メキシコ会社法の解説
第3回 メキシコの会社の機関 株主総会・取締役(会)・監査役に関するルール
国際取引・海外進出
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目次
Sociedad Anónima(日本の株式会社に相当する会社)の機関
本稿では、メキシコにおいて会社形態として採用されることが最も多いSociedad Anónima(有限責任の株主のみを出資者とする日本の株式会社に相当する会社)の機関と関連するルールを解説する。
法律上、下記の機関がSociedad Anónimaに不可欠であるとされている。
- 株主総会(2名以上の株主により構成されなければならない)1
- 取締役
- 監査役
株主総会
株主総会と決議事項の種類
株主総会には普通株主総会と特別株主総会の2種類がある 2。そして、決議事項には普通決議事項と特別決議事項(182条に定める事項)がある 3。日本の会社法上の定時株主総会および臨時株主総会ならびに普通決議および特別決議の概念とは一致しないため注意が必要である。
後述のとおり、普通株主総会では特別決議事項以外を決議するものとされており、特別株主総会では特別決議事項を決議するものとされている。日本では定時株主総会においても臨時株主総会においても普通決議事項も特別決議事項も特殊決議事項も決議できる 4 ことと異なる。
普通株主総会では特別決議事項を決議できないため、特別決議事項を決議する必要性が普通株主総会の開催時期に生じた場合には、普通株主総会と特別株主総会の双方を開催する必要がある。もっとも、特別株主総会の定足数(後記 2-3(2)参照)を満たす場合には上記の2種類の株主総会を同じ日に開催することが認められているので、上記の2種類の株主総会の招集手続を別々に履践する必要はない。このような場合、普通株主総会と特別株主総会の双方について記載された招集通知が送付される。
普通株主総会も特別株主総会もいずれも、原則として登録所在地で開催される必要がある 5。普通株主総会は、年に1回以上、会計年度の終了後4か月以内に開催されなければならない 6。メキシコの会社は通常12月末日を会計年度終了日とするため、多くの普通株主総会が4月に開催される。一方、特別株主総会は必要に応じていつでも開催することができる 7。
招集権者は、普通株主総会も特別株主総会もいずれも、原則として取締役(会)または監査役である 8 が、一定の場合には株主が招集請求できる(詳細は別稿において解説する)9。招集通知は議題等を記載のうえで、経済省(Secretaría de Economía)の電子システムを通じてなされる必要があり 10、これに違反した場合には決議が原則として無効となる 11。
普通株主総会
(1)決議事項
普通株主総会は特別決議事項以外の事項を決議する 12。具体的には、たとえば、計算書類等 13 や監査役が提出する年次報告書 14(後記4-2参照)の承認、取締役および監査役の選任やその報酬の決定(定款で定められている場合を除く)等を行う 15。
上記のように、普通株主総会の決議事項が広範であることから単独取締役の決定事項または取締役会の決議事項との境界が明確でないという問題が生じるが、定款でそれぞれの決議(決定)事項を明確にすることができる 16。
(2)定足数および決議要件
普通株主総会の定足数は半数以上の出資に相当する株主の出席であり、決議要件は出席株主の株式の過半数による承認である 17。
特別株主総会
(1)決議事項
特別株主総会は特別決議事項を決議するのであり、具体的には、下記の事項が特別決議事項とされている 18。
- 会社の存続期間の延長 19
- 会社の解散
- 資本金の増加または減少
- 会社の目的の変更
- 会社の国籍の変更 20
- 会社形態の変更
- 他の会社との合併
- 優先株式の発行
- 自社株の消却およびAcciones de Goce(株式消却の際に消却される株式の対価として発行される株式)の発行
- 社債の発行
- 定款の変更
- 法律または定款が特別な定足数を要求するその他の事項
(2)決議要件
特別株主総会は、原則として、定足数が75%以上の出資に相当する株主の出席であり、決議要件が総株主の株式の半数以上による承認である 21。もっとも、定款の定めにより特定の決議事項の決議要件を加重することが可能である 22。
特別株主総会の定足数が75%以上の出資に相当する株主の出席であることから、少数派株主であっても株式を25%超保有することで特別株主総会の開催を阻止することが可能である。しかし、一度定足数不充足を理由に特別株主総会が開催されなかった場合、法律上再度招集することが可能である 23 が、この場合、定款に特段の定めがない場合には50%以上の出資に相当する株主の出席により定足数が充足されることとなってしまう 24。
少数派株主としては、株式を50%以上保有する多数派株主による特別決議の強行採決を防ぐために、定款において再度の招集の場合においても定足数が75%以上の出資に相当する株主の出席(あるいは多数派株主による強行採決を防ぐことができる任意の割合)となる旨を定める必要がある。定款にかかる規定を設けるか否かはJoint Ventureとして新たにメキシコ法人を設立する場合に、多数派株主と少数派株主との間での交渉の対象となる事項である。
決議の省略(書面決議)
株主総会の開催および決議の省略は法律上認められている。すなわち、実際に株主総会を開催しない場合でも、議決権を持つすべての株主が全会一致で(場合によっては、特定の種類の株主が全会一致で)書面により承認する場合には、株主総会で承認された場合と同様に扱うものと定款に定めることができる 25。
取締役(会)
取締役に関するルール
会社の株主も会社外部の第三者も取締役になることができる 26 が、法律上事業を行う資格を失った者(破産後復権していない場合や財産犯を犯した場合等 27)は取締役になることができない 28。取締役会の設置は必須ではなく、単独取締役も許される 29。取締役が複数任命される場合には自動的に取締役会(Consejo de Administración)が設置される 30。取締役が3名以上任命される場合には、株式を25%以上(上場会社の場合は10%)保有する株主は最低1名の取締役を選任する権利を有する点が実務上重要である 31。
法律上、代表取締役の権限等について詳細に定めた規定はない。しかし、複数の取締役が存在し取締役会が設けられる場合、定款において代表取締役として会社を代表する者の選任およびその権限等について定めるのが通例である。かかる定款の定めがない場合には、最初に任命された者(複数同時任命の場合、名簿の一番上に書かれた者)が自動的に代表取締役になり、他の取締役に比して大きな権限を持ち、会社を対外的に代理する者となる 32。
日本の会社法と同様に利益相反取引についての規制が存在する 33。各取締役は原則として他の取締役と連帯して会社に対して責任を負う 34 が、問題となる行為についての決議等に際して異議を示した取締役は責任を免れる 35。株式を25%以上保有する株主は一定の要件を満たせば株主代表訴訟において取締役に対し責任追及することができる 36(詳細は別稿において解説する)。
日本の親会社の取締役が子会社であるメキシコ法人の取締役になることについて制限はない。当該取締役が物理的にメキシコに所在しなければならないという要件もない。したがって、日本に所在し日本企業の取締役として活動を継続することも可能である 37。一方、非メキシコ人取締役がメキシコに居住し、メキシコに設立された会社で勤務する場合には就労ビザの取得が必要となる。
取締役会決議
法律上、取締役会の定足数は半数以上の出席であり、決議要件は出席取締役の過半数による承認である 38。賛成票と反対票が同数の場合、代表取締役が決定票を投じて決定する 39。
もっとも、定款で特定の事項について要件を修正することが可能である。ただし、要件を減軽する修正と要件を加重する修正とで分けて考える必要がある。要件を減軽する修正については実務上そのような定款規定を設けている例も散見されるが、推奨できない。紛争が生じ、法廷に持ち込まれた場合に裁判所が当該規定は無効であると判断する可能性があり、法的安定性を欠くためである。他方、全会一致の承認を要求するなど要件を加重する修正については、基本的に問題はない。
決議の省略(書面決議)
取締役会を開催しなかった場合でも、全取締役による決議事項の承認が書面で確認された場合には、当該事項を取締役会で承認されたものとみなすことを定款に定めることができる 40。
監査役(Comisario)
監査役に関するルール
監査役は会社の業務監督のために株主総会により任命される。代理の監査役が任命されることもあるが、監査役は通常1名のみ選任される。メキシコでは監査役会を設けている会社は稀である。
なお、第2回において説明したとおり、監査役の任命はSociedad Anónimaには必須であるのに対し、Sociedad de Responsabilidad Limitadaの場合には監査役の任命は必須ではない。
会社の株主も会社外部の第三者も監査役となることができる 41。もっとも、法は監査役の欠格事由を定めている。具体的には、以下のいずれかに該当する者は監査役になることができない 42。
- 事業を行う資格を失った者
- 会社の従業員
- 会社の株式を25%超保有する別の会社の従業員
- 会社が別の会社の株式を50%超保有する場合における当該別の会社の従業員
- 取締役の一定の範囲の血縁者
権限
監査役は、会社財務の監督により株主利益を保護するために必要な監督権限を有している。一般に、監査役の義務は取締役会または単独取締役の活動を監督し、株主に報告し、株主利益を保護することである。会計事項の監査のみに専念するのではなく、会社の活動や取締役の行為の適法性も監督するなどいわゆる業務監査も行う。
具体的には、法律上、以下が監査役の権利義務とされている 43。
- 取締役により提供される保証 44 を確認し、問題等を遅滞なく株主総会に報告する
- 取締役に、財務状況等を毎月報告するように要求する
- 業務監査を実施し、下記の年次報告書に記載する意見を表明するために、業務、文書、記録等を精査する
- 取締役会が普通株主総会において提示した情報の信憑性、十分性および合理性に関する年次報告書を当該株主総会に提出する
- 監査役が適切とみなす事項を取締役会および株主総会の議題に追加する
- 取締役が招集しない場合等、必要と考えられる場合には、株主総会を招集する
- 取締役会に出席する
- 株主総会に出席する
- 会社の事業運営等を監督する
責任
監査役についても取締役の場合と同様に利益相反取引についての規制が存在する 45。株式を25%以上保有する株主は一定の要件を満たせば株主代表訴訟において監査役に対し責任追及することができる 46(詳細は別稿において解説する)。
執行役
メキシコ会社法には、執行役の選任および権限についての規定がある 47 が、執行役の選任は必須ではなく、むしろ執行役を選任しているのはごく一部の会社のみである。
(注)本稿は、メキシコの法律事務所であるBasham, Ringe y Correa, S.C.のLuis Emilio Luján Sauri氏、Miguel Enrique Sánchez Anaya氏およびEduardo González Jiménez氏の協力を得て作成しています。
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メキシコ会社法89条1号 ↩︎
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メキシコ会社法179条、180条および182条 ↩︎
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メキシコ会社法180条および182条 ↩︎
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日本の会社法309条は基本的に株主総会の種類と決議事項の種類を連動させていない。もっとも、日本の会社法438条は計算書類等が定時株主総会に提出され、承認されなければならないとしている。 ↩︎
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メキシコ会社法179条 ↩︎
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メキシコ会社法181条 ↩︎
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メキシコ会社法182条 ↩︎
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メキシコ会社法183条 ↩︎
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メキシコ会社法168条、184条および185条 ↩︎
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メキシコ会社法186条および187条 ↩︎
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メキシコ会社法188条 ↩︎
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メキシコ会社法180条 ↩︎
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メキシコ会社法172条 ↩︎
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メキシコ会社法166条4号 ↩︎
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メキシコ会社法181条2号および3号 ↩︎
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定款にこのような記載がない場合においては、単独取締役または取締役会はメキシコ会社法181条および182条に記載の事項以外の事項を決定または決議する権限があるものと解される。 ↩︎
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メキシコ会社法189条 ↩︎
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メキシコ会社法182条 ↩︎
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メキシコ会社法91条は6条で定める事項に加え、91条で定める事項を設立定款に定める必要がある旨規定しているところ、6条4号は存続期間を設立定款に記載することを要求している。もっとも、6条4号は存続期間を無期限とできるとしており、その場合には存続期間の延長の議論は生じない。 ↩︎
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メキシコでの新会社設立の場合には新会社の国籍は自動的にメキシコ籍となり、通常は国籍変更の必要は生じない。もっとも、外国法人が新会社を設立せず自国の国籍を維持しつつメキシコでビジネスをする場合がある。その場合に、後に国籍を例えばメキシコ籍に変更する場合には特別決議が必要となる。なお、自国の国籍を維持してメキシコでビジネスをするためにはメキシコ政府の許可が必要である。 ↩︎
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メキシコ会社法190条 ↩︎
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メキシコ会社法190条。条文上、特定の決議事項の要件のみを加重できるかは明確ではないが、実務上認められている。 ↩︎
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メキシコ会社法191条 ↩︎
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メキシコ会社法191条についての判例法理 ↩︎
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メキシコ会社法178条 ↩︎
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メキシコ会社法142条 ↩︎
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メキシコ商事法(Código de Comercio)12条 ↩︎
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メキシコ会社法151条 ↩︎
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メキシコ会社法143条反対解釈 ↩︎
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メキシコ会社法143条 ↩︎
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メキシコ会社法144条 ↩︎
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メキシコ会社法143条および148条 ↩︎
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メキシコ会社法156条 ↩︎
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メキシコ会社法158条および160条 ↩︎
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メキシコ会社法159条 ↩︎
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メキシコ会社法163条 ↩︎
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本稿執筆時点では、メキシコ会社法にはオンライン会議等を許容する規定は存在しないが、コロナ禍においてオンライン会議によりメキシコ法人の運営が行われていた例は存在し、決議が後から無効とされた等の問題が生じたという話は耳にしていない。また、オンライン会議等に依拠せずとも、メキシコに所在しない取締役は「(3)決議の省略」に記載の書面決議に依拠することができる。 ↩︎
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メキシコ会社法143条 ↩︎
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メキシコ会社法143条 ↩︎
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メキシコ会社法143条 ↩︎
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メキシコ会社法164条 ↩︎
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メキシコ会社法165条 ↩︎
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メキシコ会社法166条 ↩︎
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メキシコ会社法152条によれば、定款または株主総会において定めた場合には、取締役は将来その業務に関連して生じうる責任を担保する保証を提供する必要がある。 ↩︎
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メキシコ会社法170条 ↩︎
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メキシコ会社法171条が準用する163条 ↩︎
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メキシコ会社法145および146条 ↩︎
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