取適法が禁止する不当な経済上の利益の提供要請とは?

競争法・独占禁止法 更新

 当社は、自動車メーカーから発注を受けて自動車部品の製造を行っています。当社は、部品を製造するための金型について、自動車メーカーから貸与を受けており、金型の所有権は自動車メーカーにあります。そのため、すでに製造が終了した部品の金型を廃棄することができず、倉庫の一部に大量の金型が長期間保管されている状態となっています。このように無償で金型を保管させることは取適法違反にならないのでしょうか。

 部品等の製造を発注する時期を終えた後、委託事業者が中小受託事業者に対して、委託者事業者所有の金型を無償で保管させた場合には、「不当な経済上の利益の提供要請」に該当し、取適法違反となります。

解説

目次

  1. 取適法で禁止される「不当な経済上の利益の提供要請」とは何か
  2. 「不当な経済上の利益の提供要請」の具体例
  3. 金型、木型、治具、検具、製造設備等の型等の保管に関するルール
    1. 型等の所有者が中小受託事業者である場合
    2. 型等の所有者が委託事業者である場合
  4. 型等の保管に関する勧告事例
  5. まとめ

取適法で禁止される「不当な経済上の利益の提供要請」とは何か

 「不当な経済上の利益の提供要請」は、取適法に規定されている11個の委託事業者の禁止事項の一つであり、「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」によって「中小受託事業者の利益を不当に害」することが禁止されています(取適法5条2項2号)。

取適法5条2項2号
2 委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、次に掲げる行為〔中略〕をすることによって、中小受託事業者の利益を不当に害してはならない。
〔中略〕
 二 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
〔後略〕

 「その他の経済上の利益」と書いてあるとおり、この禁止事項には、委託事業者による様々な行為が広く該当する可能性がありますので、「下請代金の減額等、個々の禁止事項には該当しないが、中小受託事業者に不利益が発生しているな」と感じた場合には、「不当な経済上の利益の提供要請」に該当しないか否か検討することが肝要です。

「不当な経済上の利益の提供要請」の具体例

 では、どのような行為が「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」に該当するのでしょうか。具体例としては、以下のような行為が挙げられます。

  1. 従業員の派遣を無償で行わせる
     たとえば、委託事業者が営む店舗の新装開店セールなどにおいて、中小受託事業者の従業員を派遣してもらい、接客や販売促進活動を無償で行わせた場合には、委託事業者が中小受託事業者に「経済上の利益」を提供させたと判断されます。

  2. 知的財産権の譲渡・許諾を無償で行わせる
     情報成果物等の作成に関し、中小受託事業者に知的財産権が発生する場合に、委託事業者が情報成果物等の作成の目的である使用の範囲を超えて、無償で譲渡・許諾させることも、「経済上の利益」を提供させたと判断されます。

  3. 協賛金の徴収
     委託事業者の催事に対する協賛金を中小受託事業者に支払わせていた場合にも、「経済上の利益」を提供させたと判断されます。なお、協賛金を代金から控除することで支払わせていた場合には、別の禁止規定である「代金の減額の禁止」(取適法5条1項3号)に違反する可能性があります。

  4. 技術指導、試作品の製造等を無償で行わせる
     委託事業者が中小受託事業者に対し、無償で技術指導や試作品の製造等を行わせることも「経済上の利益」を提供させたと判断されます。

  5. 型等の保管を無償で行わせる
     委託事業者が部品等の製造委託に関し、その発注を長期間行わない等の事情があるにもかかわらず、その製造に用いる委託事業者所有の型等の保管費用(たとえば、自社倉庫の使用料相当額、外部倉庫の使用料、倉庫等への運送費、メンテナンス費用等)を支払わず、中小受託事業者に当該型等を保管させることも「経済上の利益」を提供させたと判断されます。

  6. 運送の役務以外の役務の提供を無償で行わせる
     運送の役務提供委託または特定運送委託をした委託事業者が、運送の役務を提供させることに加えて、無償で、運送の役務以外の役務(たとえば、荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等)を提供させることも「経済上の利益」を提供させたと判断されます。

 このように、協賛金、協力金等の金銭の提供だけでなく、労務の提供等を含む様々な行為が「経済上の利益」の提供に該当しますので、注意が必要です。

金型、木型、治具、検具、製造設備等の型等の保管に関するルール

 では、設例における下請事業者による金型の保管はどうでしょうか。

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型等の所有者が中小受託事業者である場合

 まず、型等の所有者が中小受託事業者である場合、その保管費用を負担するのは、所有者である中小受託事業者であることが原則です。そのため、型等の所有者が中小受託事業者である場合には、原則として、「不当な経済上の利益の提供要請」の問題は生じません。
 しかし、型等の廃棄に委託事業者の承認を要するなど、型等の管理主体が事実上、委託事業者にあると認められる場合は、次に述べる委託事業者が型等を所有する場合と同様となります。

型等の所有者が委託事業者である場合

(1)型等を用いた取引が継続している場合

 型等を委託事業者が所有している場合でも、型等を用いた物品の製造が行われている期間中は、中小受託事業者は、自らのために当該型等を使用収益しているため、中小受託事業者が型等を保管することに関して、委託事業者が中小受託事業に「経済上の利益」を提供させているとはいえず、保管費用の問題は生じません

(2)型等を用いた取引が終了している場合

 一方、型等を委託事業者が所有している場合で、すでに型等を用いた物品の製造が終了している場合に、委託事業者が中小受託事業者に型等を保管させることは、「経済上の利益」の提供要請に該当することになります
 もっとも、型等を用いた物品の製造委託が継続的に行われており、次第に発注頻度が減っていく場合など、どの時点から委託事業者が型等の保管費用を負担する必要があるかが不明確な場合があります。そこで、この点を明確化するために、公正取引委員会は、「よくある質問コーナー(取適法)」Q119において、以下のような場合には、委託事業者が型等の保管費用を負担する必要があるとの考え方を示しています。

  1. 金型等を用いて製造する製品の発注を1年間以上行わない場合
  2. 中小受託事業者から金型の廃棄や引取り等の希望を伝えられた場合
  3. 金型を用いて製造する製品について今後1年間の具体的な発注時期を示せない状態になっている場合
  4. 木型等を用いて製品が製造された後、当該木型等を改めて使用する予定がない場合

 また、「よくある質問コーナー(取適法)」Q119では、保管費用は、中小受託事業者からの請求の有無にかかわらず、保管期間に応じて支払う必要があるということも明記されています。
 そのため、上記①~④に該当するような場合は、中小受託事業者からの請求がなくても、型等の返還を受けるか、あるいは、中小受託事業者との間で型等の保管費用を別途支払う合意を行って、中小受託事業者に対して適正な保管費用を支払うこと等により、「中小受託事業者の利益を不当に害」さない措置を講じる必要があるといえます。
 なお、「よくある質問コーナー(取適法)」Q119では、金型および木型だけでなく、治具、検具、製造設備等を含めて「型等」と表現しており、治具、検具、製造設備等を無償保管させている場合も、金型および木型を無償保管させている場合と同様に考えるとの考え方が示されていますので、この点にも注意が必要です。

型等の保管に関する勧告事例

 令和7年1月から同年12月末日までに、中小受託事業者に対して型等を無償で保管をさせたことにより、取適法(下請法)で禁止される不当な経済上の利益の提供要請を行ったとして、公正取引委員会から勧告を受けた会社は20社にのぼります。また、令和8年1月から同年3月末までの間だけでも、型等の無償保管に関して、公正取引委員会から勧告を受けた会社は10社となっています。
 近年、このように多くの企業が型等の無償保管に関して勧告を受けているのは、公正取引委員会が型等の無償保管に対する監視を強めているためです。そのため、中小受託事業者に自社所有の型等を用いて物品の製造委託をしている場合や、中小受託事業者所有の型等を事実上管理している委託事業者においては、上記3-2(2)に記載した①から④に照らし、型等の保管費用を支払う必要が生じていないかを、改めて見直すことが望ましいといえます。

まとめ

 設例の場合、すでに製造が終了した部品の金型が大量に倉庫に長期間保管されているということですから、このような金型の無償保管は、取適法で禁止されている「不当な経済上の利益の提供要請」に該当し、取適法違反になります。そのため、中小受託業者においては、委託事業者に対して、金型の廃棄や返還、または保管料に関する希望を伝えて、金型の廃棄や返還、または保管料について一度協議するのが良いと考えられます。

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