海外子会社で不祥事が発生した場合の海外当局・訴訟対応

危機管理・内部統制
大澤 貴史弁護士 牛島総合法律事務所 Gregory Kinaga 牛島総合法律事務所

 海外子会社で不祥事が発生した場合には、海外当局への対応や訴訟への対応について、どのような点に注意すればよいのでしょうか。

 海外当局対応においては、秘匿特権の放棄や刑事手続における減刑制度など、後に想定される民事・刑事裁判への影響も考慮して方針を検討する必要があります。また、海外当局や訴訟にどのように対応すべきかについて国内および現地の弁護士と相談のうえで十分に検討する必要があります。

解説

目次

  1. 海外子会社の不祥事に伴う海外当局・訴訟への対応
    1. 当局への情報提供と秘匿特権の関係
    2. 不正行為の自主的な報告
    3. 当局による処分内容の検討
    4. 訴訟対応における留意点
  2. 海外法律事務所との連携

海外子会社の不祥事に伴う海外当局・訴訟への対応

 海外子会社で不祥事が発生すると、多くのケースで海外当局への対応や関係当事者から提起される各種訴訟への対応が必要となります。本稿では、過去に特に大きな問題となることが多かった米国での不祥事対応を想定し、親会社や海外子会社の担当者が留意すべき点を説明します。

当局への情報提供と秘匿特権の関係

 不祥事が発生すると、多くのケースで海外当局から情報提供要請がなされます(「海外子会社で不祥事が発生した場合の初動調査の留意点」も参照してください)。
 このような要請に応じて、秘匿特権(attorney-client privilege等)の対象文書を当局へ開示すると、すべての第三者との関係で当該秘匿特権を放棄したとみなされてしまう可能性があります。そうすると、関連する株主代表訴訟やクラス・アクション(ある事件などから同じような被害を受けた者が多数いる(この集団を「クラス」といいます)ときに、そのクラスの代表者が訴訟を提起する制度)におけるディスカバリー(米国訴訟手続の本審理前の段階で、証言録取(デポジション)などにより相手方との間で関連情報・資料の取得を行う手続 1)でも、当該文書の秘匿特権は放棄したものと扱われ、訴訟の相手方への開示を求められるおそれがあります。
 また、ある文書について秘匿特権を放棄した場合、その文書と同じ主題(subject matter)の下にある関連情報について秘匿特権を放棄したと判断されてしまう可能性もあります。
 このように、当局への情報提供に際しては、秘匿特権の適用、範囲および放棄等について現地弁護士に確認のうえで判断する必要があります。たとえば、社内調査で発見した情報についても、そのうち基本的・客観的な事実関係のみを当局へ開示することで、社内調査で発見した情報を内容とする保有文書について秘匿特権を放棄したと判断されるリスクを低くするという手法が考えられます。

不正行為の自主的な報告

 内部調査で不正行為を確認した場合、それを当局に自主的に報告するか、報告するとしてその手法やタイミングをどうするかについては、慎重に検討して判断しなければならないポイントです。特に、ガイドライン等において、当局の判断における具体的な考慮要素が記載されている場合には、その記載を十分に踏まえて判断する必要があります。
 たとえば、米国のFCPA(The Foreign Corrupt Practices Act:連邦海外腐敗行為防止法)違反が問題となる場合には、FCPAリソースガイドの「Guiding Principles of Enforcement」の「DOJ FCPA Corporate Enforcement Policy」の項目を参照することが有用です。

※ DOJ(Department of Justice)およびSEC(Securities and Exchange Commission):「FCPAリソースガイド」(「A Resource Guide to the U.S. Foreign Corrupt Practices Act, Second Edition」)

FCPAの解釈およびその執行実務に関連する情報を集約し、FCPA遵守のための留意点やFCPAに違反した場合に求められる対応などを示したもの


 同項目では、検察官による起訴・不起訴判断についての記載として、たとえば以下の記載があります(「FCPAリソースガイド」「A Resource Guide to the U.S. Foreign Corrupt Practices Act, Second Edition」51頁)。

  • 不正行為を自主的に申告するとともに、全面的に調査に協力し、適時適切な改善措置を講じた企業は、経営陣の関与等の追加的な事情がなければ、不起訴処分となることが想定される。

 同ガイドには、起訴後の量刑判断についても、概要以下のとおり具体的な基準が記載されています(「FCPAリソースガイド」52頁)

  • 不正行為を自主的に申告し、全面的に調査に協力し、適時適切な改善措置を講じた企業は、再犯である等の事情がない限り、刑事処分が適当である場合の罰金額の下限から50%の減額を推奨。
  • 上記のうち自主的申告のみが欠ける場合には、罰金額の下限を基準に25%を上限とした減額を推奨。

 また、海外子会社による価格カルテルへの参加が問題となる場合には、たとえば米国でもDOJはリニエンシー制度(企業が自ら関与したカルテルなどについて、競争当局に対し違反内容を自主的に申告した場合に、課徴金等の制裁が免除・減額される制度)を導入しており、DOJに対して最初にカルテルの事実を申告した企業は、その他の要件も満たせば起訴が免除されます。
 リニエンシー制度を利用できずカルテルで摘発された企業であっても、当該カルテルとは関連しない別の取引分野で自らがカルテルに関与していた事実を発見・申告した場合には、摘発済みのカルテルについても減刑され得ます(「アムネスティ・プラス」制度)。
 これに対し、法令等を踏まえても問題となった行為について自主的な開示・申告をしないことが適切であると判断した場合には、後日当局が当該行為を発見することも想定して、徹底した内部調査と是正措置を実施しておく必要があります。内部者が当局や報道機関等に告発する可能性や、後日発覚した場合に「隠蔽」と評価されるリスクも当然考慮が必要です。

当局による処分内容の検討

 当局による処分は、国ごと・関係する法令ごとに様々です。海外子会社で不祥事が発生した場合には、いかなる処分があり得るのかについても把握しておく必要があります。
 米国では、多くの事件が、正式な陪審員の審理後に言い渡される終局判断ではなく、以下のような司法取引により終局しており、それらは通常は陪審員の審理前に行われます。そのほか、当局が無条件で不起訴処分(Declination)とする場合も当然あります。

処分 概要
有罪答弁(Guilty Plea) 当局が指摘する不正行為について企業が公判で有罪答弁をすることを前提とする合意です。
公判廷で有罪答弁をして有罪宣告を受け、正式な審理を受ける権利を放棄しますが、その代わりに通常は刑が減軽されます。
不起訴契約
(Non-Prosecution Agreement)
企業が不起訴契約上の条件に一定期間従えば、当局は不正行為に関して当該企業を起訴しないことを約束する合意です。公表・非公表は合意内容次第となります。

【合意において規定される条件の例】
  • 罰金その他の刑事罰
  • 当局への継続的な協力
  • 企業自身によるコンプライアンス・プログラムに関するモニタリングの実施(企業自身によるものや、第三者よるものがある)
起訴猶予契約
(Deferred Prosecution Agreement)
当局が企業を裁判所に起訴し、同時に、起訴猶予契約に基づいて、裁判所に起訴された事件進行の中止を求めるものです。
企業が起訴猶予契約における条件に従えば(コンプライアンス・プログラムの改善等)、当局は起訴を取り下げます。

 不起訴契約や起訴猶予契約の事例は、増加傾向にあると指摘されています。

 近年、米国当局(特にDOJ)は、不正行為に関して重大な役割を果たした役職員個人を起訴することを重視する傾向にあります。その結果、企業との間で上記のような合意をする場合にも、一定の役職員個人の責任を合意による免責範囲から明示的に除外(カーブアウト)し、当該企業にはカーブアウトされた役職員個人に関する当局調査に協力する義務を負担させるという対応がみられます。
 なお、米国当局による調査開始や司法合意が発表されると、米国以外の国の当局の刑事手続や行政処分手続が誘発されることもあるという点に留意が必要です。

訴訟対応における留意点

 米国では、刑事・民事のいずれの裁判も、通常は一般人から選ばれた陪審員が審理を担当します(陪審員制)。職業裁判官による裁判と比較すると結果が予測しにくく、州ごとあるいは州の手続か連邦手続かにより、適用法令、審理の進め方および結論が変わり得ます。
 また、米国の裁判制度の大きな特徴の1つはクラス・アクションです。これは上記1-1で前述したとおり、ある事件について同様の被害を受けたことなどの共通点をもつ人々(クラス)の代表者がそのクラス全員のために訴えを提起する制度です。クラスのメンバーは、クラス・アクションに拘束されたくない旨を通知しない限り、クラスの代表者の訴訟遂行・結果に拘束されます(オプトアウト制)。したがって、クラス・アクションでは(訴訟件数自体は少なくなる一方で)原告の数が増え、賠償金額が高額化する傾向にあります。
 特にカルテルの事案では、DOJがカルテルを公表すると、弁護士が原告候補者を探し出してクラス・アクションを提起するということがみられます。

 カルテル参加者は、実際の損害額の3倍の額の賠償義務を課される可能性があり(クレイトン法4条:いわゆる「3倍賠償」)、損害賠償義務は連帯責任となりますので、巨額の賠償責任につながり得ます。もっとも、リニエンシー制度を利用して刑事訴追を免れた企業は、原告側への一定の協力義務を果たせば、自社の責任分のみを賠償すれば足ります。米国の競争法制度については、日本の公正取引委員会の説明も参考になります。
 さらに、ディスカバリー制度などもありますので、それらによる負担等も踏まえ、当局対応や訴訟対応について方針を検討・判断する必要があります。

海外法律事務所との連携

 上記のとおり、海外で不祥事が発生した場合においては、海外の法律事務所その他のグローバルなネットワーク(たとえば、筆者らが所属しているMultilawEmployment Law Alliance(ELA)Lawyers Associated Worldwide(LAW)等)との連携が非常に重要となります 2
 詳細は、「海外子会社での不正発見のためのグローバル内部通報の制度設計」で説明するとおりです。

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  1. ディスカバリーの一般的な流れは概要以下のとおりです。当事者主導で手続が進められ、裁判所の関与は限定的です。
    ① 自発的開示(initial disclosure)
    ② 以下の書面の送付
    ・質問書:質問を受けた当事者は原則として30日以内に回答。
    ・文書・電子保存情報等の提出要求書:証拠の入手手段として実務上特に重要。
    ③ ②の質問書への回答および文書・電子保存情報等の提出
    ④ 証人の証言録取(デポジション)
    ・一般的には、当事者の一方の弁護士事務所にて、口頭尋問の形式で行います。

     ディスカバリーの対象には、文書等については電子メールその他の電子保存情報だけでなく、いわゆるメタデータ(文書作成者や作成日時、作成履歴に関する情報等)や有益な情報を発見するための手がかりになる情報(書類や関係者の所在場所等)も含まれ、対象となる情報が存在する場所にも制限がない(本社だけでなく、支店や子会社、工場、外部倉庫にある情報、役職員が自宅で使用しているPCに保存している情報、外部のクラウドサーバー上の情報も対象になり得る)という点で、ディスカバリーの対象は広範で莫大な労力を必要とする作業となります。
     ディスカバリーのルールに違反した場合の制裁内容については裁判所が広範な裁量を有しており、違反者に対し罰金の支払を命じたり、訴訟の勝敗に直結する制裁として、違反者について、証人として法廷で証言することを許さない、不利な事実が存在するとみなしたりその推認を陪審員に指示する、冒頭陳述や最終弁論の持ち時間を少なくする等の措置を講ずることがあり、意図的に情報を隠し、違反行為発覚を避けるため証人を指導するなど、ディスカバリー制度の濫用が認められる場合には、違反当事者を敗訴させる(default judgement)こともあります。
     なお、上記のとおり、ディスカバリーは広範な情報収集が可能な手段ですが、収集した情報がその後の審理(trial)で証拠として認められるかどうかは証拠法の適用次第となります。 ↩︎

  2. たとえば筆者らが所属している牛島総合法律事務所は、以下の3つの国際的な法律事務所ネットワークにおいて日本を代表する法律事務所(representative firm)であり、各国の法律事務所と連携してグローバル内部通報制度の設計・運用に関するアドバイス等を提供可能な体制となっています(各ネットワークの詳細については、こちらのウェブサイトをご参照ください)。
    Multilaw:約100か国における約90の法律事務所が所属するネットワーク
    Employment Law Alliance(ELA):100か国以上における3,000人以上の弁護士が所属する人事、労働案件を得意とする法律事務所の世界的なネットワーク
    Lawyers Associated Worldwide(LAW):約50か国における約100の法律事務所が所属するネットワーク ↩︎

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