2026年改訂コーポレートガバナンス・コードの解説 取締役会事務局・コーポレートセクレタリーの機能強化
コーポレート・M&A
目次
金融庁・東京証券取引所は2026年7月21日、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の改訂を公表しました。本改訂は、「形式から実質へ」を基本方針として、原則のスリム化・プリンシプル化と「解釈指針」の新設という構造的な再設計を伴うものとなりました。
内容面においては、持続的な「成長投資の促進」、投資家との対話を促す「有価証券報告書の株主総会前開示」、そして意思決定の質を高める「取締役会の機能強化」の3点が大きな改訂の柱となっています。特に3点目について、取締役会事務局・コーポレートセクレタリーの機能強化について正面から取り上げられた点も特徴的です。
本稿では、本改訂の背景と全体像、3つの主要な改訂ポイントを概説したうえで、法務部門にとって特に重要性が高い取締役会の機能強化について、その意義と実務上の対応を整理します。
2026年改訂の背景と狙い「形式から実質へ」
今回のコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」といいます)改訂は、2021年以来約5年ぶり、2015年の適用開始から数えて3度目の改訂となります(以下「本改訂」といいます)。本改訂は、金融庁が2025年6月に公表した「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」1 (以下「アクション・プログラム」といいます)で示された方向性を踏まえ、金融庁・東京証券取引所を共同事務局とする有識者会議 2 における議論を経てとりまとめられました 3。
本改訂の背景は、CGコード適用開始から約10年を経て、コーポレートガバナンス改革は一定程度進んできたものの、実際の対応は形式的なものにとどまっているという指摘がなされていることにあります。
近年では、プライム市場の多数の上場企業において独立社外取締役が取締役会の過半を占め、任意の指名委員会や報酬委員会の設置も広く普及するなど、外形面での体制整備は相当程度まで到達したといえます。それにもかかわらず、形式的なコンプライへの対応に追われ、各原則の趣旨に立ち返った実質的な取組みが置き去りにされているのではないか——こうした指摘を受け、本改訂は、CGコード策定時のプリンシプルベース・アプローチの精神に立ち返る、いわば「コードの実質化」を狙いとしています。
構造的な再設計の具体的な内容
スリム化・プリンシプル化
本改訂の中核に位置付けられるのが、スリム化・プリンシプル化です。本改訂前のCGコードには、細目的な内容の原則も存在しており、こうした原則が企業に不必要な対応コストを強いるとともに、形式的な対応を助長している側面もあると指摘されていました。このような指摘等を踏まえ、本改訂では、コンプライ・オア・エクスプレインの対象となる原則を抽象的かつ概念的なものに限定し、具体的または例示的な記述を原則本体から切り離す方向で整理が行われています。このスリム化・プリンシプル化により、企業が注力すべき点が明確化され、「コードの実質化」が図られています。
具体的には、コンプライ・オア・エクスプレインの対象を「基本原則」と「原則」のみとし、「補充原則」のうち重要性が認められ、かつ、コンプライ・オア・エクスプレインの規律に付する必要性が認められるものは「原則」に格上げされています。
他方で、「原則」と「補充原則」のうち具体的または例示的な記述は、新設された「解釈指針」に整理され、コンプライ・オア・エクスプレインの対象から除外されることとなりました。また、実務への浸透が進む等によりCGコードに記載する必要性が低下した箇所、CGコード策定以降にルール化され重複が生じている箇所等は削除されています。

これにより、コンプライ・オア・エクスプレインの対象となる原則の数は減少することになります。
もっとも、原則数の減少は決してCGコードの「後退」や規律の「緩和」を意味しません。むしろ、企業が原則の文言を形式的・チェックリスト的に処理するのではなく、その背後にある趣旨・精神を理解して、自社の戦略や状況に応じた本質的な対応を行うことを促すための「実質化」がその主眼にあります。原則が概念的・抽象的なものとなることで、各社には、自社の取組みの内容を自らの言葉で説明する、より丁寧なエクスプレインが求められることになります。
「解釈指針」の新設
本改訂により、すべての基本原則と多数の原則に「解釈指針」が新設されました。解釈指針の位置付けについては、有識者会議における議論の対象ともなりましたが、本改訂により復活した「序文」において、その役割が記述されています。
この説明の趣旨を踏まえると、企業としては解釈指針を参考としつつも、原則をコンプライするために形式的に解釈指針と同様の対応を行う必要はなく、自社の状況に照らして解釈指針と異なる取組みを選択することも、プリンシプルベースであるCGコードの趣旨に沿った対応であると考えられます。
2026年改訂における3つの主要ポイント
上記のスリム化・プリンシプル化に加え、本改訂の実質的な改訂内容は、概ね次の3つの項目に整理することができます。
成長投資の促進
第一に、取締役会の役割・責務として、成長投資等に向けた取組みの重要性が明記されました。これは、アクション・プログラムにおいて、稼ぐ力の向上のための今後の方向性として「持続的な成長の実現に向けた経営資源の最適な配分の実現のため、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識した取締役会の実効的な監督や更なる開示が促進されるよう⋯⋯コーポレートガバナンス・コードの見直し等を検討する」ことが要請されたことを受けた内容とされています。
具体的には、取締役会は、会社の目指すところに向けた成長の道筋を構築すること、また、成長の実現に向けて成長投資や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分に関し具体的に何を実行するのかを説明すること、が求められます(原則4-1)。この原則への対応としては、キャピタル・アロケーションの方針に関する説明を開示することが考えられますが、解釈指針において、以下の観点が例示されていることが参考になります。
- 投資対象を自社の内部に求めるのか(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)、外部に求めるのか(M&A・業務提携・スタートアップ出資への投資等)という観点
- 短期・中長期という観点
- 国内投資(地方への人的投資・地方拠点の整備等)、国外投資という観点
また、この解釈指針では、企業の競争力や企業価値向上の源泉であるとして、知的財産等の無形資産への投資の重要性も強調されています。そのため、この原則の趣旨を踏まえ、知的財産等の無形資産の創出・取得・強化・保護・収益化に戦略的に取り組んでいくことが考えられます。
さらに、本改訂では新たに、自社の経営資源の配分が、成長の実現を目指して策定・公表した経営戦略や経営計画に照らして適切なものとなっているかについて、不断に検証を行うことも求められています(原則4-2(2))。
この原則の解釈指針では、現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源を成長投資等に有効活用できているか、といった点が例示として挙げられていますが、とりわけ「現預金」の記載は有識者会議で議論の対象となった模様です。この点について、本改訂の参考資料として金融庁から公表された「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」(2026年7月21日)(以下「参考資料」といいます)においては、以下の留意事項が示されています。
この留意事項を踏まえつつ、自社の資本収益性、資本コストとともに、自社の成長フェーズや機会コスト等の様々な要素を考慮したうえで、多様な投資先や株主還元も含めた資源配分戦略を検討していくことが必要になります。
有価証券報告書の株主総会前開示
第二に、有価証券報告書の定時株主総会開催日前の開示です。原則1-2においてそのことが明記されたことに加え、「本来、株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましい」との解釈指針が示されました。
現状、上場企業の多くが総会開催日前の有価証券報告書の開示を実施していますが、そのほとんどが総会開催日の数日前から前日までの開示となっています。株主総会における権利行使のための適切な情報提供という原則の趣旨を踏まえると、数日前では必ずしも十分ではなく、多くの株主が議決権の事前行使を利用する現状も踏まえ、3週間以上を確保することがこの原則への実効性のある対応として望ましいと考えられます。
もっとも、現行法制下で一般化している実務運用からすれば、総会の3週間以上前の開示は必ずしも容易ではありません。解釈指針では、株主総会開催日や議決権行使に係る基準日の従前の慣行に基づく時期からの後倒しも解決策の例として挙げられていますが、これらの対応には定款変更も通常必要になります。そのため、現在法制審議会において議論されている有価証券報告書と事業報告等の一本化、会社法上の監査と金融商品取引法上の監査の一元化、有価証券報告書の記載事項の整理といった制度変更の動向も見ながら、効果的な対応を検討していく必要があります。
取締役会の機能強化(特に、事務局・コーポレートセクレタリーの充実)
第三に、取締役会の監督機能の強化です。取締役会に占める独立社外取締役の割合が増加し、その主たる役割・責務である監督機能をより効果的に果たすための環境が整いつつあることを踏まえ、独立社外取締役が果たすべき役割・責務、質・数の確保、独立性確保の重要性が改めて強調されています(原則4-8~12)。参考資料においては、独立社外取締役の比率をさらに高めていく方向性も意識されており、監督の担い手としての独立社外取締役の実効性を向上させることが、本改訂の主要な狙いの1つとなっています。
そして法務部門にとって特に注目されるべきことは、議長や独立社外取締役を含む取締役をサポートする重要な役割を果たす事務局(コーポレートセクレタリー等)の機能強化が、明示的に推進すべき事項として位置付けられた点です(原則4-14の解釈指針)。これは、アクション・プログラムにおいて、以下のとおり、取締役会の機能の実質化における事務局の重要性が示されたことを受けてのものとされています。
原則4-14の解釈指針においては、取締役会事務局は、会議運営を行う単なる取締役会の事務方としての役割のみならず、取締役会やその傘下の各委員会の会議体が実効性ある議論の場となるよう、当該会議体の果たすべき役割・責務に照らし適切な審議事項を定めるなど、それらの運営を能動的に行うことが望ましいとされています。
また、必要に応じて、社外取締役の指示を受けて会社の情報を適確に提供できるよう社内との連絡・調整にあたる役割を担うことも期待され、特に、独立社外取締役が議長を務める場合や、取締役会における社外取締役が占める割合が高い場合には、取締役会事務局が果たす機能が特に大きくなると指摘されています。
実務対応のポイント - 取締役会事務局・コーポレートセクレタリーの機能強化のための取組み
以上のとおり、本改訂は、取締役会の監督機能の実質化を支える基盤として、取締役会事務局・コーポレートセクレタリーの機能強化が明示されており、これに対応するための取組みが必要になります。以下では、この取締役会事務局・コーポレートセクレタリーに焦点を当て、その意義と実務上の対応を整理します。
コーポレートセクレタリーとは
米国・英国をはじめとする海外では、コーポレートセクレタリー(Corporate Secretary)は、取締役会の運営を担う上級の専門職として確立しています。単なる取締役会の事務対応にとどまらず、取締役会・各委員会の制度設計や運営管理、法令・開示対応、ガバナンスに関する取締役会への助言・サポートなど、企業のガバナンスの要としての役割を担います。その役割の重要性や高度な法的理解の必要性から、米国を中心に、多くの場合ジェネラルカウンセル(法務責任者)がコーポレートセクレタリーを兼ねています。
従来の日本の実務とCGコード改訂の背景にある状況変化
これに対し、日本では、取締役会における執行と監督の分離が緩やかで、取締役会の大半を社内取締役が占めてきた経緯もあり、取締役会事務局を総務や経理等の法務以外の部門が担うことが少なくなく、その役割も事務的な対応に重点が置かれてきました。
しかし、取締役会における社外取締役の割合と期待される役割が増加する中で、取締役会事務局に求められる機能は本質的に変わってきています。
社外取締役は、業務執行に直接関与していないからこそ独立した客観的な立場で監督機能を発揮しうる一方、効果的な監督機能の発揮のためには、適切かつ十分な情報提供と支援を必要とします。そのサポートを担う事務局には、会社法・CGコード等において要求されるガバナンスや社外取締役の役割を十分に理解したうえで、自社の経営や事業に関する深い知識に基づき、社外取締役に必要な情報やサポートを提供し、取締役会の適切な機能の発揮を可能にしていく能動的な役割が求められます。
このような中で、本改訂では、日本でもジェネラルカウンセルをはじめとする法務部門の責任者が、コーポレートセクレタリーとして取締役会の運営を統括し、これらの高度な要求を実現していくことへの期待が表れています。
取締役会事務局・コーポレートセクレタリーの機能強化に向けた課題と実務的な取組みの方向性
(1)CGコードの要求事項
前述のとおり、本改訂においては、成長投資や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分の議論・検証等をはじめとして、取締役会が積極的に機能を発揮しその役割・責務を果たすために、効果的な議題設定・スケジューリング、資料の品質やオペレーションの改善、十分な審議時間の確保、社外取締役に対する情報提供・サポートの充実等、取締役会の機能の実質化・活性化のための各種の取組みを能動的に推進することが期待されています。そして、原則における要求事項としては、取締役・監査役に対する研鑽の機会の提供の方針と毎年の取締役会実効性評価の結果の開示が新たに追加されています。
さらに、CEOのサクセッションプランの策定・運用への取締役会による主体的な関与や監督、CEO解任に関する客観性・適時性・透明性のある手続の確立等が原則に格上げされており、これらの事項についても、取締役会や指名委員会の事務局において、これまで以上に効果的なサポート・対応が必要になると想定されます。
加えて、新たに要求されている有価証券報告書の早期開示も、期間短縮のための実務的な対応に加えて、株主総会における権利行使に関する適切な環境整備や、社外取締役と株主・投資家との直接の対話等を含む株主との建設的な対話のための取組みの強化の一環として、総会開催日や議決権行使の基準日の設定等の会社法上の対応の検討を含め、ガバナンスの責任者となるコーポレートセクレタリーが主導的に取り組んでいくべき分野といえます。
(2)実務上のポイント
これらの幅広い要求事項を実行可能な形で実務に落とし込んでいく場合、通常は、市場におけるベストプラクティスや、取組みが先行している他社のプラクティスを参考にすることが一般的なアプローチといえます。
しかしながら、日本においては、取締役会の議題の設定や審議方式・スケジュール、資料の様式・作成プロセス等の運用や議事の運営等については、各社の伝統的な運用が引き継がれていることが多く、一般的なプラクティスも確立・普及しているとは言い難い状況です。また、実務上は、多岐にわたる項目のすべてに対応するために投入可能なリソースやコストの制約についても考慮する必要があります。
このような事情を考慮すると、まずは、取締役会の機能の発揮・実効性の向上という究極的な目的を念頭に、現行の自社のプラクティスの意義や妥当性のレベルから問い直すアプローチが有効と考えられます。そして、そこで得られた自社の課題認識に基づき取組みを具体化していくにあたり、金融庁が公表した「取締役会の機能強化の取組みに関する事例集2026」のほか、AIの活用等を含め、様々なプラクティスや解決策に関するより具体的な情報や助言を積極的に外部から取得したり、リソースやコスト面の制約への対処を含めた現実的な実務対応について、各社の悩みや取組みを共有できるフォーラムを活用することで、大幅な改善が可能になりうると考えられます。
また、社外取締役への情報提供や研鑽プログラムの策定等については、事務局側のリソースだけでなく社外取締役の時間や協力も必要とするものでもあるため、他社の「ベストプラクティス」を形式的に導入するのではなく、取締役会の機能発揮の観点から、自社の置かれた状況に応じた目的や重点分野を明確にしたうえで、合目的的に効果的な形で実施することが重要となります。
同様の観点は、取締役会における議論の充実を含めた本改訂に基づく取組み全般に当てはまります。特に、成長フェーズ等の自社の置かれた状況や文脈を踏まえた、取締役会の在るべき姿や社外取締役に求められる役割について、取締役会全体で十分に議論し合意形成を行ったうえで取り組むことが、形式主義に陥らないために重要であると考えられます(たとえば、新進の経営陣に対してきめ細やかな助言を通じた監督が期待される会社もあれば、経験豊富な経営陣に対して高い視点からの新たな視点や気付きをもたらす「良い質問」がより価値をもたらず会社も存在します)。
このような役割・貢献の明確化は、各社外取締役の知見や能力の発揮を容易にするだけでなく、取締役会の機能・取組みに関する株主への開示から、取締役会実効性評価の評価基準や項目の実質化、スキルマトリックスの改善および社外取締役の人選・サクセッションに至るまで、取締役会に関するあらゆる議論・活動の共通の基盤として機能します。
このように、今後の取締役会事務局は、従来のような事務方にとどまらず、合目的的かつ戦略的に、取締役会の機能強化の取組みを能動的に推進していける力が求められており、まさにガバナンスと事業の双方の深い理解に基づき、取締役会事務局をリードするコーポレートセクレタリーや法務部門の役割が重要になってくるといえます。
改訂CGコードに基づくコーポレート・ガバナンス報告書の提出期限
本改訂後のCGコードの内容を反映したコーポレート・ガバナンス報告書の提出期限は、決算期に関わらず2027年7月末とされています。実務上は、各社における実際の対応状況に応じて、それよりも早く、本改訂後最初に到来する定時株主総会の後に提出することも選択肢になるものと考えられます。
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金融庁「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025の公表について」(2025年6月30日) ↩︎
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金融庁・東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定について」(2026年7月21日) ↩︎
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