CGコード策定から6年、「東芝の株主提案可決」に見るガバナンス改革の現在地

コーポレート・M&A

目次

  1. エフィッシモは何がしたいのか
  2. ぬるい経営から筋肉質な経営へ

 2021年3月18日に開かれた東芝の臨時株主総会において、シンガポールの投資ファンドであるエフィッシモ・キャピタル・マネージメント(以下、エフィッシモ)の株主提案が可決されたというニュースが注目を集めました。同社をめぐっては、CVCキャピタル・パートナーズからの買収提案や社長の辞任など、その後も興味深い状況が続いています。
 株主総会運営やガバナンスに関わる担当者は、このニュースをどう読み解くべきでしょうか。コーポレート案件において豊富な経験のある柴田堅太郎弁護士に伺いました。

※2021年4月1日インタビュー実施

これまでの経緯

(2020年7月31日)
東芝の定時株主総会で、同社の筆頭株主で約10%の同社株を保有するエフィッシモは、東芝の子会社である東芝ITサービスによる架空循環取引を問題視し、3人の社外取締役候補(エフィッシモ創業者の今井陽一郎氏、弁護士の竹内朗氏、元花王執行役員の杉山忠昭氏)を立てる株主提案を行った。この株主提案は否決されたものの、今井氏選任について43.43%、竹内氏選任について41.95%、杉山氏選任について37.68%の賛成が得られた。

(同年12月)
東芝は、この定時株主総会における1.3%分の議決権行使書が、三井住友信託銀行の不適切な集計により無効扱いになっていたことを公表した。同社は、監査委員会による検証に基づいてこれらの議決権行使を有効扱いとしたが、この訂正によって決議自体が覆るものではない。
これについてエフィッシモは、圧力を受けて議決権行使を断念した株主がいると主張して第三者委員会による調査を要求。しかし東芝がこれを拒否したため、エフィッシモは臨時株主総会の招集を求めた。

(2021年3月18日)
臨時株主総会において、上記の定時株主総会が公正に運営されたか否かについて、弁護士等の3人によって調査することを求めるエフィッシモの株主提案が行われ、過半数の賛成を得て可決された。

エフィッシモは何がしたいのか

エフィッシモの株主提案が可決されたというニュースをどうご覧になりましたか。

 コーポレート法務に関わる実務家の間では、今回の株主提案可決よりも、三井住友信託銀行による議決権行使書の不適切処理のほうが仰天ニュースで、かなり話題になりました。同行での業務効率化のために、議決権行使書を到着日より1日早く受け取る「先付処理」と呼ばれる実務慣行が長く続いていたとのことですが、これは株主の権利である議決権行使を脅かす重大な問題です。
 とはいえ、この件については三井住友信託銀行が2020年12月に再発防止策を公表済みです。集計業務を委託していた東芝側に根本的な落ち度があるわけではありませんから、東芝としても、三井住友信託銀行とともに再発防止に努めるとしか言いようがないでしょう。エフィッシモによる株主提案が可決された臨時株主総会の運営面についても、総会検査役の監視のもと、法令の規定に従って委任状のプロセスを適切に進めていくしかなかったのであって、公表されている情報からはそれ以上に何か特筆するべきようなことはなかったのではないかと思います。

本件を「日本株式会社」におけるガバナンスの変化を象徴するような出来事として見立てるような論調もあるようです。

 そのような見方もあるようですが、私はそれは当てはまらないのではないかと思います。
 東芝の株主構成を見ると、もう何年も前から、その多くが外国人株主と機関投資家です。つまり東芝は、資本市場との緊張関係がある会社であり、安定株主でガードを固めていて株主総会で容易に会社提案議案が通るような会社ではありません。ですから、今回のような株主提案可決という出来事が起きてもまったく不思議ではなかったと思います。

エフィッシモは東芝の説明に不自然な点が多いと主張しているようです。

 私がネットで調べた限りではありますが、エフィッシモの主張する「圧力」や「疑惑」の存在がうかがわれるような報道はありました。しかし、仮に議決権集計に不適切な点がなかったとしても、エフィッシモの議案に対する賛成票の数では、いずれにせよ否決されていたとのことですから、現時点ではそこをさらに追及する彼らの意図がいまひとつわからないというのが正直なところです。
 具体的にどの点に疑いをもって株主提案を行ったのか。仮に「圧力」があったことを証明できたとして、果たして何が得られるのか。最終的な狙いをどう考えているのか。株主総会運営に関する公正性が改善されれば彼らは満足するのか。もっともこれらの点はおいおいわかってくるのかもしれません。
 また、決議の有効性を争うには、株主総会決議取消訴訟を提起するという方法がありますが、なぜそうせずに株主提案で調査を要求する形としたのか。訴訟になると「圧力」をどう証明するかという問題が出てくると考えたのか、あるいは、訴訟よりも株主提案と第三者委員会のほうが社会の注目を集めやすいと考えたのか。いずれも推測にすぎませんので、まずは今後の調査結果を待ちたいと思います。

そのほかに注目すべき点はありますか。

 3月臨時総会の株主提案では、エフィッシモが株主総会運営の調査を求めて可決された議案が注目されがちですが、否決された2号議案のほうも注目に値すると思います。
 2号議案は、「経営陣が中期経営計画から資本政策を大きく変更した点について、株主の意思を確認するため臨時株主総会を招集すべきである」という提案でした。これは定款変更を伴うため株主の3分の2以上の賛成が必要であり、可決には至りませんでしたが、このような株主還元に関連する提案は、アクティビストの行動として理解しやすいものだといえます。

ぬるい経営から筋肉質な経営へ

エフィッシモの提案には議決権行使助言会社のISSとグラスルイスも賛成していました。アクティビストの提案には賛成する傾向にあるのでしょうか。

 両社の議決権行使基準では、ともに、株主提案については個別に検討のうえ、株主価値向上に資する提案なら賛成するという方針を掲げています。つまり、エフィッシモの提案がアクティビストの提案だから賛成したわけではなく、「議決権集計の誤りという重大な問題について公正に調べよという合理的な提案であれば、反対する理由はない」と判断して、賛成したのではないかと想像します。
 言うまでもなく機関投資家は、スチュワードシップコードに基づきアセットオーナーに対してフィデューシャリー・デューティー(信認義務)を負っていますから、合理的な説明がつかない行動はとれないのです。

最近のアクティビストの動向はいかがでしょうか。

 近年は、アクティビストを経営の中に前向きに位置づけて彼らの知見を活用していこうとする動きが生まれてきています。オリンパスやJSR、川崎汽船といった日本企業が、アクティビストから社外取締役を受け入れているのが代表的な例です。
 これらの企業は、エージェンシー問題 1 を解消し、企業価値向上に資する筋肉質な経営とするためにアクティビストを招聘しています。今や日本企業も、株主目線での経営をせざるを得なくなってきているのです。
 また、アクティビスト対応の場面に限らず、企業価値向上を意識した経営へと大きく舵を切る企業が目立つようになってきました。

たとえばどのような企業があげられますか。

 2021年に入って驚かされた事案としては、日本製鉄が自社製品の納入先である東京製綱に対して仕掛けた敵対的買収が成立したというニュースがあります。東京製綱にとっては、原料供給元の出資比率が高まることが一般株主にとっての利益につながるかという問題はあるものの、サプライヤーである日本製鉄としては、自社製品をより良い条件で納入するという経済合理性を重視した行動ではないかと思いました。
 日本製鉄のケース以前にも、伊藤忠がデサントに対して、ニトリが島忠に対して仕掛けた敵対的買収が話題になりました。つい最近までは、敵対的買収は「お行儀が悪い」、「自社のレピュテーションにかかわるからできない」というイメージで語られてきたものであり、また、まず成功しないものと思われていたことを思うと、隔世の感があります。

ガバナンス改革の進展についてはいかがでしょうか。

 コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の策定から6年近くが経ち、ガバナンスを取り巻く我が国の環境は大きく変わりました。
 当初は、「政府からやれといわれて渋々体裁を整えるだけのガバナンスに何の意味があるのか」という批判も聞かれたところですし、今でもそのような声は根強くあります。しかし、海外機関投資家の増加も相まって、結果的には、多くの上場企業において、内実も伴ったガバナンス改革が進んだと実感しています。
 CGコード策定前までは、社外取締役を1名入れるかどうかという問題だけで大議論になっていました。ところが、CGコードの2021年改訂案では、独立社外取締役の員数について、プライム市場(東京証券取引所の新区分)の上場会社においては3分の1以上、プライム市場の上場子会社ではなんと原則として過半数という厳しい数字が求められています。この分では、プライム市場に上場するすべての会社に過半数の独立社外取締役が求められる日もそう遠くないのではないでしょうか。
 社外取締役を置いているという形を整えるだけで許される時代ではもはやありません。社外取締役が社長に忖度して意見を述べないようなことがあれば、自らの善管注意義務違反を問われることになりかねません。指名・報酬委員会の運用もかなり成熟してきましたが、CGコード改訂案ではついに必須となりました。
 同改訂案では、上記のほかにも、取締役会メンバーのダイバーシティや、新卒採用に偏った雇用慣行の見直しにまで踏み込んだ要求が記載されています。

 このような流れの中でガバナンス改革に積極的に取り組む会社がある一方で、安定株主で株主構成の大半を固めた会社など、資本市場との緊張関係がない会社もまだ多く見られます。そのような会社では、経営者が「株主目線での経営なんて嫌だ」、「従業員・取引先・地域というステークホルダー総体のための経営をしているんだ」という考えをお持ちのことが多いようです。
 株主を軽視した経営をしていると、割安な株価に注目したアクティビストに付け入られて株付けされるかもしれません。上場している限りは何らかの形で株主からプレッシャーを受け続けるのですから、必然的に流動性は高まっていくものだと考えるべきです。
 経営者がそのような圧力をかけられるのが嫌ならば、MBOを実施して株式非公開化するのが本来のあり方だといえます。もっとも、敵対的買収に対抗してEBO(従業員による買収)を実施したユニゾはその後、経営不安が報道されています。株式非公開化がどのような結果をもたらすかは慎重に検討すべきでしょう。
 2022年に予定されている東京証券取引所の市場区分変更にあたり、プライム市場に残りたいと考えるなら、CGコードを「形だけ」コンプライするのではなく、社外取締役とも真剣な議論を行ってより良いガバナンスを構築し、維持し続けるよう努めることが不可欠だと考えます。


  1. ガバナンスの分野では、株主(プリンシパル)から委託を受けた経営者(エージェント)が、株主の利益に合致しない行動をとることをいいます。 ↩︎

この特集を見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する