法務キャリアの多様なロールモデルを知ろう

第5回 vol.2 takano utena - ビジネス部門から法務、そして内部監査へ移って見えたもの

法務部

目次

  1. 「できて当たり前」が法務のつらいところ
  2. 若手に必要なのは手を挙げる勇気
  3. 内部監査の立場から見ると法務もビジネス部門の1つ
前回の記事では、takano utenaさんに、42歳でビジネス部門から法務へ異動し、大規模リコールと会社売却に一人法務として対応したご経験について伺いました。後編では、現在の内部監査の立場も踏まえて、法務のあるべき姿や今後予想される変化についてお話しいただきます。

History

時期 所属部門・出来事 職務内容
1987 化学系総合製造業入社
建材設備機器営業部門配属
官公庁、準官庁、不動産デベロッパー、設計事務所、ゼネコンを顧客とする販売業務
1999 製品事業部に異動(2000年〜課長代理職) 製品事業企画(予実算管理)
製品価格(卸値)管理
商品企画・販促管理
事業者団体会務
2001 所属部門が会社分割・分社され上場企業の100%子会社に
2002 営業企画部に異動 販売子会社の営業教研修事務局
親グループ会社の管理職研修社内講師
2003 営業本部開発営業部(課長職) 住宅デベロッパー、フランチャイズを顧客とする営業業務
2005 販売子会社出向 地域の販売先相手の営業業務
2006 営業本部販促グループ(課長職) 販促企画、販促物作成・管理
プレスリリース業務
2006.12 社長室に異動(法務担当課長) 法務業務、広報業務、渉外
2007.6~8 製品リコール対応 弁護士協議(自社のリスク対応)
事業者団体協議(広報対応)
メディア対応
所管協議(主に広報対応)
調査業務(過去の事案の事実確認)
2008.1 親会社から投資ファンドへ勤務先の株式譲渡 デューデリジェンス対応
企業再編事務手続業務
金融機関契約交渉
商号変更に関する交渉
2008.12
~2009.4
販売子会社吸収合併
製造子会社事業譲渡
商号変更
企業再編事務手続
再編に伴う許認可関係の手続確認等
2010 上場準備開始 上場準備事務局(2012年6月まで)
2011 持株会社設立
法務担当部長として持株会社に出向
株式移転など持株会社設立・登記
2012 投資ファンドから上場企業へ株式譲渡
再び上場企業子会社に
デューデリジェンス対応
企業再編に関する業務(広報含む)
2013 持株会社解散、元の事業会社に出向復帰
2019 執行役員内部監査室長として内部監査室に異動 法務コンプライアンス部長兼任
2020 法務コンプライアンス部兼任解除

「できて当たり前」が法務のつらいところ

一般的には、法務の仕事はビジネス部門の仕事よりも地味なイメージで語られることが多いと思いますが、物足りなさなどは感じませんでしたか。

私はもともと、裏方に徹して表舞台を作り上げていくのが好きなタイプの人間でしたので、法務業務がつまらないと思ったことはあまりないのです。

契約交渉で自社に有利な条項をどうにか受け入れてもらえた、不利な条項を削ることができた、などの一つひとつの成功に達成感があります。交渉スケジュールやポイント、タイミングなどを事業部門と打ち合わせして、共に練り上げたものがうまくはまったときの気分はいいですね。

ほかにも、社内研修や日常業務のなかでビジネス部門に対して口うるさく言い続けた結果、こちらから言わなくても自発的に行動を変えてくれると、頑張ってよかったなと思います。こういう地道な取組みを続け、時に自分で自分をほめながらやってきました。

では、法務の仕事で大変だと感じる点はありますか。

「できて当たり前」が前提で、失敗できないことだと思います。
私は営業時代、もう思い出せないくらいたくさん負け戦も失敗も経験しました。元請の動きが遅いせいで現場にしわ寄せが来て納期に間に合わない、どうしよう…!と焦る悪夢を今も見ます(笑)。

それに比べて法務は、決まったとおりの手続を正しく行うことが求められる仕事が多く、しかも、うまくできたところで格別なフィードバックがあるわけでもないのがつらいところです。特に機関法務の仕事はそういう面が大きいと思います。
契約書審査の仕事も、契約を決めてくるのは結局ビジネス部門ですから、労多くして功少なし、と思っている人も多いかもしれません。せめて礼の一言でもあればいいのですが。
M&Aや不正調査など、守秘義務を負わざるを得ない業務もありますから、やっぱりストレスはたまりますよね。

ビジネス部門のようにわかりやすいやりがいのある仕事ばかりではないので、特に若い人にとってはしんどいこともあると思います。Twitterなどで若手と思われる人たちがそういう気持ちを吐き出しているのを見ると、そこの法務部長さんや管掌役員の方は、彼ら彼女らの悩みをどれくらいわかってくれているだろうか、とお節介ながら少し心配になります。部下のやりがいや成長は、マネジメント側の責任も大きいはずです。

新卒から一貫して法務の人と、utenaさんのように途中で異動してきた人、それぞれの強みと弱みについてはどのように考えますか。

まず個人の資質によるところが大きいですし、同じ異動でも、ビジネス部門からの異動と他の管理部門からの異動とでは前提が異なるので、一概にはいえません。

ビジネス部門からの異動者についてあえて一般的にいうなら、何よりも現場にいたわけですから、社内外の交渉での本音と建前、ビジネスの裏表がよくわかっているのが強みだと思います。また、法律知識という点では不利だとしても、新規事業や他社とのアライアンス、公共機関を相手にする業務を経験していれば、契約書審査や契約交渉の仕事にそれほど抵抗感を抱かなくて済むと思います。

ビジネスの現場では理不尽なことがよく起きます。さまざまな場面で勝ったり負けたりしますので、社内外の力学を身をもって学び、また打たれ強くもなります。そういうなかで、どうすれば人が動いてくれるのか、物事がうまく回るのか、自分なりのパターンやノウハウを身につけていくものです。

それに対して法務(に限らず本社部門)は、一応は通知ひとつで社内に指示命令できる立場にありますし、それで仕事が完結すると思いがちです。そのため正面から生真面目にやるばかりではなく、いろいろな方向から物事を見て、ビジネスの担当者とうまく話が進まないようであれば別の人を通してみるとか、そういう術を学びにくい環境だと思います。
ずっと法務の仕事をしてきている人は、法律に接している時間が圧倒的に長いですし、勉強も重ねていると思います。何よりもその点が強みなのですが、真面目で努力家に囲まれ、十のうち一を話せば通じるような環境に慣れていることが、弱みにもなると思っています。法務担当者が1回読めばわかることであっても、ビジネスの担当者はそうとは限りません。なぜ理解しようとしないのかと腹が立つことも多いですが、いろいろな人がいることを認めていかないと、かえって自分が苦しくなります。
また中堅以降の方でしたら、自部門の部下メンバーだけでなく、ビジネス部門の担当者も育てるような視点も必要ではないでしょうか。

こう思うのも、自分自身が若い頃、管理部門の人の手を煩わせることが少なくなく、舌打ちをされながらも教えられ助けてもらった記憶があるからです。年月を経て、自分がその立場になってみると、当時の管理部門の人の心情がわかりますね。

ビジネス部門から異動した人について、知識面以外の弱みはありますか。

弱みとは少し違うかもしれませんが、注意しなければならないのは、ビジネス部門の考え方に引っ張られがちな点です。 法務担当者として求められているのはリーガルの視点なのに、なまじ経験があるだけに、ビジネス視点を優先した判断をしやすい傾向があるのです。本人が気をつけるのはもちろんですが、上司や同僚など周りの人も意識しておいて、必要なときには牽制すべきでしょう。

若手に必要なのは手を挙げる勇気

20代、30代でやっておくべきことは何でしょうか。

私は若い頃ビジネス部門にいたので、若い法務担当者へのアドバイスになるかはわからないのですが、目の前にチャンスがあるならためらわずに取りにいくことを薦めます。
自分のことを振り返ると、若い頃は「もっと大規模な仕事を受注したい」「あの会社の仕事に食い込みたい」という気持ちが強く、実力の有無はさておき機会があれば飛び込むという姿勢で仕事をしていました。法務に異動してからは、自分しかいなかったので否応なしにすべての仕事を引き受けざるを得ませんでしたが、もし仮に先輩や同僚がいたとしても自ら手を挙げていたと思います。

まだ若いから、経験不足だから、と言って遠慮するのは簡単ですが、同じチャンスがもう一度やってくるかはわかりません。法務に限らずどんな仕事でも、私にはまだ早いなんて言っていると、永遠に自分の番は回ってこないものです。選んでもらえるかはわからなくても、機会があるなら少なくとも挙手はしてみましょう。

もちろんそういう場に居合わせるには運も必要です。私も、リコールや会社売却という局面にたまたま居合わせただけであって、もしタイミングがずれていれば、契約書審査と社長印管理だけの業務の繰り返しで終わっていたかもしれません。 でも、チャンスをつかむためにできることもあります。たとえば、参加必須ではない会議に図々しく同席させてもらうとか、社内を歩き回って顔を売っておく、などです。また、仕事は忙しい人のところに集まる法則がありますから、普段からてきぱきと仕事を進めていると、面白い仕事が巡ってくる確率も上がるかもしれません。自分の知らないところで案外他人は仕事ぶりを見ているものです。

社内の年齢ピラミッドがアンバランスで、ぽかっと空いている層があるような会社だと、若い人に大きな仕事が回ってくる可能性は高いと思います。キャリアや年収も大事ですが、それは仕事の結果がもたらすものなので、まずは何でもやってみよう、と伝えたいですね。

そして、もし日々の仕事に行き詰まることがあったら、同期など他部署の人に目を向けて、彼らがどんな仕事をしているのかを見てみましょう。取引先を訪問してひたすら頭を下げているかもしれないし、あるいは納期に焦りながら工場で製品を作っているかもしれません。自分の見えている世界は狭いものです。将来こうありたいというイメージを描くことは大事ですが、その目標に結びつかないといって目の前の仕事をおろそかにしてよいわけではありません。
多くの人は40年ぐらい働くのですから、その年月の半分にも満たない20代や30代で道を決めつけてしまうのはもったいないと思います。

管理職手前のポジションにいる人はどのような経験を積んでおくべきでしょうか。

管理職になると、本来の法務業務や部下育成といった業務に加えて、意外と雑用が多くなります。たとえば、出席しなければならない会議が増える、部門の経費予算を立てて運用する、経費や業務委託費などの決裁処理を行う、他部門からの横やりや苦情をいなす、上長との関係を良好に保っておく、などです。法務以外の仕事はしません、では通用しないのです。

ですから、中堅のポジションにいる人であれば、そのような雑用の一部を代行するとか、部下育成を買って出るなど、できることからトライしてみるといいでしょう。社内横断的なプロジェクト案件が発生したら、その事務局の役割を担うのもよい経験になると思います。

また、社内に階層教育制度があれば、管理職準備のためのコースに参加することも考えられます。知識だけで何とかなるものでもありませんが、優れたプレイヤーが必ずしも優れたマネージャーになるわけではないので、知識があれば何かの助けにはなると思います。

内部監査の立場から見ると法務もビジネス部門の1つ

現在は内部監査を専任として担当されていますが、法務に対する感じ方に変化はありましたか。

2020年に内部監査の立場に移ってからは、広い意味では法務もビジネス部門の1つであり、ビジネスに寄り添うことが大事だと感じるようになりました。
もちろん、コンプライアンスやリスク管理という点で、時にビジネス部門や経営陣と対立することがあるかもしれません。しかしそれも会社を守り、ビジネスを成功させるためにやっていることですから、向いている方向は同じです。機械の歯車が、すべて同じ向きに回転しているわけではないけれども一体となって機能しているのと同じイメージです。

ビジネス成功のためにあらゆることを考え、助言していく。ただしどう考えてもNGのケースは身体を張って止める、というのが法務のあるべきスタンスだと思います。たとえば、営業が「他社もやっているから」と言ってグレーな方向へ走りそうなとき、それをただ止めるのではなく、道を踏み外さずにビジネスが回るようにサポートするのが法務の役割です。基本的にはディフェンスでも、攻撃に移るときは同じスピードで伴走していくアシストのポジションでいられたら、と思いますね。
私は自転車のロードレースが好きなのですが、あのスポーツでは、チームのエースのために脚力を使い果たすアシストも、プロフェッショナルな仕事と評価されます。企業法務にもそういう一面があるかなと思っています。

内部監査というポジションは、法務キャリアのプロセスの1つとしていかがでしょうか。

経験する価値のある仕事だと思います。その後法務に戻る場合でも、内部監査の経験は大いに役立ちますが、特に、将来経営に関わりたいと考えている人には強く薦めます。

法務が取り組んでいるはずのコンプライアンスやリスク管理の施策が、社内・グループ内の隅々まできちんと伝わり運用されているか、伝わっていないとしたら何が原因なのか。それを自分の目で確かめられるのが内部監査です。私自身も、法務にいたとき社内全体が見えていたつもりだったのに、監査をやってみると見えていなかったことが多く、意外でしたし反省もしました。
ただし、問題が見つかったからといってその場で是正させるのが監査の仕事ではありませんので、こうしろ、ああしろ、とお小言をいうのが好きな人には不向きです。現場でこつこつ集めた事実を積み上げて経営に実態を報告するのが大事なのであって、小手先の対応はかえって根本的な問題を埋もれさせることにつながります。

日本の伝統的企業では、内部監査を財務・経理部門の「上がり」的なポジションに据えている企業もあると聞きますし、当社でも以前はそういう方が担当していました。しかし、内部監査のあり方や求められる役割は変わりつつあり、昔のような「上がり」の仕事ではなくなってきています。管理部門のなかでビジネス部門に近く、かつ法令や制度にも通じている法務担当者こそ適性があると思います。

法務部門は昔と比べてどのように変化したのでしょうか。また、今後はどのような変化が予想されるでしょうか。

私が就職した頃、当社を含む多くの日本企業で「法務」という名称の部門はなく、総務部文書課などと呼ばれていたのではないかと思います。それが法務課から法務部になり、さらにはリスクマネジメントやコンプライアンスといった名称も現れ、この30年で大きく変わったことを実感します。

今後考えられる変化としては、発展途上ではあるものの、リーガルテックによるシステム化の影響が予想されます。
経営視点から見ると、システム導入の目的は省力化と効率化です。早くからシステム導入を果たしてきたのは製造部門や経理部門ですが、それによって業務工数を減らし、結果として人件費総額を減らしているんですよね。
つまり、もし法務にシステムを導入したとして、数人分の人件費に匹敵するようなシステム投資(費用負担)をしながら、導入前と比較して人も減らず、業績貢献度も定かではなく、といって特に新しい業務に取り組んでいるわけでもない、となればどうでしょうか。経営側から、法務はやはりコスト部門だと言われても仕方ないと思います。

もし今後、法務のDXが進んでいくとしたら、生身の法務担当者は何ができるのか、システム化して生まれた時間で何をするのか、が真剣に問われるようになると思います。弁護士資格があるのないのと言って内輪で盛り上がっている場合ではありません。

資格の有無がこんなに話題になるのは管理部門のなかでも法務部門くらいのものです。人事や経理にも、社労士や公認会計士の資格を持つ人がいるはずですが、資格があるから良いとか悪いなんて話は聞いたことがありません。企業法務の仕事をする限りでは、資格がなくても違法行為をしているのではないのですから、「無資格法務」という職種をつくって勝手にけなし、そしてけなされているのは、なんとも奇妙な話です。

これからの法務担当者にはどのような道が考えられるでしょうか。

ルールメイキングやロビイングが新しい法務の仕事だと言う人もいますが、そのようなポジションを用意できる会社はまだ多くないでしょうし、あったとしても法務ではなく「渉外」部門としている会社が多いかもしれません。
私は、法務経験を活かして渉外や広報といった他部署で活躍する人が増えていくのではないかと予想しています。そうなると、法務の知識やスキルのみならず、ビジネスパーソンとしての資質を兼ね備えていることの大切さはますます高まっていくと思います。

ありがとうございました。

(完)

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