メキシコ労働法の解説

第4回 メキシコの労働組合に関する規制

国際取引・海外進出
西山 洋祐弁護士 アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業

目次

  1. はじめに
  2. メキシコの労働組合
  3. 労働組合の結成と登録手続
  4. 労働組合の権利・機能
  5. 労働組合および組合員労働者
    1. 労働組合または組合員である労働者に対する義務
    2. 干渉行為等の禁止

はじめに

 メキシコにも労働組合(sindicato)が存在し、連邦労働法は労働組合についての規定を設けている。2019年5月、連邦労働法の労働組合に関する規定に関しても大きな改正があった。第1に労働組合結成時に登録が必要となり、そのために法定の書面の提出が必要となった。第2に労働組合が使用者と締結する労働協約も、その登録が必要となった。これにより法定の書面の提出が必要となり、さらに登録された労働協約が当局に公開されることとなった。第3に使用者による労働組合に対する干渉の禁止が厳格化された。上記のうち第1と第2の点はこれまでは経過措置期間であり全面運用されていなかったが、2021年11月3日をもってメキシコ全域において全面的に運用開始されるに至った 1。また、後記4に記載のとおり、従前存在していた労働協約も、2023年5月1日までに改正後の連邦労働法の定めに則って承認される必要がある。

 以上の改正点が実務上重要であることに鑑み、本稿では労働組合に関する規制一般を解説するとともに、改正点について詳述する。

メキシコの労働組合

 連邦労働法は労働組合を「労働者または使用者の利益の調査、改善および擁護のために労働者または使用者により結成される団体」と定義している 2日本の労働組合法上の労働組合が、労働者が主体となって自主的に組織する団体であるとされており 3 使用者により結成される団体を含まないのに対し、メキシコの労働組合は使用者により結成される団体も含む点が特徴的である。メキシコの労働組合への参加はあくまでも権利であり、何人も参加を義務付けられることはない 4

 労働組合には数種の類型があり、連邦労働法は労働者による労働組合の5つの類型を例示的に定めている 5。具体的には下記の5類型の労働組合が規定されている。これらに該当しない労働組合を結成することも可能であるが、20名以上の労働者により結成される必要がある 6

  • 専門等を同一とする労働者による組合
  • 同一の会社等で雇用されている労働者による組合
  • 同一の産業に属する2以上の会社等で雇用されている労働者による組合
  • 同一の産業に属する2以上の会社等(2以上の州に所在する)で雇用されている労働者による組合
  • 専門等を異にする労働者による組合(結成地である行政区分において専門を同一とする労働者が20名未満である場合に結成可能)

 使用者により結成される労働組合の類型も定められており、具体的には下記の類型が規定されている 7

  • 同一の地域に所在する使用者による組合
  • 2以上の州に所在する使用者による組合

 上記の2類型のいずれも、3以上の使用者により結成される必要がある 8

 管理監督者(trabajador de confianza)は管理監督者ではない労働者による労働組合に加入できない点に注意が必要である 9。管理監督者ではない労働者による労働組合は、その規約(estatuto)において、その構成員である労働者が管理監督者へと昇進した場合について定めておくことができる 10

 また、外国人労働者も労働組合に加入しうるが、外国人労働者は組合役員(directiva)にはなれないとされている 11

メキシコの労働組合 日本の労働組合
組合員 労働者または使用者により組織 労働者により組織
組合員数要件 20名以上の労働者
(使用者による労働組合は3以上の使用者)
「団体」12 としての性質を有する必要があるが特定の人数の組合員の存在は要求されておらず、一時的に組合員が1人となった場合も団体性を失わないことがありうる 13
外国人労働者 組合役員になれない 制限なし

労働組合の結成と登録手続

 いずれの労働組合もその結成時に連邦労働調停・登録センター(Centro Federal de Conciliación y Registro Laboral)に登録する必要があり、かかる登録手続のために以下の書面を提出する必要がある 14

  • 労働組合結成議事録の写し
  • 組合員リスト
  • 組合規約の写し
  • 組合役員を選出した際の会議議事録の写し

 上記の書面はいずれも原則として労働組合の代表者として指名された者(secretario general)等により認証されていなければならない 15。上記の書面はいずれも連邦労働調停・登録センターのウェブサイトで公開される 16

 上記の組合員リストについては、氏名・名称、住民登録番号 17、住所・所在地、(組合員が労働者である場合には)勤務先等が記載されている必要がある 18

 上記の組合規約については、法定の事項を定めている必要がある。具体的には組合の名称、所在地、目的、存続期間、加入の条件、組合員の権利義務、組合役員の選出手続等の多数の事項を規定する必要があり、さらに組合役員の選出手続等については所定のルールに沿って規定される必要がある 19

 連邦労働調停・登録センターにより登録が拒否されるのは、労働組合が「労働者または使用者の利益の調査、改善および擁護のために」20 結成されるのではない場合、上述の法定の組合員数要件を満たしていない場合、または必要な書面が提出されていない場合に限られ、またこのような事由があった場合も連邦労働調停・登録センターは5日間の補正等の機会を与えなければならない 21。連邦労働調停・登録センターは登録申請があった場合には、原則として20日以内に登録を完了する 22

労働組合の権利・機能

 適法に設立された労働組合は法人格を持ち、動産の取得、その目的に沿った不動産の取得、自らの権利の保護およびそれに必要な行動、組合員の権益を図るためのメカニズムの確立等の権能を有する 23

 労働組合は、組合員の権利保護のために組合員を代表しうるが、労働者である組合員が直接行動しまたは介入する権利は妨げられないのであり、かかる労働者の要求があった場合には労働組合は権利保護のための代理行為をやめなければならない 24

 原則として組合役員によって指名された者が組合の代表者(secretario general)となる 25

 以上に加え、労働者による労働組合の場合の労働組合の主要な機能としては労働協約(contrato colectivo de trabajo)の締結に際しての交渉等がある 26。労働協約は、労働者による労働組合と使用者(または使用者による労働組合)との間で締結される契約であり、職場等での労働提供の条件の確立を目的とする 27。具体的には、労働協約は下記の事項を規定しなければならない 28

  • 締結当事者の名称および所在地
  • 労働協約の適用対象となる会社等の名称
  • 労働協約の存続期間(無期である場合または特定業務の終了まで存続する場合にはその旨)
  • 労働時間
  • 休日および休暇
  • 給与・賃金額
  • 労働者に対する職場等での教育・研修に関する規定
  • 初期研修等に関する規定
  • 法律上設立されなければならない委員会の設立、運営に関する規定
  • その他締結当事者双方が合意した事項

 2019年の改正により労働協約の登録が必要となった。すなわち、労働協約の締結版は3部用意される必要があり、双方当事者が1部ずつ保有し、残る1部は連邦労働調停・登録センターに提出し登録されなければならない 29。かかる労働協約の連邦労働調停・登録センターにおける登録のために、労働協約に加え、以下の書類も提出しなければならない 30

  • 締結当事者の本人確認書類
  • 労働協約締結のために労働組合が連邦労働調停・登録センターから取得する代表権証明書 31
  • 労働協約の性質を称する書面 32

 上記の代表権証明書については、かかる証明書の取得のためにも、別途、各種書類を連邦労働調停・登録センターに提出する必要があり、かかる提出書類の中には、代表権証明書を請求する労働組合が労働協約の適用を受ける全労働者の30%以上から支持を受けていることを証するリスト(労働者の署名や住民登録番号が記載されたリスト)も含まれる 33

 登録された労働協約についての情報は連邦労働調停・登録センターにより公開される 34。また、連邦労働調停・登録センターに申請し手数料を支払うことで労働協約の写しを取得することができる 35

 労働協約は原則として締結当事者である会社の従業員すべてに適用されるのであり、他方締結当事者である労働組合の組合員ではない従業員に対しても適用される 36。ただし、労働協約に定めることにより、当該労働協約に規定する労働条件は管理監督者に対しては適用しないものとすることができる 37

 2019年の改正により、従前存在していた労働協約も、2023年5月1日までに改正後の連邦労働法の定めに則って労働協約が適用される組合員労働者の投票により承認される必要があり、かかる承認がなされない場合には労働協約は失効する 38

 2021年1月の改正により、連邦労働法にテレワーク(teletrabajo)についての規定が加わった 39。労働協約が存在する場合に使用者が組合員である労働者も対象となるテレワークを導入する場合には、テレワークについても労働協約で定める必要があり 40、労働協約の写しはテレワークを行う労働者に対し無料で配布されなければならない 41

メキシコの労働協約 日本の労働協約
締結義務 使用者に締結義務が生じうる 42 締結義務はない 43
適用範囲 原則として締結当事者である会社の従業員すべてに適用される
(労働組合の構成員ではない従業員に対しても原則として適用される)
原則として組合員のみ
(同一の工場事業場にて労務提供する労働者の4分の3以上が労働協約の適用を受ける組合員である場合等には残りの労働者にも適用される 44
労働者の承認の要否 労働協約が適用される組合員労働者の過半数による承認が必要 承認は必ずしも必要ではない 45
登録の要否 登録が必要 登録は不要 46
労働協約の公開 公開の定めあり 公開の定めなし
労働協約の期間 無期限も可能 47 3年以内 48

労働組合および組合員労働者

労働組合または組合員である労働者に対する義務

 使用者は労働組合または組合員である労働者との関係で下記の義務を負う。

  • 労働者からの適時の通知があった場合には、当該労働者が組合活動をするために必要な限度で労務提供をしないことを許容しなければならない(ただし、かかる組合活動は事業の円滑な進行を妨げるものであってはならず、また組合活動に要した時間は原則として労働時間から差し引かれる)49
  • 労働協約の締結主体である労働組合等に対して新規の職位・役職や空きが出た職位・役職について知らせなければならない 50
  • 使用者は労働組合に対し、労働組合の事務所となる場所を提供する必要がある 51

干渉行為等の禁止

 2019年の改正では、使用者による労働組合への干渉の禁止が明確にされた。すなわち、使用者は直接的・間接的を問わず労働組合に干渉してはならず、労働者による労働組合を支配すること、労働組合を支配するために労働組合を支援することは干渉とみなされる 52。そして、不当な干渉は制裁の対象とされており、具体的には250から5000 UMA(約12万円から250万円 53)の罰金が科されうる 54

 上記に加え、2019年の改正により、使用者は、その労働者が属する労働組合の支配を目的とする行為を行ってはならないとされた 55。また、使用者は労働者に対し、労働組合への加入または労働組合からの脱退を強制したり、代表者選出等のための投票に干渉したりすることも禁止されており 56、労働者に対する報復を通じて、組合の内部体制に介入し、結成または発展を妨げることも許されない 57。また、上述の労働協約は登録に先立ち労働組合内部で承認される必要があるところ、使用者はかかる労働協約の承認手続に介入してはならない 58。従前、使用者が自らの労働者である組合員に代わって当該組合員が組合に支払うべき組合費等を支払っているケースもあったが、改正法下ではこのような支払いも干渉にあたるため禁止される。

(注)本稿は、メキシコの法律事務所であるBasham, Ringe y Correa, S.C.のメキシコ法弁護士のÁlvaro González-Schiaffino氏およびDavid Eugenio Puente Tostado氏の協力を得て作成しています。


  1. 第3回で紹介した新たな労働紛争解決手続と同様に3つの時期に分けて運用が開始される予定であった(第3回の1および脚注2参照)が、登録手続については2021年11月3日に第2ステージのみならず第3ステージの運用も開始され、メキシコ全域において全面的に運用開始されるに至った。https://reformalaboral.stps.gob.mx/ ↩︎

  2. 連邦労働法356条 ↩︎

  3. 日本の労働組合法2条 ↩︎

  4. 連邦労働法358条 ↩︎

  5. 連邦労働法360条 ↩︎

  6. 連邦労働法360条および連邦労働法364条 ↩︎

  7. 連邦労働法361条 ↩︎

  8. 連邦労働法361条および連邦労働法364条 ↩︎

  9. 連邦労働法363条および183条 ↩︎

  10. 連邦労働法363条 ↩︎

  11. 連邦労働法372条 ↩︎

  12. 日本の労働組合法2条 ↩︎

  13. 菅野和夫『法律学講座双書 労働法〔第12版〕』(弘文堂、2019年)840頁および841頁 ↩︎

  14. 連邦労働法365条 ↩︎

  15. 連邦労働法365条および連邦労働法376条 ↩︎

  16. 連邦労働法365条の2。ただし、閲覧のためには登録番号等の所定の情報が必要である。https://centrolaboral.gob.mx/#transparencia ↩︎

  17. Clave Única de Registro de Poblaciónという個人を特定可能な番号で、CURPと呼ばれる。 ↩︎

  18. 連邦労働法365条2号 ↩︎

  19. 連邦労働法371条 ↩︎

  20. 連邦労働法356条 ↩︎

  21. 連邦労働法366条 ↩︎

  22. 連邦労働法366条 ↩︎

  23. 連邦労働法374条 ↩︎

  24. 連邦労働法375条 ↩︎

  25. 連邦労働法376条 ↩︎

  26. 連邦労働法387条 ↩︎

  27. 連邦労働法386条 ↩︎

  28. 連邦労働法391条 ↩︎

  29. 連邦労働法390条 ↩︎

  30. 連邦労働法390条 ↩︎

  31. 連邦労働法390条の2 ↩︎

  32. 労働協約は連邦のものと地域のものに区別され、かかる区別は産業に応じてなされる。産業は締結当事者である使用者の事業目的により定まるのであり、事業目的は定款に記載される。したがって、通常は定款が提出される。 ↩︎

  33. 連邦労働法390条の2 ↩︎

  34. 連邦労働法391条の2。条文上、労働協約の全文がオンラインで無料公開されることが望ましいとされている。 ↩︎

  35. 連邦労働法391条 ↩︎

  36. 連邦労働法396条および184条 ↩︎

  37. 連邦労働法396条および184条 ↩︎

  38. 労働社会保障省(Secretaría del Trabajo y Previsión Social)による2019年7月31日付官報公告(https://www.dof.gob.mx/index_111.php?year=2019&month=07&day=31より閲覧可能) ↩︎

  39. 連邦労働法330条AないしK ↩︎

  40. 連邦労働法391条10号。なお、労働協約が存在しない場合には就業規則類似の書面(Reglamento Interior de Trabajo)に定められる必要がある。 ↩︎

  41. 連邦労働法330条C ↩︎

  42. 連邦労働法387条 ↩︎

  43. ただし、日本の労働組合法7条2号より、原則として「交渉」には応じる義務がある。 ↩︎

  44. 日本の労働組合法17条。地域的な一般的拘束力については日本の労働組合法18条参照。 ↩︎

  45. 日本の労働組合法14条。ただし、組合規約において労働協約の締結のための代表権を付与する手続として労働者の承認が必要とされている場合がありうる(菅野和夫『法律学講座双書 労働法〔第12版〕』弘文堂、2019年)924および925頁参照) ↩︎

  46. 日本の労働組合法14条 ↩︎

  47. 連邦労働法397条および400条。ただし、連邦労働法399条の2および400条の2により、賃金等に関する定めについては毎年、その他の定めについても2年ごとに見直しをすることが要求されている。 ↩︎

  48. 日本の労働組合法15条1項および2項 ↩︎

  49. 連邦労働法132条10号および204条6号 ↩︎

  50. 連邦労働法132条11号 ↩︎

  51. 連邦労働法132条21号 ↩︎

  52. 連邦労働法357条 ↩︎

  53. UMAはUnidad de Medida y Actualizaciónという、法令上支払われるべき金額を算出するための経済単位である。2021年現在、UMAはhttps://www.inegi.org.mx/temas/uma/にて確認可能である(1UMA=89.62メキシコペソ)。日本円換算額は1メキシコペソ=5.5円で計算した。 ↩︎

  54. 連邦労働法357条および994条6号 ↩︎

  55. 連邦労働法133条17号 ↩︎

  56. 連邦労働法133条4号 ↩︎

  57. 連邦労働法133条5号 ↩︎

  58. 連邦労働法390条の3の2号のc)およびd) ↩︎

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