取適法の明示義務とは?4条明示の具体的な内容・方法を解説
競争法・独占禁止法 更新当社はソフトウェアの開発を行っており、開発の一部を中小受託事業者に依頼することもあります。取適法(改正下請法)が適用される取引において、委託事業者は、発注の都度、中小受託事業者に対して法定事項が記載された書面を交付しなければならないということですが、ソフトウェアの開発では、発注時点で仕様の詳細が決まっていないことも多くあります。このような場合でも、発注時に法定事項すべてを記載した書面を交付しなければならないのでしょうか。また、書面の交付に代えて、電子メールを送信するだけでもよいでしょうか。
委託事業者は、原則として発注の都度、取適法(改正下請法)4条に定められた事項を書面または電磁的方法により中小受託事業者に対し明示する必要があります。なお、改正前の下請法では、電子メールなどの電磁的方法による場合は中小受託事業者の承諾を得る必要がありましたが、取適法ではそのような承諾は不要になりました。
明示が必要な事項のうち、その内容が定められないことについて正当な理由がある事項(未定事項)については、明示を要しないという例外が認められています(当初の明示)。ただし、明示しなかった事項の内容が定まった後はただちに、その事項を書面または電磁的方法により明示する必要があります(補充の明示)。
また、具体的な金額の明示をすることが困難なやむを得ない事情がある場合には、算定方法の明示でよいとされています。
解説
目次
取適法が定める委託事業者の義務
取適法の適用がある取引において、委託事業者には、次の4つの義務が課せられています。
- 発注内容等の明示義務(取適法4条)
- 支払期日を定める義務(取適法3条)
- 書類等の作成・保存義務(取適法7条)
- 遅延利息の支払義務(取適法6条)
どのような取引が取適法の適用対象となるかは、以下の関連記事をご確認ください。
発注内容等の明示義務「4条明示」における明示事項
上記のうち発注内容等の明示義務とは、委託事業者が中小受託事業者に対して、製造委託等を発注する際には、原則として発注の都度、公正取引委員会規則(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第4条の明示に関する規則。以下「明示規則」といいます)で定められた事項(明示事項)を、書面または電磁的方法により明示しなければならないというものです(取適法4条1項)。
このルールは一般的に「4条明示」と呼ばれており、具体的には、次のような事項を明示しなければならないとされています。
4条明示における明示事項
- 委託事業者および中小受託事業者の名称(番号、記号等による明示も可)
- 発注日
- 給付の内容(役務提供委託または特定運送委託の場合は、提供される役務の内容)
- 給付を受領する期日(役務提供委託または特定運送委託の場合は、役務の提供を受ける期日または期間)
- 給付を受領する場所(役務提供委託または特定運送委託の場合は、役務の提供を受ける場所)
- 検査をする場合は、検査を完了する期日
- 代金の額
- 代金の支払期日
- 一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付けまたは支払可能額およびその期間の始期、委託事業者が代金債権相当額または代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
- 電子記録債権で支払う場合は、電子記録債権の額および中小受託事業者が代金の支払を受けることができることとする期間の始期、電子記録債権の満期日
- 原材料等を有償支給する場合は、その品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日および決済方法
「当初の明示」と「補充の明示」
上記のような原則に対して、明示事項のうち、その内容が定められないことについて正当な理由があるもの(未定事項)については、その明示を要しないという例外が認められています(取適法4条1項ただし書)。ただし、未定事項の内容が定まった後はただちに、その事項を書面または電磁的方法により明示する必要があります。
未定事項以外の事項を明示するものは「当初の明示」、未定事項の内容が定まった後に明示するものは「補充の明示」と呼ばれています。
そして、「正当な理由」とは、「取引の性質上、委託した時点では明示事項の内容について決定することができないと客観的に認められる理由」のことをいうと考えられており、たとえば、ソフトウェアの作成委託において、エンドユーザーが求める仕様が確定していないために、中小受託事業者に対する正確な委託内容を決定することができない場合がこれに当たります(中小受託取引適正化法テキスト141頁)。
当初の明示
上記のような例外的な4条明示の方法を採る場合、当初の明示には、①未定事項の内容が定められない理由および②未定事項の内容を定めることとなる予定期日を記載しなければならないとされています(明示規則1条1項8号)。
エンドユーザーの詳細仕様が確定していないため、納期と代金も未定となっている場合の当初の明示の記載例は次のようになります。
当初の明示の記載例

補充の明示
当初の明示に記載されなかった未定事項については、その内容が確定した後ただちに、当該事項を明示(補充の明示)しなければなりません。補充の明示については、当初の明示と補充の明示の注文番号を同じにしたり、補充の明示上に当初の明示の内容を補充する書面であることを記載するなどして、当初の明示と補充の明示との関連性が明らかになるようにする必要がある点に留意が必要です(明示規則1条4項)。
補充の明示の記載例

算定方法による代金の額の明示
4条明示をするにあたっては、原則として代金の額を具体的な金額で明示する必要がありますが、具体的な金額の明示をすることが困難なやむを得ない事情がある場合には、算定方法で明示することも認められています(明示規則1条2項)。ただし、この算定方法は、代金の額の算定根拠となる事項が確定すれば、具体的な金額が自動的に確定するものでなければなりません。
たとえば、プログラムの作成委託であって、従事した技術者の技術水準ごとの時間単価および作業時間に応じて代金額が決定されるような場合が算定方法による代金の額の明示が認められる場合です。この場合には、算定方法として、次のような内容を定めることになります。
- 「Aランク技術者の時間当たりの単価〇円 × 当該技術者の所要時間数」 +
- 「Bランク技術者の時間当たりの単価〇円 × 当該技術者の所要時間数」 +
- 「中小受託事業者がプログラム作成に要した実費(交通費、〇〇費)」
また、算定方法の明示と4条明示が別の書面等で作成されている場合には、これらの相互の関連性が明らかになるようにする必要がある点に留意が必要です。
さらに、代金の具体的な金額を確定した後は、速やかに中小受託事業者に当該金額を通知する必要がある点にも留意が必要です。
中小受託事業者から書面の交付を求められた場合の対応
改正前の下請法では、電子メールなどの電磁的方法により明示事項の明示を行う場合は、中小受託事業者から承諾を得る必要がありました。しかし、取適法ではそのような承諾を得ることなく、電子メールなどの電磁的方法により4条明示を行うことが可能になりました。
もっとも、電子メールなどの電磁的方法により4条明示をした場合において、中小受託事業者から明示事項を記載した書面の交付を求められたときは、原則として、遅滞なく明示事項を記載した書面を交付しなければならないとされています(取適法4条2項本文)。
まとめ
以上のとおり、委託事業者は、原則として発注の都度、書面または電磁的方法で4条明示をする必要がありますが、ソフトウェア開発等において、発注時にはエンドユーザーにおいて仕様の詳細が未確定であるため明示事項のうち一部を確定できないことについて正当な理由がある場合は、未定事項を除いた他の明示事項のみを明示することができる(当初の明示)という例外が認められています。ただし、未定事項の内容が定まった後はただちに、その事項を明示した補充の明示を、当初の明示と関連付けたうえで行う必要があります。
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公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト(令和7年11月)」 ↩︎
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