災害時の法務Q&A

第3回 災害が発生した場合の株主総会・取締役会の開催・運営

コーポレート・M&A
木内 敬弁護士 三浦法律事務所

目次

  1. 定時株主総会の開催前
    1. 招集通知発送前の災害
    2. 招集通知発送後の災害
  2. 定時株主総会の報告・決議
    1. 剰余金の配当以外の報告・決議事項
    2. 剰余金の配当
  3. 株主総会の当日
    1. 株主総会の継続が不可能な場合
    2. 株主総会の継続が可能な場合
  4. 監査役の死亡
  5. 取締役会のみなし決議
  6. 委任状による取締役会への出席
  7. 取締役会による平時の検討

 自然災害が多い日本においては、地震や水害などの災害がいつ、どこで発生するかわかりません。タイミングによっては、株主総会の前に災害が発生し、予定していた会場が使えないことや、株主総会中に地震が発生することなどは十分に想定されます。

 また、災害が発生した場合、従業員や顧客の安全確保や会社資産の保全、情報通信インフラの確保など多くのことを短時間に行うことが求められるため、平時においてBCPを策定し、シミュレーションを繰り返すことが求められます。
 本記事においては、株主総会の開催前または開催中に災害が発生した場合の対応や、取締役会に関する対応について、新型コロナウイルス感染症の流行時に示された法務省の考え方も踏まえて解説します。

定時株主総会の開催前

招集通知発送前の災害

Q:定時株主総会の招集通知を発送する前に災害が発生し、定時株主総会を予定どおりに開催することができそうもありません。どうすればよいですか。

 A:定時株主総会の開催が、事業年度終了後3か月以内(3月決算の場合は6月末まで)である場合には、通常のどおりの招集手続により定時株主総会を開催することができます。
 他方で、定時株主総会の開催が、事業年度終了後3か月を超える場合には、議決権の基準日の効力が3か月以内(会社法124条2項)であるため、新たに基準日公告を行い、株主を確定してから招集手続を行う必要があります。


 解説

(1)事業年度の終了後3か月以内に開催できる場合

 災害によって、会場が使用不能になったり、計算書類等の監査に通常以上の時間を要するなどの理由により、定時株主総会が予定どおりできない開催できない場合でも、事業年度の終了後3か月以内(3月決算の場合は6月末まで)に開催できるときには、通常どおりの招集手続により定時株主総会を開催することができます。

(2)事業年度の終了後3か月以内を超える場合

 定時株主総会の開催が事業年度終了後3か月を超える場合には、以下の論点があります。

  1. 定時株主総会の開催時期

     会社法は、定時株主総会の開催時期について、「毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない」(会社法296条1項)と定めていますが、「一定の時期」については定められていません。
     他方で、多くの会社は、定時株主総会の招集時期を定款において定めています。以下は、3月決算の場合の典型的な定款の条項です。
    (招集)
    第◯条 当会社の定時株主総会は、毎年6月にこれを招集し、臨時株主総会は、必要あるときに随時これを招集する。
     このように定時株主総会の招集時期を定款で定めている会社は、定款で定められた期間内に招集できない場合、形式的には株主総会の招集手続が定款に違反することになり、株主総会の取消事由(会社法831条1項1号)に該当してしまいそうです。
     しかしながら、法務省「定時株主総会の開催について」において、「定時株主総会の開催時期に関する定款の定めがある場合でも、通常、天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じたときまで、その時期に定時株主総会を開催することを要求する趣旨ではないと考えられます」とされています。この解釈を前提とすると、天災等でやむなく定時株主総会の招集時期が定款所定の時期より遅れたような場合であれば、そのことをもって直ちに定款違反となるわけではなく、したがって、株主総会の取消事由にも該当しないものと解されます。
    法務省ウェブサイト
  2. 議決権の基準日

     定時株主総会の議決権の基準日については、多くの会社が、定款において事業年度末と定めています。以下は、3月決算の場合の典型的な定款の条項です。
    (定時株主総会の基準日)
    第◯条 当会社の定時株主総会の議決権の基準日は、毎年3月31日とする。
     基準日の効力は3か月(会社法124条2項)ですので、定時株主総会を3か月以内に開催できない場合には、新たに基準日を設けて議決権を行使できる株主を確定しなければなりません。この場合、新たに設ける基準日の2週間前までに、当該基準日および株主が行使することができる権利の内容を公告する必要があります(会社法124条3項)。

招集通知発送後の災害

Q:株主総会の招集通知を発送した後に災害が発生し、株主総会を予定どおりに開催することができそうもありません。どうすればよいですか。

 A:災害により株主総会の日時・場所を変更する必要がある場合、会日の前日までに株主への通知が可能なときには、株主へ通知し、ホームページ上でも周知するなどすることにより、株主総会の日時・場所を変更することが可能であると解されています。
 会日の前日までに株主への通知ができない場合であっても、変更後の日時・場所が近接しており、株主の出席を確保するための十分な対応が可能な場合には、変更することが可能であると解されますが、そのような条件を満たさない場合には、基準日を設定し、招集手続をやり直す必要があります。


 解説

(1)開催日の2日前までに災害が発生した場合

 株主総会の招集通知を発送した後に災害が発生し、株主総会の会場の安全が確保できないなどの場合、株主総会の日時・会場を変更する必要があります。この場合、新たに設定した株主総会日の2週間前までに招集通知を発送することが可能である場合には、再度、招集通知を発送し直すことで問題ありません。

 問題は、招集通知を発送し直す時間的余裕がない場合です。そのような場合を想定した会社法上の規定はありませんが、災害が発生し、株主総会の日時・会場を変更せざるを得ないような場合には、開催日の前日までに株主に通知することにより変更が可能であると解されます 1。その場合、可能であれば招集通知を行った方法と同様の方法で通知をするとともに、会社のホームページ等でも周知することにより、株主総会の参加の機会を確保する必要があります。

(2)開催日の当日または前日に災害が発生した場合

 株主総会の開催日の当日または前日に災害が発生し、予定していた日時・場所での開催が不可能となることも考えられます。この場合、事前に株主に通知することはできませんので、原則として、基準日を再度設定したうえで、招集手続をやり直すことになります。

 ただし、以下の場合には日時・場所の変更も可能であると解されます(広島高裁松江支部昭和36年3月20日判決参照)。

  1. 変更前の日時・場所と変更後の日時・場所が近接しており、
  2. 当初予定されていた会場の前に変更後の日時・場所を掲示したうえ、変更前および変更後の会場前に案内をする者を配置するなどし、
  3. 変更したことについて会社のホームページおよび証券取引所の適時開示において周知するなど、株主の出席を十分に確保できるような体制をとる

 しかしながら、変更前の日時・場所と変更後の日時・場所が近接していないような場合には、株主の出席機会を十分に確保することができませんので、原則どおり、基準日の設定をしたうえで、招集手続をやり直す必要があります。

定時株主総会の報告・決議

Q:災害が発生したため、定時株主総会を、事業年度終了後3か月を超えた時期に行うことを検討しています。この場合、定時株主総会では例年どおりの議案を報告・決議することでよいでしょうか。

 A:原則として、通常の定時株主総会と同様の議案を報告・決議することになりますが、剰余金の配当については、新たに基準日を設定する必要があります。


 解説

剰余金の配当以外の報告・決議事項

 災害の発生などやむを得ない理由により、事業年度終了後3か月を超えた時期に定時株主総会を開催する場合であっても、臨時ではなく定時株主総会ですので、原則として、通常の定時株主総会と同様の報告事項の報告・決議事項の決議は可能です。したがって、通常どおり、計算書類や連結計算書類の報告(会社法438条2項、439条、444条7項)等を行うことは可能です。

 また、取締役・監査役(以下「役員」といいます)の改選期であった場合、現任の役員の任期は「選任後2年(監査役の場合は4年)以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」(会社法332条1項、336条1項)とされています。そのため、定時株主総会の開催が事業年度終了後3か月を超えた場合であっても、当該定時株主総会の終結の時まで役員の任期は継続することとなり、また、新任役員の選任決議も当該定時株主総会において行うことになります。

剰余金の配当

 剰余金の配当については、多くの会社の定款において、事業年度末日を期末配当の基準日としています。以下は、3月決算の場合の典型的な定款の条項です。

(剰余金の配当の基準日)
第◯条 当会社の期末配当の基準日は、毎年3月31日とする。

 基準日の効力は3か月(会社法124条2項)ですので、事業年度終了後3か月を超えた定時株主総会で決議をして剰余金の配当をしようとする場合には、新たに剰余金配当受領権を得る株主を確定するために基準日を設定しなければなりません。この基準日設定の公告は、1-1の定時株主総会の議決権の基準日と併せて行うことも可能です。

 なお、定款で定められた基準日以外の日を基準日として設定することが定款違反とならないかという点も問題となります。法務省「定時株主総会の開催について」においては、「特定の日を剰余金の配当の基準日とする定款の定めがある場合でも、今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、その特定の日を基準日として剰余金の配当をすることができない状況が生じたときは、定款で定めた剰余金の配当の基準日株主に対する配当はせず、その特定の日と異なる日を剰余金の配当の基準日と定め、当該基準日株主に剰余金の配当をすることもできます」とされており、災害などやむを得ない事情がある場合には、定款に違反しないと解されます。

株主総会の当日

Q:株主総会開催中に地震などの災害があった場合、どのような対応を行う必要があるでしょうか。

 A:株主の安全確保を最優先とした対応が必要です。株主総会の継続が困難であると判断した場合には、株主を安全に避難させる必要があります。議事の継続が可能な場合には、すべての決議事項を決議することが望ましいですが、時間的な余裕がない場合には、「延期」または「続行」の決議をすることとなります。
 地震などの災害はいつ発生してもおかしくありませんので、株主総会の準備にあたっては、開催中に災害が発生した場合のシナリオも想定しておく必要があります。


 解説

株主総会の継続が不可能な場合

 大地震により火災が発生するなど、会場が危険な状態になった場合には、株主の安全確保を最優先する必要があります。そのような場合には、株主総会の議事を止め、株主の避難誘導を行う必要があります。避難経路やアナウンスの方法については、あらかじめ会場設営者とともに打ち合わせておく必要があります。

株主総会の継続が可能な場合

 直ちに避難しなくても株主の安全が確保されていることが確認でき、株主総会が継続できる場合には、可能な限り決議事項の採決まで行うことが望まれます。

 しかし、余震が続くなど、早期に終了することが必要な場合には、株主総会の延期または続行の決議(会社法317条)を行うことが考えられます。株主総会の「延期」とは、株主総会の成立後、議事に入らずに会日を後日に変更することをいい、「続行」とは、議事に入った後、審議未了のまま会議を一時中止し、後日に継続することをいいます。

 「延期」または「続行」された株主総会は、元の株主総会と同一の株主総会ですので、改めて招集通知を発送する必要はなく、後に再開する際の手続が軽減できます。また、定時株主総会である場合には、定時株主総会は終結していないことになるため、たとえ役員の改選期であっても任期満了にならないというメリットもあります。したがって、すべての決議事項を決議できない場合であっても、「延期」または「続行」の決議をすることが望ましい対応になります。

監査役の死亡

Q:当社は監査役会設置会社ですが、災害によって監査役が亡くなり、それにより法定人数が欠けてしまいました。当面、災害後の混乱が続きそうですがどうすればいいでしょうか。

 A:あらかじめ補欠監査役を選任している場合には、補欠監査役を監査役に就任することにより法定人数を満たすことができます。補欠監査役が選任されていなかった場合には、裁判所に一時監査役の選任を申し立てる必要があります。


 解説


 監査役会設置会社は、監査役を3名以上とし、そのうち半数以上を社外監査役とする必要があります(会社法335条3項)。監査役1名が死亡するなどし、この要件を満たさなくなる場合に備え、会社法では補欠監査役の制度が認められています。補欠監査役とは、法令または定款で定める監査役の数が、次期定時株主総会までの間に死亡等の理由により欠けることとなった場合に備え、あらかめ株主総会で選任するものです(会社法329条3項)。したがって、仮に、補欠監査役が選任されている場合には、当該補欠監査役が監査役に就任することにより法定の要件を満たすことができます。
 補欠監査役を選任していない場合には、本来、株主総会で選任する必要がありますが、定時株主総会の前に死亡したような場合には、監査役会の監査報告が作成できず、定時株主総会の開催に支障を来すことも想定されます。そのような場合は、裁判所に対し、一時監査役の選任を申し立てる必要があります(会社法346条2項)。

取締役会のみなし決議

Q:災害後の緊急対応に追われており、取締役会を開催するのは難しそうです。取締役会を開催せずに書面決議としても問題ありませんか。

 A:定款に定めがある場合、取締役全員の書面や電磁的記録による同意により、書面決議を行うことは可能です。ただし、取締役が自己の職務執行の状況を取締役会へ報告する義務は省略できないため、3か月に1回以上、現実に取締役会を開催しなければなりません。


 解説


 取締役会設置会社は、定款において定めることにより、取締役会の決議事項について、取締役が決議の目的を提案した場合、当該提案につき取締役の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の決議があったとみなすことができます(会社法370条)。ただし、監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べた場合は、書面決議はできません(同条かっこ書)。

 また、取締役会の報告事項についても、同様に取締役(監査役設置会社にあっては、取締役および監査役)の全員に対して通知したときは、当該事項を取締役会へ報告することは要しません(会社法372条1項)。ただし、報告事項のうち報告を省略できる事項から、職務執行の状況に関する報告(会社法363条2項)は除かれていますので(会社法372条2項)、取締役は、3か月に1回以上は、自己の職務執行の状況を取締役会に報告しなければなりません

委任状による取締役会への出席

Q:被災して取締役会への出席が難しい取締役がいます。委任状により出席とすることは可能でしょうか。

 A:取締役会への出席を第三者に委任することはできません。そのため、委任状により取締役会に出席することはできません。


 解説


 株主総会に関しては、委任状を提出することにより議決権の代理行使が認められていますが、取締役会については、学説上、第三者に議決権の行使を委任することはできず、また、そのような定款の定めもできないと解されています。したがって、第三者が委任状により出席することはできません。被災して取締役会への出席が難しい場合には、テレビ会議や電話会議によるか、書面決議によることが考えられます

取締役会による平時の検討

Q:災害に備えて取締役会で検討しておくべき事項としてはどのようなものがありますか。

 A:緊急事態においては、十分な通信環境が確保できるとは限らず、取締役会で迅速な意思決定を行うことが困難なことも想定されます。取締役会としては、平時からBCPなどを定め、緊急事態への対応を検討しておくことが重要となります。


 解説


 災害などの緊急事態が発生した場合、従業員・顧客などの安全や情報通信インフラの確保、工場・支店・営業所などの会社資産の保全など、極めて短期間に多くの対応を行う必要があります。緊急事態が発生してから取締役会で対処方法を決定しているようでは到底、迅速な対応は期待できません。そこで、取締役会としては災害などの緊急事態に備え、あらかじめBCP(事業継続計画、Business Continuity Plan)を定めておく必要があります。

 BCPは、地震、水害などの自然災害のほか、テロ攻撃やサイバーテロ攻撃、パンデミック、戦争など様々な場合を想定したうえで、最低限、以下の項目について策定する必要があります。

  1. 緊急事態発生時の対策本部の設置などの情報集約体制の構築
  2. 従業員や顧客などの安全を確認・確保するための体制
  3. 工場、支店、営業所など、会社の存続に必要不可欠な施設・設備が破壊された場合の保全手段または代替手段
  4. 電話などの情報通信インフラが破壊された場合の連絡手段や、業務に必要なデータのバックアップ方法
  5. 意思決定のプロセス、責任者

 BCP策定後は、定期的にシミュレーションを行い、必要な見直しを行う必要があります。そして、実際に緊急事態が発生した場合は、BCPに従い緊急対策本部などを設置し、当該本部のもと災害対応にあたることになります。


  1. 中村直人編著『株主総会ハンドブック〔第5版〕』(商事法務、2023)338~339頁 ↩︎

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