東京都条例その他の脱炭素・温暖化対策条例における排出量削減義務と報告制度

資源・エネルギー

 当社は、全国各地に事業所・工場がありますが、東京都では、条例により、法令で定められているのとは異なる脱炭素・温室効果ガス削減のための特別な義務が定められていると聞きました。どのような内容でしょうか。

 東京都の都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(環境確保条例)では、東京都内に事業所等を有し一定の要件を満たす事業者には、事業所ごとに温室効果ガスの排出量を削減する義務が課される場合があるほか、排出量等の定期報告を行う義務があります。それぞれの義務が生じる要件は、エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)や地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)とも異なるなど複雑であり、またこれらの義務に違反すると罰則が課される場合もあるため注意が必要です。

解説

目次

  1. 「2050年カーボンニュートラル」実現を目指す自治体の取組み
  2. 東京都環境確保条例(温室効果ガス排出総量削減義務・排出量取引制度)
    1. 環境確保条例の対象となる温室効果ガス
    2. 各義務を負う対象事業所・義務の内容
    3. 東京都環境確保条例におけるその他の制度
    4. (参考)2022年省エネ法改正(令和5年4月1日施行)

「2050年カーボンニュートラル」実現を目指す自治体の取組み

 2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする「2050年カーボンニュートラル」の基本理念のもと、かかる目標の実現に向けた取組みを表明した自治体は約700を超え(2022年5月31日時点)、またESG投資・ファイナンスの進展に伴い脱炭素経営に取り組む企業も増加していることが指摘されています。
 近時、温室効果ガスの排出削減を目指した条例の制定がブームとなっており、地球温暖化対策の推進を目的とする条例は約1,000以上も存在するとされますが 1、条例では法令とは異なる排出削減義務が定められているほか報告義務の内容も異なるなど、実務的に留意が必要となります。
 以下、東京都の都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(以下「東京都環境確保条例」といいます)における規制を例に、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(以下「省エネ法」といいます)および「地球温暖化対策の推進に関する法律」(以下「温対法」といいます)の制度と比較しつつ、そのポイントを説明します。

東京都環境確保条例(温室効果ガス排出総量削減義務・排出量取引制度)

環境確保条例の対象となる温室効果ガス

 東京都環境確保条例の改正により、2020年4月から、大規模事業所(オフィス・工場等)への温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度の運用が開始されています。対象となる温室効果ガスは、以下のとおりです。

対象となるガス等 定期報告 削減義務
a. 特定温室効果ガス エネルギー起源CO2 報告の対象 削減義務あり
b. その他ガス

※ 右の2項目のほか、水の使用、下水への排水も報告対象

非エネルギー起源CO2 削減義務なし
CO2以外のガス(CH4,N2O,HFC,PFC,SF6,NF3)

各義務を負う対象事業所・義務の内容

 以下、東京都環境確保条例の対象事業所ごとにその義務の内容を説明します。

(1)指定地球温暖化対策事業所
(2)特定地球温暖化対策事業所
(3)指定相当地球温暖化対策事業所

 なお、省エネ法・温対法では、法規制の対象が事業者(会社)単位であるのに対し、都環境確保条例は規制対象が事業所単位であることから留意が必要です。

(1)指定地球温暖化対策事業所

 指定地球温暖化対策事業所とは、前年度の燃料、熱、電気の使用量が年間合計1,500kL以上(原油換算)となった事業所をいいます。

主な義務の内容

 指定地球温暖化対策事業所には、毎年、以下などを内容とする各書類の提出・届出が求められます。

a. 前年度のエネルギー使用量(原油換算)・特定温室効果ガス(エネルギー起源CO2)(上記 2-1表 a.)排出量の算定「特定温室効果ガス排出量算定報告書」

b. 前年度の「その他ガス」(上記 2-1表 b.)の排出量「その他ガス排出量算定報告書」

c. その他、特定温室効果ガス(エネルギー起源CO2)(上記 2-1表 a.)の削減目標と削減計画、実施状況等(「地球温暖化対策計画書」2


罰則等

 特定温室効果ガスの排出状況等の届出を行わなかった場合、または虚偽の届出を行った場合は、25万円以下の罰金が科せられます。また、地球温暖化対策計画書の提出を行わなかった場合、または虚偽の報告を行った場合は、50万円以下の罰金が科せられます(両罰規定あり)。

省エネ法との相違点

 これに対して、省エネ法では、特定事業者等 3 に対し、毎年度の事業者全体およびエネルギー管理指定工場等 4 のエネルギー使用量等 5 について、事業者の主たる事務所の所在地を管轄する経済産業局および当該事業者が設置しているすべての工場等に係る事業の所管省庁に、定期報告書を提出することを義務づけています 6。条例とは別途の対応が必要となることから注意が必要です。
 定期報告書には、エネルギー使用量等とそれらの推移、エネルギーを消費する設備の状況等を記載します。
 定期報告を行わず、または虚偽の報告をした場合は、50万円以下の罰金が科せられます(両罰規定あり)。

温対法との相違点

 これに対して、温対法は、特定事業所排出者 7 に対し、原則として、温室効果ガス排出量についての報告を義務づけています 8。条例とは別途の対応が必要となることから注意が必要です。
 報告を行わなかった場合または虚偽の報告を行った場合は、温対法により20万円以下の過料が課せられます。

(2)特定地球温暖化対策事業所

 特定地球温暖化対策事業所とは、3か年度(年度の途中から使用開始された年度を除く)連続して、燃料、熱、電気の使用量が年間合計1,500kL以上(原油換算)となった事業所をいいます。

主な義務の内容

a. 特定地球温暖化対策事業所は、上記「(1)指定地球温暖化対策事業所」の義務となる事項に加えて、

b. 基準排出量の申請(特定地球温暖化対策事業所となった年度のみ必要)を行ったうえで、

c. 特定温室効果ガス排出量の削減義務が課されます。

 ここでは、自らの事業所における削減のみならず、削減義務量不足分の取引による調達(再生可能エネルギーの活用、他の事業所の削減量の調達等)も可能とされています。
 東京都においては、以下のとおり特定温室効果ガス排出量を削減するものとされています 9

  • 第1計画期間(2010-2014年度):8%または6%
  • 第2計画期間(2015-2019年度):17%または15%
  • 第3計画期間(2020-2024年度):27%または25%

省エネ法との相違点

 省エネ法では、消費エネルギーの低減目標の達成を努力義務と規定しているのに対し、東京都環境確保条例では、低減目標の達成のための削減を義務として規定していることから注意が必要です。
 省エネ法上の特定事業者等は、毎年度、判断基準 10 に基づくエネルギー使用合理化(削減)の目標達成のための中長期(3~5年)的な計画(中長期計画書)を作成し、事業者の主たる事務所(本社)所在地を管轄する経済産業局および当該事業者が設置しているすべての工場等に係る事業の所管省庁に提出する必要があります。

(3)指定相当地球温暖化対策事業所

 指定相当地球温暖化対策事業所とは、前年度の燃料、熱、電気の使用量が年間合計1,500kL以上(原油換算)となった事業所で、中小企業等がその所有権・所有持分の1/2以上を保有している事業所をいいます。

主な義務の内容

 指定相当地球温暖化対策事業所は、総量削減義務の対象ではありませんが、地球温暖化対策を推進する組織体制の整備および温室効果ガスの排出量の把握に努め、指定地球温暖化対策事業所に準じた対策(地球温暖化対策計画書の提出・公表)をとるものとされています。

東京都環境確保条例におけるその他の制度

 東京都環境確保条例では、大規模事業所からの温室効果ガス排出量の削減のほかに、中小規模事業所からの温室効果ガス排出量の削減、地域におけるエネルギーの有効利用、建築物に係る環境配慮の措置等も規定されています。
 また、都内において30台以上の自動車を使用する事業者に対して、2022年(令和4年)~2026年(令和8年)度の自動車環境管理計画書 11 の提出、および、毎年度の実績報告書 12 の提出を義務付けています(科料の罰則あり、両罰規定あり)。

(参考)2022年省エネ法改正(令和5年4月1日施行)

  • 改正省エネ法では、これまでの「工場等、輸送、建築物及び機械器具等についてのエネルギーの使用の合理化」に加えて、「非化石エネルギーへの転換」を進めるための措置を講じることとされ、エネルギーの使用の合理化の対象に、非化石エネルギー(水素・アンモニア等)も含まれることになる。
  • また、特定事業者等に対して、非化石エネルギーへの転換の目標を達成するための中長期計画(非化石エネルギーの利用割合の向上、製造プロセスの電化・水素化等、購入エネルギーの非化石化等の計画)、および、非化石エネルギーの使用状況等の定期報告書等の提出が新たに求められることとなる。

 なお、本稿に関連し、牛島総合法律事務所特集記事・猿倉健司「環境リスクと企業のサステナビリティ(SDGs・ESG)」もご参照ください。


  1. 環境省プロジェクト・株式会社野村総合研究所「地方公共団体における地球温暖化対策の推進に関する法律施行状況調査 調査結果報告書」(令和4年3月)」21頁) ↩︎

  2. なお、多くの都道府県では、条例で温室効果ガスの排出が多い事業者に対して地球温暖化対策計画書等の作成と知事への届出を義務づけており、また、札幌市、さいたま市、横浜市、名古屋市などにおいても、同様の義務が規定されています。その他、東京都港区、千葉県柏市、埼玉県川越市および戸田市、石川県白山市の条例では、一定の事業者に対し、温室効果ガス削減計画、環境配慮計画、低炭素化計画書等の作成・届出を義務づけています(一般社団法人地方自治研究機構「脱炭素社会を目指す条例と地球温暖化対策条例」(令和4年5月23日更新)。 ↩︎

  3. 事業者全体のエネルギー使用量(原油換算)が合計1,500kL /年度以上である場合は、そのエネルギー使用量等を記載したエネルギー使用状況届出書を提出して、特定事業者の指定を受ける必要があります。また、フランチャイズチェーン事業等の加盟店を含む事業全体のエネルギー使用量(原油換算値)が合計して1,500kL/年度以上の場合には、その使用量をフランチャイズ本部が届け出て、特定連鎖化事業者の指定を受ける必要があります。なお、省エネ法が規制する事業分野(エネルギー事業者への直接規制)は、工場・事業場および運輸分野です。 ↩︎

  4. 個別の工場や事業場等の単位でエネルギー使用量(原油換算)が1,500kL/年度以上である場合は、上記とは別途、各々がエネルギー管理指定工場等の指定を受ける必要があります。 ↩︎

  5. 省エネ法にいうエネルギーとは、以下をいうものとされます。
    【化石燃料】
    • 原油および揮発油(ガソリン)、重油、その他石油製品(ナフサ、灯油、軽油、石油アスファルト、石油コークス、石油ガス)
    • 可燃性天然ガス
    • 石炭およびコークス、その他石炭製品(コールタール、コークス炉ガス、高炉ガス、転炉ガス)であって、燃焼その他の用途(燃料電池による発電)に供するもの
    【熱】
    • 上記に示す化石燃料を熱源とする熱(蒸気、温水、冷水等)(※太陽熱および地熱など、上記の燃料を熱源としない熱は、対象となりません)
    【電気】
    • 上記に示す化石燃料を起源とする電気(※太陽光発電、風力発電、廃棄物発電など、上記燃料を起源としない電気は、対象とはなりません) ↩︎

  6. フランチャイズチェーン(連鎖化事業者)についても、加盟している全事業所における事業活動をフランチャイズチェーンの事業活動とみなして報告を行います。 ↩︎

  7. 特定事業所排出者の概要は以下のとおりです。
    a. エネルギー起源CO₂(上記2-1表a.)について
    すべての事業所のエネルギー使用量合計が1,500kL/年以上となる特定事業所排出者
    • 省エネ法に規定する特定事業者、特定連鎖化事業者
    • 上記以外ですべての事業所のエネルギー使用量合計が1,500kL/年以上の事業者
    その他、特定輸送排出者等も対象となります。
    b. 上記以外の温室効果ガス(上記2-1表b.)について
    次のアおよびイの要件を満たす事業者(特定事業所排出者)
    ア. 温室効果ガスの種類ごとにすべての事業所の排出量合計が3,000t(CO2換算)以上
    イ. 事業者全体で常時使用する従業員の数が21人以上
    なお、温室効果ガスの排出量の算定の対象となる事業活動(例)は、燃料の使用、代替フロン等4ガスの製造および一定の場合における使用、他者から供給された電気・熱の使用、原油・天然ガスの試掘・生産、石炭の採掘、工場廃水の処理、廃棄物の埋立処分、廃棄物の焼却もしくは製品の製造の用途への使用・廃棄物燃料の使用、燃料を燃焼の用に供する施設・機器における燃料の使用、ドライアイスの使用、カーボンブラック等化学製品の製造等です。 ↩︎

  8. フランチャイズチェーン(連鎖化事業者)についても、加盟している全事業所における事業活動をフランチャイズチェーンの事業活動とみなして報告を行います。温室効果ガスの種類ごとに排出量が3,000t(CO2換算)/年以上となる事業所が含まれる場合は、当該事業所の排出量も併せて報告する必要があります。 ↩︎

  9. なお、京都府地球温暖化対策条例および京都市地球温暖化対策条例では、温室効果ガスの排出量を令和12年度までに平成25年度比で40%以上削減すること、柏市地球温暖化対策条例では、温室効果ガスの排出量を令和12年度までに平成25年度比で24%以上削減することを目標として掲げています(一般社団法人地方自治研究機構「脱炭素社会を目指す条例と地球温暖化対策条例」(令和4年5月23日更新))。 ↩︎

  10. 工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準(平成21年3月31日経済産業省告示第66号)。 ↩︎

  11. 自動車から発生する温室効果ガスおよび排出ガスの排出量の削減目標等、自動車使用の合理化の取組に関する計画事項、その他自主的な取組に関する計画事項等を記載します。 ↩︎

  12. 自動車環境管理計画書に記載された事項に係る前年度の実績を記載した報告書であり、自動車使用台数、自動車から発生する温室効果ガスおよび排出ガスの排出量、自動車使用の合理化の取組に関する報告事項、その他自主的な取組に関する報告事項等を記載します。 ↩︎

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