下請法が適用される情報成果物作成委託とは
競争法・独占禁止法当社は、工業用機械を製造しているメーカーで、資本金は1億円です。工業用機械を販売する際に一緒に交付する取扱説明書の作成を印刷会社に委託する予定ですが、この場合に、下請法で注意しなければならないことはありますか。
「取扱説明書の作成」の内容(委託業務の内容)が取扱説明書の印刷の場合には、資本金が1,000万円以下の法人事業者または個人事業者に委託する場合に、下請法の適用があります。これに対して、委託業務の内容が取扱説明書の文章やデザインの作成の場合または取扱説明書の文章やデザインの作成とその印刷とが一体不可分の取引として発注された場合には、資本金が5,000万円以下の法人事業者または個人事業者に委託する場合に、下請法の適用があります。
解説
目次
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下請法が適用される要件
下請法はあらゆる取引に適用されるのではなく、①製造委託、修理委託、情報成果物作成委託または役務提供委託のいずれかの取引に該当し、かつ、②取引の当事者の資本金が一定の関係にある場合に適用があります。②の資本金要件は、①の取引の内容によって異なります。
よって、下請法の適用の有無を判断するにあたっては、まずは予定されている取引が上記4つの取引のいずれに該当するかを検討し、その後、両当事者の資本金を検討することになります。
下請法が適用される取引の場合、親事業者には書面の交付義務、支払期日を定める義務、書類の作成・保存義務、遅延利息の支払義務が課されます。
詳しくは、「親事業者が負う下請法上の義務とは」を参照ください。
製造委託とは
製造委託とは、事業者が業として物品の販売を行っている場合に、物品もしくはその半製品、部品、附属品等(以下「物品等」といいます)の製造を他の事業者に委託することなどをいいます(下請法2条1項)。
また、 製造委託というためには、物品等の規格・品質・性能・形状・デザイン・ブランドなどを指定して製造を委託することが必要で、規格品や標準品を購入することは原則として製造委託にはあたりません (下請取引適正化推進講習会テキスト〔平成27年11月版〕5頁。以下「講習会テキスト」といいます)。
設例の場合は、工業用機械の製造販売を業として行っているというケースですが、販売にあたって一緒に交付される取扱説明書は工業用機械の「附属品」にあたります。また、取扱説明書の作成を委託していますが、その内容が、取扱説明書の仕様をメーカーが決めて印刷を委託するということであれば、製造委託に該当するといえます。
詳しくは、「下請法が適用される製造委託とは」を参照ください。
情報成果物作成委託とは
情報成果物作成委託とは、 事業者が業として情報成果物の提供を行っている場合に、情報成果物の作成行為の全部または一部を他の事業者に委託すること などをいいます(下請法2条3項)。情報成果物には、ソフトウェアなどのプログラムのほか、設計図やデザインなどが含まれます。また、ここでいう「提供」には、物品等の附属品として提供される場合を含みます(下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準・第2の3(3))。
よって、設例の場合のように、取扱説明書のデザインを作成してもらったり、取扱説明書の記載内容を作成してもらったりするような場合には、これは情報成果物の作成にあたることになります。また、取扱説明書の交付は、工業用機械の附属品として提供される場合ですので、取扱説明書の文章やデザインの作成は情報成果物作成委託にあたります。
資本金要件
製造委託の資本金要件
委託される取引が製造委託にあたる場合に、下請法が適用されるためには、取引当事者の資本金が次のパターン1またはパターン2のいずれかの関係にあることが必要です。
類型 | パターン1 | パターン2 |
---|---|---|
親事業者 (委託者) |
資本金3億円超の法人事業者 | 資本金1,000万円超3億円以下の法人事業者 |
下請事業者 (受託者) |
資本金3億円以下の法人事業者または個人事業者 | 資本金1,000万円以下の法人事業者または個人事業者 |
設例の場合では、委託者の資本金が1億円であり、パターン2の「資本金1,000万円超3億円以下の法人事業者」に該当しますので、受託者たる印刷業者が資本金1,000万円以下の法人事業者または個人事業者である場合に、下請法の適用があることになります。
情報成果物作成委託の資本金要件
委託される取引が情報成果物作成委託にあたる場合に、下請法が適用されるためには、取引当事者の資本金が次のパターン1またはパターン2のいずれかの関係にあることが必要です(下請法2条7項3号および4号)。
類型 | パターン1 | パターン2 |
---|---|---|
親事業者 (委託者) |
資本金5,000万円超の法人事業者 | 資本金1,000万円超5,000万円以下の法人事業者 |
下請事業者 (受託者) |
資本金5,000万円以下の法人事業者または個人事業者 | 資本金1,000万円以下の法人事業者または個人事業者 |
設例の場合では、委託者の資本金が1億円であり、パターン1の「資本金5,000万円超の法人事業者」に該当しますので、受託者たる印刷業者が資本金5,000万円以下の法人事業者または個人事業者である場合に、下請法の適用があることになります。
文章・デザインの作成と印刷とが不可分一体の取引として委託された場合
最後に、設問の取扱説明書の作成の内容が、印刷(製造委託)と文章・デザインの作成(情報成果物作成委託)の両方を含むものであった場合に、下請法の適用はどうなるでしょうか。
こういう場合、それぞれの取引ごとに、それぞれの資本金区分をもって本法の対象となるか否かを判断すると考えられています(講習会テキスト22頁Q28)。すなわち、印刷については製造委託の資本金区分に従って、文章・デザインの作成については情報成果物作成委託の資本金区分に従って、下請法の適用の有無が判断されるべきであるとしています。
この場合、例えば、設問の印刷業者の資本金が2,000万円であった場合、印刷(製造委託)の部分には下請法の適用がありませんが( 4-1 のいずれのパターンにも該当しない)、文章・デザインの作成(除法成果物作成委託)の部分には下請法の適用があることになります( 4-2 のパターン1に該当する)。
なお、印刷および文章・デザインの作成が各々の資本金区分に該当した場合、それぞれが下請法の対象となります。この場合、3条書面は、まとめて記載ができるのであれば2枚交付する必要はないとされており、文章・デザインの作成料については、3条書面上でこれらの作成を委託していることを明確化した上で、その対価について下請事業者と十分に協議した上で決定する必要があります(講習会テキスト22頁Q30)。
詳しくは、「親事業者が負う下請法上の義務とは」を参照ください。
ただし、講習会テキストでは、印刷と文章・デザインの作成とが一体不可分の取引として発注された場合には、いずれかの資本金区分に該当すれば、その取引は一体として下請法が適用されるとされており、この場合、印刷および文章デザインの作成の両方について、下請法の適用があることになります。本件では、貴社の資本金が1億円ですので、5,000万円以下の法人事業者または個人事業者が印刷の作成も含めて下請事業者となります。
