「有価証券報告書の株主総会前開示」に関する想定問答例

コーポレート・M&A

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.229」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 2025年3月28日、金融庁は、全上場企業に対し、加藤勝信金融担当大臣名で「株主総会前の適切な情報提供について(要請)」を発出しました。


 本要請を受け、各社において対応の検討を進められていることと存じます。有価証券報告書の株主総会前開示を実施する場合・実施を見送る場合いずれにおいても、株主総会当日に株主から開示に関する質問が寄せられる可能性が考えられます。本特集では、そうした状況を踏まえ、想定される主な質問とその回答例をご紹介します。なお、以下の想定質問に対する回答例は、あくまでも一例です。

<有価証券報告書の株主総会前開示を実施する場合>

Q1. 従前は総会後に開示していた有価証券報告書について、本年より総会前に開示したのはなぜか。

A: 当社は、投資家との建設的な対話の促進に向け、タイムリーな情報発信、情報開示の充実、SR/IR活動の実施などに努めてまいりました。
対話のなかで、かねてより株主、投資家の皆様から有価証券報告書を総会前に開示するよう要望いただいていたところ、今般の金融担当大臣からの早期開示に係る要請もあり、本年より株主総会前の開示を実施いたしました。

Q2. 金融庁からの要請に基づき総会前開示を行ったとのことだが、これまで総会前開示を行わなかった理由は何か。

A: 株主総会前に有価証券報告書を提出するためには、決算業務や監査手続きを従前より早期に完了させる必要がありますが、これには相応の準備と体制を整えることが求められます。また、一部の記載事項について、株主総会や総会後の取締役会で決議される予定の記載内容を改めることなども考慮する必要がありました。
今回、金融庁の要請が出されたことで、早期開示が必要との認識が一般的にも醸成されたことを受け、監査法人とスケジュール等について再調整した結果、本年より早期の開示が可能となったものです。

Q3. 本年より有価証券報告書の総会前開示がなされたが、総会開催日の1日前に開示されても内容を十分に確認して総会に参加することはできない。本来は総会の3週間前に開示することが望ましいとされており、より早期に開示することはできないのか。

A: 投資家との建設的な対話の促進に向けて、本年より有価証券報告書を総会前に開示しております。一方で、有価証券報告書の開示にあたっては、監査手続きが完了する必要があるため、現時点では総会の3週間前に開示することは難しい状況にございます。
しかしながら、有価証券報告書において、サステナビリティ情報をはじめ、非財務情報等の有益な情報を提供できているものと考えております。株主の皆様にとって十分に内容をご確認いただいたうえで総会に参加いただけるよう、監査スケジュールの調整や決算業務プロセスを見直し、有価証券報告書の更なる早期開示に努めてまいります。

Q4. 総会前開示のためには、監査手続きを前倒しで進める必要があるが、監査が不十分になる恐れはないのか。

A: 早期開示に対応する場合、監査法人は、より効率的かつ集中的な監査が求められることはご指摘のとおりです。もっとも、監査法人には、監査基準に従い、十分な監査が行えるよう日程の調整を綿密に行っており、必要な監査手続きを適切に実施いただいていることから、監査は十分に行われ、法令・会計基準に則っていると認識しております。

Q5. 有価証券報告書を総会前に開示してもらえるのは有難いが、情報量が膨大すぎる。多くの株主が関心を持つ項目を抜粋し、招集通知に開示すれば多くの株主がより早期に閲覧できるのではないのか。

A: 有価証券報告書の早期開示については、株主の皆様に迅速かつ正確な情報を提供することを目的として取り組んでおります。ご指摘のとおり、有価証券報告書は情報量が多いため、株主の皆様にとって関心が高い項目をより分かりやすくお伝えする方法については、課題として認識しております。事業報告等と有価証券報告書の記載の共通化(一体的開示)の指針も踏まえ、株主の皆様にとって、より分かりやすい情報提供のあり方を引き続き検討してまいります。

💡ポイント
 事業報告等と有価証券報告書の一体開示、または一体開示につきましては、以下の資料をご参考ください。

<株主総会前開示を実施しない場合>

Q6. 金融担当大臣より、有価証券報告書の株主総会前開示の促進に向けた要請がされたようだが、当社は実施していない。なぜ、株主総会前に開示しなかったのか。

A: 金融担当大臣からの株主総会前における有価証券報告書の開示要請を受け、当社内でも真摯に検討いたしました。その結果、本年度においては、予定していた決算および監査のスケジュールを踏まえ、株主総会前の開示は実務上困難であると判断し、本年の対応は見送らせていただきました。
しかしながら、株主の皆様への情報提供を一層充実させる必要があると認識しており、株主総会前に有価証券報告書の開示ができるよう引き続き検討を進めてまいります。

Q7. 本年は有価証券報告書の総会前開示がなされていないが、来年はどのように対応する方針か。

A: 決算および監査のスケジュールや社内のリソース等を踏まえ、本年は総会前の開示を見送らせていただきました。しかしながら、株主の皆様への情報提供を一層充実させる必要があると認識しており、監査スケジュールや社内リソースの調整を進め、引き続き総会前の開示ができるよう検討してまいります。

<基準日変更による株主総会前開示>

Q8. 有価証券報告書を早期開示するのであれば、基準日と総会開催日を後ろ倒しすることも考えられるが、検討しているのか。

A: 基準日や総会開催日を変更することは、投資家との対話促進にどの程度効果があるか、また株主様にどのようなメリットがあるか、さらにはコスト面を含めて当社の業務への影響がどの程度あるか、検討すべき点は少なくないと感じております。したがって、基準日や総会開催日の変更について、現時点では具体的な検討は行っておりません。

💡ポイント
 株主総会前開示を実現する手段の一つとして、基準日の変更が挙げられます。金融庁に設置された「連絡協議会」(※)の資料では、以下の2つの方法が提示されています。

 前述の想定問答例に加えて、株主総会前に開示した有価証券報告書の記載内容に基づき、以下のような質問がなされる可能性があるため、各社の開示状況に応じた想定問答を必要に応じてご準備ください。

  • ◯銘柄◯億円を保有していると記載しているが、政策保有株式を売却する方針はあるのか。
  • 人材育成の方針が記載されているが、具体的にはどのような取り組みを実施するのか。
    実現するためには、どのくらいの費用を充てる必要があるのか。
  • 当社は他社と比較して相対的に女性役員比率が低いにもかかわらず、女性役員を増員しなかった理由は何か。また、中長期的な目標値とその進捗状況について教えてほしい。

 なお、金融庁は有価証券報告書の株主総会前開示に関する紹介ページを開設し、「有価証券報告書を定時株主総会前に提出する場合の留意点」や「有価証券報告書レビュー」等の資料を掲載していますので、そちらも併せてご参照ください。

問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務グループ
03-6747-0307(代表)

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