブル・エクイティについても、バランスシート上、資本として計上できるという見解が必ずしも確立しているわけではなく、負債として取り扱われるという見解もあります)。

 このような特徴から、特にシード期のスタートアップの資金調達の場面で活用されています。

出典:経産省報告書28頁

*米国型コンバーティブル・エクイティについて、BS負債計上となるか、BS資本計上については統一見解がなされておらず、意見が分かれている状況
出典:経産省報告書p28

 「いわゆる「コンバーティブル投資手段」のメリット(2)- 契約交渉等の手続の簡素化」で説明したとおり、米国におけるシード期のコンバーティブル・エクイティ(および、コンバーティブル・ノート)のひな型として、アクセラレーターであるY combinatorが作成した “SAFE”(Simple Agreement for Future Equity)1 や、ベンチャーキャピタルである500 Startupsが作成した “KISS”(Keep It Simple Security)2 といった契約ひな形が公開され、主に利用されています。

日本のシード期資金調達における「コンバーティブル投資手段」の進化

 米国の実務を参考に、日本においても日本法の下で同様の経済条件・契約実務を達成することを目指し、試行錯誤の下でコンバーティブル・ノートやコンバーティブル・エクイティに相当する投資手段が発展してきました。

いわゆる「コンバーティブル投資手段」の日本法の下での発展

⓪ 新株予約権付債権
⁃ 融資等+新株予約権の構成。条件に該当する資金調達で株式に転換されるもの

① 新株予約権付社債(ゼロクーポン・無担保永久劣後債型)
⁃ 新株予約権付社債をゼロクーポンとし、永久劣後特約を付したもの

② 無議決権種類株式方式コンバーティブル・エクイティ
⁃ 次の資金調達ラウンドの株式への転換権を持つ種類株式

③ みなし優先株式方式コンバーティブル・エクイティ

⁃ 次の資金調達ラウンドにおいて、事前に定めた条件に従って優先株式に変更できる普通株式

④ 有償新株予約権型コンバーティブル・エクイティ
⁃ 次の資金調達ラウンドの株式に転換できる権利が付された、有償の新株予約権

出典:経産省報告書32頁

出典:経産省報告書p32

 特に、コンバーティブル・エクイティに相当する投資手段として、上記①のように、法形式としては社債(Debt)という形式をとりながら、利息の支払いのないゼロクーポンとし、元本の支払義務についても永久劣後特約を付すことで、実質的には負債の支払義務が問題とならないようにするという設計が考えられました。他方、②③のように、株式という形式は伝統的な投資手段と同じでも、発行時点の企業価値評価(バリュエーション)を簡易に行い、次の資金調達の際の優先株式(に準じた株式)に転換することを内容とする株式を設計する、といった方法も取られてきました 3

 こうしたなか、④の通り、資金調達の対価として(有償で)新株予約権そのものを発行し、その内容として、次の資金調達ラウンドの際に株式に転換できることを定めておくという、新株予約権型のコンバーティブル・エクイティが発達してきました。バリュエーションや発行手続面において最も簡易に発行できるとして、シード期の資金調達の場面で、この形態が用いられるケースが増えています。

 ひな形として、主にシード期に投資するベンチャーキャピタルであるCoral Capital(旧500 Startups Japan)が、新株予約権の形式による契約ひな形や株主総会議事録といったパッケージである “J-KISS” を公開しています 4。J-KISSは、日本のシード期のコンバーティブル・エクイティ型出資のベースとして多く使われています。

まとめ

 以上の通り、株式に転換される証券(投資手段)である、いわゆる「コンバーティブル投資手段」には、大きく分けて、負債性の「コンバーティブル・ノート」と、負債としての側面を取り除いた「コンバーティブル・エクイティ」の2種類があります。米国の実務を参考に、日本でも、日本法の下で設計が進んだ結果、コンバーティブル・ノートに対応するものとして新株予約権付社債が、コンバーティブル・エクイティに対応するものとして新株予約権が、それぞれ活用されるケースが増えています。特に、シード期の資金調達においては、新株予約権型のコンバーティブル・エクイティの利用が広がっています。

ご意見等
本解説シリーズに係るテーマにおいては、様々なお立場の読者の皆様がおられるかと存じます。ご意見・ご感想や、「ここは異なるのではないか」といったご指摘を以下にてお待ちしております。

takahiro.iijima★mhm-global.com
弁護士 飯島 隆博
(上記★部分を@に置き換えてください。)

すべてのご意見・ご要望にご対応・ご返信できるかはわからず恐縮ではございますが、いただいたご意見等につきましては、反映できる部分は反映し、スタートアップ・エコシステムの関係者の方々にとってより良い解説となるよう、アップデートしていければと考えております。

なお、本解説シリーズに記載した事項は、当職個人の見解であり、当職が所属する組織その他のいかなる見解も示すものではありませんのでご留意ください。

  1. Y combinatorウェブサイト参照。 ↩︎

  2. 500 Startupsウェブサイト参照。なお、シリコンバレーの著名法律事務所であるCooleyは、一定の必要事項(金額等)を入力していくと、KISSのドキュメントが作成されるジェネレーターを公開しています。CooleyGoウェブサイト参照。 ↩︎

  3. 日本におけるコンバーティブル・エクイティの法形式の展開について検討しているものとして、Startup Innovators「日本版Convertible Equity(コンバーティブル・エクイティ)の新展開 (1/2)」および「日本版Convertible Equity(コンバーティブル・エクイティ)の新展開 (2/2)」があります。 ↩︎

  4. Coral Capitalウェブサイト参照。 ↩︎

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