海外子会社での不正発見のためのグローバル内部通報の制度設計

危機管理・内部統制
大澤 貴史弁護士 牛島総合法律事務所 Gregory Kinaga 牛島総合法律事務所

 当社はいくつかの海外子会社を持っていますが、海外子会社を含むグループ全体の内部通報制度を整備することを考えています。制度整備にあたりどのような点に注意が必要でしょうか。

 まずグループ全体をカバーするように窓口を一本化するのか、海外子会社が所在する国・地域ごとに窓口を設置するのか、あるいはその双方を設置するのかを決める必要があります。また、グローバルな内部通報制度を構築するにあたっては、内部規程・マニュアル等を整備する必要がありますが、海外子会社が所在する現地法令の調査が不可欠です。そのためには、現地の法律事務所やグローバルネットワークに加入している法律事務所等と連携して制度を設計することが考えられます。

解説

目次

  1. 海外子会社における不祥事の動向・リスクシナリオ
  2. 海外子会社の不祥事を早期発見するための代表的な方策
    1. 親会社による内部監査
    2. 内部通報制度の実効性確保
  3. グローバルな内部通報制度の設計
    1. グローバル内部通報制度導入の必要性
    2. 制度設計のポイント
  4. 海外法律事務所との連携
  5. 内部通報制度全般の留意点

海外子会社における不祥事の動向・リスクシナリオ

 新型コロナウィルス感染症の拡大により海外駐在・出張が減少し、海外子会社のガバナンスの緩みが不正リスクを高めている懸念があると指摘されています(デロイトトーマツ「企業の不正リスク調査白書」13頁(2020年12月))。
 海外子会社における不正としてはたとえば、調達担当者等の横領・キックバック(物品の水増し購入と中古業者への転売等)や、贈収賄、カルテルへの参加などが典型です 1

海外子会社の不祥事を早期発見するための代表的な方策

 海外子会社における不正・不祥事の予防のための方策は、概要以下のとおりです。各項目の詳細は、「海外子会社で発生した不祥事事案における不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント」のとおりですので参照してください。

  1. コンプライアンス教育・研修の充実
  2. 子会社による内部統制の自己評価
  3. 親会社による内部監査
  4. 子会社の意思決定への関与
  5. 情報共有体制・レポーティングラインの見直し
  6. 内部通報制度の実効性確保

親会社による内部監査

 子会社の不正防止には親会社による内部監査が不可欠です(弁護士等の専門家と事前に十分な準備をしたうえで内部監査に臨むことも検討)。抜き打ちによる内部監査の実施や、内部監査の結果を研修にフィードバックすることなども重要となります。
 特にリスクが顕著な地域や業務領域に優先順位をつけて、重点的に監査すべき部門、子会社を選定することが重要です。人事が硬直化している子会社や部署、親会社事業との関連性が乏しい子会社、業績が好調な子会社などは、聖域化してしまう傾向にあるため、重点的な監査が必要となります。

内部通報制度の実効性確保

 内部通報制度の利用を促すために、特に海外においては、多数言語による通報システムの整備、時差に影響されないようメールによる通報システムの完備が重要となります。また、通報資格者についても、子会社の役員・従業員のみならず、グループ企業の社員、取引先の社員も含めることが考えられます。

グローバルな内部通報制度の設計

グローバル内部通報制度導入の必要性

 たとえば、海外の子会社が売上を過大に計上していたケースで、匿名の内部告発メールが届いたものの、これをグローバルの親会社に報告せず秘密裏に処理していたところ、監査法人による監査で不正が発覚したという例があります。
 海外子会社による不正行為やその兆候を早期に把握し、適切に対応するには、実効性あるグローバル内部通報制度を整備・運用することが有用です。内部通報は、日本において不正の早期発見手段として注目されているだけでなく、海外においても最多の不正発覚手段であると指摘されています。

制度設計のポイント

 グローバル内部通報制度における窓口の設置方法としては、大きく以下の類型があります。

  1. グループ全体をカバーする統一の窓口(いわゆるグローバルホットライン)を、親会社やホールディング会社に設置する
  2. 海外子会社・地域ごとに独立した窓口を設置する
  3. ①および②の窓口を併存して設置する

 上記①であれば、本社等のコンプライアンス部門や日本国内の法律事務所が、②であれば各海外子会社のコンプライアンス部門や、海外子会社の所在する現地の法律事務所を直接の窓口とすることが考えられます。
 上記①は、海外子会社を含むグループ全体をカバーするため、受付言語も、日本語だけでなく、少なくとも英語、できれば現地語による受付も可能としておく必要があります。また、受付手段としては、電話、電子メール、ウェブサイト、郵便などで受け付ける体制を敷いている例があります。
 通報対象とする事実の範囲は、これを広げ過ぎると制度を円滑に運営できなくなるおそれがありますので、少なくとも当初の制度設計では、日本の親会社やグループに与える影響の大きな類型(競争法違反、贈収賄、経営陣による不正等)に限定するという方法もあります。
 日本の法律事務所が内部通報窓口となる場合には、以下のような対応を担当することが想定されます。ただし、海外子会社の現地従業員である通報者とのやり取りや、現地法令の調査等は現地法律事務所が実施することが想定されます。

  • 内部通報の受付(制度説明や問題点の把握も行う)
  • 会社への通報内容の報告(事前に匿名化等について通報者の意向を確認)
  • 会社による調査計画の内容・進捗の確認
  • 通報者への回答

海外法律事務所との連携

 上記のとおり、グローバル内部通報制度を設計・運用するにあたっては、海外子会社が所在する現地法令の調査が不可欠です。企業としては、取りまとめをする国内法律事務所を選任のうえ、現地法律事務所と連携して制度設計・運用を進めていくことになります。そのため、海外の法律事務所その他のグローバルなネットワーク(たとえば、筆者らが所属しているMultilaw、Employment Law Alliance(ELA)、Lawyers Associated Worldwide(LAW)等)との連携が非常に重要となります 2
 グローバル内部通報制度の整備・運用に際して法的調査が必要となる各国規制の例(概要)は、以下のとおりです。

a. 企業に内部通報制度の導入を義務づける法律等の有無
例:米国におけるいわゆるSOX法 3 やドッド・フランク法 4 5

b. 海外子会社所在地の個人情報保護法制
・内部通報制度の導入に必要な手続
・被通報者の個人データの受理や第三者提供に際しての同意の要否
・通報内容に含まれる個人データの国・地域外への移転の可否・要件・手続等
・違反した場合のペナルティや当局の措置

c. 海外子会社所在地の労働法関連法制
・保護を受ける労働者の範囲
・通報対象事実の範囲
・不利益取扱いの禁止に関する規定の有無・内容
・違反した場合のペナルティや当局の措置

d. 国外・地域外へのデータ移転規制との関係
・現地法令が営業秘密や軍事機密の国外持ち出しを制限、禁止していないか等

 グローバル内部通報制度の実効的な運用のためには、上記の海外子会社等の所在地における法令等の調査結果を踏まえ、運用に関する関係規程や通報対応マニュアル・フロー等を作成し、制度の周知・研修の実施も併せて行う必要があります。

内部通報制度全般の留意点

 不祥事が外部から発覚した場合、必要な調査、マスコミ対応、再発防止策の策定等すべてについて後手に回らざるを得ないこととなってしまいます。
 内部通報制度をより実効的にするための方策については、以下も参照してください。

 なお、2019年11月7日に、不祥事予防のプリンシプルに関する意見交換会が行われた結果をまとめた「不祥事予防に向けた取組事例集」(以下「取組事例集」といいます)が公表されました。
 この点に関し、取組事例集では、以下のような指摘がなされています。

海外拠点から本社へのレポーティング・ライン
  • 日々の業務報告のレポーティング・ラインとは別途、不祥事等について、国内外の全子会社から本社に対してダイレクトに報告する仕組みを構築している。

  • 普段のオペレーション上のレポートは、管轄している部門に行くことにしているが、不祥事等のリスク情報は通常のルートの報告と同時に、本社のリスクマネジメントに直で報告することを求めている。

  1. 林稔(KPMG FAS)ほか「今後起こり得る5つの不正リスクシナリオ」旬刊経理情報1590号13頁以下(2020年10月)も参照 ↩︎

  2. たとえば筆者らが所属している牛島総合法律事務所は、以下の3つの国際的な法律事務所ネットワークにおいて日本を代表する法律事務所(representative firm)であり、各国の法律事務所と連携してグローバルな不祥事対応や内部通報制度の設計・運用に関するアドバイス等を提供可能な体制となっています(各ネットワークの詳細については、こちらのウェブサイトをご参照ください)。
    Multilaw
    ・独立したローファームが所属する世界有数のグローバルネットワーク
    ・世界約100か国の約90のメンバーファーム、弁護士個人単位では、世界各国約300の拠点で活動する約10,000人の弁護士が所属
    ・Chambers & Partners(Chambers Global 2021 Guide)のLeading Law Firm Networksのジャンルにおいて、最高位であるElite—Global-wideに格付け
    Employment Law Alliance(ELA)
    ・労働分野の専門弁護士が所属するローファームで構成されたグローバルネットワーク
    ・世界100か国以上、米国全州およびカナダの各プロヴィンスの各地域において、合計3,000人以上の弁護士が所属
    ・Chambers & Partners(Chambers Global 2021guide)の労働(Employment)部門のLegal Networksのジャンルにおいて、最高位であるElite—Global-wideに格付け
    Lawyers Associated Worldwide(LAW)
    ・約100の独立したローファームが所属するグローバルネットワーク
    ・約50か国において、4,000人を超える弁護士が所属
    ・Chambers & Partners(Chambers Global 2021 guide)のLeading Law Firm Networksのジャンルにおいて、Eliteの次順位に格付け ↩︎

  3. Sarbanes-Oxley Act of 2002、サーベンス・オクスリー法。上場会社を対象に従業員による匿名内部通報制度の設置を義務づけている。 ↩︎

  4. Dodd Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act。証券取引委員会(SEC)所管法令違反についてSECに情報提供をした通報者に対する雇用主(上場会社に限られない)による不利益取扱いの禁止等を規定している。 ↩︎

  5. 消費者庁ウェブサイト掲載の「アメリカの公益通報者保護制度について」も参照 ↩︎

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