株主総会における取締役等の説明義務および株主発言における最近のキーワード

コーポレート・M&A

目次

  1. 取締役等の説明義務
  2. 株主発言における最近のキーワード

※本記事は、三菱UFJ信託銀行が発行している「証券代行ニュースNo.243」の「特集」の内容を元に編集したものです。


 アフターコロナの株主総会では、株主からの発言があった会社の比率は年々増加しており、2025年6月総会においては78.0%となりました。これは、コロナ前(2019年)の78.8%と、ほぼ同水準となっています 1

 本稿では、本年6月の定時株主総会に向けて、改めて取締役(監査等委員である取締役を含む)や監査役(以下「取締役等」)が、株主から質問を受けた場合の説明義務について確認するとともに、最近の株主発言におけるキーワードをご紹介いたします。

取締役等の説明義務

 取締役等の説明義務については、会社法314条に規定されており、次のとおりと考えられます。

原則:取締役等は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない

例外:ただし、①当該事項が株主総会の目的である事項に関しないものである場合、②その説明をすることにより株主共同の利益を著しく害する場合、③その他正当な理由がある場合として法務省令で定める場合はこの限りではない

 従って、取締役等は、株主から株主総会の目的である事項に関して質問がなされた場合は、「原則」に従い、説明義務を負うこととなります。
 なお、その場合に必要となる説明の程度等については、「平均的な株主が議決権行使の前提として合理的な理解及び判断を行い得る程度」とされ(東京地判平成23年4月14日資料版商事法務328号64頁)、具体的に求められる説明の範囲は次のとおりと考えられます。

【説明の範囲】

報告事項 原則として、計算書類および事業報告ならびにこれらの附属明細書の記載事項が基準となり、これを若干補足する程度でよいと考えられる
決議事項 原則として、株主総会参考書類に記載されている事項(インターネット開示されている事項を含む。)に若干補足説明する程度でよいと考えられる
監査役の説明義務 監査報告の記載に基づき説明すればよく、事業の状況と事業報告の記載が一致しており、内部統制システムの決議内容も会社の規模、事業内容に照らし、相当であると判断した旨説明すればよいと考えられる
監査等委員である
取締役の説明義務
監査等委員である取締役以外の取締役の選解任および辞任、ならびに監査等委員である取締役以外の取締役の報酬について、監査等委員に意見がある場合、監査等委員会が選定する監査等委員は、株主総会で意見を述べることができる。この点、常に意見を述べる義務があるというわけではないが、株主から説明を求められれば、意見を述べる必要があると考えられる

 (参考文献)・東京弁護士会会社法部編「新・株主総会ガイドライン第3版」商事法務154頁、201~203頁、227~229頁
・江頭憲治郎「株式会社法第9版」有斐閣624頁


 一方、近年の株主総会の傾向としては、株主の質問が、「例外」の「株主総会の目的である事項に関しないものである場合」であっても、来場した株主満足度の向上といった観点から回答を行う傾向が見られます。
 よって、説明義務に関する考え方を、近年の株主総会の傾向も踏まえ、質問類型と回答スタンスにより大別すると次のとおりとなります。

質問類型 回答スタンス
① 回答しなければならない質問
(説明義務のある質問)
しっかりと回答する(説明義務の遵守)
② 拒絶可能だが、回答してもよい事項
(拒否できる質問)
基本的に回答する(株主満足度の向上の観点)
③ 回答することが法的に不都合な事項
(拒否すべき質問)
回答しない

 なお、株主の質問が①~③のどの類型に該当するのか、質問を受けながら都度判断を行うのは困難であると思われ、誤った対応を取ってしまうリスクもあります。
 そのため「③回答することが法的に不都合な事項(拒否すべき質問)」以外は、基本的に回答を行うというのが、答弁を行う取締役等にとって判断が容易であると考えられ、また、質問を行った株主の満足度向上にも資すると考えられます。
 従って、会社法に基づく説明義務の例外となる各事由を、回答の可否別にまとめると次のとおりとなります。

事由 具体例 回答の可否
① 株主総会の目的事項に関しない場合
 (会社法314条)
  • 議題と直接関係しないテーマ
  • 株価、個別事案のクレーム 等
  • 回答可能と考えられる
② 説明をするために調査が必要な事項
 (会社法施行規則71条1号)

※総会日の相当期間前に事前に通知された場合、説明のために必要な調査が著しく容易な場合を除く

  • 詳細な計数 等
  • 企業秘密等でない場合、回答可能と考えられる

    (手許になければ拒否もしくは概要を説明)2

③ 実質的に同一の事項について
繰り返して説明を求める場合

 (会社法施行規則71条1号3号)
  • 「それではわからない」、
    「もっとわかりやすく」 等
  • 複数回繰り返される場合、回答を拒否すべき
④ 説明することにより株主共同の利益
 を著しく害する場合

 (会社法314条)
  • 企業秘密、ノウハウ、
    会計帳簿の記載事項 等
  • 回答を拒否すべき
⑤ 説明することにより株式会社
 その他の者(当該株主を除く)の
 権利を侵害することとなる場合

 (会社法施行規則71条2号)
  • 守秘義務がある事項 等
    (契約条件・内容、個人情報等)
  • 回答を拒否すべき
⑥ その他、説明をしないことにつき
 正当な事由がある場合

 (会社法施行規則71条4号)
  • インサイダー情報
    (準ずる情報を含む)
  • 誹謗中傷、公序良俗、
    名誉棄損
  • 回答を拒否すべき

 特に④~⑥は、「回答を拒否すべき」事由にあたり、いずれも開示情報には該当しないものと考えられるため、開示情報であるかどうかが一つの判断の目安になるものと考えられます。

株主発言における最近のキーワード

 以下では、最近のキーワードと関連する想定問答を改めてご紹介いたします。
 なお、「証券代行ニュースNo.242」特集では、コーポレートガバナンス・コード改訂案に関する想定問答例を掲載しておりますので、併せてご参考ください。

Q:米中関係・中東情勢 米中関係の緊張や中東情勢の不安定化など、国際情勢の変化により、グローバルに事業を展開する企業を取り巻く経営環境は不透明さを増している。こうした国際情勢が当社の事業に与える影響について、現状どのように認識しているのか、また、リスクへの対応策はあるのか。

A:米中関係の緊張や中東情勢を含め、国際情勢の不透明化については、重要な経営リスクの一つとして認識しています。現時点において、これらの国際情勢が当社の業績や事業運営に直ちに重大な影響を与えている状況はありませんが、為替変動、サプライチェーンの混乱、地政学リスクの高まり等については、引き続き慎重に注視しています。当社では、こうしたリスクに対応するため、特定の国や地域に過度に依存しない事業・調達体制の構築や、複数拠点からの調達体制の整備を進めています。
 また、国際情勢や各国の規制動向については、経営層を含め定期的に情報共有を行い、必要に応じて迅速な対応が取れる体制を整えております。今後におきましても、国際情勢の変化が当社の事業活動に与える影響を継続的に注視し、適切なリスク管理に努めてまいります。

(ご参考)経済産業省「経済安全保障経営ガイドライン(第1版)」(2026年1月23日)

Q:人的資本関係 2026年3月期の有価証券報告書より、人的資本開示の拡充を目的に、新たに「企業戦略と関連付けた人材戦略及びそれを踏まえた従業員給与等の決定方針」の開示が求められているが、当社の従業員給与等の決定方針は企業戦略を踏まえたものであると評価しているのか。

A:当社では、中長期的な企業成長において、人材の確保・育成・活躍が不可欠であると考え、従業員の役割や成果、必要とされるスキルなどを踏まえた処遇体系を整備しています。また、市場環境や競争力維持の観点から適切な賃金水準の確保にも努めています。
 これらは、当社の企業戦略・人材戦略と密接に関連するものであり、当社の従業員給与等の決定方針は、企業戦略を踏まえたものであると認識しております。

(ご参考)内閣官房「人的資本可視化指針(改訂版)」(2026年3月28日)

Q:生成AI 他社では生成AIを事業で積極的に活用しているようだが、当社ではどのような業務に活用し、どの程度の効果が得られているのか。

A:近年の生成AIの進歩は目を見張るものがあり、当社も事業の効率化の観点から業務の一部においてAIを活用しております。例えば、◯◯工場での◯◯製造プロセスにおいて、検品業務や在庫管理等に活用しており、製品の品質管理や在庫の適切な維持に役立てております。今後は、AI活用によるイノベーションの促進を図り、新たなビジネスソリューションの提供を図ってまいります。なお、更なるAIの活用においては、セキュリティ面や法的な問題など、様々な課題を考慮しながら検討を進めてまいります。

Q:為替 急激な為替の変動が生じているが、今期の想定為替レートについてどのように考えているか。

A:今期の為替レートについては、1ドル◯◯円を想定しております。日米間における金利差の拡大(縮小)などを背景に急激な為替の変動が生じており、為替動向は不透明感が増しております。したがって、為替動向による業績への影響度合いを限定することを目的に、ドル建てでの取引額のうち、およそ◯割について為替予約を行っております 3

(ご参考)金融庁総務企画局「金融商品取引法第27条の36の規定に関する留意事項について(フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン)

問い合わせ先

三菱UFJ信託銀行
法人コンサルティング部 会社法務グループ
03-6747-0307(代表)

  1. 三菱UFJ信託銀行ご委託会社様を対象に集計。 ↩︎

  2. 事前質問があった場合は、「調査が必要であること」を理由として回答を拒絶することができなくなる。 ↩︎

  3. フェア・ディスクロージャー・ルールガイドラインによれば、契約済の為替予約レートまで回答するかどうかは、事前 によく検討する必要があるものと考えられる。 ↩︎

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