取適法が適用される特定運送委託を具体例とともにわかりやすく解説
競争法・独占禁止法取適法(改正下請法)が適用される「特定運送委託」とは何ですか。また、特定運送委託に該当する取引を中小受託事業者に委託する場合、委託事業者はどのような義務を負いますか。
「特定運送委託」とは、自ら販売、製造、修理をする物品または作成を請け負った情報成果物が記載される物品を取引の相手方に運送するに当たり、当該運送を他の事業者に委託する取引を指します。委託事業者が、特定運送委託に該当する取引を中小受託事業者に委託する場合には、取適法に基づき、発注内容の明示義務、支払期日を定める義務、書類等の作成・保存義務、遅延利息の支払義務という4つの義務を負うことになります。
また、委託事業者がトラック事業者に運送を委託する場合、取適法における発注内容の明示義務だけではなく、貨物自動車運送事業法(トラック法)による規制もあわせて確認する必要があります。
解説
目次
取適法における「特定運送委託」とは
特定運送委託の定義
「特定運送委託」とは、業として物品の販売を行う、または物品の製造、修理もしくは情報成果物の作成を請け負う事業者が、当該物品等の取引の相手方に対する運送の全部または一部を委託することをいいます(取適法2条5項)。取引先または取引先が指定する者に向けた運送の委託であれば、自家使用か否かにかかわらず、「特定運送委託」として、取適法の適用対象となります。
取適法の適用対象に特定運送委託が追加された理由
着荷主と発荷主の間には通常、明示的な有償の運送契約が結ばれないため、改正前下請法では、発荷主が物品を着荷主に引き渡すために運送事業者に委託する運送委託は、自ら使用する役務として役務提供委託に該当せず、下請法の適用対象外とされていました。発荷主による運送委託取引に関しては、下請法とは別に「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(物流特殊指定)により規制されているものの、多重下請構造に起因する運賃の低価格化、長時間の荷待ち、無償での荷役の要請などの社会問題が指摘されていました 1。
そこで、取適法により迅速かつ機動的に対処すべく、新たに「特定運送委託」が適用対象取引に追加されました。それにより、発荷主が、運送事業者に対し、製造、販売、修理等の目的物の、取引の相手方への運送を委託する取引についても、取適法が適用されることとなりました。
特定運送委託に該当する取引
特定運送委託の4類型
特定運送委託には、以下の4つの類型があります(中小受託取引適正化法テキスト 2 19-20頁)。
(1)類型1:業として販売する物品の、取引の相手方に対する運送を委託すること
1つ目の類型は、物品の販売を業として行っている事業者が、その物品を発注者(発注者が指定する者を含みます)に対して運送する行為の全部または一部を他の事業者に委託する取引です。

(2)類型2:業として製造を請け負う物品の、取引の相手方に対する運送を委託すること
2つ目の類型は、物品の製造を業として請け負っている事業者が、その物品を発注者(当該発注者が指定する者を含みます)に対して運送する行為の全部または一部を他の事業者に委託する取引です。
例:精密機器メーカーが、機械メーカーから製造を請け負った精密機器を当該機械メーカーに引き渡す際に、その運送を他の事業者に委託する場合

(3)類型3:業として請け負う修理の目的物である物品の、取引の相手方に対する運送を委託すること
3つ目の類型は、物品の修理を業として請け負っている事業者が、その物品を発注者(当該発注者が指定する者を含みます)に対して運送する行為の全部または一部を他の事業者に委託する取引です。
例:家電メーカーが、修理を請け負った家電製品を顧客に引き渡す際に、その運送を他の事業者に委託する場合

(4)類型4:業として作成を請け負う情報成果物の、取引の相手方に対する運送を委託すること
4つ目の類型は、情報成果物の作成を業として請け負っている事業者が、当該情報成果物が記載されるなどした物品を発注者(当該発注者が指定する者を含みます)に対して運送する行為の全部または一部を他の事業者に委託する取引です。
例:デザイン会社が、作成を請け負った広告ポスターを引き渡す際に、その広告ポスターの運送を他の事業者に委託する場合

特定運送委託の範囲
(1)「運送」の範囲
特定運送委託における「運送」は、手段について何ら限定されていません。そのため、自動車による輸送に限らず、船舶、飛行機等その他手段による輸送も「運送」に含まれます 3。
また、特定運送委託における「取引の相手方に対する運送」とは、事業者の製造、販売、修理等の特定の事業における取引の相手方の占有下に当該取引の目的物等の物品を移動することをいいます。そのため、運送以外の荷積み、荷下ろし、倉庫内作業などの付帯業務は「運送」に含まれません。ただし、運送と一体となって行われる養生作業、固縛、シート掛け等は、委託事業者から特別の指示を受けて行うものを除いて、「運送」に含まれます(中小受託取引適正化法テキスト33頁)。
(2)「取引の相手方」の範囲
特定運送委託における「取引の相手方」には、運送の発注事業者と親子会社や兄弟会社の関係にある法人も含まれます(中小受託取引適正化法テキスト33頁)。そのため、たとえば、メーカーである親会社が、卸売会社である子会社に製品を販売している場合、親会社が子会社に販売した製品の運送を運送事業者に委託することは、特定運送委託に当たり、取適法の適用を受けます。他方で、「取引の相手方」ではなく、「運送委託先」が物流子会社であるなど、運送業務の受託事業者と親子会社等の関係にあり、実質的に同一会社間での取引であるとみられる場合には、実務上、取適法は適用されません。
また、「取引の相手方」が外国法人である場合や、貨物の発着地または到着地が国外である場合についても、委託事業者と中小受託事業者との特定運送委託が日本国内で行われた取引であれば、特定運送委託に当たると解されています(中小受託取引適正化法テキスト33頁)。
(3)「経路の一部」の運送
「特定運送委託」として取適法の適用対象となる運送委託は、「取引の相手方に対する運送」の委託に限られます。そのため、自社の工場から自社の物流センターまでの運送のように、同じ法人の物流拠点間の運送を他の事業者に委託する場合は、「取引の相手方に対する運送」ではないため、通常、「特定運送委託」に該当しません(中小受託取引適正化法テキスト33頁)。
ただし、同一法人の物流拠点間の運送の委託であっても、それが取引の相手方への運送経路の一部として利用される場合は、「特定運送委託」に該当し、取適法の適用対象となります。たとえば、顧客に対して製品を運送する際に、自社工場からいったん自社の物流センターに送り、そこから顧客に発送する場合には、物流センターから顧客までの運送に限らず、自社工場から自社の物流センターまでの運送の委託も、特定運送委託に該当します。
(4)対象外取引を一体として委託する場合
事業者が販売した商品の取引先への発送時に、古い商品を下取りとして引き取る場合、取引先から自社の拠点への下取り品の運送は、「取引の相手方に対する運送」ではないため、「特定運送委託」に該当しません。
ただし、商品の発送のための運送と、下取り品の運送を一体不可分の取引として発注する場合には、一体として、「特定運送委託」に該当し、取適法の適用対象となります(中小受託取引適正化法テキスト32-33頁)。たとえば、家電販売店が、販売した家電の顧客への運送と、下取りした古い製品の当該顧客から自社までの運送を一体として運送事業者に委託する場合には、いずれの運送も特定運送委託に該当します。
特定運送委託に該当しない運送委託
2-1で取り上げた4つの類型に該当しない運送委託は、「特定運送委託」に該当せず、取適法の適用対象取引とはなりません。たとえば、「特定運送委託」に該当しない運送委託として以下のような取引があります 。
- 無償のサンプル品、ダイレクトメール・連絡文書など、顧客に交付する必要のある取引関係書類の運送
- 産業廃棄物を処理するための運搬
- 物品の製造等の発注者が無償で提供する支給品の受注者に対する運送
- お中元、お歳暮などの贈答品の運送
- 自社が販売・製造する商品の半製品等や、自社で使用・消費する物品の運送
特定運送委託における4条明示の留意点
委託事業者に課せられる義務の1つに、発注内容等を明示する義務があります。
具体的には、委託事業者は、給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法などの発注の内容を書面または電子メールなどの電磁的方法により中小受託事業者に対して明示しなければなりません(取適法4条1項、いわゆる「4条明示」)。具体的な明示事項などの詳細は、以下の関連記事をご参照ください。
貨物自動車運送事業法(トラック法)との関係
さらに、運送業務との関係では、貨物自動車運送事業法(トラック法)の改正法が令和7年4月1日に施行され、荷主とトラック事業者の双方に、運送する物品の内容や使用目的等にかかわらず、運送契約の締結時には以下の事項を記載した書面を交付することが義務付けられました(同法12条)。
※下線は取適法上の明示事項ではない事項
- 運送役務の内容・対価
- 運送契約に荷役作業・付帯業務等が含まれる場合には、その内容・対価
- その他特別に生ずる費用に係る料金(高速道路利用料、燃料サーチャージなど)
- 契約の当事者の氏名・名称および住所
- 運賃・料金の支払方法
- 書面を交付した年月日
運送契約に荷役作業・付帯業務等が含まれる場合の明示事項
取適法では、運送に係る役務提供委託または特定運送委託をした委託事業者が、中小受託事業者に対し、運送に加えて、運送以外の役務(荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等)を提供させることを含んで発注する場合、4条明示において、運送の役務の内容およびその対価を、運送の役務以外の役務の内容およびその対価と区別して明示しなければならないとされています。運送の役務以外の役務の対価を含めた金額を明示することは認められていません(中小受託取引適正化法テキスト38頁)。
そのため、取適法上の明示事項として定められていないものの、運送に加えて荷役作業・付帯業務も委託する場合には、取適法上も、運送の役務の内容および対価とは別に、上記②を明示する必要があります。
取適法と貨物自動車運送事業法(トラック法)の双方が適用される場合の明示方法
委託事業者が、取適法とトラック法の双方が適用される運送を中小受託事業者に委託する場合、委託事業者は、これら2つの法律に基づく明示を行わなければなりませんが、別々の書面等で行う必要はなく、これら2つの法律が定める事項を、1通の書面等で明示することで足ります。
明示の方法に関し、取適法では、委託事業者は、中小受託事業者の承諾を得ることなく、電子メールなどの電磁的方法で行うことができますが、トラック法では、電磁的記録による場合には相手方から承諾を得る必要があります。そのため、委託事業者が、取適法とトラック法の双方が適用される運送を中小受託事業者に委託するに当たり、1通の電子メールに双方の明示事項を記載して送付する方法を採る場合には、中小受託事業者から事前に承諾を得なくてはならない点に留意する必要があります。
委託事業者に課されるその他の義務と禁止事項
委託事業者に課される義務
資本金基準または従業員基準を満たす事業者間の間で特定運送委託に該当する取引がなされた場合には、当該取引は、取適法の適用を受けることになります。資本金基準および従業員基準の詳細は、以下の関連記事をご参照ください。
取適法の適用を受ける場合、委託事業者には、上記の4条明示のほか、支払期日を定める義務、書類等の作成・保存義務、遅延利息の支払義務の4つの義務が課せられます。
委託事業者に課される禁止事項
委託事業者には、中小受託事業者に対する以下の行為が禁止されます。
(1)受領拒否
(2)製造委託等代金の支払遅延
(3)製造委託等代金の減額
(4)返品
(5)買いたたき
(6)購入・利用強制
(7)報復措置
(8)有償支給原材料等の対価の早期決済
(9)不当な経済上の利益の提供要請
(10)不当な供給内容の変更、やり直し
(11)協議に応じない一方的な代金決定
企業の実務対応のポイント
以上のとおり、取適法では、委託事業者が取引先に物品等を送るために、中小受託事業者に運送を委託する取引も取適法の適用対象となります。そこで、運送業務を委託している運送業者の資本金および従業員数を確認して、自己の資本金および従業員数と照らし合わせ、取適法が適用されるかを検討する必要があります。
そして、取適法が適用される場合には、上記4、5-1で述べた委託事業者の義務を遵守するとともに、5-2で述べた禁止事項を行わないために、発注書の記載内容、価格決定方法、支払制度などの見直しを行うことが必要となります。
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柴山豊樹・菊澤雄一編著『一問一答 中小受託取引適正化法(取適法)』(商事法務、2026)21-23頁 ↩︎
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公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト(令和7年11月)」 ↩︎
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公正取引委員会「意見の概要及びそれに対する考え方(令和7年10月1日)」No.92 ↩︎
弁護士法人大江橋法律事務所
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