取適法が適用される役務提供委託とは?具体例とともに解説
競争法・独占禁止法 更新当社(資本金5,000万円、常時使用する従業員の数300人)は、ソフトウェアの開発販売会社ですが、当社のソフトウェアを購入した顧客に対して無料の顧客サポートサービスを提供しています。この顧客サポートサービスを他の事業者に委託した場合、取適法(改正下請法)の適用はありますか。また、同じ作業を派遣社員にお願いした場合とで違いはありますか。
他の事業者への委託取引に取適法(改正下請法)が適用されるか否かは、取引の内容および取引当事者の資本金または従業員数によって定まります。
ソフトウェアを購入した顧客に対して無料の顧客サポートサービスを提供している会社が、その顧客サポートサービスの一部を他の事業者に委託した場合は、ソフトウェアにサポートサービスの対価が含まれていると考えられ、取適法上の「役務提供委託」に該当します。
したがって、顧客サポートサービスの一部を委託する他の事業者の資本金が1,000万円以下の場合または常時使用する従業員の数が100人以下の場合、この事業者に対して顧客サポートサービスの一部を委託する取引は、取適法の適用対象となります。
これに対して、労働者派遣法に基づき労働者の派遣を受けることは役務提供委託にはなりませんので、派遣労働者に顧客サポートサービスの一部を提供させた場合は、取適法の適用はありません。
解説
目次
役務提供委託に該当する取引内容
取適法(改正下請法)の適用の有無は、取引当事者双方の資本金の額または従業員数と取引内容で決まりますが、取適法の適用があり得る取引内容の1つとして役務提供委託があります。
取適法上の役務提供委託とは、事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部または一部を他の事業者に委託することをいいます(取適法2条4項)。これをもう少しわかりやすくいえば、①役務の提供を有償で行っている事業者が、②その全部または一部を再委託する取引が取適法上の「役務提供委託」に該当します。

この類型に当てはまる取引の例は以下のとおりです。
- ビルメンテナンス業者が、請け負うメンテナンスの一部であるビルの清掃を清掃業者に委託すること
- ソフトウェアを販売する事業者が、当該ソフトウェアの顧客サポートサービスを他の事業者に委託すること
「業として行う」とは
「業として行う」とは、役務の提供を有償で行っていることをいいます。
設例の場合をみてみますと、ソフトウェアの開発販売会社が、無償で顧客に提供している顧客サポートサービスの一部を他の事業者に委託しているというものです。したがって、一見すると役務の提供を有償で行っていることにはならず、「業として行う」に該当しないように思われます。
しかし、ソフトウェアを購入した顧客に対するサポートサービスの提供は、その対価がソフトウェアの販売価格に含まれていると考えられ、このような場合も、役務の提供を有償で行っているものと考えられています。
したがって、この事例のソフトウェアの開発販売会社は、役務の提供を有償で行っている事業者に該当すると考えるのが相当ということになります。
「役務の提供の行為の全部または一部」とは
「役務の提供の行為の全部または一部」について、設例の場合をみてみますと、ソフトウェアの開発販売会社が顧客に対して提供しているサポートサービスの一部を他の事業者に委託しているというものですから、顧客から見れば再委託がなされていることになります。
したがって、このような顧客サポートサービスの一部を他の事業者に委託することは、取適法上の「役務提供委託」に該当することになり、資本金または従業員に関する要件を満たせば、取適法の適用のある取引になります。
役務提供委託の資本金基準と従業員基準
委託する取引の内容が取適法上の役務提供委託に該当し、かつ、資本金と常時使用する従業員数が以下いずれかに該当する場合に、取適法が適用されます。

資本金基準
役務提供委託に取適法が適用される場合の資本金基準は5,000万円となっており、以下の取引に取適法が適用されます(取適法2条8項3号・4号、9項3号・4号)。
- 資本金5,000万円超の法人事業者と資本金5,000万円以下の法人事業者(または個人事業者)との間の取引
- 資本金1,000万円超5000万円以下の法人事業者と資本金1,000万円以下の法人事業者(または個人事業者)との間の取引
設例でのソフトウェア開発販売会社の資本金は5,000万円ということですので、この会社が資本金1,000万円以下の事業者または個人事業者に顧客サポートサービスの一部を委託した場合には取適法が適用されることになります。
従業員基準
また、資本金基準を満たさない場合でも、役務提供の委託を行う会社の常時使用する従業員数が100人超で、委託先の常時使用する従業員数が100人以下である場合には、従業員基準を満たすことになり、取引法が適用されることになります。
設例でのソフトウェア開発販売会社の常時使用する従業員の数は300人ということですので、この会社が常時使用する従業員の数が100人以下の事業者または個人事業者に顧客サポートサービスの一部を委託する場合にも取適法が適用されることになります。
役務提供委託に該当しない場合
労働者派遣法に基づく労働者派遣
労働者派遣法に基づき労働者の派遣を受けることは、役務提供委託ではありません。したがって、設例のように、労働者派遣法に基づき派遣を受けた派遣労働者に、ソフトウェア購入者に対する顧客サポートサービスを提供させた場合は、取適法の適用はありません。
自家使用の役務
取適法上の役務提供委託に該当するのは、委託事業者が、他者に対し業として提供する役務の提供を委託する場合に限られます。したがって、委託事業者が自ら用いる役務(自家使用の役務)を他の事業者に委託する取引は、役務提供委託には該当しません。自家使用に当たるか否かは、取引当事者間の契約や取引慣行に基づいて判断されます。
- ホテル業者が、自社の営業に必要なベッドメイキングをリネンサプライ業者に委託すること
- 工作機械メーカーが、自社工場の清掃作業の一部を清掃業者に委託すること
建設工事
建設業法に規定されている建設工事は、取適法の対象となりません。これは、建設工事の下請負については、建設業法に取適法と似た規定があり、中小受託事業者の保護が別途図られているためです。
役務提供委託に該当する場合の取適法の規制内容
取適法が適用される取引の場合、委託事業者には発注内容の明示義務、支払期日を定める義務、書類等の作成・保存義務、遅延利息の支払義務が課されるほか、11の禁止行為が定められています。
詳しくは、以下の関連記事を参照ください。
まとめ
以上のとおり、ソフトウェアを購入した顧客に対して無料の顧客サポートサービスを提供する場合でも、ソフトウェアにサポートサービスの対価が含まれているような場合は、その顧客サポートサービスの一部を他の事業者に委託することは取適法上の「役務提供委託」に該当することになります。したがって、資本金1,000万円超5,000万円以下の委託事業者が資本金1,000万円以下の中小受託事業者に対して、このような顧客サポートサービスの一部を委託する場合や、常時使用する従業員の数100人超の委託事業者が常時使用する従業員の数100人以下の中小受託事業者に対して、このような顧客サポートサービスの一部を委託する取引は、取適法の適用対象となります。
これに対して、労働者派遣法に基づき労働者の派遣を受けることは役務提供委託にはなりませんので、派遣労働者に顧客サポートサービスの一部をさせた場合でも取適法の適用はありません。
弁護士法人大江橋法律事務所
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