環境有害物質・廃棄物の処理について自治体・官庁等に対する照会の注意点
危機管理・内部統制廃棄物(環境有害物質)の処理に関して、法律の規制対象となるかどうか、またどのように処理すべきか、その他どのような規制があるのかについて、自治体や官庁等に相談することを考えています。どのような点に注意すればよいのでしょうか。
廃棄物(土壌汚染などの環境有害物質)の処理に関して、法律の規制対象となるかどうか、またどのように処理すべきかについては判断が難しいことが多いです。自治体等から何らかの回答がなされた場合であっても、必ずしもお墨付きがもらえたとはいえない場合もあります。そのため、最新のガイドライン・通知や規制動向・裁判例も踏まえて慎重に検討したうえで、必要に応じて適切に弁護士その他の専門家の意見を踏まえて対応することが必要となります。
解説
目次
はじめに
近時、様々な企業・団体における不祥事が大きく報道されています。特に、環境有害物質(アスベスト、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、ダイオキシン類、その他の土壌汚染を含む)の不適切な処理や産業廃棄物の不法投棄がなされるケースなどが報じられています。
不祥事の内容のみならず、不祥事発覚後の対応にも大きな非難が集まり、その結果、当該企業等の信用が失墜することで、補償金や賠償金等の経済的損失にとどまらず、顧客の流出をはじめ企業の存続に対して極めて甚大なダメージを受ける例も数多く見られます。
また、監督官庁から業務停止処分、課徴金等の行政処分を受け、さらには証券取引所において上場廃止となる場合もあるなど、円滑な事業運営が困難になることも少なくありません。
他方で、企業だけではなく、当該企業の取締役等の役員についても、刑事責任を問われるケースや、株主代表訴訟等によって極めて多額の賠償責任を負うケースも見受けられます。
本稿においては、環境有害物質や産業廃棄物の処理について、自治体等に相談する場合の留意点について説明します。
実務上問題となる法令
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)
(1)廃棄物とは
「廃棄物」とは、「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの」をいいます(廃棄物処理法2条1項)。
事業活動に伴って生じた「廃棄物」のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物等を、「産業廃棄物」といいます(廃棄物処理法2条4項)。
(2)廃棄物の処理
事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならないとされ(廃棄物処理法3条)、廃棄物の不法投棄は禁じられています(廃棄物処理法16条)。
自らその産業廃棄物の運搬または処分を行う場合には、政令で定める産業廃棄物の収集、運搬および処分に関する基準に従わなければならないとされています(廃棄物処理法12条1項)。他方、その産業廃棄物の運搬または処分を他人に委託する場合には、政令で定める基準に従い、産業廃棄物収集運搬業者、産業廃棄物処分業者その他環境省令で定める者にそれぞれ委託しなければならないとされています(廃棄物処理法12条5項、6項)。
(3)罰則
廃棄物処理法に違反して廃棄物を不法投棄した者は、5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金か、これらの両方が科されます(廃棄物処理法25条1項14号)。
企業の場合には、3億円以下の罰金が科されます(廃棄物処理法32条1項1号)。
廃棄物に関するその他の規制
(1)アスベスト廃棄物
アスベストの規制は複数の法律によって規律されています。
具体的には、アスベストを取り扱う労働者の健康確保を目的とする労働安全衛生法等の規制が存在しており、一般環境への汚染防止を目的とする大気汚染防止法のほか、建築基準法や廃棄物処理法等により建築物の建築、解体・改修の際におけるアスベストの厳格な管理が求められています。
この点については、井上治・猿倉健司『所有地から発見された石綿(アスベスト)に関する法令上の規制』を参照してください。
(2)PCB汚染廃棄物
また、所有地にPCB廃棄物が存在する場合、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法、廃棄物処理法、土壌汚染対策法、水質汚濁防止法、ダイオキシン類対策特別措置法、また、同土地が所在する都道府県や市町村の条例の規制を受ける場合があります。
この点については、井上治・猿倉健司『所有地にPCB(ポリ塩化ビフェニル)廃棄物がある場合にとるべき対応』を参照してください。
廃棄物の処理における実務上の問題点
上記のとおり「廃棄物」とは、「ごみ・・・その他の汚物又は不要物」とされています(廃棄物処理法2条1項)。
実務上は、たとえば、自社の工場から排出される汚染廃棄物をリサイクル製品・再生製品(たとえば、再生砂・改良土)として取り扱おうと考えた場合に、当該製品が「不要物」(廃棄物処理法2条1項)にあたるかどうか(廃棄物として扱う必要があるかどうか)が問題となり争われるケースがあります。
「廃棄物(不要物)」にあたるか否かの基準については、以下のように説明されています。
「廃棄物(不要物)」にあたるか否かの基準
「不要物」とは、自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい、これに該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取り扱い形態、取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決する
廃棄物とは、占有者が自ら利用し、又は他人に有償で譲渡することができないために不要となったものをいい、これらに該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態(製品としての市場が形成されているか等)、取引価値の有無(有償譲渡がなされており、なおかつ客観的に見て当該取引に経済的合理性があるか否か)及び占有者の意思等を総合的に勘案して判断すべきもの
本来廃棄物たる物を有価物と称し、法の規制を免れようとする事案が後を絶たないが、このような事案に適切に対処するため、廃棄物の疑いのあるものについては以下のような各種判断要素の基準(注:物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無、占有者の意思等)に基づいて慎重に検討し、それらを総合的に勘案してその物が有価物と認められるか否かを判断し、有価物と認められない限りは廃棄物として扱う
※一部筆者が加筆
産業廃棄物の不法投棄に関して廃棄物性が問題となったケース
廃棄物として扱う必要があるかどうかの上記の点に関し、対象物(産業廃棄物であるかどうかが問題となっている物)を第三者に有償で売却していても、当該第三者の支払う輸送料や引取料の方が高額な場合は、廃棄物とみるとする「逆有償」という考え方があります。
この考え方は、たとえば、リサイクル製品・再生製品(例:再生砂・改良土)を10万円で販売していたとしても、その輸送料や引取料が20万円だった場合、当該製品の販売者は購入者に対してその差額の10万円で当該製品を引き取ってもらっている(不要なものとして処理してもらっている)のと変わりないという発想に基づくものです。
実際の例でも、廃棄物のリサイクル製品(埋戻し材)について、成分を偽装して認定を受けたうえで販売・不法投棄したケースで、当該リサイクル製品を販売する一方で、その金額を遙かに上回る金額の「運搬費、用途開発費、改質加工費」を販売先の業者らに支払っていたことから、同製品が「廃棄物」である(逆有償)と判断された例があります。
以上の点については、『【連載】近時の不祥事ケースと危機管理・リスク予防:第1回 産業廃棄物の不法投棄事案から考える、不正の早期発見と調査のポイント』を参照してください。
「廃棄物(不要物)」にあたるか否かの判断、特に「逆有償」となる場合の判断については法的な解釈でもあることから、弁護士などの専門家(必要に応じて自治体)に確認する必要があります。
監督官庁に対する対応の留意点
廃棄物処理法が定める行政処分
環境有害物質や産業廃棄物の処理に問題がある場合、適切な手続きを経なかった場合には、所管官庁の大臣、都道府県知事、市町村長から、様々な行政処分がなされる可能性があります。また、監督官庁への報告が義務づけられる場合があることにも留意する必要があります。
行政処分の種類 | 概要 | 根拠条文 |
---|---|---|
報告命令 | 廃棄物の保管、収集、運搬、処分等について報告を求める | 廃棄物処理法18条 |
立入検査 | 施設等に立ち入り、帳簿書類等を検査させ、試験の用に供するのに必要な限度で廃棄物等を無償で収去させる | 廃棄物処理法19条 |
改善命令 | 廃棄物の保管、収集、運搬、処分の方法変更その他必要な措置を講ずることを命じる | 廃棄物処理法19条の3 |
措置命令 | 生活環境の保全上支障が生じるおそれがあると認められるときは、期限を定めて支障の除去または発生の防止のために必要な措置を講じることを命じ、自ら支障の除去等の措置を講じ、その費用を徴収する | 廃棄物処理法19条の4~19条の10 |
たとえば、廃棄物の不法投棄をしたケースでは、県や市により、本社および不正の現場となった工場への立入検査が実施された例があります。当該事例では、不正が行われた企業において自主的に廃棄物を回収する旨の決定を行いましたが、その後に、廃棄物処理法に基づき撤去を求める措置命令(廃棄物処理法19条の5第1項)がなされています。
監督官庁によって判断が分かれるケース
しかしながら、実務上留意すべき点は、産業廃棄物にあたるかどうかは、都道府県や政令市の個別判断に委ねられている面があり、ある自治体や官庁から問題ない旨の見解が提示されたにもかかわらず、他の自治体や官庁から当該見解に従った処理が違法であると判断され、処分までなされるケースもあるということです 1。
京都市内に本店を置く産廃処理会社が京都市長から許可を得た品目以外のがれき、木くずなどと土砂の混合物を汚泥とともに固化処理した再生製品を、滋賀県内の宅地造成地に使用していたところ、当該製品は産業廃棄物であるとして、同者社長が廃棄物処理法違反容疑で京都府警に逮捕された事案(なお、京都地方検察庁は不起訴とした)。
《京都市の見解の概要》
- 汚泥とともに処理したのは、適法に処理され洗浄された「再生砂」であり、産業廃棄物ではない
- 土砂に対する異物の重量比が5%以下にとどまるかどうかを目安にしており、同社を抜き打ち検査した際も異物の重量比は3%で、鉛や水銀など有害物質も基準値内だった
- リサイクルする際に異物を100%取り除くことは不可能。基準を厳しくしすぎると、産廃処理事業自体が滞る
- なお、環境省廃棄物規制課は「厳密な基準があるわけではないが、リサイクル製品の中に異物が1%でも含まれてはいけないのかと問われれば、必ずしもそこまで求めるものではない」としている
《京都府警の見解の概要》
- 造成に使われた土砂の中にがれきや木くずなどの異物が微量でも含まれていれば、産業廃棄物にあたる
このように、廃棄物(環境有害物質)の処理に関して、自治体や官庁等から何らかの見解が示された場合であっても、必ずしもお墨付きが与えられたとはいえない場合もあります。
また近時、環境法令をはじめとして関係法令やガイドライン、業界指針がめまぐるしく改定されていますが、適切なアップデートがなされないと、少し前までは問題がなかった(=適法であった)にもかかわらず、法令違反とされてしまうことがあります。
そのため、環境有害物質や産業廃棄物の処理の規制の対象となるのか、どのような規制がかかるのか等、法的な判断が難しいものについては、最新のガイドライン・通知や規制動向・裁判例も踏まえて慎重に検討のうえで、必要に応じて適切に弁護士その他の専門家の意見を踏まえて対応することが必要となります。
不適切な処理が行われた場合の関係者の責任
刑事責任
法や規則等に反する不適切な処理がなされたことが判明し、不正を行った従業員・役員に刑事責任があると認められる場合には、企業として刑事告訴・告発を検討することになります。刑事告訴・告発すべきか否かは、弁護士とも相談のうえで慎重に検討することが必要となります。
他方で、不正行為により被害を被った被害者や、その他官庁、地方公共団体から刑事告訴・告発がなされる場合もあります。
たとえば、上記の事例のほか、廃棄物を不法投棄したケースで、県による刑事告発(廃棄物処理法違反)がなされた例があります。その結果、企業に罰金5,000万円、担当取締役(不正行為者)について懲役2年の実刑の刑事罰が下されています。
民事責任(損害賠償請求)
法や規則等に反する不適切な処理により会社が損害を被った場合には、不正を行った従業員・役員に対して損害賠償請求を行うことを検討することになります。
役員については、役員自らが不正に直接関与していなかった場合であっても、以下の場合に責任が認められることがあります。
- 不正行為に関し、監視・監督を怠っていた場合(監視・監督義務違反)
- 内部統制システムの構築を怠っていた場合(内部統制システム構築義務違反またはその監視義務違反)
- 不正発覚後の損害拡大回避を怠った場合(損害拡大回避義務違反)
廃棄物の不法投棄に関する株主代表訴訟
廃棄物のリサイクル製品(埋戻し材)について成分を偽装して認定を受けたうえで販売・不法投棄したケースで、株主代表訴訟が提起された例があります。第1審は、元役員ら3名の責任を認め、そのうち1名に対しては請求額のほぼ全額である485億8,400万円の支払いを命じました(大阪地裁平成24年6月29日判決・裁判所ウェブサイト)。
なお、上記第1審判決に対して控訴がなされましたが、控訴審では、元役員らがコンプライアンスの不備に遺憾の意を表明し、和解金として合計約5,000万円余りを会社に支払う旨の和解が成立したとのことです。
以上の各点については、猿倉健司『不正・不祥事に責任のある役職員に対する責任追及と処分のポイント』、『不正・不祥事発生後における株主への対応のポイント(株主代表訴訟・株主総会等)』、『【連載】近時の不祥事ケースと危機管理・リスク予防:第2回 産業廃棄物の不法投棄事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント』を参照してください。
-
産経新聞「廃棄物不法投棄、容疑の男性役員を釈放 京都地検、処分保留」(2019年3月2日、2020年5月19日最終閲覧)、朝日新聞「土砂か産廃か、京都市・府警で割れた判断 地検は不起訴」(2019年3月19日、2020年5月19日最終閲覧) ↩︎

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