下請法が適用される役務提供委託とは
競争法・独占禁止法当社(資本金5,000万円)は、ソフトウェアの開発販売会社ですが、当社のソフトウェアを購入した顧客に対して無料の顧客サポートサービスを提供しています。この顧客サポートサービスを他の事業者に委託した場合、下請法上の適用はありますか。もし、同じ作業を派遣社員にお願いした場合とで違いはありますか。
ソフトウェアを購入した顧客に対して無料の顧客サポートサービスを提供している会社が、その顧客サポートサービスの一部を他の事業者に委託した場合は、下請法上の「役務提供委託」に該当します。したがって、顧客サポートサービスの一部を委託する他の事業者の資本金が1,000万円以下の場合、この事業者に対して顧客サポートサービスの一部を委託する取引は、下請法の適用対象となります。
これに対して、労働者派遣法に基づき労働者の派遣を受けることは役務提供委託にはなりませんので、派遣労働者に顧客サポートサービスの一部をさせた場合でも下請法の適用はありません。
解説
役務提供委託とは
下請法の適用の有無は、取引当事者双方の資本金の額と取引内容の2つで決まりますが、下請法の適用があり得る取引内容の一つとして役務提供委託があります。下請法上の役務提供委託とは、事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部または一部を他の事業者に委託することをいいます(下請法2条4項)。
これをもう少しわかりやすくいえば、① 役務の提供を有償で行っている事業者 が、② その全部または一部を再委託する取引 が下請法上の「役務提供委託」に該当します。
「役務の提供を有償で行っている」とは
そこで設例の場合をみてみますと、ソフトウェアの開発販売会社が、無償で顧客に提供している顧客サポートサービスの一部を他の事業者に委託しているというものです。したがって、一見すると役務の提供を有償で行っていることにはならず、①に該当しないように思われます。
しかし、ソフトウェアを購入した顧客に対するサポートサービスの提供は、その対価がソフトウェアの販売価格に含まれていると考えられ、このようにソフトウェアにサポートサービスの対価が含まれているような場合も、役務の提供を有償で行っているものと考えられています。
したがって、この事例のソフトウェアの開発販売会社は、役務の提供を有償で行っている事業者に該当すると考えるのが相当ということになります。
役務提供の「全部または一部を再委託」とは
次に、②の有償で行っている役務提供の全部または一部を再委託しているかをみますと、ソフトウェアの開発販売会社が顧客に対して提供しているサポートサービスの一部を他の事業者に委託しているというものですから、顧客から見れば再委託がなされていることになります。
したがって、このような顧客サポートサービスの一部を他の事業者に委託することは、下請法上の「役務提供委託」に該当することになり、資本金に関する要件を満たせば、下請法の適用のある取引になります。
役務提供委託における資本金要件
役務提供委託については、原則として、①資本金5,000万円超の法人事業者が資本金5,000万円以下の法人事業者または個人事業者と取引をする場合と、②資本金1,000万円超5,000万円以下の法人事業者が資本金1,000万円以下の法人事業者または個人事業者と取引をする場合に下請法が適用されます(下請法2条7項・8項)。
設例でのソフトウェア開発販売会社の資本金は5,000万円ということですので、この会社が資本金1,000万円以下の事業者または個人事業者に顧客サポートサービスの一部を委託した場合には下請法が適用されることになります。
労働者派遣法に基づく労働者派遣と下請法の適用の有無
労働者派遣法に基づき労働者の派遣を受けることは、役務提供委託ではありません 。したがって、労働者派遣法に基づき派遣を受けた派遣労働者に、同様の顧客サポートサービスをさせた場合でも下請法の適用はありません。
まとめ
以上のとおり、ソフトウェアを購入した顧客に対して無料の顧客サポートサービスを提供する場合でも、ソフトウェアにサポートサービスの対価が含まれているような場合は、その顧客サポートサービスの一部を他の事業者に委託することは下請法上の「役務提供委託」に該当することになります。したがって、顧客サポートサービスの一部を委託する他の事業者の資本金が1,000万円以下の場合、この事業者に対して顧客サポートサービスの一部を委託する取引は、下請法の適用対象となります。
これに対して、労働者派遣法に基づき労働者の派遣を受けることは役務提供委託にはなりませんので、派遣労働者に顧客サポートサービスの一部をさせた場合でも下請法の適用はありません。

弁護士法人大江橋法律事務所
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