金融庁「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」(第1回)の概要

コーポレート・M&A

目次

  1. 本会議開催の経緯
  2. アクション・プログラム2025が示唆する具体的な検討の方向性
    1. CGコードのスリム化/プリンシプル化
    2. 稼ぐ力の向上に向けたCGコードの見直し等の検討
    3. 情報開示の充実・投資家との対話促進に向けたCGコードの見直し等の検討
    4. 取締役会事務局の機能強化
  3. CGコードのスリム化/プリンシプル化
    1. 現状の課題に関する指摘
    2. 企業・投資家の声
    3. 諸外国の状況
    4. 再整理の方向性(案)
  4. 本会議での議論の主題
    1. 総論
    2. CGコードのスリム化/プリンシプル化
    3. プリンシプルベース、コンプライ・オア・エクスプレインの趣旨の再周知

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.236」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 金融庁は10月21日、「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」(令和7年度第1回)を開催しました。本稿では、本会議の概要についてご紹介いたします。

本会議開催の経緯

 2014年にスチュワードシップ・コードが、2015年にコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」)が策定されてから約10年が経過し、両コードの下で、コーポレートガバナンス改革には一定の進捗が見られました。他方で、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向け、形式的な対応にとどまることなく、企業と投資家の双方の取組におけるコーポレートガバナンス改革の実質化が重要である、との指摘がなされています。

 こうした中、金融庁が本年6月30日に公表した「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」(以下「アクション・プログラム2025」)では、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向け、2023年4月、2024年6月に策定された「アクション・プログラム」を踏まえて実質化・実践に向けた取組みを実施するとともに、企業と投資家の自律的な意識改革に基づくコーポレートガバナンス改革の実質化を引き続き促しつつ、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に真に寄与する「緊張感ある信頼関係」に基づく対話の促進に向け、CGコード見直し(第三次改訂)を行うほか、必要な環境整備を推進することが示されました。これを受け、本会議が開催されることとなりました。

アクション・プログラム2025が示唆する具体的な検討の方向性

CGコードのスリム化/プリンシプル化

 上場企業の対応コスト・開示負担に配慮し、CGコード策定・改訂時から一定期間が経過し実務への浸透が進んだ箇所等を削除・統合・簡略化し、前回改訂時(2021年)以降に法制化された内容との重複排除に努めるなど、CGコードのスリム化/プリンシプル化も同時に検討すること、あわせて、CGコードがプリンシプルベースかつコンプライ・オア・エクスプレインのアプローチを採っている趣旨の再周知に努めることが示されました。

稼ぐ力の向上に向けたCGコードの見直し等の検討

(1)多様な投資機会を認識することの重要性

 経営資源の配分先には、設備投資・研究開発投資・地方拠点の整備等・スタートアップ等を含む成長投資、人的資本や知的財産への投資等、様々な投資先が考えられ、これらの多様な投資機会があることを認識することが重要であるとの考え方が示されました。

(2)現状の資源配分が適切かを不断に検討しているか

 投資等のための経営資源の配分(上記(1))に関し、現状の資源配分が適切かを不断に検証しているか、例えば現預金を投資等に有効活用できているかの検証・説明責任の明確化を検討すること(cash hoarding問題)が示されました。

情報開示の充実・投資家との対話促進に向けたCGコードの見直し等の検討

 上場企業における有価証券報告書(以下「有報」)の定時株主総会(以下「総会」)前開示の取り組みをさらに促すべく、総会前開示に係る要請を受けた企業の対応状況を有報レビューによりフォローアップしつつ、CGコードの見直し等を検討するとともに、環境整備に向け制度横断的な検討を進めるとの考え方が示されました。

取締役会事務局の機能強化

 取締役会が迅速・果断な意思決定に加えて、独立した客観的な立場から経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うことを更に後押しする観点からは、取締役会のあるべき姿についての本質的な議論を行うことが重要であるとの前提の下、特に、グローバルに活躍する上場企業については、意思決定・監督を行うボード機能と経営を担うマネジメント機能の分離を進めるべきとの指摘がなされています。

 そのうえで、取締役会が上記の役割を果たすためには、取締役会の議論が実効的なものとなるよう、議題設定や運営の工夫が必要であり、執行側のみにおもねることなく自律的に機能し、議長や独立社外取締役を含む取締役をサポートする取締役会事務局が重要な役割を果たすとの考えに基づき、今後の方向性として、独立社外取締役の果たすべき役割や取締役会事務局(コーポレートセクレタリー)の機能強化について、企業の担当者や様々な関係者が実務上の課題やそれへの対応を議論・共有する場として、「コーポレートガバナンス実践コンソーシアム(仮)」を立ち上げ、「取締役会の機能強化の取組みに関する事例集」で共有する事例を更に充実させることが示されました。

CGコードのスリム化/プリンシプル化

 上記で示された4項目のうち、CGコードのスリム化/プリンシプル化の検討にあたっては、本会議資料にて、以下のとおり課題や方向性が示されました。

現状の課題に関する指摘

  • 形式的なコンプライにとどまっている場合もあり、各主体の間で取組みの質に大きな差がある。
  • プリンシプルベースかつコンプライ・オア・エクスプレインのアプローチを採っている趣旨に立ち返り、すべての企業・投資家において、共通して必要となる対応に加え、各主体の規模や置かれた状況に応じ、きめ細かく必要な取組みを検討することが必要。
  • CGコードを形式的に遵守することより、むしろ丁寧にエクスプレインすることも重要。

企業・投資家の声

  • 企業からの声:他の開示書類との重複もあり開示負担が大きい。
  • 投資家からの声:企業の対応が実質化され、必要な情報が適切に開示されることが重要。

諸外国の状況

  • 諸外国では、コンプライ・オア・エクスプレインの対象とせずに、企業に対するアドバイスや各原則への対応方法の具体例等を示している例(英、独等)があり、これにより、企業の開示負担を軽減しつつ、コードへの対応の実質化が図られている。
  • 英国のCGコード改訂(2024年)においても、企業の報告負担を最小限に抑えつつガバナンスの質を向上させることを意図して、的を絞ったアプローチを採用。

再整理の方向性(案)

 上記を踏まえ、以下のとおり再整理の方向性(案)が示されました。

(出所)本会議事務局説明資料(金融庁)11ページ

本会議での議論の主題

 上記の方向性を踏まえ、本会議では、CGコードの実質化に向け、以下の内容が議論の主題として挙げられています。

総論

  • 企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上というコーポレートガバナンス改革の趣旨に照らして、CGコードが果たしている役割と、コーポレートガバナンス改革の実質化に向けた今後の課題をどう考えるか。そうした課題を踏まえ、アクション・プログラム2025で示唆された検討の方向性について、どう考えるか。
  • CGコードの中で、形式的な遵守にとどまっていることにより、ガバナンス改革の実質化の妨げとなっている原則はあるか。

CGコードのスリム化/プリンシプル化

  • 補充原則を中心に再整理を行うことについて、どう考えるか。
  • 上記に加えて、スリム化の観点から、複数箇所に記載されている同一のテーマの事項を統合することについて、どう考えるか。

例:株主に関する記載(第1章(株主の権利・平等性の確保)・第5章(株主との対話))

サステナビリティ課題への対応、経営戦略等の策定・実行等と経営資源の配分

プリンシプルベース、コンプライ・オア・エクスプレインの趣旨の再周知

  • プリンシプルベース、コンプライ・オア・エクスプレインの趣旨を再周知する観点から序文を設けることについて、どう考えるか。

【ご参考】

問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務グループ
03-6747-0307(代表)

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