スタートアップの戦略と法務のポイント

第2回 「シード期」「アーリー期」における法務・コンプライアンスのポイント

ベンチャー
川西 風人弁護士 のぞみ総合法律事務所

目次

  1. ポイント① 事業の適法性確保
    1. 早い段階から事業の適法性確保に向けた取組みをすべき
    2. グレーゾーン解消制度
    3. 規制のサンドボックス制度
    4. 新事業特例制度
  2. ポイント② 資金調達
    1. 資金調達の方法は「融資」と「出資」の2つに分けられる
    2. 融資
    3. 出資
  3. ポイント③ 知的財産権関連
    1. 他社の権利を侵害しない 商標や特許に関する事前調査が必要
    2. 自社の権利を保護する 商標や特許の登録
  4. ポイント④ 共同研究開発

 「シード期」「アーリー期」のスタートアップの場合、自社サービスの開発や営業活動に注力し、法務・コンプライアンスへの対応が後手に回ってしまうこともあるかと思います。
 しかし、事業の適法性確保、資金調達、知的財産権の視点からポイントを押さえておくことで、ビジネスの成長を促し、阻害要因を取り除くきっかけにすることも可能です。
 スタートアップの経営に関わる方々のみならず、スタートアップへの投資や協業を行う企業の法務担当の方も参考としておくと良いでしょう。
 今回は、「シード期」「アーリー期」における法務・コンプライアンスのポイントについて解説します。

ポイント① 事業の適法性確保

早い段階から事業の適法性確保に向けた取組みをすべき

 準備を進めていた新規ビジネスが、実は法令上の規制により禁止されていたような場合、それまでに費やした資金や労力が無駄になってしまいます。また、必要な許認可等を取得することなく事業を実施し、罰則を受けるといったことは避けなければなりません。
 自らが実施しようとしている事業についてどのような法令上の規制が及ぶかについては早い段階からチェックしておくことが重要です。場合によっては、適法性を確保するためにビジネスモデルを修正することも必要になります。
 もっとも、自らの事業にどのような法令上の規制が及ぶのか明確でないことも少なくありません。また、現行法上規制の対象となる場合であっても、実情に合わせた規制緩和の実施や特例を認めてもらうことで事業の実現を推進することができる場合もあります。
 上記のような場合に対応するため、政府では、産業競争力強化法に基づき、「グレーゾーン解消制度」、「規制のサンドボックス」、「新事業特例制度」といった企業単位の規制改革のための制度を設けています 1 2

グレーゾーン解消制度

 グレーゾーン解消制度は、新たな事業活動を行おうとする事業者が、現行の規制の適用範囲が不明確な分野においても、安心して新事業活動を行い得るよう、具体的な事業計画に即して、あらかじめ、規制の適用の有無を担当の行政庁に確認できる制度です。

 照会の結果、法規制の適用を受けないことが明確になれば安心して事業を進めることができますし、仮に法規制の適用があるとの結論となった場合であっても、行政庁との相談を通じて、どのようにすれば規制対象とならないかについてアドバイスを受けられる点でも、有用な制度といえます。
 たとえば、睡眠を改善したい利用者に対して、ヒアリングや簡易測定を通して睡眠環境の分析・可視化を行い、その分析結果を踏まえた睡眠環境改善アドバイスや商品提案を行うといった睡眠環境に関する総合的なコンサルティングサービスが、医師法17条において、医師のみに認められている「医業」に該当するか否かという照会に対して、同条には違反しないとの回答がなされた事例 3 があります。
 また、直近の事例 4 として、ユーザーが法務審査を希望する契約書をアプリケーション上にアップロードし、事業者においてAI技術を用いて契約審査を行うというサービスについて、弁護士以外の者が報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務の取扱いを業として行うことを規制する弁護士法72条が適用されるか否かという照会に対し、同条に違反する可能性があるとの回答がなされたことが、大きく注目を集めているところです。

規制のサンドボックス制度

 規制のサンドボックス制度は、期間、参加者その他の条件を限定すること等により、規制の適用を受けずに革新的な技術やビジネスモデルを活用した実証を迅速に行い、実証により得られた情報やデータを用いて規制の見直しにつなげていく制度です。

 当該制度を利用した例として、電動キックボードに関する実証 5 があげられます。電動キックボードは、現行法上、「原動機付自転車」(道路運送車両法、道路交通法)に該当するため、①時速30km/h以下、②車道のみ走行可能、③ヘルメットの着用義務、④運転免許が必要、等の要件を満たす必要があり、これらに適合しない利用は法令違反となります。規制のサンドボックス制度の認定を受けた電動キックボードのシェアリングサービス提供事業者は、非公道との整理がなされた大学構内において電動キックボードを走らせる実証を実施し、安全性等に関する情報収集がなされました。

新事業特例制度

 新事業特例制度は、新たな事業活動を行おうとする事業者が、その支障となる規制の特例措置を提案し、安全性等の確保を条件として、「企業単位」で、具体的な事業計画に即して、規制の特例措置の適用を認める制度です。

 上記1-3において紹介した電動キックボードに関する実証終了後、電動キックボードのシェアリングサービス提供事業者は、新事業特例制度を活用して規制の特例措置の適用を受け、最高時速を15km以下に制限する等の条件のもと、公道(普通自転車専用通行帯、自転車道走行可、ヘルメット着用は任意)で事業を実施しています。

ポイント② 資金調達

資金調達の方法は「融資」と「出資」の2つに分けられる

 資金調達の方法としては、大きく分けて「融資」と「出資」の2つの方法があります。
 融資を受ける場合の典型例としては、銀行借入があげられますが、そのほか、社債の発行等も含まれます。融資は借入であるため、いずれは返済しなくてはならず、また、通常は利息も付けて返済する必要があります。

 他方、出資の典型例は会社による新株発行です。新たに株式を発行して、それを投資家等に引き受けてもらうことで資金を得ます。株式自体ではなく、株式の発行を受ける権利である新株予約権を発行する場合もあります。
 出資の場合には、株式(または新株予約権)の対価としての払込みがなされているため、会社としては返済の義務はありません。もっとも、株式の発行により出資を受けた場合、出資者は株主となり、その意向の影響を受けて会社の運営が制限されることにもなり得ることから、安易に出資を受けることは適切ではなく、融資・出資それぞれの条件等を考慮して慎重に選択することが肝要です。

 このような融資や出資を受ける以外にも、スタートアップ等の創業支援に利用できる、国や地方自治体の補助金や助成金等の制度も多数あるため、積極的に活用することを検討すべきといえます。

融資

 シード期・アーリー期においては、事業が本格的に開始する前の段階であるため、銀行からの融資は困難なことが多いです。
 このように、起業後間もない時期に資金調達を行う場合に利用できる制度として、株式会社日本政策金融公庫(以下「日本政策金融公庫」といいます)が運営する新創業融資制度 6 や地方自治体による制度融資があるので、これらの制度の利用も検討すると良いでしょう。

 日本政策金融公庫が運営する新創業融資制度では、新たに事業を始める方や事業開始後税務申告を2期終えていない方を対象としており、無担保かつ無保証で、開業資金や運転資金の貸付を受けることができます。
 また、地方自治体が創業支援のために行っている制度融資もよく利用されています。地方自治体によりその内容や条件は異なりますが、当該制度を利用することで金融機関へ支払う利息について一定の据置き期間が認められたり、利息の補助や信用保証協会への保証料の補助が受けられたりします。

 なお、起業後間もない時期には、親族や友人からの借入により資金調達を行うこともあります。親しい間柄で貸付を受けているため、契約書まで作成しないことも多いかと思いますが、少なくとも利息の有無や、返済時期・条件等については、後で揉めごとにならないよう、書面にしておくことが望ましいといえます。

出資

(1)概要

 シード期においては、まだ事業の計画を立案したり、プロダクトを開発中の段階であるため、出資による調達額は小さく、エンジェル投資家等や親族・友人から出資を受けることが多いです。
 アーリー期においては、製品、サービス等を市場に投入し始める段階のため、シード期に比べ、開発費用やマーケティング等に多くの資金が必要となります。この時期の投資の段階を、「シリーズA」といい、一般に、数千万円から数億円規模の調達が行われます。
 以下では、シード期・アーリー期において出資を受ける際の留意点について説明します。

(2)資本政策

 株式を発行して出資を受ける場合、出資者は株主となり、株主としての議決権を保有することになります。スタートアップは、ステージごとに複数回投資を受けることが通常であるため、シード期やアーリー期において安易に多くの株式を割り当ててしまうと、後の投資ステージにおいて、創業者が適切に会社をコントロールできるだけの持株割合を維持できなくなってしまいます。

 このような状況に陥らないよう、早い段階で事業計画を策定し、どの段階でどの程度の資金が必要となるかについて想定したうえで、資本政策を策定することが重要です。

(3)投資契約

 シード期において投資を受ける際は、少額であることもあり、投資契約自体作成されないこともよくあります。もっとも、シード期であってもエンジェル投資家等から投資契約の締結を求められることはありますし、アーリー期においてシリーズAの投資を受ける際にはベンチャーキャピタルから投資契約の締結を求められるのが一般的です。

 投資契約の具体的な内容面は、ミドル期における投資の箇所で詳しく述べますが、知らない間に投資額に比して不利な条件(たとえば、投資家の事前承認が必要となる重要事項が過剰に多くないか、会社に対して株式の買取を請求する場合の条件や価格が一方的なものではないか等)を負わされていることがないかについてはよく確認しておく必要があります

 特に、前述のとおり、スタートアップは、ステージごとに複数回投資を受けることが一般的であり、通常、従前の投資の際の条件と同等以上の条件を求められることになるため、初期の段階で重い義務を負うことは避けなければなりません。

(4)創業者間契約

 会社設立時には創業者がまず出資を行いますが、複数の創業者が共同で出資を行う場合、創業者間契約を締結しておくことも重要です。
 信頼できる仲間と起業し、新しいビジネスにチャレンジすることは素晴らしいですが、事業を進めるにつれて考えにずれが生じてくる場面はよく見られるところです。

 このような場合に、たとえば2名の共同創業者が半分ずつ株式を保有していると、両者の意見が相違する事項について会社としての意思決定を行うことができなくなってしまいます。また、3分の1を超える株式を保有する共同創業者が株式を保有したまま退社してしまった場合には、特別決議事項(3分の2以上の賛成が必要な決議事項)について、退社した共同創業者の協力を得ないと承認決議ができないという事態に陥ります。

 そのため、会社を設立する際には、あらかじめ、意見が相違した場合の会社としての意思決定の方法や退社時の株式の処理(残存する共同創業者への売却など)について、創業者間契約で合意しておくことが必要といえます。

ポイント③ 知的財産権関連

他社の権利を侵害しない 商標や特許に関する事前調査が必要

 自社の商品・サービスに使用していた名称やロゴが、実は、他社によってすでに商標登録されていたものであったということがあり得ます。このような場合、商標登録をしている会社から、その商標の使用差止めや、損害賠償請求を受ける可能性があります。
 同様に、自社の商品・サービスが他社の登録している特許権を侵害していた場合には、当該特許権者から、その発明の使用の差止めや損害賠償請求を受ける可能性があります。

 このように、よく調査せずに使用していた商標や発明が実は他社の商標権や特許権を侵害していたという場合、これまでにかけた費用が無駄になるだけでなく、回収コストや損害賠償請求により多額の出費が必要となる可能性もあるうえ、レピュテーションにもかかわることから、会社にとっては非常に大きな問題となりかねません。
 そのため、商品・サービスの名称等を決める際や自社のビジネスモデルを検討する際に、すでに商標登録や特許が存在していないかについて、事前に調査しておくことは重要です。

 登録されている商標や特許は、特許庁の運営する特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)において検索することができます。このような公開情報を利用したり、弁理士等の専門家に依頼したりして、調査することが望ましいといえます。

自社の権利を保護する 商標や特許の登録

 他社の権利を侵害しないことと同様、自社の知的財産権を保護することも重要です。
 自社の商品・サービスがせっかく浸透してきたにもかかわらず、他社にその商品名やロゴ等を勝手に商標登録されてしまうようなことがないよう、主力商品やサービスについては、早い段階で商標登録を行い、権利を確保しておくことが重要です。特許権についても、ビジネスのコアとなる部分にかかわる発明については、登録をしておくことが必要です。

 また、登録の対象ではないものの、ビジネスにとって重要なアイディアやノウハウがある場合、漏えいにより他社に真似されてしまわないよう、適切に管理することが重要です。投資を受ける際や事業上の提携を行う際には、自社のビジネス上の重要なアイディア等の共有を求められることが多いですが、安易に開示を行うのではなく、秘密保持契約を締結する等して、第三者への開示や無断利用をされないよう対応することが必要です。

ポイント④ 共同研究開発

 スタートアップは、そのアイディアを実現するため、先行する技術やノウハウを持つ大学や大企業との間で、共同研究開発を行うことも多くあります。
 共同研究開発を行う際には、共同研究開発契約を締結することが多いですが、安易に情報開示を行うのではなく、秘密保持を相互に負う旨を定めておく必要があることは上記3-2と同様です。
 また、共同研究開発の結果得られた知的財産権等の成果物の帰属についても、たとえば寄与度にかかわらず相手方にすべて無償で帰属するといった不利な内容となっていないかや、自社単独で確保しておくべき権利が適切に確保できているか等、注意して確認することが必要です。

 以上、「シード期」「アーリー期」における法務・コンプライアンスの概要・ポイントについて解説しました。次回は、事業が本格的に拡大していく段階であるミドル期において検討すべきマーケティング戦略や、事業面・財務面における法的留意点等についてお伝えします。


  1. 経済産業省は、2022年4月26日、スタートアップから新規事業に関する相談を受け、障害となる規制法令を特定し、法律上の論点整理を行うことでこれらの制度の活用につなげること等を目的として、「スタートアップ新市場創出タスクフォース」の設置を公表しており、その運用も注目されます。 ↩︎

  2. このほか、金融庁は、法令解釈に係る照会手続として、ノーアクションレター制度等を設けています(https://www.fsa.go.jp/common/noact/index.html)。 ↩︎

  3. 2017年4月14日付経済産業省ニュースリリース(睡眠環境の総合コンサルティングを行うサービスの実施に係る医師法、医薬品医療機器等法の取り扱いが明確になりました)。 ↩︎

  4. 法務省「新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表」(2022年6月6日)。 ↩︎

  5. 内閣官房 成長戦略会議事務局「新技術等実証制度(プロジェクト型規制のサンドボックス制度)について」20頁参照(2021年6月)。 ↩︎

  6. 日本政策金融公庫ウェブサイト。 ↩︎

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