バイオマス発電燃料の廃棄物該当性判断(令和3年環境省判断事例集を踏まえて)
資源・エネルギーカーボンニュートラル(脱炭素化)への取組みの一環として、バイオマス発電・廃棄物発電事業への参画を検討しています。当社は廃棄物処理業のライセンスがないため、発電のためのバイオマス原料が廃棄物として扱われてしまうと、再生処理(チップ化・ペレット化を含む)を廃棄物処理業者に委託しなければならないのでしょうか。バイオマス原料が廃棄物にあたるかどうかはどのように判断されるのでしょうか。
廃棄物かどうかの判断については、行政通達・裁判例による判断基準が公表されています。もっとも、その基準に照らして実際に廃棄物にあたるかどうかの判断を行うことは容易ではありません。そのため、環境省が公表している「令和3年度バイオマス発電燃料等に関する廃棄物該当性の判断事例集(令和4年3月)」も参考にしつつ、最新のガイドライン・通知や規制動向・裁判例も踏まえて慎重に検討したうえで、必要に応じて適切に弁護士その他の専門家の意見を踏まえて対応することが必要となります。
解説
目次
バイオマスとは?
カーボンニュートラル(脱炭素化)との関係でもバイオマス発電が話題を集めています。
バイオマスとは、再生可能な生物由来の有機性資源のうち化石資源を除いたものをいうとされています。バイオマスを燃焼させた際に放出される二酸化炭素は、化石資源を燃焼させて出る二酸化炭素と異なり、生物の成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素であり新たに二酸化炭素を増加させないなどとして、カーボンニュートラルな資源であると説明されています 1。
なお、廃棄物系のバイオマス資源などとは異なり、たとえば、新たに森林減少・劣化を伴うバイオマス資源はカーボンニュートラルとはいえないとの指摘もなされているところです。
バイオマスは、その賦存状態により、(1)廃棄物系バイオマス、(2)未利用バイオマス、(3)資源作物に分類されます。
分類 | 例 |
---|---|
① 廃棄物系バイオマス | 家畜排せつ物、食品廃棄物、廃棄紙、黒液(パルプ工場廃液)、下水汚泥、し尿汚泥、建設発生木材、製材工場等残材 |
② 未利用バイオマス | 稲わら、麦わら、もみがら、林地残材 |
③ 資源作物 | 糖質資源(さとうきび等)、でんぷん資源(とうもろこし等)、油脂資源(なたね等)、柳、ポプラ、スイッチグラス |
バイオマス発電事業に関する関連法令
カーボンニュートラル社会の実現を目的として、再生可能エネルギーの主力電源化・導入の障壁となる規制等を見直すべく、2020年12月から、「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」が設置されています 2。
バイオマス発電事業を行ううえで押さえておくべき関連法令は、以下のとおりであり、極めて多岐に及びます 3。
なお、その概要については別途解説することとして、本稿では割愛します。
1. 環境基本法 2. 循環型社会形成推進基本法 3. 環境影響評価法 4. 廃棄物の処理及び清掃に関する法律 5. 家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律 6. 食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律7. 容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律 8. 電気事業法9. 電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法 10. ガス事業法11. 熱供給事業法 12. 高圧ガス保安法 13. 電波法 14. エネルギーの使用の合理化に関する法律 15. 大気汚染防止法 16. 騒音規制法 17. 振動規制法 18. 特定工場における公害防止組織の整備に関する法律 19. 公害防止組織設備に関する法律20. 海岸法 21. 河川法 22. 港湾法 23. 砂防法 |
24. 森林法 25. 地すべり等防止法 26. 都市計画法 27. 建築基準法 28. 国土利用計画法 29. 工場立地法 30. 農地法 31. 農業振興地域の整備に関する法律 32. 自然環境保全法 33. 道路法 34. 道路交通法 35. 電波法 36. 文化財保護法 37. 労働安全衛生法 38. 消防法 39. 熱供給事業法 40. 水質汚濁防止法 41. 下水道法 42. 悪臭防止法 43. 肥料取締法 44. 揮発油税法及び地方揮発油税法 45. 地方税法(軽油引取税) 46. 改正揮発油等の品質の確保等に関する法律 47. 飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律 48. 持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律 49. ダイオキシン類対策特別措置法 |
本稿においては、実務上大きな問題となっているバイオマス資源が廃棄物の処理および清掃に関する法律(以下「廃掃法」といいます)における「廃棄物」にあたるか否かという問題について、近時環境省から判断事例集も公表されていることから、この点に絞って解説します。
廃棄物の判断基準
バイオマス資源は、「廃棄物」に該当する場合があり、その場合は廃掃法の適用を受けることになります。
「廃棄物」とは、「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの」をいいます(廃掃法2条1項)。
バイオマス資源が産業廃棄物と判断される場合には、政令で定める基準に従い、産業廃棄物収集運搬業者・処分業者等に委託するなどして適切にその運搬・処分を行う必要があります(廃掃法12条5項、6項)。
これに対して、排出事業者自らが産業廃棄物を処理する場合には、廃掃法上の許可は不要となります(廃掃法14条6項)。
なお、産業廃棄物の「再生」(廃棄物から原材料等の有用物を得ること、または処理して有用物にすること)も最終処分の一態様として、再生されるまでの間は、上記と同様の規制を受けることになります。
行政通達
廃棄物と判断されるのか否かについては、昭和52年の厚生省通知 4 において、「廃棄物とは、占有者が自ら利用し、又は他人に有償で売却することができないために不要になった物をいい、これらに該当するか否かは、占有者の意思、その性状等を総合的に勘案すべきもの」であることが明確にされました(最高裁平成11年3月10日判決も同旨)。
このような考え方を総合判断説といいます。環境省の平成17年通知 5・平成25年通知 6 においては、総合判断の内容について、詳細に規定されています 7。
以下は各種判断要素の一般的な基準を示したものであり、物の種類、事案の形態等によってこれらの基準が必ずしもそのまま適用できない場合は、適用可能な基準のみを抽出して用いたり、当該物の種類、事案の形態等に即した他の判断要素をも勘案するなどして、適切に判断されたい
ア. 物の性状
利用用途に要求される品質を満足し、かつ飛散、流出、悪臭の発生等の生活環境の保全上の支障が発生するおそれのないものであること
イ. 排出の状況
排出が需要に沿った計画的なものであり、排出前や排出時に適切な保管や品質管理がなされていること
ウ. 通常の取扱い形態
製品としての市場が形成されており、廃棄物として処理されている事例が通常は認められないこと
エ. 取引価値の有無
占有者と取引の相手方の間で有償譲渡がなされており、なおかつ客観的に見て当該取引に経済的合理性があること
実際の判断に当たっては、名目を問わず処理料金に相当する金品の受領がないこと、当該譲渡価格が競合する製品や運送費等の諸経費を勘案しても双方にとって営利活動として合理的な額であること、当該有償譲渡の相手方以外の者に対する有償譲渡の実績があること等の確認が必要であること
オ. 占有者の意思
客観的要素から社会通念上合理的に認定し得る占有者の意思として、適切に利用し若しくは他人に有償譲渡する意思が認められること、又は放置若しくは処分の意思が認められないこと
なお、占有者と取引の相手方の間における有償譲渡の実績や有償譲渡契約の有無は、廃棄物に該当するか否かを判断する上での一つの簡便な基準に過ぎない
逆有償の問題
実務上特に問題となるのは、上記ウ(通常の取扱い形態)や上記エ(取引価値の有無)の点です。
廃棄物(不要物)といえるのかどうかの判断基準に関し、対象物(産業廃棄物であるかどうかが問題となっている物)を第三者に有償で売却していても、当該第三者の支払う輸送料や引取料の方が高額な場合は、廃棄物(不要物)とみるとする「逆有償」という考え方があります。逆有償の考え方は、行政実務においても採用されています 8。
実務上は、当該取引が逆有償の取引となっていることを理由に、取引対象資源が廃棄物であると判断されるケースも多くなっていますので、注意が必要です。
「令和3年度バイオマス発電燃料等に関する廃棄物該当性の判断事例集」(令和4年3月)の概要
第12回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(令和3年7月2日開催)を受けて、令和4年3月に、環境省は、平成24年度に策定した「バイオマス発電燃料等に関する廃棄物該当性の判断事例集」を更新しました。
その判断結果(有価物か廃棄物か)の概要は以下のとおりです。
以下、検討対象ごとの結果とポイントについてその一部を説明いたします(事例集の内容を整理して記載した内容となります)。
木くず
木くずについて廃棄物と判断された大きなポイントとしては、
・「物の性状」(上記 ア)
・「通常の取扱い形態」(上記 ウ)
・「取引価値の有無」(上記 エ)
があげられています(特に(エ)「取引価値の有無」を重視)。
(エ)「取引価値の有無」の判断では、逆有償となっていること、処理料金が徴収されていることがその要素としてあげられています。
他方で、木くずについて有価物と判断された大きなポイントも、上記と同様です。
(ウ)「通常の取扱い形態」の判断で、木材や木質チップは有価物として市場が形成されていることを踏まえ、(ア)「物の性状」の判断に関してチップ化が可能なもののみが扱われていること、一定の基準に適合するよう品質管理がなされていることに注目し、また(エ)「取引価値の有無」の判断で、有償譲渡がなされていること等が確認できた場合には有価物と判断される傾向にあると指摘されています 9。
動植物性残さ
動植物性残さについて廃棄物と判断された大きなポイントは、
・「物の性状」(上記 ア)
・「通常の取扱い形態」(上記 ウ)
・「取引価値の有無」(上記 エ)
があげられています(特に(ウ)「通常の取扱い形態」、(エ)「取引価値の有無」を重視)。
(ウ)「通常の取扱い形態」の判断では、通常は廃棄物として扱われていること、
(エ)「取引価値の有無」の判断では、逆有償となっていること、処理料金が徴収されていることがその要素として挙げられています。
他方で、動植物性残さについて有価物と判断された大きなポイントも、上記と同様です(特に(ア)「物の性状」を重視)。
(ウ)「通常の取扱い形態」の判断で通常は廃棄物として扱われているとしても、
(エ)「取引価値の有無」の判断で、処理料金が徴収されていないこと、逆有償となっていないこと等が確認できた場合で、かつ、(ア)「物の性状」の判断で、生活環境保全上の支障がないものであること、品質管理がなされていること等が確認できた場合には、有価物と判断される傾向にあると指摘されています。
廃棄物の処理について行政に相談する場合の留意点
以上の判断基準・判断傾向を前提としても、廃棄物の処理に関して、法律の規制対象となるかどうか、またどのように処理すべきかについては判断が難しいことが多いです。
特に実務上注意すべきなのは、産業廃棄物にあたるかどうかは、都道府県や政令市の個別判断に委ねられている面があり、ある自治体や官庁から問題ない旨の見解が提示されたにもかかわらず、他の自治体や官庁から当該見解に従った処理が違法であると判断され、処分までなされるケースもあるということです 10。
他方、実務においては、明確に有価物と考えられないものについては廃棄物とされてしまう運用とされていることや、各自治体が個別の案件を廃掃法の規制の網から漏らさないよう該否の判断を保守的に判断してしまう傾向とが相まって、上記各要素のうち1つでも廃棄物に近い要素があれば廃棄物にあたるというように不必要に拡大してしまっているとの指摘もなされています 11。
そのため、最新のガイドライン・通知や規制動向・裁判例も踏まえて慎重に検討したうえで、あまりに積極的になりすぎないようにする一方であまりに消極的にもなりすぎないように、必要に応じて適切に弁護士その他の専門家の意見を踏まえて対応することが必要となります。
不適切な廃棄物処理・処理委託を行った場合の法的リスク
廃掃法に従った適切な処理を行わなかった場合には、行政処分を受けるほか刑事責任を問われる可能性があります。
廃掃法に違反して廃棄物を不法投棄した者は、5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金か、これらの両方が科されます(廃掃法25条1項14号)。企業の場合には、3億円以下の罰金が科されます(廃掃法32条1項1号)。
その他、取締役その他の役員は、これによって当該企業が被った損害について賠償する責任を負うこともあります。
実際にも、廃棄物のリサイクル製品(埋戻し材)について成分を偽装して認定を受けたうえで販売・不法投棄したケースで、株主代表訴訟が提起された例があります。第1審は、元役員ら3名の責任を認め、そのうち1名に対しては請求額のほぼ全額である485億8400万円の支払いを命じました(大阪地裁平成24年6月29日判決)。なお、同事案では、同社および役員の刑事責任も問われています 12。
-
多岐にわたる環境関連法令については、猿倉健司「環境リスクと企業のサステナビリティ(SDGs・ESG)」(牛島総合法律事務所 特集記事、2022年3月29日)も参照してください。
また、多岐にわたる環境関連条例とその把握が容易ではないことについては、「条例改正対応におけるリスクや留意点と、条例管理をサポートする『条例アラート』」(BUSINESS LAWYERS、2022年7月14日)も参照してください。 ↩︎ -
「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部改正について」(昭和52年3月26日環計第37号厚生省環境衛生局水道環境部計画課長通知) ↩︎
-
環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長「建設汚泥処理物の廃棄物該当性の判断指針について」(環廃産発第050725002号、平成17年7月25日) ↩︎
-
環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長通知「行政処分の指針について(通知)」(環廃産発第1303299号、平成25年3月29日) ↩︎
-
猿倉健司「不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務」392頁以下(清文社・2021年7月)、猿倉健司「廃棄物のリサイクルを目的とする処理(廃棄物処理)の実務的な留意点」(牛島総合法律事務所ニューズレター・2022年6月5日)、猿倉健司「産業廃棄物の不法投棄事案から考える、不正の早期発見と調査のポイント」(BUSINESS LAWYERS【連載】近時の不祥事ケースと危機管理・リスク予防 第1回) ↩︎
-
詳細については、猿倉健司「廃棄物のリサイクルを目的とする処理(廃棄物処理)の実務的な留意点」(牛島総合法律事務所ニューズレター・2022年6月5日)を参照してください。 ↩︎
-
なお、上記に関して、建設廃棄物が廃掃法上の廃棄物にあたるかの判断や建設廃棄物を自ら利用する場合の留意点については、猿倉健司「建設廃棄物処理およびリサイクルの法規制と実務上の留意点(前編)」(BUSINESS LAWYERS・2020年11月2日)を参照してください。 ↩︎
-
猿倉健司「環境有害物質・廃棄物の処理について自治体・官庁等に対する照会の注意点」(BUSINESS LAWYERS・2022年5月22日)、猿倉健司「不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務」399頁(清文社・2021年7月) ↩︎
-
再生可能エネルギー規制総点検タスクフォース「バイオマス発電等の再生可能エネルギーの拡大に向けた廃棄物・リサイクル関連法制の在り方(意見)」(2021年7月2日) ↩︎
-
猿倉健司「不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務」478頁(清文社・2021年7月)、猿倉健司「産業廃棄物の不法投棄事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント」(BUSINESS LAWYERS【連載】近時の不祥事ケースと危機管理・リスク予防 第2回) ↩︎

牛島総合法律事務所
- コーポレート・M&A
- IT・情報セキュリティ
- 知的財産権・エンタメ
- 危機管理・内部統制
- 訴訟・争訟
- 不動産