会社法は監査役の役割と職務をどう定めているか

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 監査役はどのような役割を担うのでしょうか。

 監査役は、株主の負託を受けた独立の機関として、取締役による職務執行を監査する役割を担います。監査役の職務としては業務監査と会計監査があります。監査役は、与えられた権限を適切に行使するとともに義務を履行し、職務を遂行しなくてはなりません。

解説

目次

  1. 監査役の役割
    1. 業務監査と会計監査
    2. 会計限定監査役
  2. 監査役の基本的な職務
    1. 各監査役が実施しなければならない義務(権限)
    2. 該当した際には必ず実施しなければならない義務(権限)
    3. 必要に応じて実施することができる権限(必要があると認められる場合は、実施すべき義務となる)
  3. 会計監査人設置会社の監査役の職務
    1. 各監査役が行うこと
    2. 複数監査役の場合に過半数の同意で進めること
    3. 監査役全員の同意が必要なこと
  4. 監査役会の権限
    1. 監査役会の決議(在任監査役の過半数による)を要するもの
    2. その他の権限
  5. 監査役の職務の指針

監査役の役割

 監査役は、取締役等の職務の執行を監査する機関です(会社法381条1項)。なお、「監査」とは、職務執行が適正に行われているかを調査し、必要な場合にはこれを是正することをいいます。

 監査役は、株主の負託を受けた独立の機関として取締役の職務の執行を監査することにより、企業および企業グループが様々な利害関係者の利害に配慮するとともに、これら利害関係者との共同に努め、健全で持続的な成長と中長期的な企業価値の創出を実現し、社会的信頼に応える良質な企業統治体制を確立する責務を負っています(監査役監査基準 1 2条1項)。

 監査役は独任制の機関といわれており、監査役が複数人いても、各自が単独でその職務権限を行使することができます。違法・適法に関する判断は、監査役の多数決で決着をつけるべき問題ではなく、また、監査役の多数派が経営陣と馴れ合い、その監視機能が十分に果たせなくなることを防ぐためです。

 取締役会設置会社の場合、原則として、監査役の設置が義務付けられています(会社法327条2項)。これは、業務執行の決定を取締役会が行い、他方、株主総会の権限が制約されているため、株主に代わる取締役の監視役が必要となるからです。

 機関設計については以下の関連記事をご参照ください。

業務監査と会計監査

 監査役の職務は、業務監査と会計監査の2つに分けられます。

  • 業務監査
    取締役(・会計参与)の職務執行の監査(会社法381条1項前段)
  • 会計監査
    計算関係書類および事業報告・その附属明細書の監査(会社法436条1項、441条2項)

 業務監査については以下の関連記事をご参照ください。

会計限定監査役

 「会計限定監査役」とは、監査の範囲が会計監査に限定された監査役のことをいいます。非公開会社においては、監査役会や会計監査人を設置しない限り、定款の定めにより会計限定監査役を設置することができます(会社法389条1項)。
 会計限定監査役を設置している会社は、会社法上、監査役設置会社に該当しません。「監査役設置会社」の定義を定める会社法2条9号は、「監査役設置会社」から、監査役の監査の範囲が会計監査に限定されている会社を除外しているからです。

 会社法施行時に有限会社だった会社は「特例有限会社」と呼ばれ、原則として、株式会社と同じ会社法の規律に服します。監査役を設置していた特例有限会社については、監査の範囲を会計監査に限定する定款の定めがあるものとみなされます(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律24条)。

監査役の基本的な職務

 監査役は、主に以下の権限を適切に行使するとともに義務を履行して、職務(業務監査・会計監査)を遂行することになります 2

各監査役が実施しなければならない義務(権限)

① 取締役会出席・意見陳述 会社法383条1項
② 計算書類・事業報告・附属明細書の監査 会社法436条1項
③ 監査報告作成 会社法381条1項、同法施行規則105条、129条、会社計算規則122条
④ 株主総会提出議案・書類の調査 会社法384条

該当した際には必ず実施しなければならない義務(権限)

(1)各監査役が行うこと

① 会社に著しい損害を及ぼす事実に関する取締役による報告の聴取
(監査役会設置会社では監査役会が行う)
会社法357条1項
会社法357条2項
② 取締役の不正行為等の取締役会報告 会社法382条
③ 株主総会における質問への説明
上記2-1④の調査結果に指摘事項ある場合の報告
会社法314条
会社法384条
④ 取締役・会社間の訴訟等で会社を代表 会社法386条

(2)複数監査役の場合に過半数の同意で進めること

監査役選任議案の同意
(監査役会設置会社では監査役会が行う)
会社法343条1項
会社法343条3項

(3)監査役全員の同意が必要なこと

① 監査役報酬の協議 会社法387条2項
② 取締役会書面決議(定款規定必要)の同意 会社法370条
③ 取締役の責任一部免除の同意 会社法425条3項1号、426条2項、427条3項
④ 株主代表訴訟にて会社が被告取締役に補助参加することの同意 会社法849条3項1号

必要に応じて実施することができる権限(必要があると認められる場合は、実施すべき義務となる)

① 会社業務財産調査 会社法381条2項
② 子会社調査 会社法381条3項
③ 取締役の行為差止請求 会社法385条1項
④ 取締役会招集請求 会社法383条2項、3項
⑤ 監査費用請求 会社法388条
⑥ 監査役の選任・解任・辞任・報酬に関する株主総会意見陳述 会社法345条4項・1項、2項、387条3項

会計監査人設置会社の監査役の職務

 会計監査人は、計算書類等を監査し、会計監査報告を作成する機関です(会社法396条1項)。なお、会計監査人は公認会計士または監査法人でなければなりません(会社法337条1項)。
 会計監査人は、その職務を遂行するために、会計帳簿やこれに関する資料をいつでも閲覧・謄写することができ、また、取締役らに対し、会計に関する報告を求めることができます(会社法396条2項)。

各監査役が行うこと

① 会計監査人が欠けた場合の一時会計監査人の選任 会社法346条4項
② 会計監査人からの報告受領 会社法397条

複数監査役の場合に過半数の同意で進めること

① 会計監査人の選任・解任・不再任の同意 会社法344条
② 会計監査人の報酬等の決定の同意 会社法399条1項

監査役全員の同意が必要なこと

職務怠慢、非行、心身故障による会計監査人の解任 会社法340条1項・2項

監査役会の権限

 監査役会とは、3人以上の監査役(そのうち半数以上は社外監査役)で構成され(会社法335条3項)、監査報告の作成や常勤監査役の選定・解職、監査の方針等の決定を行う機関です(会社法390条2項)。

監査役会の決議(在任監査役の過半数による)を要するもの

① 常勤監査役の選定および解職 会社法390条2項2号
② 監査の方針、会社の業務・財産の状況の調査、その他監査役の職務執行に関する事項の決定(ただし、各監査役の監査権限を妨げない) 会社法390条2項3号
③ 監査役会監査報告の作成 会社法390条2項1号
④ 監査役の選任に関する同意 会社法343条3項
⑤ (会計監査人が設置されている場合)
会計監査人に関する以下の事項の決定
  • 会計監査人の選任・解任・不再任に関する同意・請求
  • 会計監査人の報酬等の決定に関する同意
  • 一時会計監査人の選任
  • 職務怠慢、非行、心身故障による会計監査人の解任
    *解任は、監査役全員の同意が必要


  • 会社法344条3項
  • 会社法399条2項
  • 会社法346条6項
  • 会社法340条4項

その他の権限

① 各監査役に対する職務執行の状況についての報告の請求 会社法390条4項
② 会社に著しい損害を及ぼす事実に関する取締役による報告の聴取 会社法357条2項
③ 重大な事実に関する会計監査人による報告の聴取 会社法397条3項

監査役の職務の指針

 公益社団法人日本監査役協会が、監査役の職務に関して様々な情報を提供しているので、以下において、いくつか紹介します。監査役の職務を全うするに当たり、これらを参照することになるでしょう。


  1. 監査役監査基準」(令和3年12月16日最終改正) ↩︎

  2. 公益社団法人日本監査役協会ほか「中小規模会社の『監査役監査基準』の手引書」 ↩︎

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