取適法違反のリスクは?勧告・公表、指導などペナルティを解説
競争法・独占禁止法取適法に違反した場合、委託事業者にはどのようなペナルティが課されますか。また、取適法違反防止のためにはどのような対応が必要でしょうか。
取適法の適用対象となる取引において、委託事業者が、同法の定める義務に違反した場合は罰則の対象に、禁止行為を行った場合には勧告の対象になるおそれがあります。また、罰則・勧告までには至らなくとも、指導や助言がされることがあります。勧告がなされた場合には原則として、事業者名、違反事実の概要および勧告の概要が公表されます。勧告を受け、事業者名や違反事実の概要等が公表されることにより、委託事業者はレピュテーションを害されるおそれがあります。
違反を未然に防止するためには、取適法が定める委託事業者の義務と禁止行為を理解するための従業員に対する教育を行い、取適法に則った体制を構築することに加え、中小受託事業者に自らの不利益を押し付けようという考えをなくし、利益よりも取適法遵守を優先する意識を浸透させることも重要です。
解説
目次
取適法の定める義務・禁止事項と違反時のペナルティ
中小受託取引適正化法(取適法)は、適用される取引の範囲を、取引内容と資本金基準または従業員基準から定めています(取適法2条8項・9項)。そして、適用対象となる委託事業者に対して、4つの義務と11項目の禁止行為を定めています(取適法3条〜7条)。
委託事業者が取適法の定める義務に違反した場合には罰則の対象に、禁止行為を行った場合には勧告の対象になるおそれがあることに加え、そこまでには至らなくとも、指導や助言がされることがあります。勧告がなされた場合には原則として、事業者名、違反事実の概要および勧告の概要が公表されます。
取適法の適用範囲、義務と禁止行為の詳細については、以下の関連記事をご参照ください。
取適法違反の疑いに対する調査の流れ
委託事業者に取適法違反の疑いがある場合、公正取引委員会または中小企業庁によって以下のような流れで調査され、調査の結果、違反が認定されると、勧告などの対象になります。
公正取引委員会による事件処理フローチャート

取適法違反事件の端緒
委託事業者に取適法違反の疑いがあるとして、公正取引委員会または中小企業庁による調査が行われる端緒には、以下のものがあります。
(1)委託事業者・中小受託事業者に対する定期調査
公正取引委員会および中小企業庁は、受託取引が公正に行われているか否かを把握するため、取適法違反の疑いがあるか否かにかかわらず、委託事業者および中小受託事業者に対して定期調査(書面調査)を実施しています。取適法違反事件の端緒として圧倒的に多いのが定期調査で、令和6年度に公正取引委員会が着手した取適法(当時は下請法)違反被疑事件8,272件のうち、定期調査が端緒であったものは8,152件です 1。
(2)中小受託事業者からの申告
中小受託事業者は、取適法違反の疑いがある行為について公正取引委員会または中小企業庁に対して申告することができます。もっとも、中小受託事業者は、委託事業者との関係が悪化することを恐れて申告を躊躇する傾向にあり、取適法違反事件の端緒に占める割合は低いです。令和6年度に公正取引委員会が着手した下請法違反被疑事件のうち、中小受託事業者からの申告によるものは119件のみです 2。
(3)委託事業者からの自発的な申出
中小受託事業者が受けた不利益の早期回復の観点から、委託事業者が自発的に改善措置をとることが望ましいと考えられます。そのため、公正取引委員会等が違反行為に関する調査に着手する前に、委託事業者から違反行為の自発的な申出がなされ、かつ、違反行為を既に取り止めている、違反行為によって中小受託事業者に与えた不利益を回復するために必要な措置を既に講じているなど、一定の事由が認められた場合には、勧告または下記(4)の措置請求は行われないこととされています(取適法リニエンシー)3。
(4)受託取引にかかる事業の所管官庁や関係公的機関からの通知
受託取引にかかる事業の所管官庁(例:運送…国土交通省、テレビ放送…総務省)などの官公庁から公正取引委員会または中小企業庁への通知も、委託事業者による取適法違反の疑いが発覚する端緒となる場合があります。
報告命令・立入検査
上記2−1を端緒として、取適法違反の疑いが認められた委託事業者については、受託取引を公正にするため必要があると認められる場合、当該委託事業者を対象に事件調査が実施されます。
事件調査では、公正取引委員会から報告命令が発出されて当該取引に関して報告を求められたり、また、公正取引委員会や中小企業庁による立入検査が実施されたりします(取適法12条1項・2項)。
取適法違反による勧告・指導・助言・罰則
勧告等
委託事業者に対する事件調査の結果、委託事業者に取適法の定める禁止行為を行っていた事実が認められた場合、公正取引委員会は、違反行為を取り止めて原状回復させることを求めるとともに、再発防止など必要な措置を実施するよう、勧告をすることができます(取適法10条1項)。勧告は取適法違反に対する一番重い措置です。
中小企業庁には勧告を行う権限がないため、中小企業庁の調査の結果、特に中小受託事業者への影響が重大と思われる案件については、公正取引委員会に対し、措置請求が行われます(取適法9条)。
具体的な勧告内容は、個別事件ごとに検討されますが、勧告の概要は以下のとおりです(中小受託取引適正化法テキスト 4 117-118頁)。
- 違反行為の取り止め
- 原状回復措置・不利益補填措置の実施
- 違反行為が取適法に違反するものであることや、今後同様の行為を行わないことの取締役会等の決議
- 今度、同様の行為を行うことがないよう、従業員に対して取適法の研修を実施するなどの社内体制の整備のために必要な措置の実施
- 上記①から④で行った措置についての役員および従業員に対する周知徹底
- 上記①から⑤で行った措置についての中小受託事業者への通知
- 上記①から⑥で行った措置についての公正取引委員会に対する報告
さらに、違反行為が既になくなっている場合においても、特に必要があると認められる場合には、委託事業者に対して、必要な措置を採るよう勧告することができます(取適法10条2項)。ここでいう「特に必要があると認められる場合」とは、取適法に違反する行為が排除されたことを確保することが必要な場合をいい、たとえば、委託事業者が再発防止策を講じておらず、再発可能性がある場合などをいいます 5。
なお、旧法(下請法)では、受領拒否、支払遅延および報復措置については、違反行為を継続している場合のみ勧告対象でしたが、取適法では行為が終了している場合も勧告を行えるようになりました。
そして、勧告が行われた場合は、原則として、事業者名、違反事実の概要、勧告の概要などが公表され、新聞等で報道もされることになるため、委託事業者のレピュテーションが害されるおそれもあります。
勧告に従わなかった場合の措置
委託事業者の行為が、取適法だけでなく独占禁止法(優越的地位の濫用)にも違反する場合でも、勧告に従う限り、独占禁止法違反に基づく排除措置命令や課徴金納付命令が出されることはありません。しかし、仮に、勧告に従わなかった場合、委託事業者に対して、独占禁止法に基づく排除措置命令や課徴金納付命令が行われるおそれがあります(取適法11条)。
指導と助言
委託事業者に対する事件調査の結果、委託事業者に取適法違反の事実が認められたものの、勧告には至らない場合、公正取引員会、中小企業庁または事業所管省庁は、指導および助言をすることができます(取適法8条)。
旧法(下請法)では、事業所管省庁の指導および助言の権限について明文の根拠がありませんでした。しかし、専門的な知見を持つ事業所管省庁が、所管する業界全体に対してより効果的かつ継続的に、取引の適正化に向けた取組みを行っていくことが重要であるため、改正法(取適法)では、事業所管省庁に指導および助言の権限が明示的に付与されることとなりました 6。
罰則
取適法における罰則は両罰規定であり、委託事業者が次の行為を行った場合には、代表者・違反者である個人のほか、委託事業者である法人に対しても、50万円以下の罰金が課されるおそれがあります(取適法14条〜16条)。
- 発注内容等の書面または電磁的方法による明示義務違反
- 取引内容を記載・記録した書類または電磁的記録の作成・保管義務違反
- 報告徴収に関する報告拒否、虚偽報告
- 立入検査の拒否、妨害、忌避
ただし、実際には、①や②に対しては指導や助言により是正が求められています。
勧告事例から学ぶ具体的な違反行為
製造委託等代金の減額に関する勧告事例
製造委託等代金の減額とは、発注時に決められた製造委託等の代金を、発注後に中小受託事業者の責任がないのに減額する行為をいいます。近年は減額以外の事例も増えていますが、過去の勧告事例の大部分は減額が占めており、減額の総額が1,000万円を超える事案や悪質な事案について、勧告が出される傾向にあります。
たとえば、以下のような事例について勧告がなされています。
不当な経済上の利益提供要請に関する勧告事例
不当な経済上の利益提供要請とは、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることによって、中小受託事業者の利益を不当に害する行為をいいます。
たとえば、以下のような事例について勧告がなされています。
買いたたきに関する勧告事例
買いたたきとは、受託事業者の給付の内容と同種または類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い額を不当に定める行為をいいます。たとえば、以下のような事例について勧告がなされています。
- 出版事業を営む委託事業者が、自社の収益改善を図るため、発注単価を改定する旨を記載した「原稿料改定のお知らせ」と題する文書を、雑誌の記事作成および写真撮影業務を委託する中小受託事業者26名に通知したうえで、当該中小受託事業者と十分な協議を行うことなく、発注単価を従前の単価から約6.3%から約39.4%引き下げることを一方的に決定し、引下げ後の単価を適用した 11。
取適法違反を防ぐための実務対応
取適法違反の原因には、①取適法の理解不足から過失によって違反してしまう場合と、②取引上の地位を利用して中小受託事業者に対して故意に不利益を押し付ける場合があると考えられます。
①を原因とする違反を未然に防止する対策としては、たとえば以下のものがあります。
- 取適法が定める委託事業者の義務と禁止行為に関する知識習得のための研修の実施
- 取引段階に応じた取適法マニュアル等の作成および周知徹底
- 社内システム(支払制度など)が取適法を遵守したものになっているかの見直しおよび是正
②を原因とする違反を未然に防止する対策としては、たとえば以下のものがあります。
- 経営トップによる、中小受託事業者も対等なパートナーであり、取適法遵守を徹底する旨のメッセージの発信
- 自社の利益計画の達成よりも取適法遵守を優先すべきであることを意識させるための研修の実施
- 相互理解のための中小受託事業者との関係強化
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公正取引委員会「令和6年度公正取引委員会年次報告」144頁 ↩︎
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公正取引委員会「令和6年度公正取引委員会年次報告」144頁 ↩︎
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公正取引員会「下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者の取扱いについて」(平成20年12月17日)、中小企業庁「下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者の取扱いについて」(令和2年6月30日) ↩︎
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公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト(令和7年11月)」 ↩︎
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柴山豊樹・菊澤雄一編著『一問一答 中小受託取引適正化法(取適法)』(商事法務、2026)76頁 ↩︎
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柴山豊樹・菊澤雄一編著『一問一答 中小受託取引適正化法(取適法)』(商事法務、2026)57頁 ↩︎
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公正取引委員会「株式会社ノジマに対する勧告について」(令和5年6月29日) ↩︎
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公正取引委員会「日産自動車株式会社に対する勧告について」(令和6年3月7日) ↩︎
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公正取引委員会「株式会社マキタに対する勧告について」(令和7年12月16日) ↩︎
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公正取引委員会「センコー株式会社に対する勧告について」(令和7年12月12日) ↩︎
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公正取引委員会「株式会社KADOKAWA及び 株式会社KADOKAWA LifeDesignに対する勧告について」(令和6年11月12日) ↩︎
弁護士法人大江橋法律事務所
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