中国における環境規制の整備の動向

資源・エネルギー
本間 隆浩弁護士 森・濱田松本法律事務所 東京オフィス

 最近、中国の環境規制が厳しくなっていると聞きますが、実際はどの程度厳しくなっているのでしょうか。

 中国では、この数年間で環境関連の法規制の整備・厳格化が急速に進んでいます。また、従来は徹底されていなかった、法規制の執行も中央政府の指導の下で厳格化し、摘発・処罰件数が急激に増加しています。

解説

目次

  1. 中国における環境規制の流れの大きな変化
  2. 改正環境保護法の主な内容
    1. 関係制度の整備・拡充
    2. 違反の罰則・取締りの強化
    3. 行政権限・責任の明確化
    4. 環境公益訴訟制度の整備
  3. 各種関連法令・制度の整備状況

中国における環境規制の流れの大きな変化

 中国においても、環境関連の法規制は以前から存在していましたが、経済発展優先の考え方の下で、各地の地方政府によって恣意的な運用がなされ、規制は存在しても執行されない状況が続いてきました。
 しかしながら、環境問題の深刻化とそれに伴う社会的関心の高まり等を受けて、近年、環境関連の法規制およびその執行の整備・厳格化が急激に進んでいます。

改正環境保護法の主な内容

 まず、法規制の整備については、2015年1月に施行された環境保護法の全面改正により、新たな環境規制の枠組みが定められました。改正環境保護法の規定のうち、特に重要な内容は以下のとおりですが、これらの規制は世界的に見ても極めて厳しいものと評価されています。

関係制度の整備・拡充

  • 汚染物質排出許可管理制度
  • 排水・排気・固体廃棄物等の排出許可制度の統一

  • 重点汚染物質排出総量規制
  • 地域全体に関する総量規制(企業単位とは別個の規制)

  • 情報公開制度
    ①環境影響評価報告の住民説明・意見聴取
    ②重点汚染物質排出企業の情報公開義務等

違反の罰則・取締りの強化

  • 日割制裁金制度
  • 是正まで上限なく毎日制裁金を加算

  • 企業責任者の行政拘留
  • 最大15日間

  • 施設・設備の封印・差押え、生産制限・停止、営業停止・閉鎖等

行政権限・責任の明確化

  • 行政権限の整備・拡充
  • ①現場検査権
    ②汚染物排出施設・設備の封印・差押え権

  • 行政責任の明確化
  • ①目標達成責任・審査評価制度
    ②担当者の処分・上級政府による行政処罰の直接実施権等

環境公益訴訟制度の整備

  • 公益を目的として、被害住民等ではなく、社会団体や政府機関が汚染者に対して訴訟を提起できる制度
  • 提起主体等の明確化(環境NGO等、検察(補充的))により、実際に利用可能な制度に

各種関連法令・制度の整備状況

 そして、2015年以降、上記の改正環境保護法の枠組みの下で、関連法令・制度の整備が進められています。主な法令を挙げると以下のとおりとなります。

【近年の主な環境関連法令・制度の整備】

項目 法令・制度 内容
大気汚染
  • 大気汚染防止改善法の改正(2016年1月施行)
  • 違反行為に対する制裁金の金額引上げ(50万元⇒最大で汚染による直接的損害の5倍)、汚染物質排出制度の整備等
水質汚染
  • 水質汚染防止改善法の改正(2018年1月施行)
  • 違反行為に対する罰則の強化(生産停止・閉鎖等)、政府機関の管理監督責任の強化等
土壌汚染
  • 土壌汚染防止改善法の改正(改正草案2017年6月公表、2018年8月に最終法案を審議予定)
  • 汚染土地土壌環境管理規則(試行)の制定(2017年7月施行)
  • 改正草案の内容(土壌汚染防止の主要管理制度の整備、重点監督管理業界・企業目録等の対策制度の整備等)
  • 汚染土地土壌環境管理規則(試行)においては、汚染された土地の汚染者の責任に加え、現使用権者の対応義務も明確化
固体廃棄物
  • 固体廃棄物環境汚染防止改善法の改正(2013年、2015年、2016年)
  • 国家危険廃棄物目録の改正(2016年8月施行)
  • 修正内容は多くないが頻繁に変更・整備が進む
  • 規制対象となる危険廃棄物の種類を2008年版の目録からアップデート
汚染物排出に関する負担
  • 環境保護税法(2018年1月施行)
  • 汚染物質排出に伴う企業の経済負担について、従来の汚染物排出費の制度から、税金(環境保護税)による負担に制度変更。基本的な負担者等に変更は無いが、徴収機関(税務当局)や罰則適用(脱税等)に変更あり。

 環境規制の厳格化に伴う、中国での事業運営におけるリスクや影響、対応策については、「中国における環境規制の執行の厳格化の動向」「中国における環境規制の厳格化に伴うリスクと対応策」を参照ください。

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