ガバナンス高度化のための実務対応

第2回 取締役会実効性評価の活用

コーポレート・M&A
松葉 優子弁護士 プロアクト法律事務所 岩渕 恵理弁護士 プロアクト法律事務所

目次

  1. 取締役会実効性評価とは
  2. 取締役会実効性評価の具体的な方法
    1. 調査主体
    2. 調査手法
    3. 調査項目
    4. 調査結果を踏まえた分析評価
    5. スケジュール
    6. 調査結果を踏まえた課題・改善活動
    7. 調査結果の開示
  3. 実施状況
  4. まとめ

 近年、コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」といいます)の影響もあり、上場企業の多くが「取締役会実効性評価」を実施しています。企業によっては開始後数年が経過し、実務が軌道に乗り、ルーティーン化できているところも少なくないと思います。

 一方で、CGコードをコンプライするために導入してみたものの、徐々に実務に慣れてきた一方でマンネリ化してしまったり、淡々と分析・評価活動を行うだけで効果を実感できていない企業もあるかと思います。
 そのような企業が再度ネジを巻き直して「取締役会実効性評価」に取り組むことの一助になるよう、本稿では取締役会実効性評価のあり方について概説していきます。

取締役会実効性評価とは

 取締役会実効性評価とは、取締役会が、期待される役割をどれだけ果たせているかを評価する取組みのことです。

 そもそも取締役会実効性評価が必要とされるようになった背景には、CGコード4−11および補充原則4−11③において、会社に対し、取締役会実効性評価の実施が求められたことがあります。
 自社の取締役会が、CGコードが取締役会に求める役割を果たせているかを取締役会実効性評価によって自省し、不足している部分を改善することは、ガバナンスの高度化につながると考えられています。

取締役会実効性評価の具体的な方法

調査主体

 取締役実効性評価の主体としては、大きく分けて2つのパターンがあります。

  1. 企業自らが行うパターン
  2. 外部機関に委託して行うパターン

 2つのパターンを比較すると、外部機関に委託して行った方が客観的な評価・分析ができるようにも思えます。
 調査主体に関して、CGコード4−11には、下記の記載があります。

取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。

 この記載からすれば、主語は「取締役会」です。つまり、実効性評価を行う主体はあくまで「取締役会」であり、自社で分析・評価まで完結することが求められています

 仮に実効性評価をこれから導入するという段階であれば、自社にノウハウがない状況ですので、ある程度外部機関に評価・分析を依頼することも致し方ないものと思います。
 しかし、自社で完結しているからこそ、CGコードの求める取締役会としての機能が十分に果たされているともいえます。実効性評価が軌道に乗ってきてからは外部機関に頼りきりにならずに、できる限り自社のリソースで「評価→分析→課題抽出→改善活動」というルーティーンを回していくことも必要です。

 なお、たとえば取締役会議事録等資料の閲覧・精査や取締役会へのオブザーバーとしての陪席等を外部機関に依頼することによって、第三者の視点から客観的に自社の取締役会を評価してもらい、取締役会自体の高度化を図るという点では外部機関への委託も有用と考えられるでしょう。

調査手法

(1)アンケート方式、インタビュー方式について

 一般的な調査手法としては、アンケートインタビューがあげられますが、これらをどのように活用していくことが望ましいでしょうか。

 まず、アンケートとインタビューのメリットは概ね下記のように整理することができます。

アンケート インタビュー
  1. 匿名性が確保できる。
  2. 質問項目が多少増えてもインタビューと比べて時間を気にする必要がない。
  3. 質問項目が決まっているため集計・分析がしやすい。
  1. 回答を踏まえて更問をすることができる。
  2. 質問項目のみに縛られず、対象者の考えを幅広く確認できる。

 インタビューの方が、更問ができることや質問項目に縛られないため、より深度のある調査ができるようにも思えます。
 しかし、取締役会実効性評価の本質は、抽出された課題について分析し、改善活動につなげていく点にあります。インタビューの場合には、各人がどの項目についてどのように考えているかについて統一的なフォーマットで集計することが困難です。

 また、毎年同一の調査項目を設定することで、その調査項目について改善活動がどの程度進んでいるか、定点観測していくことも考えられます。しかし、インタビューの場合には連続性を維持することが難しいといえます。さらに、ボードメンバーは日々社内の業務に忙しく、インタビュー時間の確保も困難です。

 アンケートであれば、自由記載欄を設けることで質問項目以外についても意見を集約することができます。また、自由記載欄のスペースが足りないようであれば、回答者が取締役会で補足説明することも可能です。

 もっとも、調査手法はあくまで手段でしかありません。重要なことは各人の問題意識を共有し、改善活動につなげていくという点にあります。このように考えれば、たとえば回答のなかで確認したい点についてインタビューを補完的に行ったり、前述のような形で外部機関を補充的に活用することも有用です。

(2)記名の有無について

 アンケート方式の場合、記名が必要か否かという議論があります。記名の有無について議論すべき場面は、回答する時点取締役会に集計結果を出す時点の2段階があり、たとえば回答時点では記名式にするものの、事務局で集計後、名前を伏せて取締役会で示すことも考えられます。

 無記名式と記名式のメリットとして、一般的に以下があげられます。

  • 無記名式:忌憚のない意見を集約することができる
  • 記名式:回答者と意見の内容を結びつけることができる

 仮に「取締役会における経営戦略についての議論が不十分である」という意見が出たとします。これが、たとえば経営企画担当の取締役から出た場合と社外監査役から出た場合では、その背景や問題意識は異なるでしょう。したがって、意見を検討するにあたって回答者の属性を把握することは重要であり、記名式の回答を求める方が望ましいと考えます。

 一方で、たとえば社長の意向が強く、遠慮から意見が言いにくいことから無記名式にしたいと考える企業もあるかもしれません。(そもそもそのような企業⾵⼟⾃体が望ましいものではありませんが)そのような企業にあっては、たとえば回答時点では記名式で回収し、集計結果を取締役会で共有する時点では「社内取締役」「社外取締役」「社内監査役」「社外監査役」の4つのカテゴリーに分けることで、誰の意見であるかを特定できないようにすることも検討に値します。

調査項目

 仮に自社で行う場合、アンケートやインタビューを行う際の調査項目について、事務局や外部機関が作成してきた調査項目のたたき台をほぼそのまま使用していることも少なくないようです。
 どのような調査項目とするかについては、企業の状況や取り巻く環境、重要視すべきポイントがそれぞれ異なるため、たたき台を鵜呑みにせず、調査項目の作成時点から取締役会で十分に議論する必要があります。

 取締役会実効性評価の肝は、CGコード4章が求める取締役会の役割や責務を果たせているかを評価し、改善につなげていく点にあります。また、CGコードは、東証が中長期的な企業価値の向上のために上場企業に対して要求している事項でもあります。
 このことからすれば、CGコード4章の内容について取締役会で読み合わせを行い、あらためて上場企業の取締役会としてのあるべき姿をボードメンバーで確認するような機会があってもいいかもしれません。このような機会が、ボードメンバーのリテラシーの底上げにもつながります。

 CGコードの読み合わせを行った後は、次の取締役会までにメンバー各人が、自社の状況からCGコード4章のうち何を重視するかを考え、たたき台の調査項目について検討します。
 そして、次の取締役会で、各人の検討結果について議論し、問題意識を共有したうえで、最終的な調査項目を決定することが考えられます。

 下記では考え得る調査項目の一例を参考に記載しています 1

種類 質問項目例
メンバー構成 取締役会の員数は適切か。
社内取締役・社外取締役の割合は適切か。
構成員の多様性(性別、専門性、経験、能力等)は確保されているか。
開催頻度 取締役会の開催頻度は適切か。
発言 発言の数は適切か。
発言内容は適切か。
付議事項 取締役会で審議すべき事項が付議されているか。
審議すべき付議事項が多すぎないか。
1つの付議事項についての付議のタイミングや回数は適切か。
付議事項について審議は十分になされているか。
経営戦略との整合性を検証したか。
意思決定としての役割 迅速かつ柔軟な意思決定がなされているか。
経営会議の位置付けは明確か。
情報提供 事前の資料提供時期は適切か。
社外取締役でも企業の事業環境や事業特性を理解できるような資料が提供されているか。
モニタリング 適切な経営戦略・経営計画を立てることができたか。
適切な経営者報酬体系を構築することができたか。
経営者の業績評価は適切に行うことができたか。
内部統制 適切な内部統制の基本方針を立てているか。
大規模な不祥事があった場合には、その調査、処分、改善策の立案などを適切に行ったか。

 質問項目については、一部の質問項目は毎年同じ質問にして定点観測を行い、残りの項目は毎年の結果を踏まえて見直すという企業もあります。この場合、たとえば企業が中長期的に取り組んでいく課題に関する調査項目については、定点観測の項目とすることが考えられます。定点観測する項目についても取締役会で議論することが望ましいでしょう。

調査結果を踏まえた分析評価

 アンケートやインタビューの結果が出た後は、事務局担当者がとりまとめた結果を取締役会の場で共有します。このとき、各項目についての点数評価が一覧化されたことに満足することなく、それぞれのメンバーが気になった項目や改善がみられている項目等について、しっかりと議論する必要があります

 たとえば、各人が低い評価をつけた項目について、なぜそのような評価をつけたのか具体的な理由を説明してもらうことや、自由記載欄の内容について補足説明をしてもらいます。それによって、各人が抱いている問題意識が取締役会全体に共有されるということが重要であり、共有化された問題意識を改善活動につなげるという点で取締役会実効性評価を行った意義があるといえます。

スケジュール

 「取締役会実効性評価」とは言いますが、「評価」することが目的になってはいけません。実効性評価を通じて、自社の取締役会についての改善点や改善するための取組みを検討し(Plan)、改善のための取組みを実行し(Do)、実行後その取組みの効果がみられたかを検証し(Check)、検証結果を踏まえてさらなる改善に繋げていく(Action)というPDCAサイクルが重要です。

PDCAサイクル

 そのため、このPDCAサイクルのルーティーンを毎年継続的に回していく必要があります。
 ルーティーンとして回すためには、評価の活動や報告時期等を毎年決まった時期に設定することが望ましいですが、その時期は企業によって様々です。
 下図では、前述した内容を踏まえた3月決算会社におけるスケジュールの一例を示しします。


【スケジュール例】

6月 株主総会の開催(役員の選任)
6月~8月 取締役会を通常どおり実施
9月 取締役会にてCGコード4章の読み合わせを行う
読み合わせを踏まえて各人にて調査項目を検討
10月の取締役会日 取締役会にて議論し、調査項目を決定
取締役会日から2週間程度 アンケート実施・回収
11月の取締役会 アンケート結果の共有・意見交換
アンケート結果を確認し、各人にてどの項目についてどのような改善活動を取るべきかを検討
12月の取締役会 アンケート結果を踏まえた改善活動の検討
1月~ 改善活動の実施
5月 コーポレート・ガバナンス報告書の提出
6月 株主総会の開催

調査結果を踏まえた課題・改善活動

 調査結果が出そろった後、実務担当者がその結果を報告書にまとめることが一般的です。その報告書を取締役会に提出し、評価内容やそれを踏まえた課題について議論することとなります。

 すべての課題を一気に改善することは困難ですので、取締役会で議論し、優先順位をつけることが望ましいでしょう。そのうえで、どの時期までにどのような改善活動を行うことで課題を解決するかというタスクスケジュールを作成し、それに沿って改善活動を行っていくことが考えられます。

調査結果の開示

 取締役会実効性評価の結果は、その概要をコーポレート・ガバナンス報告書で開示することが求められています。その他にも、招集通知の事業報告の中や自社のウェブサイトに記載している企業もあります。

 開示内容としては、CGコードで求められているのは「結果の概要」のみですが、後述する開示事例や好事例集の内容を踏まえると、①自社で行った実効性評価の方法、②結果の概要、③課題と今後の行動計画の開示を検討することを推奨します。

実施状況

 CGコード4−11③(取締役会実効性評価の実施、結果の開示)のコンプライ率は、市場第一部で83.6%となっています(2019年7月12日時点)2。これは、コンプライ率90%以上が大半を占めるCGコード原則全体から見ればやや低い数字です。
 また、市場第一部と第二部を合わせると、全体の78.9%(2,067社)が取締役会の実効性評価を実施していますが、これらの会社の取締役会実効性評価の内容は下表のとおりです 3

取締役会の実効性評価のキーワード

項目 社数 該当比率 (参考)
前回集計時点
2016年7月
補充原則4−11③を実施している会社 2,067社 100%
■ 評価プロセス

評価プロセスに言及

1,616社 78.2% 72.0%

アンケート等(質問票等)

1,319社 63.8% 41.5%

自己評価

787社 38.1% 36.3%

ヒアリング等(インタビュー、聴取等)

201社 9.7% 11.2%

意見交換

244社 11.8% 8.1%

外部評価者等(第三者機関、弁護士等)

277社 13.4% 5.9%
■ 評価項目

評価項目に言及

754社 36.5% 29.7%

運営(運用)

1,210社 58.5% 26.3%

構成

995社 48.1% 22.8%

審議

819社 39.6% 15.2%

機能

911社 44.1% 14.5%

役割・責務等(責任)

169社 8.2% 11.5%
■ 評価結果の概要

評価結果の概要に言及

1,664社 80.5% 72.8%

前年度の対応に言及

319社 15.4%

課題・対応に言及

1,090社 52.7% 39.6%

 また、取締役会実効性評価に関する開示の好事例としては、「具体的なアンケート項目を含めた評価方法の概要を説明するとともに、自己評価方式を採用している理由についても言及」、「前年度に実施した実効性評価の結果を踏まえた本年度の具体的な取組を記載」、「評価結果の概要とあわせて、更なる取組が必要な事項を、これまでの経緯を含めて開示」した点が評価された三井物産株式会社の例等があります 4
 以上を踏まえると、取締役会実効性評価を通じて、取締役会が期待される役割を果たせているかを自省し、改善していくという目的を念頭に、形式的な評価にとどまらず、評価の結果を、継続的に改善を図る取組みにまで落とし込むことや、評価の実施方法を十分な検討・理由に基づいて選択することが、望ましい取締役会実効性評価のあり方と言えるでしょう。

まとめ

 本稿では、取締役会実効性評価について概説してきました。
 実効性評価は上場企業にとって一般的な制度になってきましたが、単にCGコードをコンプライするための要素と捉えるのではなく、問題意識の共有、リテラシーの底上げ等のきっかけになるとともに、ひいてはガバナンスの高度化につながると考え、各社が積極的に取り組むことを期待します。

 次回は、任意の指名・報酬委員会の意義やそのあり方、運用状況等について概説します。


  1. 倉橋雄作「取締役会実効性評価の実務」(商事法務、2016)22~37頁等を参考に筆者作成 ↩︎

  2. 【参考】株式会社東京証券取引所「改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応状況及び取締役会並びに指名委員会・報酬委員会の活動状況に係る開示の状況」(2019年11月29日)5頁 ↩︎

  3. 株式会社東京証券取引所「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2019」(2019年5月)118頁 ↩︎

  4. 株式会社東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスに関する開示の好事例集」(2019年11月29日)14頁 ↩︎

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