監査役になるための資格と兼任が禁止される場合とは
コーポレート・M&A 更新私は、現在経理部で働いていますが、今度、子会社の監査役になることを命じられました。私は、過去に破産をしているのですが、監査役になることはできますか。また、親会社の従業員が子会社の監査役になることに問題はありませんでしょうか。
監査役になるには、会社法で定められた欠格事由に該当しないことが必要です。過去に破産手続開始決定を受けたことは欠格事由となっていないため、過去に破産したことがあっても監査役になることはできます。
また、監査役は、取締役・使用人または子会社の取締役・会計参与・執行役・使用人を兼任することができませんし、就任する会社およびその親会社の会計参与とも兼任することができません。しかし、親会社の使用人が子会社の監査役に就任することは、このような兼任禁止規定には抵触しません。なお、非公開会社については、定款に定めることで、監査役の資格を株主に限定することができますので、子会社の定款において、そのような限定がされていないか確認が必要です。
解説
会社法で定められている監査役の欠格事由
会社法では、以下の者は、監査役になることができないとされています(会社法335条1項・331条1項)。
- 法人
- 成年被後見人もしくは被保佐人または外国の法令上これらと同様に取り扱われている者
- 会社法もしくは「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」の規定に違反し、または金融商品取引法の一部の罰則や民事再生法、外国倒産処理手続の承認援助に関する法律、会社更生法、破産法の一部の罰則に関する罪を犯し、刑に処せられ、その執行を終わり、またはその執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者
- 上記③に規定する法律の規定以外の法令の規定に違反し、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでまたはその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く)
これらの欠格事由に該当する者を監査役に選任することはできず、仮に株主総会でこれらの欠格事由に該当する者を監査役に選任しても、決議内容が法令に違反するため、この株主総会決議は無効となります(会社法830条2項)。また、任期中の監査役が上記の欠格事由に該当することになった場合、その監査役は当然に監査役を退任することになります。
なお、2021年3月1日施行の改正法が施行されるまでは、「成年被後見人もしくは被保佐人または外国の法令上これらと同様に取り扱われている者」も監査役になることができないとされていましたが、同改正法により、当該規定は削除され、代わりに、成年被後見人・被保佐人が監査役に就任するには、以下の者による就任の承諾および同意が必要という規律に改められました(会社法335条・331条の2第1項ないし第3項)。
監査役に就任する者 | 就任の承諾をする者 | 同意を要する者 |
---|---|---|
成年被後見人 | 成年後見人 | 成年被後見人(後見監督人がある場合にあっては、成年被後見人および後見監督人の同意) |
被保佐人 | 被保佐人 | 保佐人 |
保佐人に対して民法876条の4第1項の代理権付与の審判がなされている場合の被保佐人 | 保佐人 | 被保佐人 |
そして、上記の規律に違反してなされた、成年被後見人・被保佐人の就任承諾は無効になると考えられています(竹林俊憲『一問一答 令和元年改正会社法』254頁(商事法務、2020))。
また、監査役が任期中に後見開始の審判を受けた場合は、委任契約の終了事由に該当しますので、当然に監査役を退任することになりますが(会社法330条・民法653条3号)、保佐開始の審判を受けたことは委任契約の終了事由に該当しませんので(民法653条参照)、保佐開始の審判を受けたとしても、監査役の終任事由にはなりません。
質問の、破産手続開始決定を受けたことは欠格事由となっていないため、過去に破産したことがある人でも監査役になることはできます。もっとも、会社と監査役との関係には民法の委任に関する規定が適用されるところ(会社法330条)、任期中の監査役が破産手続開始決定を受けた場合には委任契約の終了事由に該当しますので(民法653条2号)、監査役が任期中に破産手続開始決定を受けた場合、その監査役は当然に監査役を退任することになります。
監査役の兼任禁止
監査役との兼任が禁止される者
監査をする者と監査をされる者が同一であっては、監査の実効性に疑念が生じるため、監査役は、会社の取締役・使用人または子会社の取締役・執行役・使用人・会計参与と兼任することができません(会社法335条2項)。
また、会計参与は、会社またはその子会社の監査役との兼任が禁止されます(会社法333条3項1号)。監査役とその会社の会計参与を兼任できないのは、監査役は会計参与が作成した計算書類を監査する立場にあるためであり、監査役が親会社の会計参与と兼任することができないのは、親会社の会計参与の独立性を確保するためと説明されています。
さらに、会計監査人は、自己が監査役を務める会社の会計監査人にはなることができず(会社法337条3項1号、公認会計士法24条1項1号)、自己が監査役を務める会社の子会社または親会社の会計監査人になることもできません(前者につき3項1号、後者につき会社法337条3項2号)。
これをある会社またはその親会社もしくは子会社の取締役等が当該ある会社(以下の図では「当該会社」)の監査役と兼任できるかという点からまとめると、以下の図のようになります。
取締役 | 会計参与 | 執行役 | 監査役 | 使用人 | 会計監査人 | |
---|---|---|---|---|---|---|
親会社 | ◯ | 兼任禁止 (333条3項1号) |
◯ | ◯ | ◯ | 会計監査人 の欠格事由 (337条3項2号) |
当該会社 | 兼任禁止 (335条2項) |
兼任禁止 (333条3項1号) |
− | − | 兼任禁止 (335条2項) |
会計監査人 の欠格事由 (337条3項1号) |
子会社 | 兼任禁止 (335条2項) |
兼任禁止 (335条2項) |
兼任禁止 (335条2項) |
◯ | 兼任禁止 (335条2項) |
会計監査人 の欠格事由 (337条3項1号) |
兼任禁止に違反した場合の効果
会社法の兼任禁止の規定は、欠格事由のように当然に監査役としての地位を失わせるものではなく、監査役に対して他の役職に就任することを受諾することや、他の役職にある者に対して監査役への就任を受諾することを禁止するものです。したがって、兼任禁止の規定に違反して、監査役に選任されたとしても、その選任自体は有効であり、兼任禁止規定に違反している監査役による監査は有効であって、その監査役が従前の地位を辞任しないことが監査役の善管注意義務の問題になるにすぎないと考えられています(最高裁平成元年9月19日判決・判タ732号194頁)。
ただし、親会社が親会社の監査役を子会社の取締役に選任した場合、親会社は、子会社の取締役選任決議の際に、子会社の取締役への就任を知りうる立場にあり、また、親会社の監査役が子会社の取締役への就任を承諾したことは、親会社の監査役の辞任の意思表示を含むとみなすべきであるとの考えから、子会社の取締役就任後に、その者が親会社の監査をした場合は、その監査が無効となると考えられています。
定款による資格限定
公開会社においては、監査役は株主でなければならない旨を定款で定めることはできませんが、非公開会社については、定款自治が広く認められており、定款で定めることで、監査役の資格を株主に限定することができます(会社法335条1項、331条2項)。
そして、定款で監査役の資格を株主に限定する定めがあるにもかかわらず、株主以外の者を監査役に選任した場合、その決議の内容は定款に違反することになりますので、このような決議は株主総会決議取消しの訴えの対象となります(会社法831条1項2号)。
まとめ
以上のとおり、破産手続開始決定を受けたことは会社法で定められている監査役の欠格事由となっていないため、過去に破産したことがある人でも監査役になることはできます。また、親会社の使用人が監査役になることは、兼任禁止の規定には抵触しませんので、親会社の使用人が子会社の監査役になることは可能です。ただし、その子会社が非公開会社である場合、定款で監査役の資格を株主に限定している場合もありますので、定款にそのような定めがないかを確認する必要があります。
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