企業価値向上と毀損防止に向けて企業は何をすべきか

第11回 不正会計 ‐ 子会社経営者不正(中編)

コーポレート・M&A
渡辺 樹一 一般社団法人GBL研究所 西谷 敦 アンダーソン・毛利・友常法律事務所

目次

  1. 子会社の不正リスクの本質を見極める5つのポイント
    1. 業績が悪くなるとそれだけで不正リスクが高まる
    2. 子会社が事業部ラインの管轄下にあると、子会社や事業部門主導の不正リスクが内包される
    3. 子会社の従業員と親会社の人員との接点が少なくなると、子会社の不正リスクが高まる
    4. 海外の遠隔地にある子会社は、親会社から現場への監視が行き届かず、子会社の内部統制が脆弱化し、敷設した統制の形骸化が進むリスクがある
    5. ノンコア事業を行う子会社従業員は、親会社への愛着心や忠誠心が少なく、子会社がサイロ化しやすい
  2. 海外子会社の管理方式と留意点
    1. 組織の閉鎖性の弊害(組織のサイロ化)とは
    2. 子会社の主な管理方式
    3. 子会社の管理方式を選択する際のポイント
  3. 企業集団の内部統制に関する決議項目とグループ経営管理の在り方
    1. 会社法における「企業集団の内部統制に関する体制の決議7項目」とは
    2. ①会社法本体に格上げされた項目
    3. コラム「子会社不正と親会社役員の不適切対応」

前回の「不正会計 ‐ 子会社経営者不正(前編)」では、子会社経営者による粉飾決算事例の内容と教訓をお伝えしました。今回はそれを踏まえて、グループ経営管理の在り方と、企業価値向上と毀損防止に向けての具体的な実務対応策の提言へと繋げてまいりますが、その前に、子会社の不正リスクを不正のトライアングルから俯瞰し、問題の本質を深堀りしたいと思います。

本稿の末尾には、「親会社監査役の不適切対応について」について、アンダーソン・毛利・友常法律事務所の西谷 敦弁護士との対談形式のコラムを掲載しています。

子会社の不正リスクの本質を見極める5つのポイント

以下の図は、縦軸に子会社のタイプ、横軸に不正のトライアングルの3つの要素(不正のトライアングルの詳細は「第4回 発覚の端緒と会社資産の不正流用」の3を参照)を置いて、子会社の不正リスク(不正会計に留まらず、すべてのコンプライアンス違反に関する不正リスク)についてまとめたものです。子会社の不正リスクの本質を見極めるには、5つのポイントを知っておくことが肝要です。

 
子会社の不正リスク 不正のトライアングル
動機・プレッシャー
(不正を欲する
心理的事情)
正当化
(不正の実行を是認する
心理的事情)
機会
(内部統制の脆弱性)
子会社のタイプ 全子会社 赤字に伴う、親会社によるグループ外企業への事業譲渡や事業撤退(会社の精算)を回避したい 会社がなくなったら元も子もない
→子会社主導の不正(1-1)
-
事業部ラインの管理下にある、または事業部ラインの影響力を強く受けやすい子会社(事業部門管理方式) ・業績をよく見せることにより、事業部から高い評価を受けたい。
・事業部ラインからの要望や期待に応えたい。
・事業部ラインに所属している以上、本社の管理部門よりも事業部ラインへの貢献を優先すべきだ。
・事業部ラインの人達には恩義や愛着を感じており裏切れない。
→子会社主導の不正(1-2)
事業部門の方針により、稼がない管理部門(法務コンプライアンス・財務経理・内部監査など)の人員が不足し、不正行為へのモニタリング・チェック体制が脆弱化。
→事業部ライン主導の不正(1-2)
親会社の経営陣の関心が薄い、重要性が低く僅少な子会社 経済的な利得を得たい どうせ親会社からは期待されていない。 親会社への愛着はない
→会社資産の不正流用(1-3)
・人員が少なく、職務の分離が限定的で牽制機能が弱い。
・法務コンプライアンスの人員がいない。倫理教育も行われない。
親会社の事業とは関連性の乏しいノンコア事業を行う子会社 やっている事業が親会社や他のグループ会社と異なるから、関心は持たれていない。 業界特有の習慣に対するコンプライアンス対応が不足。
・親会社の内部統制を形式的に子会社に展開する場合に、子会社自体の不正リスクが考慮されない。
→子会社主導の不正(1-5)
海外の遠隔地に所在するなど、監査役の往査や内部監査が不十分な子会社 親会社の人との接点も少なく、関心は持たれていない。 ・親会社からの出向者、出張者が少なく、現場への監視が行き届かない。
親会社に悟られないまま、子会社独自のルールを導入し、現場における内部統制が脆弱化。
→子会社主導の不正(1-4)
この国にはこの国の商習慣というものがある。親会社の倫理観は、この国にはなじまない

業績が悪くなるとそれだけで不正リスクが高まる

1つ目ですが、まず、いずれのタイプにおいても、子会社がなくなったら元も子もないという危機存続の意識が働きますから、「業績が悪くなるとそれだけで不正リスクが高まる」ということです。

営利事業を営む企業が赤字に陥ること自体が不正リスクを高めてしまうという点については上場親会社自身も同じです。しかし子会社の場合は、業容が親会社により決められていることが多く、親会社のように赤字事業からの撤退や新規事業の開拓等のリスクテイクによる業容の変革を自主的に行うことは難しいです。このような背景から、子会社には「自社の赤字化によるグループ会社外への事業譲渡や株式の売却、事業撤退に伴う会社清算等を回避したい」という心理が働きやすく、不正のリスクは親会社よりも遥かに大きいことを知っておく必要があります。

子会社が事業部ラインの管轄下にあると、子会社や事業部門主導の不正リスクが内包される

事業部門管理方式は、事業的シナジーの創出を目指す管理方式であり、決して否定されるものではありませんが、2つ目は、特定の事業部門や海外事業部が子会社の経営指導を全般的に行うケースで当てはまる不正リスクです。事業部ラインの管理下にありますと、当然、当該事業部門としての業績を良く見せたいという動機が強く働きます。そのことが2つの不正リスクの内包へと向かわせます。

ひとつは、子会社において、「業績をよく見せることにより事業部から高い評価を受けたい。事業部ラインからの要望や期待に応えたい」という動機が生まれ、それが「特定の事業部ラインに所属している以上、本社の管理部門よりも事業部ラインへの貢献を優先すべきだ。事業部ラインの人達には恩義や愛着を感じており裏切れない」といった正当化を誘発して、子会社主導の不正が発生するリスクです。

もうひとつは事業部門主導の不正リスクです。子会社を事業部ラインの管轄下に置いている場合は、子会社における稼がない管理部門(法務コンプライアンス・財務経理・内部監査など)の人員を削減して不足状態となり、不正行為への子会社内のモニタリング・チェック体制が脆弱化するおそれがあります。また、事業部ラインのサイロ化(後述する「組織の閉鎖性の弊害」)が見られる場合は、事業部ライン主導の不正行為や、たとえそれが子会社主導の不正であっても、事業部門にてそれを隠蔽してしまう等のリスクも高まるということを頭に入れておかなければなりません。

子会社の従業員と親会社の人員との接点が少なくなると、子会社の不正リスクが高まる

3つ目は、親会社の経営陣の関心が薄い、重要性が低く僅少な子会社や、海外の遠隔地に所在する子会社の従業員は、親会社の人員との接点が少なくなることに伴う不正リスクです。それらの子会社の従業員においては、親会社への愛着が薄れ、忠誠心も薄くなり、それが子会社における不正リスクを高めることとなります。

特に前者の僅少な子会社については、従業員に「どうせ親会社からは期待されていない」と正当化する心理が働きます。また、人員が少なく職務の分離が限定的で牽制機能が弱く、法務コンプライアンスの人員がいない、倫理教育も自立的には行われないという子会社もありますから、親会社との接触の機会を極力増やすという方策も必要です。コンプライアンス研修を行う場合は、Eラーニングなどではなく、フェイス・トゥ・フェイスでの実施なども考えるべきです。

海外の遠隔地にある子会社は、親会社から現場への監視が行き届かず、子会社の内部統制が脆弱化し、敷設した統制の形骸化が進むリスクがある

4つ目に、海外の遠隔地にある子会社、特に中国など、文化が大きく異なる国では、親会社が提唱する倫理観に対する反発等を払拭するようなレベルの研修(同国の他社事例をもととした研修など)を行うことが大切です。

「この国にはこの国の商習慣というものがある。親会社の倫理観はこの国にはなじまない」といった正当化が行われ、親会社に悟られないまま、子会社独自のルールを導入し、現場における内部統制が脆弱化して不正が発生したという事例も多いです。海外の遠隔地にある子会社は、親会社からの出向者、出張者が少なく、現場への監視が行き届かないのが常であり、規程等に違反する子会社独自のルールがないか等につき、親会社による内部監査や監査役の往査等にてモニタリングしていくことは欠かせません。

ノンコア事業を行う子会社従業員は、親会社への愛着心や忠誠心が少なく、子会社がサイロ化しやすい

5つ目に、親会社の事業とは関連性の乏しいノンコア事業を行う子会社については、業界特有の習慣に対するコンプライアンス対応を徹底して行うことの大切さです。他のグループ会社と事業が異なるため、従業員の親会社グループへの愛着心や忠誠心は少なく、子会社がサイロ化しやすく、親会社の内部統制を形式的に子会社に展開する場合に、子会社自体の不正リスクが考慮されないことが起こり得ます。

海外子会社の管理方式と留意点

組織の閉鎖性の弊害(組織のサイロ化)とは

組織の閉鎖性の弊害は、「第2回 製造不祥事から学ぶ教訓、問題の本質と対応策の提言(後編)」の4で説明しました。繰返しとなりますが、組織の閉鎖性の弊害とは以下のような現象でした。

経営効率の観点から、組織の細分化、専門化は不可欠であるが、それは権限移譲の仕方によっては、次のような危険性を伴う。

  • 細分化、専門化された各組織内の従業員が、それぞれ自分の組織以外で何が起きているのか知らず、また、知ろうともしなくなる。
  • 自分たちの文化やルールが当然なものに思えてしまうため、それらについての適切性やビジネス環境の変化等に伴う見直しの必要性などについてあらためて考える努力をしなくなる。
  • 組織としての部分最適を求める傾向となりがちになり、企業としての全体最適を追い求める視野を失う。
  • 組織が過度に硬直化し、危険なまでに強固に根を張ると、リスクが見逃され、また、魅力的なビジネスチャンスも見えなくなってしまう。

上記の組織の閉鎖性の弊害の説明を前提に、本項では子会社の管理方式と留意点についてお伝えしたいと思います。海外子会社に焦点を当てていますが、国内子会社についてもあてはまるものです。

子会社の主な管理方式

子会社の管理方式には、主たるものとして(1)海外事業部管理方式、(2)事業部門管理方式、(3)地域統括会社管理方式、(4)子会社管理部署管理方式の4つがあります。それらの概要と留意点を以下のように図にまとめました。キーワードは、茶色い字で示されている「(複雑化し得る)組織間の情報共有やコミュニケーション」と「子会社管轄部署や子会社自身のサイロ化」です。なお、詳細は企業により若干異なります。

海外子会社の主な管理方式 一般的なステージ 留意点
(1)
海外事業部管理方式
・親会社にすべての海外事業拠点を統括する部門(海外事業部)を設置したうえで、当事業部が、親会社の各事業部門や親会社のコーポレート(※)部門と協働しながら、海外事業拠点の運営につき(業績管理や人事、主要なリスク管理も含めて)全般的に指導、サポートする。
・国内事業拠点は、事業部が管轄する。
海外展開の初期段階 ・会社設立、組織機能の立ち上げを効率的に行い、事業運営や管理ノウハウを蓄積して、新たな海外事業拠点を設立する際に横展開することが容易となる。
・海外事業部は、コーポレート部門と各事業部と有機的に連携する必要があり、各組織間での緊密な情報共有や意思疎通が必要となる。
海外事業部がサイロ化するリスクがある
(2)
事業部門管理方式
親会社の個々の事業部が、親会社のコーポレート部門と協働しながら、それぞれの傘下の国内事業拠点および海外事業拠点の運営につき全般的に(業績管理や人事、主要なリスク管理も含めて)指導、サポートする。 海外事業拠点の数が増えてきた段階 ・同一事業を複数国において展開し、その事業における製造、販売等の機能子会社を全世界展開するような場合に、事業部が海外事業拠点を機動的に連携させるなどして、事業運営、管理することができる。
・各事業部は、親会社のコーポレート部門と他の事業部と有機的に連携する必要があり、各組織間での緊密な情報共有や意思疎通が必要となる。
各事業部部門がそれぞれにサイロ化するリスクがある
(3)
地域統括会社管理方式
・地域統括会社が、各海外事業拠点におけるコーポレート機能に関する方針を取りまとめ統括する。また、コーポレート機能の一部のみを海外子会社に残し、各海外事業拠点のコーポレート機能を内部請負いする。
・海外事業拠点は、事業戦略については親会社事業部門と、コーポレート機能については地域統括会社と、それぞれ連携する。
海外事業拠点の数がさらに増え、コーポレート機能について規模の経済のメリットを享受できる段階 ・コーポレート機能を地域統括会社(北米、EU、アジアパシフィック等)に集約することで、規模の経済のメリットを享受する。また、各地域は、経済的連携協定により経済面(税制等)や法令等において地域内の国際連携が進んでおり、地域全体での効率性を追求する。
海外事業拠点のレポートラインが、親会社の事業部門と地域統括会社の2つとなる。
・各地域統括会社は、親会社の各事業部門、親会社のコーポレート部門、他の地域統括会社と連携する必要があり、各組織間での緊密な情報共有や意思疎通が必要となる。
各地域統括会社がそれぞれにサイロ化するリスクがある
(4)
子会社管理部署管理方式
・親会社の経営企画部や子会社管理部等の部署が、親会社のコーポレート部門と連携しながら、各国内事業拠点および海外事業拠点におけるコーポレート機能に関する方針の取りまとめや統括業務について、海外事業拠点の窓口として機能する。
・海外事業拠点は、事業戦略については親会社事業部門と、コーポレート機能については地域統括会社と、それぞれ連携する。
海外事業拠点の数が比較的に少なく、また、海外事業拠点のコーポレート機能が許容レベルにある段階 ・コーポレート機能についての窓口を子会社管理部署に集約することで子会社管理の効率化を図ることができる。
・子会社管理部署は、コーポレート部門と各事業部、各海外事業拠点と有機的に連携する必要があり、各組織間での緊密な情報共有や意思疎通が必要となる。
・各海外事業拠点と親会社との情報共有や意思疎通が薄れると、各海外事業会社がそれぞれにサイロ化するリスクがある

(※)コーポレート:経理財務、人事総務、法務、情報システム等

以下、本項で触れている丸数字の事例の概要は、「第10回 不正会計 - 子会社経営者不正(前編)」の2を参照ください。

(1)海外事業部管理方式

海外事業部管理方式は、海外展開の初期段階で取られていた方式で、1990年代の後半に流行した手法です。海外子会社については、事業運営もコーポレート機能も親会社に設けた海外事業を司る部署が統括する方式です。
海外事業部 1 は、コーポレート部門と各事業部と有機的に連携する必要があり、各組織間での緊密な情報共有や意思疎通が必要となること、そして、海外事業部がサイロ化するリスクがあるというのが留意点です。
事例⑤(設備工事会社(2016年))がこの方式に該当します。

(2)事業部門管理方式

事業部門管理方式は、親会社の各事業部門がそれぞれ、当該事業を行っている海外子会社の事業運営とコーポレート機能を統括するものです。不正の発生という観点からは、既述の通り比較的リスクの高い管理方式です。
各事業部は、親会社のコーポレート部門と他の事業部と有機的に連携する必要があり、各組織間での緊密な情報共有や意思疎通が必要となること、そして事業部ごとにサイロ化するリスクがあるというのが留意点です。
事例①(名門繊維メーカー(2016年))がこの方式に該当します。

(3)地域統括会社管理方式

地域統括会社管理方式は、海外事業拠点の数が(1)(2)よりもさらに増え、コーポレート機能について規模の経済のメリットを享受できる段階で主に採用されます。米国の大企業が多く導入している管理方式でもあります。
地域統括会社が複数の海外子会社のコーポレート機能を集約して行い、管理業務に関するコストを連結ベースで削減できる、各地域で経済的連携協定等により、税制面や法令等においてメリットが享受できるという利点がある一方、コミュニケーションが複雑化するという課題があります。 海外子会社のレポーティングラインが、親会社の事業部門と地域統括会社の2つとなり、また、各地域統括会社は、親会社の各事業部門、親会社のコーポレート部門、他の地域統括会社と連携する必要が出てきます。したがって、両者の各組織間での緊密な情報共有や意思疎通が必要となり、地域統括会社のサイロ化のリスクがあります。
事例④(フィルム・医療機器等メーカー(2017年))がこの方式に該当します。

(4)子会社管理部署管理方式

オーソドックスな管理方式として、子会社管理部署管理方式があります。親会社の経営企画部や子会社管理部等の部署が、親会社のコーポレート部門と連携しながら、各国内事業拠点および海外事業拠点におけるコーポレート機能に関する方針の取りまとめや統括業務について海外子会社の窓口として機能する方式です。
この方式の場合は、子会社管理部署は、コーポレート部門と各事業部、各海外事業拠点と有機的に連携する必要があり、各組織間での緊密な情報共有や意思疎通が必要となること、そして、各子会社と親会社の事業部や子会社管理部署との情報共有や意思疎通が薄れると、今度は、各子会社がサイロ化するというリスクがあるというのが留意点です。
事例③(塗料用等の酸化チタン大手(2018年))と事例⑥(衣料・食料品輸入販売会社(2017年))がこの方式に該当します。

(5)機能別管理方式

上記(1)から(4)以外にも、管理部署不在の機能別管理方式も考えられます。
しかし、子会社を管理する専門部署がなく各機能別に管理が行われる場合は、各部署の役割と責任の分担を相当に明確化する必要があり、親会社から子会社への統制が利きにくく、そのような方式は避けるべきであると思います。
事例②(おむつ等メーカー(2017年))がこの方式に該当します。

子会社の管理方式を選択する際のポイント

上記2-2のどの管理方式をとるかは、以下の条件により異なります。

  • 事業セグメントの数
  • 海外展開のステージ
  • 海外事業拠点の数
  • 海外事業拠点におけるコーポレート機能の成熟度
  • 適切な能力(外国語に堪能で、法律、会計、財務、税務、情報システム等のコーポレート機能に関する要諦を理解できる)を有する人材の数 等

管理方式を選択する際のポイントは、以下のようになります。

  1. 自社の連結経営上の上記の状況を踏まえた適切な管理方式を採用する。
  2. 各組織間での緊密な情報共有やコミュニケーション(意思疎通)を適切なレベルで確保する。
  3. 海外事業部、親会社の各事業部門、各地域統括会社、各子会社(国内、海外)といった業績責任単位における組織のサイロ化(組織の閉鎖性の弊害)を適切なレベルで克服する。そのために、これらの各業績責任単位への権限移譲の適切化を図る。

上記の適切なレベルは、企業価値の向上と毀損防止の観点から考慮することとなります。この②と③の対応策については、次回の下編にてお話しすることとします。

企業集団の内部統制に関する決議項目とグループ経営管理の在り方

会社法における「企業集団の内部統制に関する体制の決議7項目」とは

会社法における「企業集団の内部統制に関する体制の決議7項目」は、グループ経営における内部統制の構築の基礎になるものですから、グループ経営管理の在り方は、各決議項目から考えていくのが正攻法かつ近道となります。
決議7項目は以下の図表の通りです。

会社法と会社法内部統制の要求事項 主な根拠条文
当該株式会社ならびにその親会社および子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制 会社法本体(会社法362条4項6号等)
②子会社の取締役等の職務の執行にかかる事項の当該株式会社への報告に関する体制 会社法施行規則100条1項5号イ、98条1項1号
③子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制 会社法施行規則100条1項5号ロ、98条1項2号
④子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制 会社法施行規則100条1項5号ハ、98条1項3号
⑤子会社の取締役等および使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制 会社法施行規則100条1項5号ニ、98条1項4号
⑥子会社の取締役、監査役、業務を執行する社員等が親会社の監査役に報告をするための体制 会社法施行規則100条3項4号ロ、98条4項4号ロ
⑦⑥の報告をした者(当該会社の取締役、使用人を含む)が、報告をしたことを理由として不利な扱いを受けないことを確保するための体制 会社法施行規則100条3項5号、98条4項5号

(※)会社法施行規則118条で、①の体制の整備についての決定または決議があるときは、その概要や運用状況等を事業報告に記載する。

平成26年の会社法の改正で、旧会社法施行規則100条1項5号にあった「当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制」が、上記①会社法本体に規定される事項に格上げされました。それによって、親会社の取締役は、企業集団の内部統制システムを構築し、適切に運用することを通じて子会社への監督義務を負っていると解釈されることとなりました。親会社として相当の体制を構築・運用せずに、子会社に不祥事が発生した場合には、親会社株主や第三者による親会社取締役の任務懈怠が問われる可能性が当該改正で高まったことはご承知の通りです。

会社法本体に格上げされた①から施行規則の②~⑦まで、順を追ってひとつひとつ見ていきたいと思います。

①会社法本体に格上げされた項目

まずは、①の会社法本体に格上げされた項目、「当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制」です。
企業集団の内部統制の大本の根本的な事項として、上場親会社は、後述の4つの点を考慮し、方針を定めます。そのうえで、子会社との契約の締結(「第6回 被買収会社の粉飾決算と子会社ガバナンス(後編)」の2の図「子会社ガバナンスの手法」の契約部分参照)、人の派遣(第6回の2-2参照)、仕組みの導入(第6回の2-3参照)によるガバナンスの設計を行い、内部統制として構築、運用する必要があります。

(1)子会社のガバナンス

  • 親会社の役職員をどのように、子会社の役員・使用人等へ派遣または兼務させるか
  • 彼らの職務執行の適正を確保のために、彼らの権限と責任をどう設定するのか
  • 子会社における業務の適正を確保のために、子会社の意思決定についての親会社の関与度をどう設定するか

などです。

(2)子会社のコンプライアンス

子会社の役職員のコンプライアンスを誰がどのように促すのかです。

(3)子会社の内部統制

グループ経営管理の観点での内部統制は、財務報告の信頼性確保のための金融商品取引法の内部統制(J-SOX)とは、まったく異なる視点で捉えることが肝要です。会社法内部統制の根幹として、子会社が保有する情報への親会社のアクセス権の確保や、親会社が子会社に提供した情報の子会社での管理に関する事項の2つが特に重要となります。

(4)親会社としての規律

親会社としての規律には、不祥事の防止と合理的な取引条件という2つの側面があります。すなわち、親子間の取引について、親会社の不当な圧力を防止するための体制をどう親会社側として整備するかということです。
子会社に対する架空取引の指示など、子会社に対する親会社の不当な圧力を防止するための体制が必要です。特に前項でご説明した、事業部ラインの管理下で子会社を管理する「事業部門管理方式」の場合に、しっかりと確認すべき規律となります。

以上、①の会社法本体に格上げされた項目(企業集団の内部統制の大本の根本的な事項)として考慮すべき事項をお伝えしました。次回の下編では、引き続いて、上図②以降の施行規則の各決議事項から、グループ経営管理の在り方を見ていきます。


コラム「子会社不正と親会社役員の不適切対応」

親会社取締役の不適切対応について

渡辺:
子会社不正と親会社の役員の役割という観点で、まず、親会社取締役にはどのような不適切対応が見られますか。

西谷:
親会社取締役の場合、子会社不正に自身が関与していなくとも、(1)子会社の不正を発見できなかったり、あるいは、(2)不正の兆候を認識していたにもかかわらず、対応をとらなかったりしたケースについて、善管注意義務違反を問われる場合もあります。

渡辺:
まず、(1)親会社取締役が子会社の不正を発見できなかったケースとして、どういった事例があるのでしょうか。

西谷:
たとえば、「第10回 不正会計 ‐ 子会社経営者不正(前編)」で取り上げられた事例⑧の注文住宅会社(以下A社といいます)の子会社による不適切取引の事例(2014年)では、A社の取締役(および監査役)が、子会社の行う新規の太陽光発電事業の問題点を認識する端緒があったにもかかわらず、発見できなかったとされました。
下記は調査報告書に記載された、子会社の中期事業計画です。平成24年6月開催の取締役会で提出され、売上高と営業人員の推移を示したものです。

年度 平成25年5月期 平成26年5月期 平成27年5月期
売上高(千円) 1,665,087 4,140,704 6,681,739
営業人員 10 15 20

調査報告書では、売上高が4倍以上伸びているにもかかわらず、営業人員の伸びはわずか2倍に止まっていること、運転資金の計画が不明であること、太陽光事業に精通した人材もいないゼロからのスタートであったことから、「実現可能性に疑問を抱くのが通常の事業計画であったように思われる。同計画については、A社の経営企画部において事前にチェックした上で、子会社の取締役会に上程されていたのであるから、その時点で、A社の経営企画部や子会社の当該取締役会に出席していた(A社の)取締役・監査役において、事業計画の実現可能性に疑問を抱き、ビジネスモデル等の詳細について確認していれば、ビジネスモデル等に問題があったことに気付いた可能性がある」と認定されています。

その他、この件では、子会社の重要取引に関して子会社の取締役会決議が行われなかったことや、当該子会社において、財務状況等に疑義のある取引先との取引を漫然と継続した点等についてA社の取締役の善管注意義務違反の可能性が指摘されています。

渡辺:
次に、(2)親会社取締役が子会社不正の兆候を認識していたにもかかわらず、対応をとらなかったケースについては、どんな事例がありますか。また、その他の事例についても教えてください。

西谷:
第10回 不正会計 ‐ 子会社経営者不正(前編)」で取り上げられた事例⑦の首都圏基盤の個別指導受験塾の連結子会社において行われた不適切会計事案(2014年)では、親会社の専務・常務について、「C専務については,過去5年間にわたり専務取締役及び代表取締役社長として大ブロック長会議・ブロック長会議・リーダー会議等に短時間ながらも出席し,各教室の目標や実績を一応把握していたと認められることなどに照らせば,C専務は本件不適切な会計処理を黙認していたと言わざるを得ない」「D常務については,自ら売上の不適正計上を指示していたことを示すメールが存在している上,ヒアリングに対して,本人が売上の不適正計上を指示し,また黙認したことを概ね認めている」と調査報告書で認定されています。また、子会社の社長や一部取締役についても、不適正計上を黙認・放置していた点や、売上の不適正計上について部下の教務指導部長から相談を受けて、了承していた点が同様に認定されています。

さらに、大手製菓会社の子会社における棚卸資産の過大計上事案では、子会社社長につき、①在任中、少なくとも4回の取締役会で子会社の棚卸資産の量が議題にのぼったが、子会社経理部長から聞いた理由を説明するに留まり、それ以上の調査を行わせなかったこと、また、②親会社の海外事業部からのメールに対して、製品在庫の過大さに問題意識を持つ返信を行いながら、実際には副社長以下に調査の指示をしなかったこと、③社内調査開始後、子会社経理部長から不正会計処理の事実を伝えられながら、その事実を数週間にわたり、親会社に報告していないことから、調査委員会は、「(子会社)社長自身の保身とも解され得る行為」であり、対応として「不適切であったと言わざるを得ない」と断じています。

このように、不正を指示した場合はもちろんのこと、直接不正に関与していない場合であっても、不正の端緒を窺い知ることのできる機会(会議への出席、関連資料の受領、経理部長からの不正の報告)がありながら適切な対応を行わなかった場合には、親会社取締役あるいは子会社取締役としての善管注意義務違反に問われる可能性があります。

親会社監査役の不適切対応について

渡辺:
親会社の監査役が子会社不正の対応について責任を問われるのは、どのような場合ですか。

西谷:
監査役は、取締役の業務執行を監督し、また、危機対応時には第三者委員会のメンバーとして対応することもあります。ですから、子会社不正の予防・発見ができなかったり、あるいは危機対応時の対応が不十分であったりすると、調査報告書の中でその旨の指摘がなされることも少なくありません。

渡辺:
子会社不正における、親会社の監査役の平時対応上の不適切対応としては、どういった行為が該当し得るのでしょうか。

西谷:
平時対応としては、①不正を起こした子会社に対する監査計画が未作成であったり、あるいは、監査計画の内容が不十分とされた事例、②子会社への往査や、不正の兆候を把握した後の調査が不十分とされた事例、③子会社の常態化した会社的・組織的不正を看過したとされた事例、④子会社に対する平時の業務監査が不十分であるとされた事例などがあります。

渡辺:
子会社不正における、親会社監査役の危機対応時の不適切対応としては、どんな点が挙げられますか。

西谷:
危機対応としては、まず、(A)初動の不適切対応として、①内部監査室や監査法人から上げられた不正の兆候に関する情報を生かせなかったケース、②内部告発や外部報道を生かせなかったケース、③子会社取締役の善管注意義務違反の事実を把握していながら調査を行わなかったケースなどがあります。
また、(B)不正調査中の不適切対応として、①第三者委員会の調査を妨害したケース、②社内調査委員会のメンバーとして関与していた際に証拠を隠蔽してしまったケースも見られます。
なお、取締役ほど事例は多くありませんが、監査役自身が不正に関与していたケースもあります。

渡辺:
親会社の監査役として子会社不正対応の責任が問われる場面は、広がっているのでしょうか。

西谷:
はい。子会社不正に限りませんが、マネジメントレベルの不正としては、取締役による不正が圧倒的に多い中、取締役の業務執行の監視が監査役のメインの役割であること、三様監査等のチャネルを通じて不正の予防・発見が期待されていることから、監査役に対する役割期待(上記平時対応や、危機対応時の不適切対応のうち、(A)参照)は広がっていると思われます。また、危機対応時においても、明白な利害関係がないかぎり、第三者委員会への積極的な参加が監査役に求められていますから、その中での不適切対応(上記(B)参照)も善管注意義務違反の対象となり得るので、注意が必要です。


  1. 海外事業部という名前を使って説明していますが、もちろん国際事業部など他の呼称の場合もあります。 ↩︎

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