監査役の業務監査のポイント
コーポレート・M&A友人から、自分が経営している会社の監査役になってもらいたいと依頼されました。監査役に就任した後、監査役としてどのように活動することになるのでしょうか。
監査役は、就任時に作成した監査計画に従い、会社法上の権限を行使して監査を実施することになります。
参照:「監査役への就任と就任後の行動」
解説
目次
監査の実施と報告
各監査役が実施しなければならない義務・権限を踏まえると、実施すべき監査事項は以下のように整理されます。
- 取締役会に係る監査
- 取締役の職務執行の監査(業務監査)
→取締役の職務執行を監査するにあたって、その中心となる事項として、内部統制システムに係る監査(全ての会社において取締役の職務執行の監査そのものであり、大会社に限られません)が含まれます。 - 会計監査(会計監査人非設置会社の監査役にとっては大会社の監査役以上に相対的に重要性が高まる職務です)
- 期末監査
- 監査報告の作成
- 株主総会前後の手続の監査
この点、これらの監査の方法等について、公益社団法人日本監査役協会が以下のものを公表しています。
- 「監査役監査実施要領」(平成28年5月20日)
- 「監査役監査基準」および「内部統制システムに係る監査の実施基準」(平成27年7月23日)
- 「中小規模会社の『監査役監査基準』の手引書」の「参考資料1 監査基準を実践するための中小規模会社監査役の監査実務の例示」(平成25年9月26日)
- 「会計監査人非設置会社の監査役の会計監査マニュアル」(平成25年1月11日)
これらを踏まえて、監査役の業務監査について説明します。
取締役会に係る監査
まず、監査役が取締役会に出席し、必要な場合に意見陳述を行うことは会社法上の監査役の義務(会社法383条1項)であり、最重要の権限です。
全般的な事項
取締役会に係る監査のポイントは、以下のとおりです。
- 取締役会が少なくとも3か月に1回以上開催されているか(会社法363条2項)
- 付議・報告が漏れなくなされているか
前年度までの各回の取締役会付議事項を確認して、今年度についても時期に応じた事項が上程されているか確認するとともに、日常から社内情報を把握し、社内における重要事項の検討の進捗状況の情報を得て、適切な時期に取締役会に上程されるか確認していくことが重要 - 取締役会が取締役の職務執行の監督(会社法362条2項2号)を行っているか
- 取締役会および取締役の意思決定に関して、取締役は善管注意義務・忠実義務を尽くし、経営判断原則に則ったプロセスにより、合理的な判断を行っているか
取締役会の開催前・開催時・終了後の各段階の監査
(1)取締役会開催前
取締役会を開催する前の監査のポイントは、以下のとおりです。
- 取締役会規程の確認・決議事項・報告事項の基準が明確か
- 招集手続(招集者、日程、場所、宛先、目的事項)の適正性確認
参考:「取締役会の招集・決議・報告を簡略化する方法」
参考:「議題を定めずに取締役会招集通知を送ることができるか」 - 付議事項の確認
( ⅰ ) 議案・資料を事前に入手し、決議事項・報告事項の漏れの有無、資料・審議内容の適正性を確認する
( ⅱ ) 必要な場合に担当部門等から事前に説明を聴取し、調査を行う
( ⅲ ) 監査役は、調査の結果、問題がある場合は、可能な限り取締役会の決議の前に、取締役等に対し、助言・勧告を行い、または差止めの請求を行う(会社法382条、385条1項) - 取締役による業務執行状況に関する報告事項の確認
代表取締役および業務執行取締役による職務の執行の状況に関する報告が3か月に1回以上行われているか(会社法363条2項、372条2項)、その報告が予定されているか確認する(開催されていない場合は、社長の年間計画に盛り込み、開催を要請する)
(2)取締役会開催時
取締役会における監査のポイントは、以下のとおりです。
- 取締役会定足数の充足(過半数出席)(会社法369条1項)の確認
- 議事運営の方法の適法性
定款および取締役会規程に従った議長による議事運営であるか
議案に特別の利害関係を有する取締役は決議に参加できない(会社法369条2項)等が遵守されているか
参考:「特別利害関係と取締役会決議」
参考:「どのような場合に特別利害関係が認められるのか」
参考:「取締役の利益相反取引について取締役会の承認が必要となるのはどのような場合か」 - 決議事項、報告事項の内容の適正性
経営判断原則を満たす内容と過程により審議され、決議されているか
参考:「経営判断の原則とは」 - 必要な場合、監査役は意見を述べなければならない(会社法383条1項本文)
(3)取締役会終了後
取締役会を開催した後の監査のポイントは、以下のとおりです。
- 取締役会議事録の確認
経営判断原則を満たしている証拠となる記録や資料添付がなされているか
賛否の記録は適切か
監査役の発言要旨が記載されているか(会社法施行規則101条3項6号ホ)
出席取締役・監査役の署名または記名押印(会社法369条3項、4項)が適切に行われているか
議事録は10年間本店に備置されているか(会社法371条1項) - 決議事項・報告事項の実施状況確認
決議事項、報告事項の実施が適法・適切になされているか
実施状況について必要な場合に取締役会に報告されているか
取締役会以外の重要な会議への出席、取締役の職務執行監査
監査役は、業務・財産調査権(会社法381条2項、3項、389条5項)に基づき、取締役会以外の重要な会議にも出席することができます (監査役監査基準42条)。
経営会議などの重要事項の意思決定に係る会議や、リスク管理委員会・コンプライアンス委員会・内部統制委員会などの内部統制に係る会議、その他の重要な会議への出席は、監査役にとっての責務であり、意思疎通や情報収集のためにも重要です。
取締役の職務執行の監査
日常の業務監査
監査役は、会社に想定されるリスク、監査環境、監査役自身の勤務実態等を総合的に勘案し、監査役としての善管注意義務を果たせるだけの活動を自らの責任で選択して実施する必要があります。
具体的な活動としては、以下のようなものが挙げられます。
- 取締役・使用人等から報告・説明を受ける(監査役監査基準45条)
取締役会を通じて報告・説明を受けるほか、内部通報制度がある場合は、その運営状況や通報内容について説明を受ける
取締役は、会社に著しい損害を及ぼすおそれがある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を監査役に報告しなければならない(会社法357条1項) - 必要に応じ、主要な会議の議事録、稟議書、決裁書、契約書を閲覧する(監査役監査基準43条)
- 必要に応じ、本社部門、支社・支店・営業所、工場を訪問し、視察、現況聴取を行う(監査役監査実施要領226頁以下)
- 子会社がある場合の子会社の調査(会社法381条3項、389条5項)
内部統制システムの監査
大会社、監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社には、内部統制システムの整備決定義務が課せられています(会社法348条4項・3項4号(大会社・取締役会非設置会社)、362条5項・4項6号(大会社・取締役会設置会社)、399条の13第2項・1項1号ロ・ハ(監査等委員会設置会社)、416条2項・1項1号ロ・ホ(指名委員会等設置会社))。
この点、中小会社においては必ずしも内部統制システムが不要だということを表すものではなく、会社規模や業務内容等を踏まえ、内部統制システムの整備が必要となることもあると考えられています。
内部統制システムに関する監査は、取締役、内部統制部門、内部監査部門等(明示的に存在していない場合は、総務・管理部門の担当者や取締役等)からの報告聴取、連係等その他日常的な監査活動を通じて行うことになりますが(内部統制システムに係る監査の実施基準4条参照)、これは、取締役の職務執行に係る日常監査と一体として行うものです。
取締役の善管注意義務違反・忠実義務に違反するおそれが高い重要事項についての監査(監査役監査実施要領230頁以下)
取締役の職務執行において善管注意義務・忠実義務に違反するおそれが高いため特に注意を要する事項として、以下の事項が挙げられます。これらは、内部統制システムに係る監査の「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」(会社法362条4項6号等)、「使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」(会社法施行規則100条1項4号)に係る監査事項にも含まれます。
- 競業取引、利益相反取引(会社法356条1項)
- 関連当事者との一般的でない取引(会社計算規則112条)
- 株主等の権利の行使に関する利益供与、贈収賄(会社法120条1項、968条、970条)
- 自己株式の取得・処分(会社法155条以下)
- 取締役等の特別背任、贈収賄その他、「会社法第8編罰則」に規定の各事項

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