自社の役員・社員が週刊誌に取り上げられる場合に取りうる対応は

危機管理・内部統制
佐藤 大和弁護士 レイ法律事務所

 当社の代表がスキャンダルを起こし、週刊誌に取り上げられることになりました。そして、週刊誌から、同記事掲載前に、取材を受けることになりました。事実とは異なる内容まで報じられてしまうようなのですが、どのような対応をするべきでしょうか。

 週刊誌側に自社が懇意にしている記者がいれば、その記者を通じて、把握していないのであれば、週刊誌問題に精通している弁護士を通じて、名誉毀損やプライバシー侵害等を理由として、記事を掲載しないよう求める交渉や記事内容の訂正交渉等を行うことが考えられます。
 同時に取材内容について早急に事実確認を行いつつ、記事が掲載されたときの影響度を検討したうえで、週刊誌の発売前後に反論文や謝罪文等のプレスリリースを自社のウェブサイト等に掲載することを検討し、場合によっては、記事掲載禁止仮処分命令の申立てをすることなどが考えられます。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 週刊誌に対する記事掲載禁止仮処分命令の申立て
    1. 週刊誌の発売スケジュール
  3. 記事掲載禁止仮処分命令の申立て
    1. 申立てのスケジュール
    2. 記事掲載禁止仮処分の申立て
    3. 記事掲載禁止仮処分の申立ての意義

はじめに

 自社の代表、社員を取り上げた週刊誌が発売された場合、取り上げられた本人のプライバシー侵害や名誉毀損につながる可能性や、事実と異なる内容まで書かれてしまうおそれもあります。レピュテーションリスクなど企業経営に対して与える影響を少なくするためにも、適切な対応が求められます。

 名誉毀損またはプライバシー侵害の可能性が高い記事が掲載されるおそれがある場合、下記の対応が考えられます。

  • 週刊誌側の懇意にしている記者等を把握していれば、その記者を通じて、把握していないのであれば、週刊誌問題に精通している弁護士を通じて、名誉毀損やプライバシー侵害等を理由として、事実と異なる記事を掲載しないよう求める交渉や記事内容の訂正交渉等を行う

  • 「Yahoo!ニュース」など記事を掲載する会社側に対しても、同様に、名誉毀損やプライバシー侵害等を理由として、事実と異なる記事を掲載しないよう求める交渉を行う

  • 早急に事実確認を行い、週刊誌の発売前後に反論文や謝罪文等のプレスリリースを自社のウェブサイト等に掲載することを検討し、プレスリリース(反論文の場合には取材内容から記事に掲載される内容を推測して反論する内容、謝罪文の場合には事実経緯や今後の対応策等を記した内容)の作成に着手する

  • 裁判所に対して記事掲載禁止仮処分命令の申立てをする

 ちなみに、筆者の経験上、一度販売された雑誌の回収について争うことは困難です 1

 本稿では筆者の経験を踏まえて週刊誌に対する記事掲載禁止仮処分命令の申立てをする場合の留意点について解説します。

週刊誌に対する記事掲載禁止仮処分命令の申立て

週刊誌の発売スケジュール

 記事掲載禁止仮処分命令の申立てをするにあたり、週刊誌の発売スケジュールに合わせて準備を進めなければなりません。たとえば金曜日に発売される週刊誌の場合、掲載に至るまでの一般的なスケジュールは以下のとおりです。  

曜日 行われること 週刊誌側のアクション・取材対象者側が取るべき対応
(前週)金曜日 編集会議 週刊誌に掲載される大まかな記事内容が決定される。
月曜日 取材 取材対象者に対して電話による取材か、書面で「質問書」もしくは「取材依頼書」が届く。回答期限は翌日もしくは翌々日に設定されることが多い。取材があった段階で、ただちに弁護士に相談することが望ましい。
火曜日 夕方までに回答 取材対象者側は、短時間で情報を収集し、週刊誌の取材内容と事実の異なる点を確認し、回答するかどうかを検討しなければならない。
回答する場合、週刊誌は、回答内容をそのまま掲載しない傾向にあるため、この段階での回答をしないか、若しくは回答は端的なものにとどめておき、必要があれば改めて、プレスリリースなどで詳細に回答したほうが良い。 直接会って取材対応をする⽅法もあるが、不⽤意な発言や余計な発⾔等をした場 合、その発⾔を記事として使われる可能性があり、デメリットも多い。
水曜日 記事化 記者は、回答を踏まえて、遅くとも17時までには記事化、17時頃に校了。
木曜日 早刷り 午前中に輪転機で印刷され、午後の早い時間帯には早刷りがマスコミに対して配布される。
金曜日 発売

 以上のとおり、取材から記事化されるまでの時間は短く、数日の間に事実確認、取材への対応、法的対応が求められます 2

記事掲載禁止仮処分命令の申立て

申立てのスケジュール

 上述したとおり、週刊誌は、取材から記事化されるまでの時間が短いため、取材と同時に起案をしなければ、発売されるまでに記事掲載禁止仮処分命令の申立てをすることは難しくなります。

 金曜日発売の週刊誌の場合、下記が一般的な申立てのスケジュールです。

火曜日 火曜日中:裁判所に対して、記事掲載禁止仮処分命令の申立てをする
午後:債権者審尋(または水曜日の午前中)
水曜日 午後:双方審尋

 取材を受けた月曜日に裁判所に対して、記事掲載禁止仮処分命令の申立てをし、火曜日の午前中に債権者審尋、午後に双方審尋というスケジュールも考えられますが、申立てが早すぎると、債務者(週刊誌)側の相手方代理人から、記事にすることがほぼ確実であったとしても、「まだ取材段階であり、記事化されていないため、記事内容の特定が不十分である」と反論される可能性があるため注意が必要です。

記事掲載禁止仮処分の申立て

(1)申立書の申立ての趣旨

 申立書の申立ての趣旨は、以下の内容が一般的です。

  1. 債務者は、別紙雑誌目録記載の雑誌 3 において、別紙記事目録記載の記事 4 を掲載してはならない
  2. 債務者は、債務者の開設・運営する別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイト 5 に、別紙記事目録記載の記事を掲載してはならない
  3. 申立費用は、債務者の負担とする との裁判を求める。

 別紙記事目録について、債権者(申立てをする)側は、週刊誌からの「質問書」もしくは「取材依頼書」から、記事内容を特定することになりますが、ある程度抽象的な記載にならざるを得ません。

 債務者側の代理人から、特定が不十分と反論があった場合も、債権者側の代理人が「別紙記事目録の内容が記載されている記事の掲載禁止を求めている」と主張をすることで、裁判所もこれを前提に審理を進める傾向にあります。

(2)申立ての理由

① 名誉毀損の場合

 名誉毀損とは人の社会的評価を低下させる表現行為であり、民法上、不法行為にあたります。被害者は、加害者に対して、財産的損害や精神的苦痛に対する損害賠償を求めることができるほか(民法709条、710条)、名誉毀損となる表現の差止めや削除を求めることができます。

 申立ての理由は、人格権としての名誉権に基づいて侵害行為の差止めを求めるとして、「人格権のうち名誉権に基づく出版物の頒布、販売等の差止めは、( ⅰ )本件雑誌中の記事の記述が債権者の社会的評価を低下させるものであること(名誉権侵害)を前提に、( ⅱ )その表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものではないことが明白であって、( ⅲ )被害者が重大で著しく回復困難な損害を被るおそれがある場合に認められる」として、( ⅰ )から( ⅲ )の各要件を満たしていることを記載します(北方ジャーナル事件・最高裁昭和61年6月11日判決・民集40巻4号872頁、「石に泳ぐ魚」事件・最高裁平成14年9月24日判決・集民207号243頁)。

 ここで最大の争点になるのは( ⅱ )の「その表現内容が真実でないこと」=「反真実性」です。筆者の経験上、「専ら公益を図る目的のものではないこと」=「公益性」は、著名な事件、または著名人の場合、いくら厚く記載しても裁判所は公益性を認め、争点を「反真実性」だけに絞る傾向があります。

 債権者側は反真実性を疎明する責任があり、積極的に証拠や証言等を集めて疎明資料を提出しなければなりません。週刊誌の記事は、そのすべてが正しいとは限らないため、虚偽である部分を積極的に主張および疎明する形となりますが、陳述書を取得する時間もないため、弁護士が聴き取った内容をまとめた聴取録取書を提出することが多いです 6

( ⅲ )の要件は、昨今の、記事を契機にして誹謗中傷が過激化する傾向や、一度インターネット上に掲載されれば、未来永劫にわたり真実ではない記事が掲載され続けることを記載します。筆者は、誹謗中傷が過激化している1つの資料として、類似事件の記事を探し、「Yahoo!ニュース」のコメント欄を証拠として提出するようにしています。

② プライバシー侵害の場合

 プライバシーとは「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」(「宴のあと」事件・東京地裁昭和39年9月28日判決・下民15巻9号2317頁)です。故意または過失により他人のプライバシー権を侵害した場合、不法行為が成立しうることになります(民法709条、710条)。

 プライバシー侵害の場合、申立ての理由は、人格権としてのプライバシー権に基づいて、侵害行為の差止めを求めるとして、プライバシー侵害であることを主張しつつ、「人格権のうちプライバシーの権利に基づく出版物の頒布、販売等の差止めは、( ⅰ )本件記事が公共の利害に関する事項に係るものといえないこと、( ⅱ )本件記事が専ら公益を図る目的のものでないことが明白であること、( ⅲ )本件記事によって被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがある場合に認められる」として、( ⅰ )から( ⅲ )の各要件を満たしていることを記載していくことが考えられます(東京高裁平成16年3月31日決定・判タ1157号138頁等)。

 ここで最大の争点になるのは( ⅲ )です。裁判所は、「出版物の事前差止めは、この表現の自由に対する重大な制約であり、これを認めるには慎重な上にも慎重な対応が要求されるべきである。」(東京高裁平成16年3月31日決定・判タ1157号138頁)としています。債権者側は「重大にして著しく回復困難な損害を被らせるおそれがある」ことを丁寧に主張および疎明する必要があります。

記事掲載禁止仮処分の申立ての意義

 過去の裁判例を見る限り、記事掲載禁止仮処分の申立てが認められた裁判例は、非常に少ないと思われます。
 公刊物に掲載された認容例として、下記があります。

  • 名誉毀損を理由として記事掲載禁止仮処分の申立てが認められた裁判例
    札幌地裁昭和55年11月5日判決・判時1010号91頁

  • プライバシー侵害を理由として記事掲載禁止仮処分の申立てが認められた裁判例
    札幌高裁平成30年5月22日決定・判時2388号42頁
    東京地裁平成16年3月19日決定・判タ1157号145頁
    神戸地裁尼崎支部平成9年2月12日決定・判時 1604号127頁

 もっとも、プライバシー侵害を理由としたもののうち東京地裁平成16年3月19日決定については東京高等裁判所に抗告されて取り消され、申立て却下となりました。

 反真実性の疎明のハードルは非常に高く、短時間でしなければならない作業が非常に多いものです。

 しかしながら、記事掲載禁止仮処分の申立て等をすることによって下記の効果がみられます。

  • 相手方が保有している証拠や取材内容等が明らかになる
  • 双方審尋の中で主観報道ではなく、客観報道をするよう強く求めることによって、記事が公平かつ中立的なものになりやすい

 また、記事掲載禁止仮処分の申立てにて、虚偽であること、または事実の真実性に疑いを抱くべき事実があることを適切に主張することで、週刊誌側が、「本件において、虚偽または事実の真実性に疑いを抱くべき事実があるにもかかわらず、漫然と記事を掲載した」という事実が残り、今後の名誉毀損等を理由とした損害賠償請求の際に、週刊誌側のずさんな取材や編集を示す1つの根拠となります。

 以上から、筆者としては、大変な労力は発生しますが、取材内容から名誉毀損やプライバシーを侵害する記事が掲載される可能性がある場合には、積極的に記事掲載禁止仮処分の申立てをするべきであり、これは週刊誌だけではなく、記事を掲載する各メディアに対しても同様と考えています 7


  1. 数少ない認容例として、プライバシー侵害を理由とした札幌高裁平成30年5月22日決定・判時2388号42頁がある。 ↩︎

  2. 最近では、週刊誌が運営するウェブサイトだけに掲載するケースが多くある。記事化されるまでの時間がさらに短いうえに、掲載時期が特定しにくい。 ↩︎

  3. 別紙雑誌目録では、雑誌名と出版社名を記載する。 ↩︎

  4. 別紙記事目録では、記事の内容を記載する。 ↩︎

  5. 別紙ウェブサイト目録では、ウェブサイトの表題とURLを記載する。 ↩︎

  6. 週刊誌の記事では、記載されている一つ一つの事実は真実であるが、前提となる事実や重要な事実を記載することなく、関係者のコメント等を上手く使うことによって、取材対象者の評価を下げるような記事にし、また読者に対して真実とは異なる印象を与える記事を作成する場合もある。このような場合には、記事全体を捉えて、真実とは異なる印象を読者に与えることを主張しなければならない。 ↩︎

  7. 筆者は、原則として、①記事掲載禁止仮処分の申立てと同時に、②週刊誌を擁する企業および全役員に対する名誉毀損等の記事を掲載せず、十分な取材をすること等を求める内容証明、および③配信会社に対して名誉毀損等の記事を配信しないよう求める内容証明等を送付している。なお、筆者は、今まで何度か配信会社に対して配信しないよう求める内容証明を送付しているが、基本的に「新聞社や通信社などの情報提供元から配信される情報を掲載するサービス」であるなどと回答するのみである。しかし、配信会社の法的責任を問うためには、送付した方が良いと考える。 ↩︎

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