民法改正の企業法務への影響

第2回 民法改正によって民法総則・債権総則の規律はどう変わるか

取引・契約・債権回収

目次

  1. 消滅時効
    1. 時効期間の統一化
    2. 時効の進行の規律の見直し
  2. 詐害行為取消権
  3. 保証
    1. 公正証書による意思確認を必要とする個人保証
    2. 保証人に対する情報提供
    3. 根保証の規律の適用範囲の拡大
  4. 債権譲渡
    1. 譲渡制限特約の効力の見直し
    2. 異議をとどめない承諾による抗弁の切断制度の廃止
  5. 法定利率

 本稿では、第1編「総則」および第3編「債権」第1章「総則」の条文について民法改正法により現行民法の下での規律が変更される内容のうち、消滅時効、詐害行為取消権、保証、債権譲渡、法定利率に関する主な改正事項を解説します。

消滅時効

時効期間の統一化

 現行民法では、債権の消滅時効の時効期間について、原則として権利を行使することができる時から10年とされており(現行民法166条1項・167条1項)、時効期間の特則として、職業別の区分による1~3年という短期の時効期間が定められています(現行民法170条~174条)。また、商法522条には、商行為によって生じた債権について時効期間を5年とするという商事消滅時効の特則が定められています。

 今回の改正により、職業別の区分による短期の時効期間と商事消滅時効の特則を廃止したうえで、債権は、原則として以下のいずれかに該当する場合に時効によって消滅すると改められています(改正民法166条1項)。

  1. 債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき
  2. 権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間行使しないとき

 この改正は、現行民法の客観的起算点から10年という時効期間に加えて、「債権者が権利を行使することができることを知った時」という主観的起算点から5年という時効期間を適用することとしたうえで、時効期間の統一化を図るものといえます。なお、生命・身体の侵害による損害賠償請求権の客観的起算点からの時効期間については20年とする(改正民法167条)などの特例が定められているほか、民法以外の法律に定められている時効期間の特則は維持されているものが多く、全ての時効期間が統一化されたわけではありません。

 債権の典型的なものとしては契約に基づく債権が想定されますが、契約に基づく債権についてはその発生時に債権者が権利を行使できることを知っていることが通常であり、基本的に主観的起算点と客観的起算点が重なることになり、主観的起算点からの短期の時効期間(5年)が適用されることになると考えられます。

時効の進行の規律の見直し

 改正民法では、時効の進行に関する規律の整理・再編が行われており、「時効の停止」に対応するものとして「時効の完成猶予」という概念が、「時効の中断」に対応するものとして「時効の更新」という概念が、それぞれ用いられています。そのうえで、時効の完成猶予・更新の規律について、大枠は現行の時効の停止・中断の規律を維持しつつ、対象となる事由や効果が整理されています。

【時効の完成猶予】

完成猶予事由 時効の完成が猶予される期間
裁判上の請求・支払督促・訴訟上の和解・調停・倒産手続への参加(147条1項) 事由の終了時(確定判決等により権利が確定することなく終了した場合は終了後6か月が経過した時)まで
強制執行・担保権の実行・担保権の実行としての競売・財産開示手続(148条1項) 事由の終了時(申立ての取下げ・取消しの場合は、その時から6か月が経過した時)まで
仮差押え・仮処分(149条) 事由が終了した時から6か月を経過した時まで
催告(150条1項) 催告の時から6か月を経過した時まで
権利についての協議を行う旨の書面による合意(151条1項) 以下のうちいずれか早い時まで
  1. 合意があった時から1年を経過した時(通算で最長5年まで延長可)
  2. 合意において当事者が協議を行う期間(1年未満)を定めたときは、その期間を経過した時
  3. 当事者の一方が相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、通知の時から6か月を経過した時
天災その他避けることのできない事変(161条) 障害が消滅した時から3か月を経過した時まで
※未成年者・成年被後見人と時効の停止、夫婦間の権利の時効の停止、相続財産に関する時効の停止(158条~160条)については表現を変更したうえで、現行民法の規律を維持

【時効の更新】

更新事由
確定判決・確定判決と同一の効力を有するものによる権利の確定(147条2項)
強制執行・担保権の実行・担保権の実行としての競売・財産開示手続(148条2項)
権利の承認(152条1項)

 現行民法では時効の中断事由である仮差押え・仮処分(現行民法147条2号)が時効の完成猶予事由とされていること(改正民法149条)、権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、一定期間、時効の完成が猶予されること(改正民法151条1項)などは、債権管理の実務に影響を与えるものと考えられます。

詐害行為取消権

 今回の改正により、詐害行為取消権の一般的な要件について、被保全債権が詐害行為より前の原因に基づいて生じた場合であれば詐害行為取消請求をすることができる旨を定めるなど、要件が明確化されています(改正民法424条)。また、倒産手続における否認制度と同様に、以下のとおり詐害行為の類型ごとに詳細な要件が規定されています。

  1. 相当の対価を得てした財産の処分行為の特則(改正民法424条の2)
  2. 偏頗行為の特則(改正民法424条の3)
  3. 過大な代物弁済等の特則(改正民法424条の4)
  4. 転得者に対する詐害行為取消し(改正民法424条の5)

 また、行使請求の方法(改正民法424条の6)、行使手続(詐害行為取消訴訟の当事者など。改正民法424条の7)および行使後の権利関係(改正民法424条の8・424条の9)を明確化する改正が行われているほか、詐害行為取消請求を認容する確定判決の効力が債務者にも及ぶとすること(改正民法425条)、詐害行為取消権を行使できる期間の制限を行為の時から20年から10年に変更すること(改正民法426条)などの改正が行われています。

保証

 保証については、主に個人保証人の保護を拡充する観点から、現行民法には定められていない規律が今回の改正によって追加されています。

公正証書による意思確認を必要とする個人保証

 個人が保証人となる保証契約のうち、事業のために負担した貸金等債務(金銭の貸渡し・手形の割引を受けることによって負担する債務)を主債務とする保証契約(およびそのような貸金等債務を主債務の範囲に含む根保証契約)については、原則として保証人になろうとする者が一定の方式に従って公正証書により保証債務を履行する意思を表示して行わなければ、効力を生じないとされています(改正民法465条の6)。

 この規律には一定の例外が設けられており、主債務者の取締役や総株主の議決権の過半数を有する者、あるいは、主債務者が個人事業主である場合の共同事業者や主債務者が行う事業に従事している主債務者の配偶者などが保証人となる保証契約については、いわゆる経営者保証またはそれに準じるものとして、適用除外とされています(改正民法465条の9)。

 この規律は、一定の個人を保証人とする保証契約について、公正証書による意思表示の手続をとらない限り無効とするという制度ですが、適用範囲は限定されており、①法人による保証や②前述の経営者保証の例外に該当する場合には適用されないほか、③貸金等債務以外を主債務とする保証や④主債務者が事業のため以外の目的で負担した貸金等債務を主債務とする保証は、この規律の対象とはなりません。

保証人に対する情報提供

 改正民法では、以下に述べるとおり、複数の場面で保証人に対する情報提供を充実する規定が定められています。

(1)契約締結時の情報提供

 主債務者は、事業のために負担する債務を主債務とする保証について個人に委託するときは、委託を受ける者に対し、以下の情報を提供しなければなりません(改正民法465条の10第1項・3項)。

  • 財産・収支の状況
  • 主債務以外に負担している債務の有無、その額・履行状況
  • 主債務の担保として他に提供し、または提供しようとするものがあるときは、その旨・その内容

 そして、①主債務者がこれらの情報を提供せず、または事実と異なる情報を提供したために、委託を受けた者がこれらの事項について誤認した場合で、②主債務者が情報を提供せず、または事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り、または知ることができたときには、保証人は、保証契約を取り消すことができます(改正民法465条の10第2項)。

 この情報提供義務の主体は主債務者であり、債権者が情報提供を行うことが必要となるわけではありませんが、主債務者が義務違反をした場合には保証契約が取り消される可能性が生じることになり、債権者の利害関係にも関わることに注意が必要です。

(2)主債務の履行状況に関する情報提供

 主債務者の委託を受けて保証人となった者からの請求があったときは、債権者は、保証人に対して、遅滞なく、主債務の元本および主債務に関する利息、違約金、損害賠償その他主債務に従たるすべてのものについて、不履行の有無、残額および履行期限が到来しているものの額に関する情報を提供しなければなりません(改正民法458条の2)。

 この規定の対象は、主債務者の委託を受けた者を保証人とするすべての保証契約であり、主債務が貸金等債務かどうか、あるいは、事業のために負担したものかどうかにかかわらず、適用されることになります。また、保証人が個人の場合だけでなく、法人である場合にも適用されます。

(3)主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供

 主債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は、個人保証人に対して、期限の利益の喪失を知った時から2か月以内にその旨を通知しなければなりません(改正民法458条の3第1項・3項)。この通知を怠った場合の効果として、債権者は、主債務者が期限の利益を喪失した時から債権者がその旨の通知を現にするまでに生じた遅延損害金について、保証債務の履行を請求できなくなります(改正民法458条の3第2項)。

 この規律は、主債務者が期限の利益を喪失した場合に債権者が通知をすることを求めるものですので、期限が到来した主債務について主債務者が履行しなかったような場合は、この情報提供義務の対象とはならないと考えられます。

【保証人保護の規律の対象範囲】

条文 制度内容 対象範囲
465条の6 公正証書による意思確認を必要とする個人保証 事業のために負担した貸金等債務を主債務とする個人保証(経営者保証を除く)
465条の10 契約締結時の情報提供 事業のために負担する債務を主債務とする個人保証
458条の2 主債務の履行状況に関する情報提供 委託を受けた保証人による保証(法人保証も含む)
458条の3 主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供 個人保証

根保証の規律の適用範囲の拡大

 現行民法では、保証人を個人とし、貸金等債務が被保証債務に含まれる根保証契約(貸金等根保証契約)に限って、保証人保護のための特則が定められています(現行民法465条の2~465条の5)。改正民法では、これらの特則のうち、以下のものについて、保証人を個人とする根保証契約(個人根保証契約)一般に適用することとされています。

  • 465条の2に基づく極度額の規律
  • 465条の4に基づく元本確定事由の規律(※)
    (※)主債務者に対して強制執行・担保権実行の申立てを行った場合、主債務者が破産手続開始決定を受けた場合は、現行のまま貸金等根保証契約についてのみ元本確定事由となる。

債権譲渡

譲渡制限特約の効力の見直し

 現行民法では、当事者間で債権譲渡を禁止する特約がある場合、悪意または重過失の第三者に特約を対抗でき(現行民法466条2項)、特約に違反する譲渡は無効と解されています。

 改正民法では、債権譲渡による資金調達を促進するなどの観点から、この規律を改め、債権の譲渡を禁止し、または制限する旨の意思表示(譲渡制限特約)に反する債権譲渡についても、原則として有効としています(改正民法466条2項)。そのうえで、譲渡制限特約を合意することで相手方を固定化することを望んだ債務者の利益にも配慮して、譲受人が悪意・重過失のときは、債務者は譲受人に対して以下の内容を対抗することができます(改正民法466条3項・466条の2)。

  • 債務者は、譲受人に対して債務の履行を拒むことができる。
  • 債務者は、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって譲受人に対抗することができる。
  • 債務者は、譲渡制限特約付の金銭債権が譲渡された場合には、供託を行うことも認められる。

 他方で、譲渡制限特約付の金銭債権の譲受人の利益を保護する観点から、譲渡人について破産手続開始の決定があった場合には、譲受人は、引き続き債務者に直接自らに弁済をするよう求めることはできませんが、債務者に対して金銭債権の全額に相当する金銭の供託を求めることができます(改正民法466条の3)。

【譲渡制限特約の効力】

 この改正により、企業が債権譲渡(債権譲渡担保)を利用した資金調達を行いやすくなる可能性があると考えられます。もっとも、譲渡制限特約付債権の譲渡が有効となるとしても、実務的に、債権者が債務者との合意に反するような債権譲渡を広く行うことになるのか、必ずしも明確ではないと思われます。また、債務者の立場から見ると、譲渡制限特約を合意していても債権者(譲渡人)に破産手続が開始した場合には取引の相手方以外の者から供託の請求を受ける可能性が生じることになり、債務管理の場面での留意点が増えることになります。

異議をとどめない承諾による抗弁の切断制度の廃止

 現行民法では、債務者が異議をとどめないで債権譲渡について承諾をしたときは、債務者が譲渡人に対抗することができた事由があっても、これを譲受人に対抗することができないとし(現行民法468条1項)、債務者の異議をとどめない承諾に抗弁の切断の効果を認めています。もっとも、この異議をとどめない承諾の規律に対しては、債務者が単に債権譲渡を承諾した場合に抗弁の切断という効果を認めることは、債務者の保護の観点から妥当ではないという指摘がなされていました。

 そこで、改正民法では、現行民法468条1項の規定を削除し、異議をとどめない承諾によって抗弁を切断する制度を廃止しています。そのうえで、債務者が譲渡人に対して有する抗弁の影響を受けずに譲受人が債権を譲り受けようとする場合には、債務者による抗弁の放棄という意思表示の一般的な規律によって対応すべきものと整理されています。

法定利率

 現行民法では、当事者間の合意がないときに適用される法定利率は年率5%と定められています(現行民法404条)。

 改正民法では、民法改正法の施行時点での法定利率を年率3%に引き下げたうえで(改正民法404条2項)、国内銀行の短期の貸出約定平均金利の直近5年間の平均値の変動に応じて3年ごとに1%刻みで改定する変動制を導入しています(改正民法404条3項・4項)。また、これに合わせて商行為によって生じた債務について年率6%の利率を適用する商事法定利率の規定(商法514条)は削除されます。

 法定利率は当事者間に利率に関する合意がない場合に適用されるものですので、契約上、利率についての合意がなされていれば、合意内容が優先されることになります。たとえば、売買契約などで遅延損害金の利率を合意していない場合に代金の支払いが遅れた場合や、不当利得や不法行為などの法定債権の遅延利息が発生した場合には、法定利率が適用されることになり、改正によって法定利率の値が変動することによる影響が生じることになります。

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