ウィズコロナ、アフターコロナの法律事務所

第1回 DXを推進し、コロナ後を見据えた成長戦略を描く - アンダーソン・毛利・友常法律事務所

コーポレート・M&A

目次

  1. コロナ禍で起きた案件への変化、活気づくベンチャー企業
  2. 法律事務所の競争戦略としてのDX
  3. クライアントとの信頼関係が築けていれば、オンラインでも問題はない
  4. 所内でのコミュニケーション・育成の話
  5. 「想像力」と「創造力」が新しい仕事につながる

新型コロナウイルス感染症が猛威をふるい、世の中の景色が大きく変わりました。ウィズコロナ、アフターコロナ時代に求められる法律事務所のあり方とはどのようなものなのでしょうか。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所の山口 大介弁護士、齋藤 宏一弁護士、戸塚 貴晴弁護士、清水 亘弁護士にコロナ禍で起きた変化とこれからのビジョンについて伺いました。

コロナ禍で起きた案件への変化、活気づくベンチャー企業

今日はオンラインで取材のお時間をいただきましたが、リモートワークを中心にされているのでしょうか。

戸塚 貴晴弁護士:
緊急事態宣言発令中は、弁護士、スタッフも含めてなるべく事務所に出てこないようにして、解除後は在宅と事務所に出る日を調整しながら対応しています。事務所に出ている人が少なくても、ちゃんと業務が回っていくことがわかり、だいぶ安心感を持てました。

在宅勤務を進めるにあたってどのような点を注意されましたか。

戸塚 貴晴弁護士:
コロナの影響が出る前から、弁護士はリモートで仕事ができる体制を整えていたのですが、スタッフも含めた在宅勤務は初めてでした。そこで、情報セキュリティーのポリシー・ルールを策定、徹底しました。リモートでアクセスするときのマニュアルにも盛り込んでいます。

業務自体は在宅でも問題なく進められるように体制を作られたのですね。新型コロナウイルスの影響によって取り扱う案件の件数や内容に変化はありましたか。

山口 大介弁護士:
事務所全体でいうと、緊急事態宣言が出された4月は少し稼働が減った気がしますが、それ以降は回復しており、全体としてそこまで大きな変化はありません。ただ、分野によっては差があり、いわゆる事業再生やそれに関連するM&Aはけっこう忙しいです。キャピタルマーケット関連も一時落ち込みましたが現在は回復しています。

戸塚 貴晴弁護士:
コロナ特有の案件で言うと、電子契約に関連したご相談が多く寄せられています。物理的な押印との違いや、外国では有効とされている考えの国内における有効性、紙にサインしていた国際的な文書の扱いに関するご質問などが増えました。今はおおむね状況が見えてきたようで、各社ともに工夫されながら進めています。

清水 亘弁護士:
なぜか私はとっても忙しくなっています(笑)。スタートアップ、ベンチャー系のお仕事が急に増えたのです。これまでの慣習やしがらみから変化への対応が遅れがちな既存企業に対して、スタートアップの皆さんは、「ピンチはチャンス」というマインドで新しい取り組みを進めています。

どのようなベンチャーが活気づいていますか?

清水 亘弁護士:
AIやIoTによって、大企業の業務変革、DXを支援するタイプのスタートアップに特に勢いがあるように思います。既存の大企業がスタートアップの力を借りて新規のプロジェクトや共同開発をするパターンも多いですね。

コロナの前から立ち上がっていたスタートアップでは、感染拡大を契機にニーズが拡大しています。

山口 大介弁護士:
私はIT業界のベンチャーやAIを活用したファイナンス関連などの案件にも携わっていますが、今のお話と同様に、スタートアップでは、コロナ禍を契機として新しいことを考えついたというよりは、以前から仕掛けていた事業が時代にマッチしてきたものが多いようです。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 山口 大介弁護士

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 山口 大介弁護士

法律事務所の競争戦略としてのDX

ウィズコロナ、アフターコロナ時代に法律事務所はどう変わっていくと思われますか。

山口 大介弁護士:
法律事務所間の競争が激しくなるなか、AIやリーガルテックを使って、業務の質を上げつつ効率化していく動きが進んでいます。

コロナを契機として我々も一層DXに力を入れています。ITには積極的に投資をしないと生き残れません。ただ、これはコロナがなくても、いずれそうなったと思っています。コロナが収束したとしても、元に戻すのではなくてテクノロジー導入の動きは進めるべきです。

我々は事務所の中でDX対応を進める立場ですが、最近はやりやすいですね。

所内、クライアントの皆様の理解も進んでいるというイメージでしょうか。

山口 大介弁護士:
どちらも進んでいます。Zoom会議は普通になりましたし、金融機関の偉い方でもTシャツで会議に出席されることがあります(笑)。

戸塚 貴晴弁護士:
コロナがなかったら費用対効果などを考えて、「もうちょっとあとで良いだろう」と判断したところを、試しに導入したツールもあります。使ってみたら意外に定着するんですよね。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 戸塚貴晴弁護士

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 戸塚貴晴弁護士

どのようなツールを導入されましたか。

山口 大介弁護士:
書籍のリサーチツールは最近導入しました。在宅では本を参照するのも非常に難しくなりますが、最終的に弁護士の質を決めるのはリサーチ力です。

リーガルテックの観点からいうと、紙で調べるよりももっと調べやすい形になってほしいですね。我々が実際に調べるときは、書籍と判例、条文、引用されている文献も含めて調べます。使うサービスが複数にまたがると、効率が下がってしまいますよね。実際のリサーチ業務に対応するレベルまでできるようになってほしいと思います。

他にはどのようなツールを導入されましたか。

山口 大介弁護士:
コロナの前からAIを使った業務の効率化には取り組んでおり、翻訳ツールは実用化していますし、ドキュメントの解析については海外のサービスも含めて研究をしています。また、生産性を高めるためにもメールに過度に依存せず、Slackなどを使って効率化する試みも始めています。

クライアントとの信頼関係が築けていれば、オンラインでも問題はない

クライアントの方とはコミュニケーションの仕方にも変化があったのではないでしょうか。

山口 大介弁護士:
本質的なクライアントとの関わり方は変わっていないのですが、むしろZoomで会議がしやすくなった面もあります。既存のつながりがあるクライアントとの関係であれば、気軽にお話もできますし、画面共有も便利ですしね。

戸塚 貴晴弁護士:
対面でのコミュニケーションを重視する方もいますので、事務所にお越しいただける場合でも、会議室は密にならないように椅子を半分使えないようにするなどの配慮をしています。

新規のクライアントの方ともZoomでお話されるのでしょうか。

清水 亘弁護士:
私の新規のお客様は、ほとんどがウェブ会議ですね。最近特にスタートアップの案件が増えたこともあり、今の方が快適でつながりを広げられる感じがします。

新たな案件が始まるきっかけも変化されていそうです。

清水 亘弁護士:
SNSでいきなり友達申請があり「さっきのウェビナーを聞いていました。ご相談したいのですが」とご連絡いただくこともあります(笑)。

躊躇せずに、オンラインのツールを活用して人とつながっていくことが、経営上も重視される時代になってくると思います。

山口 大介弁護士:
最近は私どももSNSでの発信を積極的に行っています。主に日本向けにはTwitter、英語圏にはLinkedIn、中国にはWeChatで発信しています。

左:Twitterアカウントの画像 右:Linkedinアカウントの画像

左:Twitterアカウントの画像/右:Linkedinアカウントの画像

手応えはいかがですか。

山口 大介弁護士:
海外の弁護士や海外企業の法務部の人はLinkedInをよくやっているので、海外向けの発信としては非常に良いですね。LinkedInは実名制なので炎上リスクも相対的に低いです。Twitterは主に日本のベンチャー企業向けの情報発信に使っていければいいですね。

今までは優秀な弁護士個人としてのキャラクターを発信していましたが、それに加えて事務所全体としてのブランディングを行い、総合力の高さを見せたいですね。

クライアントとのコミュニケーションにおいて、オンラインで難しいことはありませんか。

山口 大介弁護士:
信頼関係が築けていれば、オンラインでも困らないはずです。ただ、関係を築くまでの時間は前よりもかかるかもしれないですね。元々、顔を見たことがない海外のお客様と仕事をすることは多かったですが、プロフェッショナルとしての信頼関係があれば、それほど困らないものです。

所内でのコミュニケーション・育成の話

 

所内でのコミュニケーションについて、どのような点に気を配っていますか。

清水 亘弁護士:
緊急事態宣言中には、弁護士の人事委員会(HR委員会)からお願いをして、「在宅勤務で心と体のバランスを崩していませんか?」「在宅勤務で困っていることはありませんか?」「問題はないですか?」などと、パートナー側からアソシエイトに声をかける臨時の面談を設定しました。

短くても構わないので、コミュニケーションを増やすことが大切です。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 清水 亘弁護士

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 清水 亘弁護士

齋藤宏一弁護士:
比較的近いプラクティスをやっているアソシエイトの先生を交えた定例会を、週に1回オンラインで開いています。アジェンダは事前に定めず、ざっくばらんに雑談していて、そこでは意識的に柔らかいコミュニケーションを取るようにしています。

オンラインでのコミュニケーションが増えると、若手の先生方の仕事を評価したり、ねぎらったりすることも難しくなってくるのかなと思います。

山口 大介弁護士:
仕事の様子を近くで見て、時には厳しく指導しつつ、終わったら飲みにいってねぎらうような昔風のコミュニケーションはもうできません。

人事的なフィードバックとは別に、仕事をしながら良い・悪いをタイムリーに伝え、評価をしないとアソシエイトも不安に思うでしょうね。

オンラインでコミュニケーションを取るうえで、特に課題として認識されている点はありますか。

山口 大介弁護士:
我々が若い頃には、先輩の仕事振りを実際にそばで見ていて、「ここまでやるんだ、すごいな」「こんなに徹底しないといけないんだ・・・」と、驚くことがありました。そういったことがオンラインでどこまで伝わるかな、とは思いますね。

育成という面では他に課題はありますか。

山口 大介弁護士:
コロナ前から、AIやリーガルテックが当たり前の時代における育成については課題として認識していました。

戸塚 貴晴弁護士:
たとえば、優れた翻訳ソフトが出てきている中、若手のトランスレーターをどう育てるか、AIの翻訳結果をレビューできるレベルまでどう育成するか、という話です。

AIの発達と若手の育成の関係については、海外の事務所と意見交換をしたこともあるのですが、決定打はまだ見つかっていません。コロナよりもそちらの課題の方が大きいかもしれません。

「想像力」と「創造力」が新しい仕事につながる

ウィズコロナ、アフターコロナ時代を見据えて、法律事務所や、弁護士の先生方お一人お一人が、どのように変わっていくべきなのか。先生方が描かれている展望をお聞かせください。

山口 大介弁護士:
コロナをきっかけとして変えなければいけないことは、実のところ、あまりないです。

先ほど申し上げたように、法律事務所が置かれている環境は非常に厳しく、競争がどんどん激しくなっています。新しいテクノロジーを使って質を上げ、効率化していくことで、厳しい競争の中で戦っていかなければならない。これは、コロナの前からあった問題が顕在化したにすぎません。IT化を投資と考え、進めないと生き残っていけないのです。

また、オンライン会議が主流になって、海外との距離も近くなりました。私たちが元々強みとしていた国際化もより強化しないといけません。

ツールの普及に向けて、具体的には何を目指しますか。

戸塚 貴晴弁護士:
開発ベンダーの方たちは技術的にできることはわかっているけれど、どうしたら便利になるかはわかりません。

我々の立場からすると、なるべくツールを開発される人たちとコミュニケーションをとって「どうやったら便利になるか」を伝えていき、効率化を進め、頭を使う時間を増やしたいですよね。

齋藤宏一弁護士:
ITツールは最初から完成されたものではなく、次第に使い勝手が良くなるものだと思います。

パートナーや上の年次の人たちが活用している姿を見せることも所内での普及という観点では重要なはずです。今までのやり方を変えられない、変えたくない人もいるかもしれませんが、新しいものを使う姿勢を見せることで、事務所全体に普及し、真の意味での使い勝手の良いツールになるでしょう。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 齋藤 宏一弁護士

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 齋藤 宏一弁護士

山口 大介弁護士:
ITは事務所の重要な経営課題の1つです。事務所のマネジメントと、IT部門、ユーザーの声を有機的に組み合わせる必要があります。

ツール自体がちょっと便利というレベルを超えて、それなり金額の投資をすることによって決定的に差がつくかもしれません。海外も含めたトレンドを常に把握して、分析してくれる人材も必要ですね。

若手の先生方へのアドバイスはありますか。

清水 亘弁護士:
AIやリサーチツールの検討をけっこう好きにやらせていただいているので、若手の方も事務所に対して提案をしていくと良いなと思います。

与えられたツールを使うだけではつまらないので、イマジネーションとクリエイティビティ、想像力と創造力を駆使して、新しい仕事の仕方を自分で考えてほしいですね。それは、国際化でもITの導入でも同じはずです。

山口 大介弁護士:
法律事務所は会社とは違うので、「やりたい」と声を上げれば実現する可能性がある。当事務所は特にそういうところがあります。若い人たちには、自分でいろいろ提案してみてやってみる意識を持ってほしいですね。

(取材・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)

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