法務キャリアの多様なロールモデルを知ろう

第2回 vol.1 藤野忠 - 「専門家」を超えた実務者たれ - 企業内法務に必要なマインドとスキルとは

法務部

目次

  1. 「外」に出て景色はどう変わったか
  2. 企業内法務だからこそ得られるやりがい
  3. 「弁護士資格」よりもっと大切なものがある
法務担当者としてのキャリア構築について悩みや迷いを抱える読者のために、先人たちが切り拓いてきたキャリアの道のりや多様なロールモデルを紹介する連載の第2回。
前回、そのキャリアやターニングポイントを伺った藤野忠弁護士に、企業内弁護士を経て独立した経験から、企業内法務のあるべき姿について語っていただきました。

History

1998 東京大学法学部卒業
東日本旅客鉄道(株)入社 営業・輸送系職場に配属
2000 支社総務課配属
2001 〔司法制度改革審議会意見書公表 司法試験改革・法科大学院創設へ〕
2002 東京大学大学院法学政治学研究科入学(企業派遣)
2004 東京大学大学院法学政治学研究科修了、職場復帰(本社R&D部門配属)
〔法科大学院開設〕
2006 〔新司法試験開始〕
2007 法務部知財・訴訟グループに異動(R&D部門兼務)
2008 日本知的財産協会デジタルコンテンツ委員会副委員長(~2009)
旧司法試験合格
2009 一時退職して司法修習へ
2010 司法修習終了、弁護士登録
東日本旅客鉄道(株)に法務部(企画・法規担当)副課長として復帰
2011 〔旧司法試験終了、予備試験開始〕〔東日本大震災〕
2012 日本経済団体連合会(経団連)債権法改正WGに参加(~2015)
2013 法務部(知財・国際法務担当)副課長
〔政府インフラシステム輸出戦略決定〕
2014 日本知的財産協会著作権委員会委員長(~2016)
2015 〔「民法(債権関係)の改正に関する要綱」決定〕
2016 法務部(知財・国際法務担当)課長
〔政府知的財産戦略本部「次世代知財システム検討委員会報告書」公表〕
2019 法制審議会民法・不動産登記法部会委員(~2021)
退職、西早稲田総合法律事務所開設
2021 〔「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」決定〕

「外」に出て景色はどう変わったか

2019年には、JR東日本を退職して法律事務所を開設されましたが、どのような業務が多いですか。また、立場を変えて仕事をする中で気付かれたことはありますか。

今は企業法務、それも企業内での業務オペレーションへの関与も含め、これまでの経験を生かせる方向に特化して仕事を組み立てています。どうせやるなら、企業内の経験がなければできないスタイルの仕事をしたいと思っているので。

気付いたことといえば、そうですね、ありきたりですが「会社ってホントそれぞれだな」ということでしょうか(笑)。とはいえ、相談に来られる方は一人ひとり生身の人間ですから、会社のカラーは違っても、置かれている立場が同じなら共通する思考や心情が当然あるわけで、そこを手がかりに、今まさに相談者に必要な答えを提示し続けることを意識していけば、関係性も自ずから深まっていきます。

また、JR東日本在職時に国内外の多くのグループ会社をサポートしていたこともあり、対応する会社の規模や業界でのポジションに多少の違いがあっても、それに応じて、現場で担当されている方々の思いや、経営幹部はどういう思考で動くのか、といったところまで踏み込んだ対応ができることは私の強みだと思っています。そういったところが伝わらない歯がゆさは、企業内法務の立場で外部の弁護士に対していつも感じていましたので、それをいかに減らせるかということは、常に意識しています。

最近はどのような案件を中心に手がけていますか。

社外に出てから「専門分野は?」と聞かれることが多いのですが、企業活動で生じるさまざまな問題を「分野」で区切ることなど、本来はできないはずです。依頼者との関係性にもよりますが、企業がまさに直面している事象に対する助言を求められた場合は、案件の背景を把握したうえで、特定の法分野の視点に偏らず多面的な角度から最適解を提案するというスタンスで対応しています。

また、法務以外の部門の方から、法務部門の構築や人材育成についての相談をいただくこともあります。それぞれの会社のカルチャーなども伺いながら「絵」を描く手助けをしていますが、その中で法務部門の現状への不満などもうかがい、耳が痛くなることもありますね。

法務部門のあり方について、セミナーやSNS等で情報発信をすることもありますが、こういった経験を通じてより考えを深めていければ、と考えています。

企業内法務だからこそ得られるやりがい

社内外という異なる立場のご経験を踏まえて、企業内法務のおもしろさを3つあげるとしたら何でしょうか。

1つ目は、生の事実に一から向き合えることだと思います。
社外から関わる場合とは、情報の量も質もレベルが圧倒的に違います。手に入れた事実の取捨選択は当然必要ですが、その過程で徹底的に事実と向き合うことで気づくことも多くあります。

2つ目は、案件を主体的に動かしていけることです。
もちろん他の部署との綱引きはありますし、会社に入って日が浅い頃は歯がゆい思いをすることも多いのですが、自ら積極的に動くことで会社のビジネスを動かし、経営判断につなげるという経験を、社外からの関わりだけで得るのは難しいと思います。だんだん力がついてくれば、「自分はこうしたい」という思いや価値判断を施策にダイレクトに反映させることもできます。

そして3つ目は、仕事に関わる一人ひとりの顔が見えること。
会社という環境では、皆がそれぞれの立場で必死に汗をかいています。そうした姿を見ながら自分の力で誰かの役に立てたとき、何ものにも代えがたい喜びを感じます。たとえうまくいかなかったとしても、共に戦った仲間とは強い絆が生まれます。外からの関わりだけでは、そこまで深く入り込んでいけないもどかしさがあります。

逆に、企業内法務ならではの大変さやつらさはありますか。

自分の仕事そのものに対してつらいと思うことはそこまで多くありませんでしたが、弁護士資格を取得する以前、自分でも容易に答えが出せるものに対して「弁護士に聞いてこい」と言われてしまうことへの悔しさはいつも感じていました。弁護士になってからは、むしろ知識の吸収とリスクヘッジのために、私自身が積極的に外部の弁護士に聞くようになったのですが。

また、当然ながら、社内にいるのは “よい相談者” ばかりではありません。同じ社内にいれば、ずる賢い人や価値観の違う人とも付き合う必要が出てきます。
露骨なアリバイ作りの相談、担当者の言葉尻をとらえた責任の押し付け――。接している時間が長く、さまざまな情報が入ってくるぶん、相手の腹黒さが見えてしまうこともあります。場合によっては、会社全体の方針が、法常識や自分が正しいと考える道とは違っていることもあるかもしれません。そういうときにどう振る舞うか。ここは企業内法務ならではの苦しいところだと思いますし、社内弁護士であれば職業倫理の問題も絡んでくるだけになおさらです。

さらに、社内で法務部門が軽く見られているという危機感は、絶えず感じていました。特に管理職になってからは、部門としての力の弱さを痛感しました。
人事運用の選択肢が限られているため、本人が希望していても法務の仕事を続けさせることができなかったり、ずば抜けて優秀なのに高い評価を付けて昇進させることができなかったり、といった状況は、正直つらいものでした。一度、法務部門から出した人材は戻したくてもなかなか戻ってきませんし、代わりに有望な人材を連れてきたくてもそれを人事部に拒まれるという、組織としての弱さにはいつも頭を悩ませてきました。会社を離れて自由な立場から問題提起をしたい、と思った背景もここにあります。
ただ、会社を離れる前の数年間は、せめて自分が預かるチームだけはベストを尽くして最高のパフォーマンスを発揮しよう、と鼓舞してきたところもありますし、それで出せた結果もあったので、これもまた次のステップのための良い経験だったのかもしれませんが。

「弁護士資格」よりもっと大切なものがある

企業法務に必要なものは、企業内法務と外部弁護士でどのように違いますか。

まずあげられるのは、マインドセットがまったく異なる、ということでしょうか。企業内法務に求められるのは、社内の「法律の専門家」として答えを出すことだけではありません。会社の規模が大きくなればなるほど、案件をどう進めるか、あるいは止めるかという判断に寄与すること、そして、そのためにさまざまなアレンジを施し膠着した状況を「動かす」、という企業内実務者としての役割が大事になってきます。

社内の利害関係者がそれぞれの立場でボールを蹴り合っている中で “水を運ぶ” 役割を自ら担おうとしない限り、企業内法務が本当の意味でワークすることはできません。答えを求められるときも、そこで必要なのは法的な意味で「正しい」答えではなく、多くのステークホルダーを納得させられる答えです。したがって、自分で考えるより先に、外の「権威」に頼るという割り切りもときには必要になります。

「専門家」のポジションに徹することは、誰かに都合よく利用されるリスクと背中合わせです。そうではなく、今やろうとしていることが会社にとって有益か、世の中の役に立つか、現場で汗をかいている人たちをどう助けるかといったことを組織の中で日々考え続け、強い意志を持って自分たちが最適と考える方法を少しでも実現できる道を探すことが、企業内法務のあるべき姿だと考えています。

そのためには、経営幹部の意に沿って進めるだけではダメですし、一方で、一人よがりで誰も味方につけられないような価値観を振り回すだけでもダメだと思います。「法律」というツールを巧みに使いつつ、臨機応変にアクセルとブレーキを使い分けて、バランスよく事を進めるというマインドセットが必要です。そして、これは一朝一夕で身につくような代物ではないと思います。

最近では、法務の部課長世代となる40代後半〜50代の人手が足りていないのか、手っ取り早く外部の法律事務所から弁護士を採用する企業も多いようです。しかし、このようなマインドセットを、企業組織の中での経験が浅い弁護士に求めるのは酷ではないでしょうか。

経営者にとって都合のいい法務と、会社にとって役立つ法務は違います。経営者から認めてもらうことだけに注力するのではなく、現場をしっかり見てそこで働く人々の思いに応え、ときには経営者に正面から挑んで説得しなければならない状況も想定しながら答えを出していくのが、本来の法務の役割です。

マインドセットのほかに、企業内法務と外部弁護士で異なる点はありますか。

私自身が経験したのは、現在の法曹養成プロセスの一部(司法修習)だけですが、「弁護士になる過程で身につけるスキルセット」と、「企業内で仕事をするためのスキルセット」との間には、まだ大きな開きがあるという印象があります。企業内法務に必要なスキルセットについては、もう少しわかりやすく言語化して伝える必要性を痛感しているところです。

もちろん、有象無象の事実から重要なものを見つけ出すスキルや、根拠に基づいて事実を固め、それを元に自分のロジックを組み立て、それを元にわかりやすく説明するといったスキルがあれば、ベーススキルとしてどのような環境でも共通して生かすことは可能です。しかし、伝統的に、法学教育でもその後の過程でも、知識のインプットが重視される傾向が強く、結果として、企業法務系の弁護士のスキルも、豊富な知識をアウトプットするスキルに偏ってしまっているように思います。

個人的には、顧客の担当者と直接やり取りする機会が少なく、会社が整えて持ってきた材料を元に仕事をしている企業法務系の法律事務所出身者よりも、市井の一般民事系の法律事務所で経験を積んだ方のほうが、企業内法務の世界には早く適応しやすいと思いますし、実際自分が見てきた中でも、そう感じることはよくありました。おそらく、生身の依頼者、生の事実に向き合ってきた経験や、自力で課題を発見し設定する能力と企業内法務の実務との親和性が高いからなのだろうと思っています。

企業内で仕事をするうえで、高度な法律知識を持つことはマストではありません。知識が足りなければ、外部の専門家や、自社または他社の詳しい人に聞いてみるなど、いくらでも補う方法はあります。大切なのは、「ここは重要そうだから誰かに聞いてみよう、しっかり確認してみよう」という必要性に気づける感性と自ら動いて確認・相談する行動力です。

どのようにすれば、そうした感性や行動力が身につけられますか。

そこに一種の「天性」としての要素があることは否定できません。とはいえ、それを法務に配属された人の誰もが最初から身につけているわけではないですし、自分だってかなり怪しかったと思います。

ただ、これまでの日本企業には人事異動によるフィルタリングがありました。人事をある程度コントロールする力が法務にある会社では、人事異動を経て、相対的に適性が高く意欲もある人材が法務部門に残り、経験の積み重ねによってスキルを磨き、感性と行動力を備えた「叩き上げ」の法務が育成されてきたのだと思います。

しかし、近年はやや様子が変わってきました。今後、「ジョブ型雇用」のような考え方が広まっていくと、そのような社内ローテーションによって自然な形で適材適所を実現させることがますます難しくなっていくかもしれません。

最近では、特に有資格者採用の場面で、知識や法律事務所での経験だけを重視した採用も目立ちます。もちろんそのような採用で企業内に入ってきた方が優れた資質を発揮されることもありますが、知識に自信があるために一人で抱え込んでしまい、周囲との共有や必要な確認がおざなりになるタイプの人材がある程度の確率で紛れ込むことは、どうしても避けられないと思います。

また、行き過ぎた「ジョブ型」の浸透により、「企業内法務の適性があるかはわからないが、弁護士有資格者なので法務部門しか選択肢がない」ということになって、若いうちに入社しても幅を広げるような経験を積むことが困難になるのだとしたら、それは、組織にとってはもちろんのこと、本人にとっても非常に不幸なことであると考えています。

ストレートにいうと、企業内法務を行ううえで弁護士資格は意味がない、ということでしょうか。

もちろん、一定の法律知識を備えていることを担保する資格という点では、意味はあると思います。

しかし、先ほどお話ししたとおり、企業内法務に求められるスキルセットのなかで「法律知識」それ自体が占める比重はそこまで高いものではありません。加えて、知識の担保といっても、すべての弁護士に共通するのは司法試験に合格した時点での知識でしかなく、その後の職務経験においても、法律事務所の専門細分化が進んでいる今、企業内法務に必要なすべての知識を満遍なく身につけることは難しくなっているように思われます。

こういった背景を踏まえると、企業内法務において弁護士資格がどれだけの意味を持つのか、ということについては、冷静な議論が必要ではないでしょうか。

今は、企業内法務に必要なスキルが、法務部門以外の企業関係者に正しく理解されていないために、採用活動ではどうしても資格の有無に注目が集まりがちです。しかし、法務人材に必要とされている、仕事を動かす力、周囲を納得させる思考力と論理性、そして、重要な点に機敏に反応する感性と行動力を、弁護士という資格の有無だけで判断できるはずもありません。

それに、もし「法律に関わる部分だけ見ておいてくれればいい」という発想で弁護士資格者を採用で重宝する傾向があるのだとしたら、そういった風潮自体、好ましいことではないと考えています。企業内法務が果たすべき役割は、そんなに単純なものではないのです。

ありがとうございました。次回は、若手の法務担当者がどのように仕事に取り組んでいけばよいか、お話しいただきます。

(第3回に続く)

(文:周藤 瞳美、写真:岩田 伸久、取材・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)

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