中国における環境規制の執行の厳格化の動向
資源・エネルギー中国の環境規制が厳しくなっていると聞きます。環境規制の厳格化に伴い、中国での事業運営に、具体的にどのようなリスクや影響がありますか。
中国の事業運営の現場では、工場の生産制限や停止、責任者の拘留等を含む企業・個人に対する行政処罰、さらには、罰金・懲役等の刑事処罰や、民事の損害賠償訴訟のリスクが現実化しています。また、それに伴い、環境規制への対応コストの負担も増加傾向にあります。
解説
環境規制違反による処罰
改正環境保護法(参考:「中国における環境規制の整備の動向」)の下での、環境規制違反に対する処罰としては、主に以下のものが存在します。
処罰のうち最も一般的なものは、行政処罰である制裁金の賦課ですが、行政処罰には生産制限・停止や営業停止・閉鎖や責任者の行政拘留等の重大なものも存在し、さらに、情状が重大な場合には、刑事処罰の対象となることもあります。
行政処罰
- 生産制限・停止および営業停止・閉鎖の処分
- 制裁金の賦課(日割制裁金含む)
- 責任者の行政拘留
- 汚染物排出施設・設備の封印・差押え等
刑事処罰
環境汚染罪(刑法338条。環境規制に違反し重大な環境汚染を生じさせた場合):3年以下の有期懲役または拘役(個人)および罰金の単科または併科(結果が特に重大な場合には3年以上7年以下の有期懲役および罰金の併科)等
環境規制執行の監督と違反に対する処罰
現在、環境規制の執行に関して、中央政府から地方政府に対して、大気汚染等の達成目標の義務付け(不達成時には罰則あり)や、全国的な環境規制執行状況の監査の実施等、厳しい監督が行われています。
特に、2016年から本格的に開始された、中央環境保護監査と呼ばれる全国的な監査は、本稿執筆時点(2018年5月)までに、試行(1回)を含めて各地で計5回実施され、1万8,000件超の環境規制違反の立件・処罰、5,000人超の関係者の身柄拘束、1万人超の地方政府担当者の処分等、猛烈な成果が報告されています(中華人民共和国生態環境部ウェブサイト統計情報による)。
このような中で、環境規制違反による処罰件数は、下記のグラフのとおり、2015年以降急激に増加しており、2017年に入っても、生産制限・停止等の重大な処罰を含め、引き続き大幅な増加傾向が続いています。実際に、日系企業を含む外資企業についても、生産制限・停止を含め、環境規制違反に伴う多くの処罰事例が存在しています。
環境汚染による民事責任
さらに、近年は、下表のとおり、環境汚染に関する損害賠償制度の整備も進んでおり、行政・刑事処罰に加えて、民事責任(損害賠償責任)を負うこととなるリスクが増大しています。
実際に、新たに制度整備が進められた環境公益訴訟については、最高人民法院の統計によれば、2016年7月~2017年6月の1年間に、全国で社会組織(環境NGO等)による環境公益訴訟が57件、人民検察院による環境公益訴訟が791件、それぞれ受理されたとされており、既に相当数が各地で提起されています(日系企業が環境NGOから提起された事案も存在します)。
また、新たに2018年1月から全国で実施された生態環境損害賠償制度については、環境汚染に対処する地方政府が直接汚染者に費用を請求できる利便性の高い制度であること、また、中央政府から早期の制度確立の要求が地方政府に対してなされていること等から、今後件数が増加していくことが予想されます。特に、試行期間中の事例においては、いずれも汚染者に1億円以上の損害賠償が認められており、賠償金額が多額となる可能性がある点にも留意が必要です。
【環境汚染に関する損害賠償制度】
制度 | 概要 | 近時の整備状況 |
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一般民事訴訟(環境権利侵害訴訟) |
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環境(民事)公益訴訟 |
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生態環境損害賠償制度 |
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この他の環境規制の厳格化に伴うリスクについては「中国における環境規制の厳格化に伴うリスクと対応策」を参照ください。

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