メキシコ会社法の解説

第1回 メキシコ会社法の全体像と通則的規定

国際取引・海外進出
西山 洋祐弁護士 アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業

目次

  1. 日本企業の注目を集めるメキシコ
  2. メキシコの会社法
  3. メキシコ会社法の構造
  4. 商事会社(Sociedad Mercantiles)
  5. 通則的規定
    1. 資本金の増減とCapital Variable
    2. 法人格
    3. 設立手続・必要書類
    4. 運営者(Administrador)
    5. 出資者の権利義務等

日本企業の注目を集めるメキシコ

 日本企業のメキシコへの進出が進んでいる。2019年10月1日時点で、在留邦人数は12,600に、進出日系企業拠点数は1,299に達している 1。とりわけ、進出日系企業拠点数は2010年から一貫して増加している 2。2010年10月1日時点での進出日系企業拠点数は464であったので、9年間で3倍弱にまで増加している。

 このことから日本企業がメキシコへの注目を強めているように思われる。一方で、メキシコの会社法について、会社の設立から機関設計、運営、統合または分割、そして解散と清算に至るまでを詳細に解説した日本語の文献は見当たらない。そこで本連載では、これからメキシコに進出することを検討されている企業の方またはすでに進出された企業の方の一助となるようにメキシコの会社法について解説する。

メキシコの会社法

 Ley General de Sociedades Mercantiles(以下「メキシコ会社法」とする)という法律がメキシコの会社法である。

 メキシコには商事会社(Sociedad Mercantiles)民事会社(Sociedad/ Asciación Civil)が存在し、メキシコ会社法は商事会社に適用される(商事会社の類型については下記4にて紹介する)。民事会社に対しては連邦民法と州民法が適用される。

 本稿ではメキシコ会社法の構造、適用対象である商事会社の各類型と、全類型に共通して適用される通則規定の一部を紹介する。

 もっとも、メキシコ日本商工会議所の会員企業の一覧を見るに、日本企業のメキシコ法人の7、8割程度がSociedad Anónima(有限責任の株主のみを出資者とする日本の株式会社に相当する会社)、2割程度がSociedad de Responsabilidad Limitada(有限責任社員のみにより構成される合同会社類似の会社)である 3。そこで、設立や機関等の各論部分の解説をする次稿以降では、Sociedad Anónimaを中心に解説し、必要に応じてSociedad de Responsabilidad Limitada特有の規制等も紹介する。

メキシコ会社法の構造

 メキシコ会社法は全273条で構成され、14章に分かれている。各章で設けられている規定は下記のとおり。

1章:全会社類型に共通して適用される通則規定
2章ないし7章および14章:下記4で紹介する各類型の会社についての規定がそれぞれ独立した章で定められている
8章:Capital Variable(下記5−1参照)である会社についての規定
9章:合併その他会社再編についての規定
10章:解散についての規定
11章:清算についての規定
12章:外国会社についての規定
13章:合弁契約に基づくエンティティであるAsociación en Participaciónについての規定(Asociación en Participaciónの性質は契約であるとされ 4、下記4で紹介する各類型の会社と異なり法人格を持たない 5

商事会社(Sociedad Mercantiles)

 メキシコ会社法上、以下の会社が商事会社として規定されている 6

Sociedad en Nombre Colectivo 無限責任社員のみにより構成される合名会社類似の会社 7
Sociedad en Comandita Simple 1名以上の無限責任社員と1名以上の有限責任社員により構成される合資会社類似の会社 8
Sociedad de Responsabilidad Limitada 有限責任社員のみにより構成される合同会社類似の会社 9
Sociedad Anónima 有限責任の株主のみを出資者とする日本の株式会社に相当する会社 10
Sociedad en Comandita por Acciones 1名以上の無限責任株主と1名以上の有限責任株主で構成される株式会社 11
Sociedad Cooperativa 協同組合類似の会社
Sociedad por Acciones Simplificada 1名以上の有限責任株主(自然人に限る)で構成される会社 12

 Sociedad de Responsabilidad LimitadaSociedad Anónimaが日本企業のメキシコ法人として用いられることが多い。

 Sociedad de Responsabilidad Limitada米国のLimited Liability Companyまたは日本の合同会社類似の会社であり、有限責任社員のみにより構成される。総社員数は50名以下でなければならない 13。S. de R.L.と略して表記される 14。なお、名称の末尾には “Sociedad de Responsabilidad Limitada” または “S. de R. L.” を付す必要があり、これを怠った場合には、社員は無限責任を負う 15

 Sociedad Anónimaは、有限責任の株主のみを出資者とする会社であり、日本の株式会社に相当する 16。最も一般的に用いられる会社形態であり、S.A.と略して表記される 17日本の株式会社と異なり、株主が最低2名必要とされている点が実務上重要である 18。このルールは実務上も厳格に適用されている。このことは、完全親子会社関係が成立しないことを意味し、M&A等の文脈でも十分に考慮する必要がある。

通則的規定

資本金の増減とCapital Variable

 いずれの会社においても資本金の増減は可能である 19。S.A. de C.V.のように名称の末尾にde C.V.と付されたメキシコの会社をよく目にする。C.V.はCapital Variable(英:Variable Capital)の略である。Capital VariableはCapital Fijo(英:Fixed Capital)と対となる概念であり、Capital VariableとCapital Fijoの主な相違は資本金の増減手続にある。

 Capital Fijoである会社が資本金の変更をするためには、増減の程度を問わず常に定款変更のための手続が必要となる 20

 これに対し、Capital Variableである会社が最低資本額を上回る範囲で資本金の増減をする場合には定款変更のための手続は不要であり、各会社形態において必要とされる内部意思決定手続(たとえば、Sociedad Anónimaの場合には、株主総会決議 21)と8章に規定されている手続等のみが必要となる 22

 上記4記載の商事会社のうち、Sociedad Cooperativaを除くすべての商事会社がCapital Variableとなりうる 23。Capital Variableである会社はCapital VariableまたはC.V.との表記を社名に付す必要がある 24

 会社はCapital Variableであるか否かを問わず、以下のルールに服する。

  • 出資者への償還等により生じる資本金の減少は、経済省(Secretaría de Economía)の電子システムで公開される 25
  • 会社の債権者は、会社が資本金減少の決定を下した日から当該減少についての上記システムによる直近の公開の5日後までの間、異議申立てをすることができる 26
  • Sociedad por Acciones Simplificadaを除く商事会社は、毎年その純利益の少なくとも5パーセントを準備金にあてる必要がある(ただし、準備金の上限は資本金の5分の1までであり、すでにかかる上限に達している場合は純利益の一部を準備金にあてる必要はない)27

法人格

 いずれの商事会社も、登記所類似の行政機関(Registro Público de Comercio、通称「RPC」)に登録されることにより出資者等とは別の法人格を有する 28

設立手続・必要書類

 会社設立のためには、原則として下記の2点が必要となる。

  • 定款類似の書面であるEscrituraまたはPóliza Constitutivaについての承認を公証人から得る 29
  • 会社のEscrituraまたはPóliza Constitutivaには、会社の名称、目的、代表者の氏名等の法定の事項を記載する 30

 Sociedad Anónimaの設立に必要な手続と設立関連書類に記載すべき事項等については別稿にて解説する。

運営者(Administrador)

 運営者(Administrador)会社の代表者であり、会社の運営機関の構成員である。たとえばSociedad Anónimaの場合には、運営者は取締役に相当する地位を有し、運営者が複数存在する場合には、運営組織であるConsejo de Administración(取締役会類似の機関)の構成員となる 31。原則として、1名以上の運営者が商事会社の代表者として会社の目的に由来するオペレーションを担う 32

 上記5−1記載の利益を準備金にあてる義務が履行されていない場合には、責任者たる運営者は準備金としてあてられるべき額を会社に提供する義務がある 33

出資者の権利義務等

 利益の分配は、財務諸表が社員または株主によって承認された後にのみ行われる 34。出資者への利益または損失の分配のデフォルトルールは法定されているものの、別途の合意により修正可能である 35。ただし、特定の出資者に利益分配をしない旨の規定は無効とされている 36

 会社財産は出資者の財産とは区別され、出資者の債権者は原則として会社財産に対し権利行使をすることができない 37。一方、会社の債権者については別に考える必要がある。裁判所が、会社に対し、第三者に対する義務(会社の債権者に対する債務弁済等)を履行するように命ずる判決を下した場合において、出資者も同時に被告であった場合には、当該判決は出資者に対しても執行されうる 38

 すなわち、判決は最初に会社財産に対し執行されるものの、当該財産が不十分な場合には、被告たる出資者の資産に対しても執行されうる 39。もっとも、出資者の義務が出資に限定されている場合、判決の執行は出資されるべき額のうち未払いの額に対してのみなしうる 40

(注)本稿は、メキシコの法律事務所であるBasham, Ringe y Correa, S.C.のメキシコ法弁護士のLuis Emilio Luján Sauri氏とMiguel Enrique Sánchez Anaya氏の協力を得て作成しています。


  1. 外務省「海外在留邦人数調査統計(令和元年版)」および「海外進出日系企業拠点数調査(令和元年版)」 ↩︎

  2. 外務省「海外在留邦人数調査統計(令和元年版)」、「海外在留邦人数調査統計(平成29年版)」および「海外在留邦人数調査統計(平成25年版)」 ↩︎

  3. https://www.japon.org.mx/ja/%E4%BC%9A%E5%93%A1%E4%BC%81%E6%A5%AD.html
    ただし、商工会議所の会員ではない企業の会社形態は特定できていない。 ↩︎

  4. メキシコ会社法252条 ↩︎

  5. メキシコ会社法253条 ↩︎

  6. メキシコ会社法1条 ↩︎

  7. メキシコ会社法25条 ↩︎

  8. メキシコ会社法51条 ↩︎

  9. メキシコ会社法58条 ↩︎

  10. メキシコ会社法87条 ↩︎

  11. メキシコ会社法207条 ↩︎

  12. メキシコ会社法260条第1文 ↩︎

  13. メキシコ会社法61条 ↩︎

  14. メキシコ会社法59条第2文 ↩︎

  15. メキシコ会社法59条第3文で準用する25条 ↩︎

  16. メキシコ会社法87条 ↩︎

  17. メキシコ会社法88条 ↩︎

  18. メキシコ会社法89条1号 ↩︎

  19. メキシコ会社法9条第1文 ↩︎

  20. メキシコ会社法6条5号および6号 ↩︎

  21. メキシコ会社法182条3号および190条の文言上、特別決議が必要であるように読めるが、メキシコ会社法213条、216条および判例法理等により、普通決議で足りるとされている。 ↩︎

  22. メキシコ会社法213条 ↩︎

  23. メキシコ会社法1条最終文 ↩︎

  24. メキシコ会社法215条 ↩︎

  25. メキシコ会社法9条第2文 ↩︎

  26. メキシコ会社法9条第3文 ↩︎

  27. メキシコ会社法20条第1文 ↩︎

  28. メキシコ会社法2条第1文 ↩︎

  29. メキシコ会社法5条 ↩︎

  30. メキシコ会社法6条および各会社類型についての章の規定(たとえばSociedad Anónimaにつきメキシコ会社法91条参照) ↩︎

  31. メキシコ会社法143条第1文 ↩︎

  32. メキシコ会社法10条第1文 ↩︎

  33. メキシコ会社法21条第2文 ↩︎

  34. メキシコ会社法19条第1文 ↩︎

  35. メキシコ会社法16条 ↩︎

  36. メキシコ会社法17条 ↩︎

  37. メキシコ会社法23条第1文 ↩︎

  38. メキシコ会社法24条第1文 ↩︎

  39. メキシコ会社法24条第2文 ↩︎

  40. メキシコ会社法24条第3文 ↩︎

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