ベトナムにおける不正と社内調査の実務

国際取引・海外進出
井浪 敏史弁護士 西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 池本 百惠弁護士 西村あさひ法律事務所・外国法共同事業

目次

  1. ベトナムで多い不正の類型
  2. 不正の疑いが生じた場合の初動対応
    1. 情報の確認と情報提供者への対応
    2. 適切な対応を行わないリスク
  3. 社内調査の全体像と目的
    1. 事実関係の確認
    2. 確認すべき事実の特定と、それを踏まえた対応の検討
  4. ベトナムにおける社内不正調査の実務ポイント
    1. 不正調査チームの組成
    2. 客観的証拠と供述証拠の確認
    3. 警察への報告
  5. ベトナムにおける社内不正調査結果を踏まえた対応
    1. 調査結果に基づく認定
    2. 調査結果を踏まえた対応
    3. 原因分析と再発防止策の策定・実施

 ベトナムは、安定した経済成長と親日的な国民性を背景に、日本企業にとって魅力的な投資先です。一方で、残念ながら、現地では従業員による不正行為が後を絶たない状況にあります。実際、日系企業において数十万米ドル規模の不正が発覚した事例もあり、企業価値や信頼を揺るがすリスクとなっています。ベトナムでの事業成功には、不正発見時の迅速かつ適切な対応が不可欠です。

 本稿では、ベトナム企業で見られる不正の特徴や主な類型、不正の疑いが生じた場合の初動、調査の進め方や調査結果に基づく対応の基本的な点について、実務上のポイントをわかりやすく解説します。

ベトナムで多い不正の類型

 ベトナム企業では、現実としてコンプライアンス意識が日本に比べて希薄な部分があり、従業員が、私的な利益を得るために不正行為を行う事例が多く見られます。

 個々の不正行為については対象金額が少額であっても、長期間勤務している従業員により長期間にわたって不正行為が行われていることも珍しくありません。また、複数の従業員が共犯となって不正行為を行い、利益を分配するような場合も少なくありません。

 加えて、社内の文書がベトナム語で作成されているような場合には、日本人駐在員が内容を十分に把握することができず、日本人駐在員が知らないところで不正行為が継続されているようなケースもよく見られます。

 ベトナム企業でよく見られる不正行為には、たとえば以下のようなものがあります。

主な不正の類型 例・特徴など 発覚の経緯の一例

① 棚卸資産・廃棄資産の横領

  • 製造業や建設業を行う企業において、会社の資産を夜間に人目を盗んで持ち出す、トラックで廃棄資材を持ち出す等
  • 手口は単純だが、複数の従業員が共犯となり実行する事例も多い
防犯カメラの記録など

② 取引先からのキックバックの受領

  • 仕入先から水増しした金額で請求させる、または不要な中間業者を介在させる等の方法により、元々の仕入金額よりも上乗せした金額を会社から支払わせ、上乗せ分について仕入先からキックバックを受領する
  • 購買責任者等が中心となって行い、複数の従業員で利益を分配する事例も多い
内部通報など

③ 取引先からのコミッションの受領

  • 取引先として選定する見返りとして、購買責任者等が、不当に取引先からコミッションを受領する
取引先からの情報提供など

④ 採用応募者からのあっせん料の受領

  • 人事責任者が、応募者に対して採用を約束する見返りにあっせん料を受領する
応募者からの通報など

不正の疑いが生じた場合の初動対応

 上表のとおり、不正行為の疑いが発覚する経緯としては、内部通報や取引先等からの情報提供等、さまざまな場合が考えられます。
 いずれにしろ、不正行為の疑いに関する情報が、法律違反や社内規程違反に当たり得る具体的事実を含むものである場合には、適切に社内調査を実施のうえ、事実の有無を確認することが必要となります。

情報の確認と情報提供者への対応

 内部通報やその他の情報提供者から、会社の従業員による不正行為の疑いに関する情報が提供された場合には、その内容(不正行為者である従業員、不正行為の内容、関係する取引等)を確認のうえ、法律違反や社内規程違反に当たり得る具体的事実が含まれているか否かを検証することが必要です。

(1)事実関係の情報が不足している場合

 提供された情報が不正行為の類型を抽象的に指摘するにとどまり、具体的な事実関係についての情報が含まれていないような場合もあるでしょう。たとえば、「A氏が取引先からキックバックを受領している」と記載されているものの、具体的な取引先名やどのような取引に関して不正行為を行っているかについての情報が記載されていないようなケースです。

 このような場合には、通報者や情報提供者に対して、そのような検証を可能とするための追加情報や関連資料の提供を求めることが考えられます。
 通報者や情報提供者に対して追加の情報提供を求めたにもかかわらず、具体的事実に関する情報が提供されないような場合には、社内調査の対象とすべき事実が特定できず、社内調査を進めることが難しい可能性があります。

(2)単なる業務上の不満である場合

 また、指摘されている不正行為が、法律違反や社内規程違反には当たらない、単なる業務上の不満を述べるのみの場合もあるでしょう。たとえば、「B氏が実力以上の人事評価を受けており、他の従業員と比べて不公平である」といった通報などです。

 このような場合には、社内調査等の対応ではなく、人事部門等による職責としての対応が適切なこともあります

適切な対応を行わないリスク

 適切な社内調査対応を行わない場合には、不正行為の継続により、会社の損害や関係者への被害が拡大しかねず、場合によっては、適切な対応を行わなかったこと自体についても、関係する役員等の法的責任が問題になる可能性もあります。

 仮に、当該ベトナム企業が日本企業の子会社であるような場合には、親会社である日本企業における担当取締役の善管注意義務違反も問題にされ得ると考えられます。
 たとえば、国内子会社についての事案ではありますが、子会社での不正行為に関して十分な調査を行わなかったこと等につき、親会社役員の責任が認められた事案として福岡魚市場事件(最高裁平成26年1月30日判決・集民246号69頁)等の裁判例もあります。

社内調査の全体像と目的

 社内調査の流れは、①事実関係の確認と、②法令違反や社内規程違反の有無について確認すべき事実の特定と、それを踏まえた対応の検討、という大きく2つに分けられます。

事実関係の確認

 不正調査では、客観的資料の確認や関係者へのインタビュー等により、疑義が生じている不正行為に関する事実の有無についての確認・認定を行います。そのためには、まず、どのような事実関係を確認すべきかを特定したうえで進めることが重要です。
 この点については、次に行う事実認定において、どの事実が法令違反や社内規程違反の成否を左右するのかという観点から、あらかじめ整理しておく必要があります。

確認すべき事実の特定と、それを踏まえた対応の検討

 たとえば、会社の従業員が、取引先と共謀して、会社に対する水増し請求を行わせ、取引先からキックバックを受領したとの不正行為の疑いが生じた場合について考えてみましょう。法的検討ポイントとしては、次のようなものが考えられます。

法令違反や社内規程違反 確認すべき事実の例
  • 刑事責任としての商業贈賄(収賄)罪(ベトナム刑法354条)の成否
従業員が取引先から利益(金員やその他の有形の利益の場合には200万VND※以上)を受領した(あるいはその約束をした)事実の有無
  • 民事責任としての損害賠償請求(ベトナム労働法129条)の可否
会社に損害が生じた事実(取引先に対して本来支払う必要のなかった金額が支払われていた事実)の有無
  • 懲戒処分(ベトナム労働法124~125条)の可否
上記同様、従業員が不当な利益を受領していた事実や会社に損害を生じさせた事実の有無

→就業規則の定める懲戒事由が存在することを会社が立証することが必要

※VND=ベトナムドン

 このような観点を踏まえ、社内調査で確認すべき事実を特定したうえで、客観的資料の確認や関係者のインタビュー等による事実確認の進め方を計画することになります。

ベトナムにおける社内不正調査の実務ポイント

不正調査チームの組成

 調査計画の策定にあたっては、誰が調査を実施するか、複数名で調査を実施する場合には、調査チームをどのようなメンバーで構成するかも重要な検討事項となります。

 社内不正調査の実施において中立性・公正性を確保するためには、調査対象となる不正行為や不正行為が疑われる従業員と利害関係のない者が調査を実施する必要があります。

 主に日本国内における法令違反等を対象とする社内通報に適用される規制ではありますが 1、日本の公益通報者保護法11条1項・2項が事業者に求める公益通報体制につき、「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)」では、通報事案に関係する者を調査等の対応業務に関与させない措置をとることを求めており、法令違反行為の発覚や調査の結果により実質的に不利益を受ける者、通報者や被通報者と一定の親族関係がある者が「事案に関係する者」の典型例として挙げられています。

 このような観点からは、調査対象となる不正行為に関係する取引に直接関与していた従業員や、不正行為が疑われる従業員の直接の上司・部下等は調査担当者・調査チームから除外することが必要と考えられます。

 この点、会社の経営層(MD等)による不正行為が疑われる事案では、その部下に当たる従業員すべてが一定の利害関係を有しているといわざるを得ず、(事実関係の確認にあたっては、当該会社の従業員の関与も不可欠ではありますが)親会社や外部弁護士等を調査チームに加えるなどして、社内調査の中立性・公正性を確保するための措置を講じることが必要です。

客観的証拠と供述証拠の確認

 社内不正調査において確認対象となる証拠は、①客観的証拠(文書やデータ)と、②供述証拠(関係者へのインタビュー)に大別されます。

 ②供述証拠については、インタビューの対象者が(特に自己に不利な事実に関しては)意図的に記憶と異なる内容を供述する可能性もあります。また、インタビュー対象者が真摯に事実を話そうとする場合であっても、供述の元となる人の記憶には誤りが含まれやすく、当時から対象事実を正確に理解していなかったり、時間が経過する中で具体的な事実関係を忘れたり、その後の第三者とのやり取りで記憶が置き換わってしまう等の理由により、供述内容が必ずしも事実を正確に反映したものではない可能性があります。

 これに対して、①客観的証拠と呼ばれる、確認対象となる事実が生じた当時に作成・記録された文書やデータについては、(記録の改変等が行われない限り)当時の情報がそのまま記録されているため、事実認定において、証拠としての価値が高いと考えられます。

 以上の観点から、社内不正調査を進めるにあたっては、可能な限り客観的証拠を収集・確認することが重要であり、客観的証拠では確認できない事実関係については、関係者へのインタビューにより確認することになります。
 なお、捜査機関が捜査を行う場合や裁判において裁判所が事実認定を行う場合も、証拠関係についての基本的な考え方は同じです。

(1)客観的証拠の確認

 社内不正調査で確認すべき客観的証拠は、調査対象となる不正の類型や個別の事例によって異なります
 たとえば、「会社の従業員が、取引先と共謀して、会社に対する水増し請求を行わせ、取引先からキックバックを受領したとの不正行為の疑いが生じた」事例について考えてみましょう。この事例の確認対象としては、不正が疑われる取引に関する社内資料(社内決裁、取引契約、経理関係書類等)や当該従業員のメール(会社のサーバ、社用PC)、チャットツールデータ、社用携帯データ等が考えられます。

 日本企業の子会社であるベトナム企業で不正行為が行われる場合には、日本人の駐在員に発見されないよう、ベトナム語でのやり取りや書類作成が行われることも多いため、客観的資料の確認にあたっては、ベトナム語(および対象会社の事業内容)を理解できるベトナム人従業員の協力を得ることが必要となります。

(2)電子データについての調査を行う際の留意点

 現在では、ビジネス上のやり取りの多くが電子化されているため、社内不正調査を行う際、メール、チャットツール、携帯電話のデータ等、電子データについての調査(データ・デジタルフォレンジックと呼ばれることもあります)を行うことが不可欠と考えられます。

 この点、会社のメールアドレス、会社貸与のPCやそこにインストールされたアプリ、会社貸与の携帯電話のデータについては、会社資産であり、対象となる従業員による個別の同意を得ることなくデータを確認することが基本的に可能と考えられます。ただし、データに含まれる個人情報の取扱いとの関係では、個人情報保護法令(ベトナムでは、2023年7月、包括的な個人情報保護法令である「個人情報保護に関する政令(Decree No. 13/2023/ND-CP)」が制定されています)が求める、本人からの同意取得の要件を満たしているといえるか(会社が取得済みの同意書面でカバーされているといえるか等)についての検討が必要となります。

 また、ベトナムでは、(会社が許可しているか否かにかかわらず)私用携帯においてZalo等のメッセージアプリを用いて取引先とのやり取りが行われることも多いですが、私用携帯については、従業員本人がデータの提供に任意で協力しない限り、会社が一方的にそのデータを確認することはできません。

(3)取引先等との資金の流れを確認する際の留意点

 キックバックや贈収賄等の不正については、取引先等との間の資金の流れに関する証拠を確認することが非常に重要となります。不正行為者が個人の銀行口座等を用いて資金決済を行っているような場合には、会社としてそのような情報を入手することが困難です。通報者が取引先である場合等、通報者が資金の流れについての情報を有している場合には、通報者から関連資料を入手することも考えられます。

(4)関係者へのインタビュー

 社内不正調査において、関係者および不正が疑われている従業員に対してインタビューを実施することも重要な事実確認の方法です。
 上述のとおり、インタビューの目的は、客観的証拠では確認できない事実関係(事案の背景、対応する客観的証拠がない事実、客観的証拠がある部分についても各資料やその内容の位置付け・文脈)の確認を行うことにあります。また、ハラスメント等についての調査では、従業員の言動等、客観的証拠が少ない事実が確認の対象となり、その場合には、インタビューで関係者の話を聞くことが事実調査の中心となる場合もあります。

 インタビューの実施にあたっては、以下のような点につき適切に計画することが重要です。

  • 実施時期・場所
  • 実施主体・言語(どの組織・部署で行うか、日本人社員・現地社員か、外部弁護士に依頼するか)
  • インタビュー対象者の範囲
  • インタビューの順番 など

 実施主体・言語について、現地従業員に対しては、基本的にベトナム語でのインタビューを実施することが望ましく、インタビュー対象者の役職や調査における重要性、実施主体の客観性・中立性の確保等の観点に鑑みて、インタビューの一部を外部弁護士に依頼することが有効となる場合もあります。
 インタビューの順番としては、利害関係の少ない周辺の関係者からインタビューを開始し、情報を集めたうえで、最終的に不正行為の疑われる従業員に対するインタビューを行うのが基本です(関係者の所在地やスケジュールを踏まえて調整を行う等の対応は考えられます)。

 インタビューを実施する際には、社内調査で確認すべき事実を念頭に置いて、事前に質問項目を作成したうえで、インタビューに臨み、対象事実の有無を確認することが必要です。
 インタビューの対象者から、ただちに記憶に基づく正確な供述が得られるとは限りませんので、関連する客観的証拠を提示しながら、供述内容の真偽を確認したり、記憶を喚起したりしながら質問を進める対応が考えられます。

 最終的な事実認定において、インタビューの結果を記録した議事録が証拠となります。そのため、インタビューの中で確認された事実につき、法令違反や社内規程違反の有無を判断するために必要な具体的な事実関係を正確に記録することが肝要です。

 ベトナムにおいては、対象者が内容に同意していない議事録については、訴訟や社内での懲戒処分における証拠としての価値が認められない可能性があります。一方で、インタビューの実施に際してあらかじめ議事録への署名を求めるような場合には、インタビュー対象者が警戒し、十分な供述が得られない可能性もあります。
 そのため、どのような方法で対象者の同意を取得するかについては、慎重な検討が必要となります。

警察への報告

 会社が警察に不正行為を報告した場合に、警察が捜査を開始し、最終的に刑事事件化されるか否かは、不正行為の深刻性、会社に生じた損害の規模、社会に与える影響、一定の証拠の有無等により左右されます。
 重大な事案であり不正の存在がうかがわれるものの、会社としての社内調査には限界があるような場合には、警察に当該事案を正式に報告し、警察による捜査・起訴を求めることが考えられます。そして、それが刑事訴訟に至った場合には、刑事訴訟の記録を民事上の損害賠償請求に活用する対応も考えられます。

ベトナムにおける社内不正調査結果を踏まえた対応

調査結果に基づく認定

 客観的証拠の確認とインタビューの結果を総合的に検討したうえで、法令違反や社内規程違反に当たる事実の有無を認定します。

 事実認定にあたっては、あるインタビュー対象者(特に不正行為を行ったことが疑われている役職員)の供述内容が他のインタビュー対象者の供述と矛盾するような場合に、どのように事実認定を行うか(違反行為の存在を認めるか否か)について判断が悩ましい場面もあります。
 そのような場合、事案ごとに事実認定の内容は異なるものの、誰の供述が客観的証拠や他のインタビュー対象者の供述内容と整合しているか、供述内容に不自然な点がないか等の観点に基づいて、誰の供述が信用できるかを検証のうえ、違反行為の有無を認定することが必要です。

 また、社内で確認可能な情報のみからは違反行為の認定に足りる事実・証拠は確認できないものの、依然として不正行為の存在を疑わせる事情が存在する場合に、対象範囲を社外まで広げて調査を実施すべきか(たとえば、取引先にも協力を求めるべきか等)について難しい判断が求められることがあります。
 上述のとおり、社内調査が不十分で、不正行為の継続により、会社の損害や関係者への被害が拡大したような場合には、関係する役員等の法的責任が問題になる可能性があります。そういった可能性も念頭に置いたうえで、会社として十分かつ合理的な範囲での調査を実施済みといえるか、不正行為が継続する可能性はあるか等を考慮のうえ、調査終了の可否を判断することになります。

調査結果を踏まえた対応

 社内不正調査の結果、法令違反や社内規程違反に当たる事実が確認された場合には、以下を含む事項についての対応を検討することが必要になります。

法令違反の場合の当局への報告の有無
  • ベトナム刑法上、一定の犯罪行為を認識した場合、当該犯罪の報告を怠ることが処罰の対象とされている(ベトナム刑法19条)等、法令上、当局に報告を行う義務があるかを検討することが必要となる。
  • 競争法違反に当たるカルテル行為については、自主的に違反行為を当局に申告した企業に対する罰金が減免されるというリニエンシー制度が設けられている(ベトナム競争法112条)等、会社に生じる損害を限定するために、当局に対して自主的に違反行為を報告すべきかどうかについても検討が必要となり得る。
取引先等との間の契約上の取扱い
  • 確認された違反行為が、取引先等との間の契約違反に当たらないか、当該契約上、何らかの対応が必要とされるか等についての検討が必要となり得る。
不正行為を行った役職員に対する民事・刑事責任の追及
  • 確認された違反行為により会社に損害が生じている場合(たとえば、会社資産の横領や、キックバックの前提として架空・水増しの発注に対する支払いを行わせていた等)には、不正行為を行った役職員に対して損害賠償請求(場合によっては訴訟の提起)を行うべきかを検討することが必要となる。
  • 当該役職員の社会的責任の追及や将来的な抑止を目的として、警察に対して不正行為を報告し、捜査当局による捜査・訴追を求めることも考えられる。
  • ベトナムにおいて、不正行為を警察に報告した場合、不正行為の重大性や同事案が企業、投資環境、地域社会に与える影響の大きさによって対応が異なる。重大な案件であれば、警察が積極的に協力・捜査を行う可能性があるが、そうでない場合には、各警察当局の方針や戦略、対象企業が地域で持つ関係性や評判によって対応が左右され得る。
  • 不正行為について刑事訴訟が提起されるに至った場合には、会社としても、刑事裁判で提出された証拠の写しを入手し、不正行為を行った役職員に対する民事責任追及のための証拠として用いることも考えられる。
不正行為を行った役職員に対する懲戒処分
  • ベトナム企業において懲戒処分を行う場合には、対象者に対して、懲戒対象の不正行為について事前に通知したうえで、聴聞手続を実施すること等、法定の手続を履行したうえで進める必要がある。
  • 対象者には、弁護士等による弁護を求める権利が法律上明示的に認められている等、上述のとおり、会社として就業規則の定める懲戒事由が存在することの厳密な立証が求められる。
  • 法律上、懲戒処分については6か月(会社の財務・資産に直接関係するものや技術・営業秘密の漏えいに関するものについては12か月)の消滅時効が設けられており(ベトナム労働法123条)、迅速な対応が求められる。

原因分析と再発防止策の策定・実施

 また、社内調査で発見された不正行為が将来再発することを防ぐためには、不正行為が生じた原因を分析したうえで、その原因に対応した再発防止策を策定・実施することが重要です。

 違反行為の存在を認定するのに十分な事実が確認されなかった事案であっても、社内調査の中で、組織内で不正につながるような体制の不備等が確認されることはよくあります。社内調査では発見されなかった潜在的な同種の不正行為を牽制したり、将来的な不正の発生を防ぐためには、そのような事案であっても、確認された問題点を整理のうえ、対策を講じることが重要と考えられます。

 原因分析の手法にはさまざまなものがありますが、もともと犯罪心理学や組織犯罪学の分野で用いられてきた「不正のトライアングル」のモデルを用いて、①動機(不正を行う動機がなぜ、どのように生じたか)、②機会(なぜ社内で不正を防止することができなかったか)、③正当化(踏みとどまらずに不正を行ったのはなぜか)を分析する手法が広く採用されています。

 再発防止策の策定・実施にあたっては、再発防止策の内容が、不正の原因に適切に対応したものであることが必要である一方で、再発防止策が現実的・継続可能な内容である必要があり、現地の限られたリソースの中で実効的な再発防止策をどのように考えるか(重厚なルール・手続を設けた後、数年後には形骸化する可能性がないか等)という観点も重要であると考えられます。

 原因分析と再発防止策の対応関係につき、たとえば、ベトナム企業において、キックバック・贈賄の疑いを対象とする事案に当てはまることが多いものとしては、以下のような項目が挙げられます。

項目 原因分析 再発防止策
① 動機
  • 従業員が、会社の事業というよりも、私的な利得を目的として不正行為を実行。
  • コンプライアンス遵守等についての動機付けのため、人事評価の基準にコンプライアンスに関する項目を織り込む。
② 機会
  • サプライヤー・ベンダーの選定を現地従業員のみが担当し、日本人従業員や他部門によるチェック機能が存在しない。
  • サプライヤー・ベンダーの選定プロセスとして、システムによる管理や相見積り取得を義務付ける社内規程等が設けられていない。
  • 現地従業員が長年にわたり同一のポジションを担当しており、ローテーションも行われていない。
  • 調達の責任者を現地ローカル社員から日本人従業員に変更。
  • 調達プロセスを管理するためのシステム、相見積り・他部門によるダブルチェックを義務付ける社内ルールを導入。
  • 定期的なローテーション、中途・新人従業員の採用を実施。
③ 正当化
  • 従業員のコンプライアンス意識が十分でなく、私的な利得を優先しがちな組織風土が存在。
  • 社内規程上、懲戒事由の定めが明確ではなく、過去に懲戒処分が行われた実績もないため、懲戒処分の可能性による抑止が働いていない。
  • 私用携帯に対する調査の実施を可能とする社内ルール等が設けられておらず、私用携帯を用いることにより不正行為についての連絡が容易である。
  • サプライヤー・ベンダーとの間で、コンプライアンス遵守や不正行為の報告を義務付ける合意が存在せず、サプライヤー・ベンダーからの報告を契機とする発覚が見込まれない。
  • 社内通報制度が十分に機能しておらず、社内通報を通じた発覚も見込まれない。
  • コンプライアンス教育や定期的な会議等の場で会社トップからの強いメッセージを定期的に発信。
  • 社内規程上の懲戒事由の定めを明確化し、不正行為に対しては適切に懲戒処分を実施。
  • 業務への私用携帯の利用を禁止し、業務に私用携帯を用いる場合には、社内調査等において私用携帯の情報提供に協力すべき義務を定めた社内ルールを導入。
  • サプライヤー・ベンダーとの間で、コンプライアンスに関する書面の締結ないし、契約書面における条件の合意を実施。
  • 社内通報制度の周知、運用の強化。

  1. ベトナムの子会社等において、日本人駐在員による、日本法違反に当たり得る不正行為(日本の不正競争防止法違反に当たる外国公務員への贈賄行為、日本の刑法違反に当たる横領やハラスメント行為等)についての社内通報が行われたような場合には、そのような事案も適用対象となる可能性はあります。 ↩︎

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