民法改正の企業法務への影響

第1回 改正の経過と全体像

取引・契約・債権回収

目次

  1. 総論
    1. 改正民法の成立
    2. 法制審議会への諮問
    3. 法制審議会での審議
  2. 国会での審議
  3. 改正の全体像
    1. 見直しの対象範囲
    2. 確立した解釈の明文化
    3. 規律の変更を伴う改正
  4. 企業法務への影響が見込まれる主な改正項目

総論

改正民法の成立

 平成29年5月26日に「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律第44号。以下「民法改正法」といい、民法改正法による改正後の民法を以下「改正民法」といいます)が国会で可決成立しました。今回の民法改正は、民法のうち財産法の分野では、明治29年の制定以来、初めて抜本的な見直しを行う改正と言うことができます。主に債権や契約に関する規定が見直しの対象となっていることから、「債権法改正」とも呼ばれています。

法制審議会への諮問

 今回の改正について公的な議論が始まったのは、法務大臣の諮問に応じて法務全般に関する基本的な事項を調査審議するための会議体である法制審議会の第160回会議(平成21年10月28日開催)において、法務大臣より「諮問第88号」として、「民事基本法典である民法のうち債権関係の規定について、同法制定以来の社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かりやすいものとする等の観点から、国民の日常生活や経済活動にかかわりの深い契約に関する規定を中心に見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい」という諮問が行われたことによります。

 ①社会・経済の変化への対応を図ること、②国民一般に分かりやすいものとすることといった抽象的な事項が見直しの目的として示されており、具体的・個別的なニーズに応じた改正ではなく、一般的な観点からの見直しといえます。

法制審議会での審議

 この諮問第88号を受けて、法制審議会では、部会長を鎌田薫早稲田大学教授として民法(債権関係)部会(以下「民法部会」といいます)を設置し、平成21年11月24日から民法部会での審議が始まりました。最終的には、5年以上の審議を経て、民法部会第99回会議(平成27年2月10日開催)において「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」が決定され、最終的にその内容のまま法制審議会第174回会議(同年2月24日開催)において「民法(債権関係)の改正に関する要綱」(以下「改正要綱」といいます)として採択され、法務大臣に答申されました。

 改正要綱が取りまとめられるまでには、民法部会での議論のほか、「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」(平成23年5月10日公表)と「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」(平成25年3月11日公表)の2段階でパブリック・コメントの手続が実施され、一般からの意見提出の機会が設けられていました。今回の民法改正は、近年の立法作業の中でも、法律案の策定までに特に多くの時間と労力がかけられたものと評価することができます。

 民法部会での審議の中では、現行民法の条文の趣旨を明確化するものや、現行民法の下での判例・学説によって確立している解釈を明文化する改正だけでなく、現行民法の規律を改める提案も広範に検討されていました。もっとも、審議が進むにつれ、相手方の不実表示によって錯誤が生じた場合の規律の明文化、債権譲渡の対抗要件の見直し、事情変更の法理の明文化など民法部会の中で合意が困難と見込まれる改正提案の多くが検討対象から除外され、現行民法の規律を維持する方針とされました。

 そのため、審議の初期に議論されていた内容と比べると、民法改正法の中で現行民法の規律を改める内容は限定的となっていますが、それでも今回の民法改正では見直しの対象が広い範囲に及ぶこともあり、企業法務に影響を及ぼす多数の改正が含まれています

国会での審議

 改正要綱の内容を踏まえ、平成27年の通常国会で「民法の一部を改正する法律案」(平成27年閣法第63号。以下「民法改正法案」といいます)が上程され、国会での民法改正の審議が始まりました(民法改正法案とあわせて、民法の改正に伴って必要となる他の法律の改正を内容とする「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」(平成27年閣法第64号)も上程されています)。

 もっとも、政治情勢との兼ね合いもあり、法案が提出された後、実質的な審議が開始しない状況がしばらく続いていましたが、平成28年の臨時国会から衆議院で民法改正法案の実質的な審議が始まり、数十時間に及ぶ審議を経て平成29年4月14日に衆議院で6項目の附帯決議を付して可決され、さらに、5月26日には参議院でも12項目の附帯決議を付して可決され、民法改正法が成立しました。民法改正法の施行日は公布の日(平成29年6月2日)から3年以内と定められていますので、遅くとも平成32年の6月までには新しい民法が施行されることになります。

【民法改正の審議経過】

改正の全体像

見直しの対象範囲

 民法については、明治29年に制定された後、昭和22年に日本国憲法制定に伴い家族法(親族法・相続法)の全面的な改正が行われており、また、財産法の分野についても、平成17年に施行された改正で、それまで片仮名で書かれていた内容を平仮名とするなど口語化のための全面的な改正(規定の内容自体は基本的に従来のものが維持されました)が行われています。このほかにも、これまで、部分的には民法の改正が行われてきています。
 もっとも、民法の財産法の分野について、今回の改正のように抜本的に内容を見直す改正は、民法制定以来、初めてと言うことができます。

 民法改正法による見直しの主な対象範囲を改正される条文として見ると、第1編「総則」のうちの第5章「法律行為」・第7章「時効」、第3編「債権」のうちの第1章「総則」・第2章「契約」の規定であり(なお、民法部会では第1編第6章「期間の計算」の規定の見直しも議論されましたが、民法改正法では第1編第6章の条文は改正の対象となっていません。また、これらの分野に関連して、他の編・章の条文の改正も行われています)、非常に広範な分野に及ぶ改正となっています。他方で、財産法の分野の中でも、物権や法定債権に関する規定については、一部の規定を除き、今回の見直しの対象とはなっていません

【民法改正の全体像】

確立した解釈の明文化

 改正事項の大きな割合を占めるのは、現行民法の条文の趣旨を明確化するための改正や、確立した判例・学説を明文化するための改正であり、たとえば、詐害行為取消しの手続の規定が整備されたり(なお、詐害行為取消しの要件・効力などについて現行民法の規律を変える改正も行われています)、不動産賃貸に関する賃貸人たる地位の移転や敷金に関する判例法理の明文化などが行われています。

 このような改正については基本的に現行民法の下での規律を変更するものではなく、実務に影響を与えるものではないと考えられます。もっとも、コンセプトが確立しているような解釈であっても、明文化されることによりニュアンスの違いが生じることがあると考えられますが、そのような違いにより、具体的な事案によって結論が異なる可能性もあることになります。

規律の変更を伴う改正

 また、前述のとおり、法制審議会の審議の初期に議論されていた内容と比べると限定的ではあるものの、見直しの対象が広い範囲に及ぶこともあり、企業法務に影響を及ぼす多数の改正が行われることが予定されています。ここで、民法改正法案の提出理由は、「社会経済情勢の変化に鑑み、消滅時効の期間の統一化等の時効に関する規定の整備、法定利率を変動させる規定の新設、保証人の保護を図るための保証債務に関する規定の整備、定型約款に関する規定の新設等を行う必要がある」とされており、具体的な改正内容として、消滅時効、法定利率、保証、定型約款の4項目が例示されています。

 これらの4項目は現行民法の規律を改める改正内容となっていますが、提出理由に明示されていないものでも、現行民法の規律を変更するような改正も多く存在します。

企業法務への影響が見込まれる主な改正項目

 提出理由に例示された4項目を含めて、現行民法の規律を変更し、企業法務に影響を及ぼすことが想定される主な改正項目としては、次のようなものがあげられます。

消滅時効

  • 職業別の短期消滅時効・商事消滅時効を廃止したうえで、主観的起算点からの時効期間を導入する形での時効期間の統一化
  • 時効の停止・中断の概念を時効の完成猶予・更新の概念に整理再編することによる時効の進行の規律の見直し

詐害行為取消権

  • 詐害行為の類型ごとに要件を規定
  • 詐害行為取消権の行使手続・行使後の権利関係の明確化

保証

  • 一定の金融債務を主債務とする個人保証について公正証書による意思確認を効力要件とする
  • 保証人に対する情報提供義務の拡充

債権譲渡

  • 譲渡制限特約に抵触する債権譲渡を有効としたうえで、債務者が譲渡制限特約を抗弁として主張できるようにする
  • 異議をとどめない承諾による抗弁の切断制度の廃止

法定利率

  • 法定利率を改正民法の施行時に年率3%に見直したうえで、変動制を導入
  • 商事法定利率の廃止

定型約款

  • 定型約款に関する規律を定め、みなし合意により相手方の同意なしに定型約款を契約内容としたり、契約を変更するための要件・手続を規定

債務不履行

  • 債務者の帰責性を債務不履行による解除の要件としないこととする

売買

  • 担保責任の法的性質を契約責任と位置づける
  • 売買の目的物に不備がある場合の買主の救済手段を整理

消費貸借

  • 書面による消費貸借を諾成契約とする

賃貸借

  • 契約期間の上限を20年から50年に延長
  • 賃貸人たる地位を留保した賃貸不動産の譲渡を認める


 以上はあくまでも一般的に企業法務への影響が生じると想定される主な項目を例示したものであり、民法改正法にはこれら以外にも現行民法の規律が改められる内容が含まれています。そのような改正により、債権管理・保全の実務や契約実務などの場面で影響が生じることになり、実務・法務を見直すことが必要となると考えられます。

この特集を見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する