災害時の法務Q&A

第1回 災害時の広報対応と情報開示のポイントを過去事例に基づき解説

コーポレート・M&A
坂尾 佑平弁護士 三浦法律事務所 吉田 悟巳弁護士 三浦法律事務所

目次

  1. 広報対応
    1. 初動対応
    2. 社外への情報発信(公表)、取引先への連絡
    3. 社内への情報発信
    4. 平時の備え
  2. 金融商品取引法に基づく開示書類
    1. 有価証券報告書等の提出期限に係る特例措置
    2. 有価証券報告書等の提出期限の延長の手続
    3. 臨時報告書の提出要件
  3. 適時開示・任意開示
  4. 参考となる行政通知や公表資料

 災害が起きたとき、被害状況の詳細や災害が事業に与える影響等に関する情報開示や、問合せへの回答といった広報対応が必要となります。また、上場会社においては、ステークホルダーに適切な情報開示を行うことが求められる中、災害後にも遅滞なく有価証券報告書等の法定開示書類を提出できるか否かを検討のうえ、災害が事業に与える影響等に関する適時開示・任意開示の要否なども確認する必要があります。有事に迅速かつ適切な広報対応を行うためには、平時の段階から、有事の際に何をすべきかを整理し、しっかり準備しておくことが重要です。

 この記事では、災害発生時の広報対応およびそのための平時の備えについて整理し、さらに法的観点を踏まえた情報開示について解説します。

広報対応

初動対応

Q:会社が被災したとき、広報部門はまず何をすべきでしょうか。

 A:広報部門としては、①安否確認をしたうえでの広報部門の対応体制の確認、②社内各部署からの情報収集と分析、③分析した情報に基づく関係先への連絡とリリースの準備をすべきであると考えられます。


 解説

 会社が被災した場合、広報部門でも他の部門と同様に、社員の安全確保・安否確認が最も重要です。まずは、対応可能なメンバーを集めて広報部門の対応体制を確認することが広報対応の出発点となります。
 そのうえで、広報部門が社内で必要な部署との連絡を取りながら、自社の被災状況に関する情報を収集・分析することになります。
 そして、分析した情報に基づき、社内発信、取引先等の関係先への連絡、自社ウェブサイト等におけるリリース等の内容を精査し、情報発信の準備を進めることが想定されます。

Q:被災地に会社の施設等が存在していたものの、災害による施設や従業員への被害が発生せず、かつビジネスへの影響が発生する可能性が低い場合は、広報部門としてどう対応したらよいでしょうか。

 A:被災地に会社の施設等が存在しているために取引先や顧客等において懸念が生じる可能性がある場合には、取引先に対して自社に被害が発生していないことを個別に連絡したり、自社のウェブサイト上で通常どおり営業を行っている旨を公表したりすることも一案です。


 解説

 自社が被災を免れ、特段被害が発生せず、かつ災害によるビジネスへの影響が発生する可能性も低いことが判明した場合には、被災した場合に比べて緊急で広報対応や情報開示を行う必要性は小さいと考えられます。
 もっとも、自社の施設等が被災地に存在している場合には、取引先や顧客等から、被災したのではないか、それによってビジネスに影響は生じないか、営業は通常どおり継続可能なのかといった懸念が生じる可能性があり、そのような懸念を解消することは広報部門に期待される役割であると考えられます。
 たとえば、取引先に対して自社に被害が発生していないことを個別に連絡したり、自社のウェブサイト上で通常どおり営業を行っている旨を公表したりすることが考えられます(任意開示については、後述3をご参照ください)。

 そのように考えると、被災地に会社の施設等がある場合には、被害の有無を問わず、迅速な情報収集や関係部署との連携をすることが重要ということになります。そして、災害時に迷わず適切な対応を行えるよう、平時からさまざまな災害結果を想定した広報部門としてのシミュレーションを行っておくことが肝心です(平時の備えに関しては、後述1-4をご参照ください)。

社外への情報発信(公表)、取引先への連絡

Q:災害が起きたとき、自社のウェブサイト等で公表すべき内容は何でしょうか。

 A:災害が起きたとき、自社のウェブサイト等で、自社の被災状況、被害の程度、被害による自社の事業への影響、今後の見通し等を公表すべきであると考えられます。


 解説

 前提として、自社のウェブサイト等での公表を行う意義は、取引先や顧客を含むさまざまなステークホルダーに対して、広く情報を発信するという点にあります。そのため、災害が起きたときの公表事項の検討に際しても、多様なステークホルダーに広く発信すべき情報が何であるかを考えることが有用です。
 災害が起きたとき、ステークホルダーが会社に公表を望む事項としては、一般的に以下のようなものが考えられます。

  • 会社(本社、営業所、重要な拠点、設備等)の被災状況
  • 被害の程度
  • 被害による会社の事業への影響の有無および程度
  • 今後の見通し(事業継続の可否、被害回復や設備の復旧の見通し等)

 なお、会社に被害がなかった場合であっても、被災地に会社の施設等が存在しているために取引先や顧客等において懸念が生じる可能性がある場合には、取引先に対して被害が発生していないことを個別に連絡したり、ウェブサイトにて通常どおり営業を行っている旨を公表したりすることも一案です。

Q:災害が起きたとき、取引先に連絡すべきことは何でしょうか。

 A:災害が起きたとき、取引先に対して、自社の被災状況や、事業や当該取引先との間の取引への影響等を連絡すべきであると考えられます。連絡する内容については、自社の被災状況等を自社ウェブサイト等で公表しているか否かに応じた検討が必要です。


 解説

 自社の被災状況等をウェブサイト等で公表していない場合には、自社の被災状況、事業への影響、今後の見通しなど、取引先が知りたいであろう重要な情報を迅速かつ適切に連絡する必要があります。
 他方、自社の被災状況等をウェブサイト等で公表している場合には、当該取引先との間の具体的な取引への影響など、ウェブサイト等で公開する情報以外の当該取引先との関係固有の情報を互いに共有すべく連絡し、相互に状況確認を行うことが想定されます。
 取引先によっては自社の営業部門等の担当者がコミュニケーションを取るべきケースもあり得るところ、自社内で連絡に関する交通整理や対応方針の目線合わせをしておくことが望まれます。

Q:災害が起きたとき、社外への情報発信で気をつけるべきポイントはありますか。

 A:ウェブサイトやSNS、メールマガジン等の自社からの発信全般に関し、文面や表現に細心の注意を払う必要があります。被災地への義援金や支援活動について発信するに際しても、被災者の心情に配慮し、発信内容を慎重に検討することが望まれます。


 解説

 自社が発信した情報は、直接、またはさまざまな人を介して間接的に、被災者に伝わります。そうしたときに、被災者が不快にならないよう、表現には細心の注意を払う必要があります
 また、就職活動をしている学生や求職者への連絡など、社外の連絡全般に気を配るよう、必要な部署に対し、注意喚起をすることも考えられます。

 会社として被災地への義援金や支援活動を実施することは、CSR(企業の社会的責任)の観点からは望ましく、その事実の公表は会社のレピュテーションの向上に資すると考えられます。たとえば、2024年1月に発生した能登半島地震では、食品メーカーや日用品メーカー等のさまざまな企業が被災地に物資供給等の支援を行い、その旨を自社ウェブサイトにおいて公表しました。このような企業の支援は、メディアで好意的に取り上げられ、SNS等で称賛が集まるなど、企業のレピュテーションの向上に結びついていることがうかがわれました。
 もっとも、被災者に不快な思いを抱かせるような文面で公表を行ってしまうと、SNS等で炎上するなど、かえって会社のレピュテーションが悪化する危険性もあり得るところ、被災者の心情に配慮し、発信内容を慎重に検討することが望まれます。企業による発信の炎上事例については法務・コンプライアンス部門等に知見がある場合もあり得るところ、そのような知見を活用することも一案です。

 これらを踏まえ、公表内容としては、お見舞いの挨拶から始め、自社の被災地支援の内容を端的に明記したうえで、復興への願いを記載して締めくくるといったシンプルな文案とすることが考えられます。

Q:災害後にメディアから会社への問合せを受けた場合の、対応にあたっての留意点は何でしょうか。

 A:災害後の混乱している状況下で情報が錯綜しないよう、誤情報や不確定情報を安易に発信しないよう留意すべきであると考えられます。そのために、確定情報の整理・集約や対応担当者の一元化といった対応策が考えられます。


 解説

 一般的に、メディアに対し、会社に関する誤情報や不確定情報を伝えるべきではないという点は平時と特段変わりはありませんが、災害後の混乱状況では情報の錯綜やデマの拡散がさらなる混乱を招いてしまう危険があるため、情報の発信にはいっそうの注意が必要です。
 また、メディアの問合せに対応した社員が述べた個人的な見解が、企業の公式見解として伝えられてしまうことによって生じる会社のレピュテーションへの影響も看過できません。

 これらの事態を避けるためには、確定情報を整理・集約し、メディア対応の担当者を一元化することが考えられます。具体的には、確定情報等を踏まえた想定問答を作成する、リリースの問合せ先として対応する担当者を明記するといった対応策を講じることが望まれます。
 工場を有するメーカーを例にすると、災害により工場で火災が発生した場合に、確定情報を可能な限り集約したうえで、想定問答(火災による被害の程度、死傷者の有無、周辺住宅への影響の有無等)を作成し、メディア対応の担当者が一元的に対応することが考えられます。

社内への情報発信

Q:災害が起きたとき、広報部門が社内に周知すべきことは何でしょうか。

 A:広報部門は、災害直後は自分自身や家族の安全を確保する行動を取るよう周知すべきであると考えられます。そのうえで、役職員に対して被災状況の詳細、公表予定の情報、災害に関連する情報を取引先等に連絡する場合の留意点等を周知することが考えられます。


 解説

 災害が起きたとき、社外への広報や問合せ対応だけでなく、社内への発信も重要な広報部門の役割です。

 災害が起きた直後には、自分自身や家族の安全を確保する行動を取るよう周知し、自分自身や家族の安全が確保できた場合には安否確認システムやメール等で会社に対して安否報告の連絡をしてほしいというメッセージを発出することが望まれます(人事労務部門等が担当するケースもあり得るところ、各社において担当部門や連携の要否をご確認ください)。
 その後、社内への情報共有として、役職員に対する被災状況の詳細について、判明した情報から随時共有していくことが考えられます。その際、情報の錯綜や混乱を防ぐため、公表予定の情報や災害に関連する情報を取引先等に連絡する場合の留意点等を併せて周知することも重要です。

平時の備え

Q:広報部門は、災害に備えて平時からどのような準備をしておくべきでしょうか。

 A:広報部門は、①災害を含む有事における社内の報告・連絡ルート、役割分担、決裁権者等のルール化および周知徹底、②災害発生時の対外的な情報発信の準備、③仮想事例を用いたシミュレーションを行う等の準備をしておくべきであると考えられます。


 解説

 広報部門は、災害発生後、速やかに社内の関係部署に連絡や情報共有を行ったり、社内の関係部署から集めた情報を用いて対外的な情報発信を行ったりする必要があります。そのような有事対応を迅速かつ適切に行うためには、平時から災害に備えて周到に準備をしておくことが望まれます。

 具体的には、災害を含む有事における社内の報告・連絡ルート、役割分担、決裁権者等に関し、役職員の被災など非常時を見据えた複層的なルールを制定し、社内に周知徹底することが望まれます。これにより、有事においても慌てることなく、当該ルールに従って、各部門から必要な情報が担当部署に報告・連絡されることになり、情報の不足や錯綜を防止することができます。
 また、災害発生時の対外的な情報発信の準備もできる限り行っておく必要があります。たとえば、関係会社、取引先、監督官庁など、災害発生時に連絡する必要がある関係先の連絡先一覧を作成する(定期的に更新する)、ウェブサイトでのリリースの段取りを決めておくなどの準備が考えられます。
 さらに、災害発生の仮想事例を用いたシミュレーションを行い、広報部門として迅速かつ適切に災害対応の業務を遂行する訓練を行うことも有用です。たとえば、避難訓練の一環として実施したり、広報部門向けの社内研修として実施したりすることが考えられます。

金融商品取引法に基づく開示書類

有価証券報告書等の提出期限に係る特例措置

Q:会社に被害を及ぼした災害が、「特定非常災害」に指定されました。会社の情報開示において、何か影響はありますか。

 A:特定非常災害に指定されると、金融商品取引法に基づく開示書類の提出期限に係る特例措置の適用対象となります。具体的には、当該災害の影響により、有価証券報告書や半期報告書を本来の提出期限までに提出することができなかった場合であっても、延期された期限までに提出すれば、行政上および刑事上の責任を問われません。



 解説

(1)特定非常災害とは

 特定非常災害特別措置法 1 は1996年に公布・施行され、これまでに、以下の8つの災害が特定非常災害に指定されました。

  • 阪神・淡路大震災(1995年)
  • 新潟県中越地震(2004年)
  • 東日本大震災(2011年)
  • 熊本地震(2016年)
  • 西日本豪雨(2018年)
  • 令和元年台風第19号(2019年)
  • 令和2年7月豪雨(2020年)
  • 能登半島地震(2024年)

 特定非常災害の指定基準は「著しく異常かつ激甚な非常災害」(特定非常災害特別措置法2条1項)であり、①死者・行方不明者、負傷者、避難者等の多数発生、②住宅の倒壊等の多数発生、③交通やライフラインの広範囲にわたる途絶、④地域全体の日常業務や業務環境の破壊等の諸要因を総合的に勘案して判断されます。

(2)有価証券報告書等の提出期限の延長

 有価証券の発行会社は、投資者が十分に投資判断を行うことができるような資料を提供するために、有価証券報告書半期報告書などの各種開示書類(以下「有価証券報告書等」と総称します)を提出することが義務づけられています。
 開示書類ごとに提出期限も定められており、原則として、有価証券報告書では事業年度経過後3か月以内、半期報告書では半期経過後45日以内(上場特定事業会社は60日以内、非上場会社は3か月以内)に提出しなければなりません。
 有価証券報告書等を提出しない場合、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処せられ、またはこれらが併科される旨が定められています(金融商品取引法197条の2第5号・6号)。また、有価証券報告書等を提出しない発行者に対しては、課徴金の国庫納付命令が行われる旨が定められています(同法172条の3第1項・2項)。

 もっとも、災害時には法令に基づき提出期限が延期されることがあり、その場合には財務局・財務支局に相談のうえ、必要な対応を講じれば行政上および刑事上の責任は問われません
 具体的には、特定非常災害特別措置法において、当該災害が特定非常災害に指定された場合には、有価証券報告書等の提出期限が延期されます

(3)過去の特定非常災害で提出期限が延長された例

 2011年3月11日に発生した東日本大震災では、提出期限が2度延期され、有価証券報告書等を本来の提出期限までに提出できなかった場合でも、1度目の延期では2011年6月30日、2度目の延期では2011年9月30日までに提出すればよいこととされました(詳細は金融庁の報道発表資料をご参照ください)。

 また、2024年1月に発生した能登半島地震においても、有価証券報告書等を本来の提出期限までに提出することができなかった場合であっても、2024年4月30日までに提出すればよいこととされました(詳細は金融庁の報道発表資料をご参照ください)。

有価証券報告書等の提出期限の延長の手続

Q:災害の影響で有価証券報告書等の法定期間内の提出が困難な場合、具体的にどのような手続をとればよいでしょうか。

 A:①自社が災害で被害を受けたこと、および②その被害のため有価証券報告書等の提出に支障を生じており期限内の提出が難しいことを速やかに所管の財務局・財務支局に相談し、必要な対応を講じればよいと考えられます。



 解説

(1)特定非常災害に指定された場合

 特定非常災害に指定された場合、2-1で述べたとおり、有価証券報告書等の提出期限が延期されます。提出期限延長のための財務局長や財務支局長への承認申請は不要とされていますが、本来の提出期限までに提出できない場合には所管の財務局・財務支局への連絡をするよう求められている点に留意が必要です。

(2)特定非常災害に指定されていない場合

 大きな規模の地震等でも特定非常災害に指定されないことがあります。そうすると、災害によって会社が大きな被害を受けている場合でも、有価証券報告書等の提出期限が延期されないという場合があります。
 この場合にも、金融商品取引法24条1項本文よりやむを得ない理由」があるときには、内閣総理大臣(実務的には財務局長・財務支局長)の承認により提出期限を延長することが認められているので、所管の財務局や財務支局に速やかに連絡を取り、①自社が大きな被害を受けていること、②その被害のため、有価証券報告書等の提出に支障を生じており、期限内の提出が難しいことを伝え、提出期限の延長申請をする等対応について相談することが重要です。

 「やむを得ない理由により当該期間内に提出できないと認められる場合」に該当するものとして、金融庁のガイドラインは以下の場合を示しています 2

電力の供給が断たれた場合その他の理由により、当該発行者の使用に係る電子計算機を稼動させることができないことによる債務未確定等を理由として、提出期限までに財務諸表又は連結財務諸表の作成が完了せず、又は監査報告書を受領できない場合

 この際、「やむを得ない理由」を示す書面として、「例えば報道、適時開示等、承認を必要とする理由が発生したことが客観的に明らかとなるもので、提出期限の延長の必要性を判断するために必要な事項を明瞭に記載した書面であること」が必要とされています。
 そして、この場合に延長される期限については、「個々の事案における提出期限の承認を必要とする理由の発生時期、復旧可能性、発行者の事業規模、事案の複雑性などを考慮した上で、公益又は投資者保護のため必要かつ適当な期限を定める必要がある。この場合において、企業情報が開示されないことによる不利益と、正確な企業情報が開示される利益とを比較考量の上、判断することに留意するものとする」という見解が示されています 3

臨時報告書の提出要件

Q:会社が災害による被害を受けた場合、臨時報告書を提出する必要はありますか。また、必要がある場合、いつまでに提出すればよいでしょうか。

 A:自社または連結子会社の純資産額の3%以上に相当する資産が災害によって被害を受け、その被害が自社の事業に著しい影響を及ぼすと認められる場合には、臨時報告書を提出する必要があります。提出時期については、「遅滞なく」提出する必要がありますが、地震という不可抗力により臨時報告書の作成自体が行えない場合には、そのような事情が解消した後、可及的速やかに提出すればよいと考えられます。



 解説

(1)臨時報告書とは

 臨時報告書とは、有価証券報告書を提出しなければならない会社が、内閣府令 4 で定める場合に該当することになったとき等に、遅滞なく内閣総理大臣への提出をすることが義務づけられている書類をいいます(金融商品取引法24条の5)。
 臨時報告書を提出する必要があるのは、自社または連結子会社の純資産額の帳簿価額の3%以上に相当する資産(直近の事業年度の末日時点)が災害によって被害を受け、それが止んだ場合で、当該災害による被害がその会社の事業に著しい影響を及ぼすと認められる場合です。

 臨時報告書の記載内容は、以下のとおりです(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項5号イ~ニ、13号イ~ホ)。

自社が被害を受けた場合
  • 当該重要な災害の発生年月日
  • 当該重要な災害が発生した場所
  • 当該重要な災害により被害を受けた資産の種類及び帳簿価額並びにそれに対して支払われた保険金額
  • 当該重要な災害による被害が当該提出会社の事業に及ぼす影響

連結子会社が被害を受けた場合
  • 当該連結子会社の名称、住所及び代表者の氏名
  • 当該重要な災害の発生年月日
  • 当該重要な災害が発生した場所
  • 当該重要な災害により被害を受けた資産の種類及び帳簿価額並びにそれに対し支払われた保険金額
  • 当該重要な災害による被害が当該連結会社の事業に及ぼす影響

(2)臨時報告書の提出時期

 臨時報告書の提出時期については、金融商品取引法24条の5第4項において遅滞なく」提出しなければならないと定められています。
 金融庁は、「提出期限の確定しない臨時報告書については、地震という不可抗力により臨時報告書の作成自体が行えない場合には、そのような事情が解消した後、可及的速やかに提出することで、遅滞なく提出したものと取り扱われることとなります」と発表しており 5、今後の災害においても同様の取扱いをすることが想定されます。

 過去の事例を見ると、東日本大震災以降、災害による影響で臨時報告書が提出されたのは、東日本大震災(2011年)の際に約30件、熊本地震(2016年)の際に約6件で、災害から2週間で提出されたものもあれば、1年以上経過してから提出されたものもあります。

適時開示・任意開示

Q:災害が起きたとき、適時開示が必要なのはどのような場合でしょうか。

 A:災害に起因する損害が発生した場合には、損害が軽微であることが明らかである場合を除き、適時開示をする必要があります。災害が発生し、損害の規模が不明な場合であっても適時開示をする必要があります。


 解説

 上場会社は、重要な会社情報が生じた場合に、直ちに有価証券上場規程に則った適切な開示を行うことが義務づけられており、これを適時開示といいます。これに対して、会社が任意で行う開示を任意開示といいます。

 災害が起きた場合、その「災害に起因する損害」について、以下のいずれかに該当するときには、会社は直ちにその内容を開示する必要があります

(a)損害の見込額が、直前連結会計年度の末日における連結純資産の3%に相当する額以上

(b)損害の見込額が、直前連結会計年度の連結経常利益の30%に相当する額以上

(c)損害の見込額が、直前連結会計年度の親会社株主に帰属する当期純利益の30%に相当する額以上

(d)災害に起因する損害の額が会社の最近事業年度の末日における純資産額の3%に相当する額以上であると見込まれる(有価証券の取引等の規制に関する内閣府令50条1項1号参照)場合(該当する可能性が排除できない場合を含む)

 「災害に起因する損害が発生した場合」に適時開示する必要があるかどうかの判断にあたっては「業務遂行の過程で生じた損害」の内容を開示する必要があるか、と同様の基準が適用されています。すなわち、上場企業において災害によって損害が発生した場合、発生した損害が特別損失として計上されず、営業損失や営業外損失といった特別損失以外の勘定科目に計上される場合においても、上記の(a)~(d)のいずれかに当てはまっていれば、開示をする必要があります

Q:災害による事業への影響に関する適時開示が必要な場合、どの段階でどのような内容を開示する必要がありますか。

 A:開示時期については、詳細な被災状況や損害額が不明であっても、損害が発生した段階で開示をする必要があります。開示内容については、被害発生直後は損害の内容を開示し、詳細な被災状況や損害額が判明した段階で改めて開示をする必要があります。


 解説

 災害によって事業に損害が生じた場合には、被災状況や被災による損害額の詳細が不明な段階でも、損害が発生した段階で開示をする必要があります(東京証券取引所上場規程402条2号a、施行規則402条1項1号)6

 また、日本取引所グループのFAQによると、災害や被害の発生から時間が経ち、「被災状況や損害額が判明した場合」には、判明した被災状況や損害額について、改めて開示を行う必要があります。なお、被災状況や損害額が判明した際のTDnet(東京証券取引所の適時開示情報閲覧サービス)の公開項目は、発生時の公開項目に「開示事項の経過」を追加するという運用がなされています。

Q:災害による自社の事業への影響が軽微であった場合、適時開示を行う必要はありますか。また、自社の事業への影響が軽微であることの任意開示を検討すべき場合はありますか。

 A:災害による自社の事業への影響が適時開示基準に満たない場合には適時開示をする必要はありません。もっとも、被災した地域に本社等がある場合など、取引先等からの事業への影響への関心が高いと考えられる場合には、任意開示を検討すべきであると考えられます。


 解説

 東日本大震災の際には、東京証券取引所は震災発生の3日後(2011年3月14日)に「東日本大震災に係る被災状況等の適切な開示等に係るお願い」と題する文書を発出し、被災地に本社機能や事業拠点を有する上場会社は、被災の状況や事業活動等に与える影響に関して、速やかに情報を開示することを要請しました。
 上記文書に鑑み、被災地に本社機能や工場等経営上重要な拠点がある場合には、任意開示を検討すべきであると考えられます。

 2024年の能登半島地震においても、被害等が発生していない旨の任意開示がなされた例は存在します。たとえば、株式会社大光銀行は、2024年1月4日付けの「令和6年能登半島地震の影響に関するお知らせ」と題する任意開示を行い、被害状況および業績への影響に関して、以下のとおり記載しています。

  1. 被害の状況
    当行の店舗に特段の被害等は発生しておらず、通常通り営業いたします。
    また、当行における人的被害はありません。

  2. 業績への影響
    今回の地震により当行の業績に影響を及ぼす被害は発生しておりませんが、今後開示すべき事象が発生したときは速やかにお知らせいたします。

 任意開示を行うか、自社のウェブサイト等でのリリースにとどめるかは悩ましい問題ですが、任意開示であっても「適時開示情報」として開示する以上、投資判断上有用な情報として投資者に提供されるものと位置づけられることから、投資判断上有用な情報か否かという点が分水嶺になると考えられます。
 この点に関しては、日本取引所グループが上場REIT向けのFAQにおいて以下のような回答を示しており、参考になります。

質問
地震、大雨、台風など、天災によって保有物件に損害が生じたものの、投資判断に重要な影響は及ぼさない(影響は軽微)と判断していますが、情報を発信するまでは投資者からの問合せを受けるため、TDnetを用いて適時開示を行って周知を図ってもよいでしょうか。

回答
災害等の発生に伴い、運用資産等の状況について投資者に周知する場合には、自らのウェブサイト等(REITのホームページ)において情報提供を行うことが考えられます。
なお、適時開示の要否については、投資者の投資判断に与える影響の程度を踏まえて判断してください。

参考となる行政通知や公表資料 7


  1. 正式名称は「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」。 ↩︎

  2. 金融庁企画市場局「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」(令和5年1月)24-13(有価証券報告書等の提出期限の承認の取扱い)(1) ↩︎

  3. 金融庁企画市場局「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」(令和5年1月)24-13(2)(3) ↩︎

  4. 企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項各号 ↩︎

  5. 金融庁「令和6年能登半島地震に関連する有価証券報告書等の提出期限に係る措置について」(令和6年1月12日)等 ↩︎

  6. 開示義務および開示実務の詳細は、日本取引所グループ「発生事実 災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害」(2024年4月22日最終閲覧)をご参照ください。 ↩︎

  7. いずれも2024年4月22日最終閲覧 ↩︎

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