取適法で禁止される「協議に応じない一方的な代金決定」を具体例とともに解説
競争法・独占禁止法取適法(改正下請法)で禁止される「協議に応じない一方的な代金決定」とは、具体的にどのような行為ですか。「協議に応じない一方的な代金決定」として取適法違反にならないためには、委託事業者として、価格交渉においてどのような対応を採る必要がありますか。
取適法が禁止する「協議に応じない一方的な代金決定」とは、受託業務に関して費用の変動などが生じた際に、中小受託事業者から価格協議の申出があったにもかかわらず、協議に応じなかったり、中小受託事業者の求める事項について、必要な説明や情報提供をしなかったりするなど、委託事業者が一方的に代金を決定する行為により、中小受託事業者の利益を不当に害することをいいます。取適法違反とならないためには、委託事業者は、中小受託事業者から価格協議の申出があった場合には、協議を行うとともに、代金を決定するに当たって必要な説明や情報を提供しなくてはなりません。また、協議の際に中小受託事業者に対して行った説明や情報提供の内容について、当事者間で認識に齟齬が生じないよう、協議経過を記録化することが望ましいです。
解説
目次
「協議に応じない一方的な代金決定」とは
下請法が中小受託取引適正法(取適法)に改正され、令和8年1月1日に施行されました。今回の改正に伴い、委託事業者の禁止行為に、「協議に応じない一方的な代金決定」が追加されました。
「協議に応じない一方的な代金決定」とは、中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合に、中小受託事業者が製造委託等の代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、その協議に応じず、または、協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明もしくは情報の提供をせず、一方的に製造委託等の代金を決定することをいい、それにより中小受託事業者の利益を不当に害する場合に、取適法違反となります(取適法5条2項4号)。
- 給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合に
- 中小受託事業者が製造委託等の代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず
- 協議に応じず、または、協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明もしくは情報の提供をせず
- 一方的に製造委託等の代金を決定すること
近年の急激なコスト上昇分について、中小受託事業者が代金に転嫁できない要因として、委託事業者が中小受託事業者との交渉力の差に乗じ、代金の額に関する協議(価格交渉)に応じず、または、対等な協議のために前提となる説明や情報提供を行わず、委託事業者が決定した額を押し付けたり、中小受託事業者も委託事業者から更なる不利益を受けることを恐れて協議をためらったりする実態があります。
そこで、「協議に応じない一方的な代金決定」を委託事業者の禁止行為とすることで、代金決定に係るプロセスの不当性を具体化して、このような委託事業者の行為により、中小受託事業者の自由かつ自主的な判断が阻害されることを防止するというねらいがあります 1。
「協議に応じない一方的な代金決定」の要件
要件①:給付に関する費用の変動その他事情が生じた場合
「給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合」とは、中小受託事業者の給付に関し代金の額に影響を及ぼし得る事情が生じた場合(中小受託取引適正化法テキスト 2 112頁)、つまり、従前の代金を見直すべき事情が生じた場合をいいます。
代金の額に影響を及ぼし得る事情には、以下のような事情が含まれます。
- 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の費用の変動
- 従来の納期の短縮、納入頻度の増加や発注数量の減少等による取引条件の変更
- 需給状況の変化
- 委託事業者から従前の代金の引下げを求められた場合
要件②:中小受託事業者が代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず
中小受託事業者による協議の求めは、書面か口頭かを問いません。また、明示的に協議を求める場合だけではなく、協議を希望する意図が客観的に認められるのであれば、中小受託事業者が代金の額に関する協議を求めた場合に該当します(中小受託取引適正化法テキスト112頁)。
- 中小受託事業者が委託事業者に対し、従来の単価から引き上げた単価に基づく見積書等を提示した場合
要件③:協議に応じず、または、協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明もしくは情報提供をせず
「協議に応じず」とは、中小受託事業者からの協議の求めを明示的に拒否する場合に限りません。協議の求めを無視したり、協議の実施を繰り返し先延ばしにしたりして、協議の実施を困難にさせる場合も含まれます。さらに、中小受託事業者から代金引上げの求めがあった場合に、中小受託事業者に対して合理的な範囲を超えて詳細な情報の提示を要請し、当該情報の提示を協議に応じる条件とする場合も含まれます。
また、要件③には、中小受託事業者からの価格協議の求めに応じて協議は実施したものの、中小受託事業者が代金を決定するために必要な説明や情報の提供を求めたのに、これらを提供しない場合も含まれます。「中小受託事業者の求めた事項について必要な説明もしくは情報の提供」をしたかどうかは、中小受託事業者の給付に関する費用の変動等の事情の内容、中小受託事業者が求めた事項、委託事業者が求めに対して提示した内容やその合理性、中小受託事業者との間の協議経過等を勘案して総合的に判断することとされています(中小受託取引適正化法テキスト112-113頁)。
このように、委託事業者としては、とりあえず協議の場を設ければよいというわけではなく、中小受託事業者が求めた、価格を決定するために必要な情報等も提供しなければなりません。
要件④:一方的に製造委託等代金の額を決定すること
要件①から要件③を満たす場合に、委託事業者が代金の額を一方的に決定することが「協議に応じない一方的な代金決定」となります。
ここでいう代金の「決定」には、代金を引き上げ、または引き下げることのほか、据え置くことも含まれます(中小受託取引適正化法テキスト113頁)。
「協議に応じない一方的な代金決定」として取適法違反になる行為の具体例
「協議に応じない一方的な代金決定」に該当し、取適法違反となる委託事業者の行為として、以下の例が挙げられます。
- 委託事業者が協議を拒否する場合
製造を委託された製品の量産期間が終了し、製造に要する費用が上昇していることを理由に、中小受託事業者が、量産時の大量発注を前提とした単価の引上げに関する協議を求めたにもかかわらず、これに応じず、従前の単価を適用した。 - 中小受託事業者からの詳細な情報の提供を協議の条件とする場合
中小受託事業者が、コスト上昇分につき経済の実態が反映されている公表資料(最低賃金の上昇率など)に基づき具体的な引上げ額を提示して代金の引上げを求めたにもかかわらず、協議に先立ち、中小受託事業者に対して具体的な製造コストに関する内部情報の提示を求め、中小受託事業者がこれに応じなかったことから、協議を実施せず、代金をわずかしか引き上げなかった。 - 中小委託事業者が求めた事項について必要な説明または情報を提供しない場合
中小受託事業者に原価低減要請を行った際、当該中小受託事業者がその理由について説明を求めたのに対し、理由を説明することなく、代金を引き下げた。
他方で、以下のような行為は、一方的に代金を決定するものではありますが、受託事業者の利益を不当に害するものとはいえないため、「協議に応じない一方的な代金決定」として取適法違反になることはありません。
- 多数の中小受託事業者に対し類似の取引を委託する委託事業者が、個別協議を実施せず一律に、コスト上昇分に見合うよう従前の代金からの引上げを決定し、中小受託事業者の申し入れた引上げ額を上回る代金の額に変更した。
このように、委託事業者が、協議を行わずとも、中小受託事業者の要請を受け入れて、要請額を十分満たす代金の引上げを行うことまで禁止されるわけではありません。
協議に応じない一方的な代金決定と買いたたきの関係
取適法では、「協議に応じない一方的な代金決定」とは別に、従来の下請法から定められている「買いたたき」も禁止行為とされています(取適法5条1項5号)。「買いたたき」とは、受託事業者の給付の内容と同種または類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い額を不当に定めることをいい、以下のような方法で代金の額を定めることは「買いたたき」に当たるおそれがあるとされています(取適法運用基準 3 第4の5(2)ウおよびエ)。
- 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと
- 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、中小受託事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で中小受託事業者に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと
このように、コスト上昇時に、中小受託事業者から協議を求められたか否かにかかわらず協議を行わずに代金を据え置くことや、中小受託事業者から代金の引上げを求められたのにその理由を書面等で知らせずに価格を据え置くことは、「買いたたき」として問題になります。具体的な判断方法などの詳細は以下の関連記事をご参照ください。
「買いたたき」は、著しく低い価格を中小受託事業者に押し付けることを問題とする一方、「協議に応じない一方的な代金決定」は、代金決定に当たり適切な交渉プロセスを踏まないこと自体を問題とする点が異なります。
たとえば、以下のような行為は、「買いたたき」と「協議に応じない一方的な代金決定」の双方の禁止行為に該当する可能性があります。
- コストの上昇時に、中小受託事業者から代金についての協議を求められたのに、それを無視して協議を行わず、従前どおりの代金を押し付けた。
企業の実務対応のポイント
委託事業者の場合
上記4のとおり、「協議に応じない一方的な代金決定」に該当するかは、代金が著しく低いかどうかにかかわらず、委託事業者と中小受託事業者との間で、実質的な協議が行われたか否かにより判断されます。
最終的な代金の額は、委託事業者と中小受託事業者との協議に基づき定められることになり、中小受託事業者から要請された代金の額を受け入れないことが直ちに「協議に応じない一方的な代金決定」になるわけではありませんが、中小受託事業者から要請された引上げ額の全部または一部を受け入れない場合には、その理由や考え方の根拠を十分に説明する必要があります(中小受託取引適正化法テキスト113頁)。
また、委託事業者としては、協議の際に、中小受託事業者に対して必要な説明や情報の提供をしたと認識していたとしても、委託事業者と中小受託事業者との間で認識に齟齬が生じ、後から十分な説明を受けなかったと言われるおそれがあります。そのため、中小受託事業者から協議を求められた場合に、必要な説明・情報の提供をする際には、面談メモや議事録を作成するなどして協議経過を記録に残し、保存しておくことが望ましいです(中小受託取引適正化法テキスト115頁)。
中小受託事業者の場合
中小受託事業者としては、委託事業者に協議を求める場合には、当事者間の認識に齟齬が生じることのないよう、書面、電子メールなど形に残る方法で、協議を求め、その記録を保管しておくことが望ましいです(中小受託取引適正化法テキスト115頁)。
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柴山豊樹・菊澤雄一編著『一問一答 中小受託取引適正化法(取適法)』(商事法務、2026)48-49頁 ↩︎
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公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト(令和7年11月)」 ↩︎
弁護士法人大江橋法律事務所
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