下請事業者に対する代金はいつまでに支払う必要があるか(支払遅延の禁止)

競争法・独占禁止法 公開 更新
小田 勇一弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 当社は、工業用機械の製造をしており、下請事業者から部品を購入しています。下請事業者との取引基本契約書では、当社で検収が完了した時に引渡しがあったものとし、毎月末日までに引渡しがあったものについて、翌月末日(同日が銀行休業日の場合は翌銀行営業日)に銀行振込により代金を支払うと定めています。この度、顧問弁護士から、このような取引基本契約書は下請法に違反している可能性があると指摘を受けたのですが、何が問題なのでしょうか。

 下請法の適用がある場合、下請代金は、成果物の受領日から60日以内(2か月以内)に支払う必要があります。しかし、貴社は、検収完了日を起算点とし、月末締翌月末払いを行っているということですから、成果物の受領日から60日以内(2か月以内)に下請代金が支払われていない可能性があり、その場合は下請法4条1項2号が禁止する「支払遅延の禁止」に違反している可能性があります。
 また、下請代金を銀行振込の方法で支払っている場合、支払日が銀行休業日に当たる場合に翌銀行営業日に支払日を順延するには、下請法の運用上、下請業者と予め書面で合意され、かつ、順延期間が2日以内であるとされていますので、この点でも留意が必要です。

解説

目次

  1. はじめに
  2. どのように支払期日を定めれば良いのか
  3. 銀行振込で下請代金を支払う場合の留意点
  4. 支払期日に支払が遅れた場合はどうなるか?
  5. まとめ

はじめに

 親事業者の立場からすると「下請代金を支払いさえすれば良い」という考えもあるかもしれませんが、下請事業者にとって、下請代金を迅速に払ってもらうことは、自社の資金繰りにも影響する重要な問題です。下請法では、親事業者が下請事業者に支払う下請代金の支払期日について規制を定め、下請事業者の保護を図っています。

どのように支払期日を定めれば良いのか

 下請法では2条の2で以下のとおり規定しています。

下請法2条の2(下請代金の支払期日)
  1. 下請代金の支払期日は、親事業者が下請事業者の給付の内容について検査するかどうかを問わず、親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して、60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定めなければならない
  2. 下請代金の支払期日が定められなかつたときは親事業者が下請事業者の給付を受領した日が、前項の規定に違反して下請代金の支払期日が定められたときは親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して60日を経過した日の前日が下請代金の支払期日と定められたものとみなす。

 この規定を遵守するうえでのポイントは、以下の3つです。

(1) 起算日について

 下請代金の支払期日は、成果物の検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から起算されます
 すなわち、給付の受領日が起算日となりますので、たとえ契約書に「検収が完了した時をもって引渡しとする」等という規定があったとしても、下請法との関係では、検収完了日ではなく、受領日を基準として、その日から60日以内に下請代金を支払わなければならないということになります。

 (2) 「受領」とは

 「受領」とは、自己の占有下に置くこと自己の支配下に置くことをいうとされており(下請法運用基準第4の1(1)ア、イ)、給付された物を事実上支配下に置くことを意味すると考えられています。
 そのため、例えば、親事業者が所有する倉庫に納入する場合だけでなく、親事業者の指示により別会社の倉庫に成果物を納入させたような場合や、親事業者が下請事業者の工場に行って検査を行った場合でも、倉庫への納入時や検査開始時に「受領」したと判断されます。

(3) 月末締め翌月払い

 実務上、月末締翌月末払いの支払制度が多いため、「60日」は、運用上、「2か月以内」と読み替えられています。
 そのため、例えば7月や8月など一月に31日間ある月についても、「(受領日が属する月の)月末締め翌月末払い」という支払期日であれば、下請法違反とはされません。

月末締翌月末払の締切制度を取っている場合の具体例

 他方で、検収が完了した日を基準にして、月末締め翌月末払いとしている場合、受領日と検収完了日の間に締日(月末)が来てしまう場合、受領から2か月以内に下請代金が支払われないことになります。そのため、検収締切制度を採っている場合は、受領から検収完了までの間に締日をまたがないような運用をするか、検収に最大で要する期間を踏まえて支払日を決める(例えば、検収に最大で5日間を要する可能性がある場合は、月末締め翌月24日払いとする)といった締切制度にする等の措置が必要になります。

 公正取引委員会や中小企業庁による実際の指導事例を見ますと、たとえば、「検収毎月末日締切、翌月20日払い」、「毎月20日検収締切、翌月15日払い」といった支払制度を採用していた事業者において、受領日から60日を超えて下請代金の支払いが行われていたケースがあり、指導の対象とされています。検収締切制度は気付かぬうちに下請法違反となりやすいので、十分注意してください。

検収締切制度を取っている場合に支払遅延となる例

銀行振込で下請代金を支払う場合の留意点

 月末締翌月末払の締切制度を採っている場合で、下請代金を銀行振込で支払うこととしている場合、支払日が銀行休業日に当たるときには翌銀行営業日に支払うこととしていると、受領日から支払日まで2か月を超えてしまうことがあります。
 この点、下請代金を銀行振込で支払い、支払日が金融機関の休業日に当たる場合には翌銀行営業日に支払うこととしている場合には、下請事業者と予め書面で合意し、かつ、順延期間が2日以内であれば、結果として受領から2か月を超えて下請代金が支払われても問題がないとされています。
 したがって、支払日が金融機関の休業日に当たる場合には翌銀行営業日に支払うことにする場合には、取引基本契約書等の書面に「支払日が銀行休業日にあたる場合は翌銀行営業日に支払う」等の規定を設けて下請事業者と予め書面で合意する必要がありますし、このような規定の運用として、本来の支払日が3連休以上の連休の初日に当たってしまい、結果として実際の支払日が受領から2か月と3日以上となる場合には、本来の支払日よりも前倒しで下代金を支払うという運用にする必要があります。
 このことを知らずに、書面で合意することなく、翌営業日に下請代金を支払い、公正取引委員会等による指導の対象となる例が散見されますので、注意してください。

月末締翌月末払の締切制度を採っている場合の具体例

支払期日に支払が遅れた場合はどうなるか?

 親事業者が成果物の受領日から60日以内(2か月以内)に下請代金を支払わない場合には、60日を経過した日から実際の支払日までの期間について、年率14.6%の遅延利息の支払義務が生じます(下請法4条の2、下請代金支払遅延等防止法第4条の2の規定による遅延利息の率を定める規則)。

 このように親事業者が下請法の定める支払期日を守らない場合には、後々、思わぬ経済的損失を被ることになるため、支払期日については、充分に理解しておく必要があります。
 また、令和2年には、下請法の勧告事件が公表されるようになった平成16年以降はじめて、支払遅延が公正取引委員会による勧告の対象となった事例で出ています。

まとめ

 設例の取引基本契約書では、検収完了日を基準として毎月末締翌月末払いとなっているところ、受領から検収完了日までの間に締切日(月末)が来てしまった場合は、受領日から2か月以内に下請代金が支払われないことになりますので、下請法において親事業者の禁止事項とされている「支払遅延の禁止」に違反することになります。

 そのため、①受領日を基準とする月末締翌月末払いに変更する、②受領から検収完了までの間に締日をまたがないような運用をする、③検収に最大で要する期間を踏まえて支払日を決める(例えば、検収に最大で5日間を要する可能性がある場合は、月末締め翌月24日払いとする)といった締切制度に変更する等の措置を講じる必要があります

 加えて、下請代金の支払日が3連休以上の初日に当たってしまうような場合には、下請代金を翌銀行営業日ではなく、本来の支払日よりも前に支払うように運用する必要があります。

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