中小企業の監査役 - 会計限定監査役とは

コーポレート・M&A

 夫から、会社を設立するに当たり、妻である私が会社の監査役になるよう言われました。どのような仕事をすることになるのでしょうか。

 監査役の役割には、大きく分けて、業務監査と会計監査がありますが、非公開会社においては、定款の定めにより、監査役の監査の範囲を会計監査に限定することが可能です(会社法389条1項)。
 同族会社において親族を監査役にするような場合には、監査役の責任が重くならないよう、監査の範囲を会計監査に限定するのが一般的と言えます。

 参照:「監査役設置会社と監査役の職務

解説

目次

  1. 中小企業の機関設計
    1. 中小企業の機関設計
    2. 中小企業における監査役
    3. 会計限定監査役に関する登記
  2. 会計限定監査役の職務
    1. 計算書類等の監査と監査報告の作成
    2. 株主総会提出議案・書類の調査
    3. 会計帳簿等の閲覧・謄写権
    4. 取締役・使用人等に対する報告請求権
    5. 会社業務財産調査権
    6. 子会社に対する報告請求権・調査権
  3. 監査役と会計限定監査役の違い
  4. 株主による監督 [^1]

中小企業の機関設計

中小企業の機関設計

 平成18年に会社法が施行され、原則として監査役を設置するのは任意になりました(会社法326条2項)。もっとも、取締役会設置会社は原則として監査役を設置しなければならない(会社法327条2項)など、機関設計の自由度にも一定の制約があります(参考:「株式会社における機関をどのように設計するか」)。

 この点、中小企業やベンチャー企業においては、取締役会や監査役を設置しない会社(取締役のみを設置する会社)も一般的ですが、同族会社には、オーナー社長が取締役、妻が監査役という機関設計のパターンもよくあります。

 なお、公益社団法人日本監査役協会ほかが、「中小規模会社の『監査役監査基準』の手引書」(平成25年9月26日)を公表しています。「取締役会+監査役」という機関設計を念頭に置いて作成されたものですが、どのような機関設計であっても参考になる資料だと思います。

中小企業における監査役

 中小企業の場合、株式を譲渡するのに会社の承認を必要とする非公開会社であるのが一般的です。
 このような非公開会社においては、定款の定めにより監査役の監査の範囲を会計監査に限定することができます(会社法389条1項)。
 このように会計監査に限定された監査役を「会計限定監査役」、あるいは、「小監査役」と呼んだりします。

会計限定監査役に関する登記

 会計限定監査役を設置している会社は、会社法上、監査役設置会社に該当しません。「監査役設置会社」の定義を定める会社法2条9号は、「監査役設置会社」から、監査役の監査の範囲が会計監査に限定されている会社を除外しているからです。

 この点、会計限定監査役を置く会社であっても、監査役設置会社として登記する必要があります(会社法911条3項17号)。その上で、監査役の監査の範囲が会計監査に限定されている旨を登記することになります(会社法911条3項17号イ)。これは、平成26年に成立した会社法改正により登記事項として追加されたものです。

 なお、会社法施行時に有限会社だった会社は「特例有限会社」と呼ばれ、原則として、株式会社と同じ会社法の規律に服します。監査役を設置していた特例有限会社については、監査の範囲を会計監査に限定する定款の定めがあるものとみなされています(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律24条)。

会計限定監査役の職務

計算書類等の監査と監査報告の作成

 会計限定監査役を含む監査役設置会社においては、計算書類および事業報告ならびにこれらの附属明細書について、監査役の監査を受ける必要があります(会社法436条1項)。

 この点、会計限定監査役が監査報告を作成するに当たっては、その職務を適切に遂行するため、取締役らとの意思疎通を図り、情報の収集および監査の環境の整備に努めなければなりません(会社法389条2項・会社法施行規則107条1項、2項)。

 計算書類等に関する監査報告の内容は、以下のとおりです(会社法436条1項・会社法施行規則116条3号・会社計算規則121条・122条)。

  • 監査役の監査の方法およびその内容
  • 計算関係書類が会社の財産および損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見
  • 監査のため必要な調査ができなかったときは、その旨およびその理由
  • 追記情報(会計方針の変更、重要な偶発事象、重要な後発事象その他事項)
  • 監査報告を作成した日

 また、会計限定監査役は、事業報告を監査する権限がないことを明らかにした監査報告を作成しなければなりません(会社法施行規則129条2項)。この監査報告については、公益社団法人日本監査役協会より、「監査報告のひな型について」(監査法規委員会)が公開されています。

株主総会提出議案・書類の調査

 会計限定監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする会計に関する議案、書類等を調査し、その結果を株主総会に報告しなければなりません(会社法389条3項・会社法施行規則108条)。

 この点、会計監査に限定されない監査役は、法令・定款違反、著しく不当な事項があると認められるときに、その調査の結果を株主総会に報告することになりますが(会社法384条後段)、会計限定監査役は、このような事項の有無にかかわらず、その調査の結果を株主総会に報告する必要があります。

会計帳簿等の閲覧・謄写権

 会計限定監査役は、いつでも、会計帳簿・これに関する資料を閲覧・謄写することができます(会社法389条4項)。

取締役・使用人等に対する報告請求権

 会計限定監査役は、いつでも、取締役・会計参与・支配人その他の使用人に対して会計に関する報告を求めることができます(会社法389条4項)。

会社業務財産調査権

 会計限定監査役は、その職務を行うため必要があるときは、会社の業務および財産の状況の調査をすることができます(会社法389条5項)。 会計監査に限定されない監査役は、「いつでも、」会社の業務・財産の状況を調査できるのに対し(会社法381条2項)、会計限定監査役は、「職務を行うため必要があるとき」にのみ、これらを調査できます。

子会社に対する報告請求権・調査権

 会計限定監査役は、その職務を行うため必要があるときは、子会社に対して会計に関する報告を求め、また、子会社の業務および財産の状況の調査をすることができます(会社法389条5項)。
 通常の監査役は、子会社に対して会計に関するものに限られずに報告を求めることができるのに対し(会社法381条3項)、会計限定監査役は、「会計に関する報告」のみを求めることができます。

監査役と会計限定監査役の違い

監査役と会計限定監査役の違い

※法=会社法
(参考:葉玉匡美ほか『会社法マスター115講座〔第2版〕』149頁(ロータス21、平成20年))

株主による監督 1

 定款により監査役の権限を会計監査に限定した場合、その反面として、株主による経営監督機能が強化されます。
 会計限定監査役を設置している会社は、以下の点において、監査役設置会社(業務監査権限を有する監査役を設置している会社)と異なっています。

  • 取締役は、株式会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を株主に報告しなければならない(会社法357条1項)
  • 株主は、取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令・定款に違反する行為をし、またはこれらの行為をするおそれがある場合において、その行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、その取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる(会社法360条1項、2項)
  • 取締役会設置会社の株主は、取締役が取締役会設置会社の目的の範囲外の行為その他法令・定款に違反する行為をし、またはこれらの行為をするおそれがあると認めるときは、取締役会の招集を請求することができる(会社法367条)
  • 株主は、裁判所の許可を得ることなく、営業時間内はいつでも取締役会議事録等の閲覧・謄写を請求することができる(会社法371条2項、3項)
  • 取締役会決議に基づく役員等の責任の一部免除を定款に定めることができない(会社法426条1項)

  1. 落合誠一『会社法コンメンタール8 –機関(2)-』446、447頁〔吉本健一〕(商事法務、平成21年) ↩︎

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