コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートの具体的な設計(8)- 契約上の権利―情報請求権・優先引受権など

ベンチャー
飯島 隆博 弁護士 森・濱田松本法律事務所

 コンバーティブル・エクイティ(新株予約権)とコンバーティブル・ノート(新株予約権付社債)における、契約上の権利について教えてください。

 契約自由の原則により、スタートアップと投資家の交渉の結果、契約内容は原則として自由に定めることができます。
 他方で、特にシード期のコンバーティブル・エクイティ(およびコンバーティブル・ノート)においては、スタートアップの迅速な資金調達を実現するというコンセプトから、投資家による情報請求権や優先引受権など、権利を必要最小限度に限定して定め、交渉コストを最小限にするケースも少なくありません。投資家側には、そのコンセプトを理解したうえでの対応が求められます。また、スタートアップ側も、投資家に権利を与えることによって生じる帰結を慎重に検討する必要があります。
 なお、株式に転換された際には、そのタイミングで投資契約や株主間契約の当事者になり、必要な権利を取得することが想定されています。

解説

目次

  1. 前提:新株予約権の保有者の権利
  2. 契約上の一定の権利
    1. 情報請求権
    2. 優先引受権
    3. それ以外の権利の可能性
  3. まとめ

 本解説シリーズの各論点の目次は「「コンバーティブル・エクイティ」をはじめとしたいわゆる「コンバーティブル投資手段」の概要および実務Q&A」をご参照ください。

前提:新株予約権の保有者の権利

 新株予約権とは、株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利を指します(会社法2条21号)。株式が、(一部は種類株式の内容次第ではありますが)株主総会における議決権や帳簿閲覧権などのモニタリングの権利や、配当や会社財産の分配を受ける権利を有しているのに対して、新株予約権は、株式に転換されない限りそのような権利を有しません。

 新株予約権付社債(コンバーティブル・ノート)の場合には、満期がくれば支払(償還)を受ける権利を有しますが、新株予約権そのもの(コンバーティブル・エクイティ)であれば、発行会社に強制的に支払を求める権利を有しません。むしろ、そのような前提に立ち、コンバーティブル・エクイティはスタートアップ・フレンドリーな投資手段として発展してきました(「コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートの違いと特徴」)。

契約上の一定の権利

 他方で、スタートアップに対するモニタリングができずに事業や財務の状況を把握できなかったり、あるいは他の投資家に新株予約権や株式が大量に交付され、(仮に株式に転換したとしても)持分が少なくなるリスクを負ったりするのであれば、そもそも(ex ante)コンバーティブル・エクイティを用いた出資を行う投資家が現れない可能性があります。

 そのため、特にシード期においては、たとえば以下のような「シード期の投資家に与えることが公平であろうと考えられる権利」を、契約上の権利として定めることが多く行われています。ただし、以下の権利も「スタートアップが投資家に必ず与えなければならない」あるいは「それ以上の権利を与えてはいけない」ものではなく、スタートアップと投資家の共通理解・交渉の下で、必要に応じて定められます。

情報請求権

 もっとも基本的な権利として投資家に与えることが考えられるのが、いわゆる情報請求権です。株式の場合では、会社法に基づき、株主は計算書類の閲覧請求権など、一定の情報を取得する権利を持ちます。また、株主総会決議事項について決議する場合には、その前提について会社に説明を求めることなどが可能です。これらの権利により、会社の状況をモニタリングすることができます。

 コンバーティブル・エクイティやコンバーティブル・ノートとは、いわば新株予約権から株式に転換することを念頭に置いたある種のつなぎ出資や融資といえます。あくまでも暫定的なものととらえて、会社法上、株主に与えられるものと完全に同様の権利を与えることまではしないものの、たとえば以下のような、投資家が利害関係や関心を持つ財務情報、事業情報にアクセスできるような情報請求権を定めるケースが多く見られます 1

  • 貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書などの計算書類(年次および四半期)の提供
  • 投資家が請求した場合に随時、(合理的な範囲での)会社の財務状態および事業運営に係る情報の提供

 この情報請求権の範囲は、個別事情により変動し得ます。たとえば、事業会社などで、投資先管理のために社内の稟議や説明用に必要なものとして定められている情報などがあり得ます。そのため、投資家側がスタートアップ側に必要な情報とその理由を説明して、契約に盛り込むといった対応をすることが考えられます。

 他方で、コンバーティブル・エクイティやコンバーティブル・ノートの場合には、小口の投資を集める場面も少なくありません。上記のような情報提供を、小口の投資家を含むすべての投資家に対して一律に行わなければならないとすると、スタートアップとしては管理コストが高くついてしまいます。そのため、情報請求権を持つ投資家は、一定の金額以上の出資をした投資家(「主要投資家」などの名称で定義されることがあります)に限る、といった対応をするケースも見られます 2

優先引受権

 情報請求権の他に投資家への付与が検討される権利としては、優先引受権があげられます。

 ある投資家がコンバーティブル・エクイティやコンバーティブル・ノートによる出資を行った後に適格資金調達が行われる場合には、当然ながら適格資金調達によって新株を発行した分だけ、(潜在的に新株予約権として持っていた)投資家の持分比率が減少します。コンバーティブル・エクイティやコンバーティブル・ノートが、適格資金調達をトリガーとして、一定のディスカウントにより転換することで早期投資のリスクに見合ったリターンを得るための設計である以上、多額の資金調達がなされた場合に、当初の想定以上に新株予約権の保有者の(転換後の)持分が低くなるということもあり得ます。

 また、適格資金調達前に、他のコンバーティブル・エクイティやコンバーティブル・ノートによる資金調達、あるいは適格資金調達の規模に至らない株式による資金調達が行われる可能性もあります。

 このような持分比率の減少(ダイリューション)が起きるリスクに対して何らかのプロテクションがなければ、投資家はあらかじめ(ex ante)出資を控えることも考えられます。

 そのため、適格資金調達や、その前の新株予約権・新株予約権付社債、(適格資金調達に至らない程度の)株式による資金調達などが行われる場合に、コンバーティブル・エクイティやコンバーティブル・ノートの保有者が、(追加出資をすることで)同一の条件で株式や新株予約権を引き受けることができる優先引受権を与えることがあります。

 ただし、優先引受権を小口の投資家を含むすべての投資家に与えると、スタートアップ側の管理コストが高まるため、情報請求権と同様に、一定の金額以上の投資家(「主要投資家」など)に限って権利を付与するケースがあります 3

 逆にコンバーティブル・エクイティやコンバーティブル・ノートの保有者が、無限定に優先引受権を行使できることとすると、次回ラウンドの投資家が出資の目的を果たすための一定の持分比率を確保できなかったり(一定の持分比率を確保するためには多額の出資が必要となったり)、持分比率の予測がつきにくくなったりします。そのため、優先引受権を付与する場合には、優先引受権に一定の上限を設定することで、バランスをとることも考えられます 4

それ以外の権利の可能性

 契約自由の原則により、契約の内容はスタートアップと投資家の交渉の結果、新株予約権や社債の内容として定めることが決まっている内容に反しない限り、原則として自由に定めることができます。これにより、コンバーティブル・エクイティやコンバーティブル・ノートの保有者に対して、優先株式による適格資金調達を行った場合と同程度か、それには至らないまでも比較的強い権利を与える契約を締結する例も見られます 5

 他方で、次回の本格的な資金調達の前段階としてスタートアップの迅速な資金調達を実現するというコンバーティブル・エクイティ(およびコンバーティブル・ノート)のコンセプトから、特にシード期においては、投資家による情報請求権や優先引受権などの権利を、必要最小限度に限定して定めることで交渉コストを抑えるという、実務上のベンチマークに収れんしてきた点は無視できません。投資家の側にも、そのようなコンセプトに基づく合理的な対応が求められます(少なくとも、株式に転換した際には、そのタイミングで投資契約や株主間契約の当事者となることで一定の権利を取得することが想定されていますので、今後必要なタイミングで権利が十分に得られないわけではありません)。他方で、スタートアップ側は、投資家に与える権利がどのような帰結を生むのかについて、慎重に検討したうえで、投資家の要求に対応する必要があります。

まとめ

 以上の通り、新株予約権の保有者は、株主のようなモニタリングの権利や経済的権利を持たないことから、投資家による情報請求権や優先引受権などの契約上の権利が定められることがあります。

 これらの他にも、契約自由の原則により、スタートアップと投資家の交渉の結果、契約内容は原則として自由に定めることができます。もっとも、投資家には、スタートアップが次の本格的な資金調達の前段階としての必要な資金の迅速な調達を実現するというコンバーティブル・エクイティ(およびコンバーティブル・ノート)のコンセプトを理解したうえで、交渉コストを抑制するための合理的な対応が求められます。また、スタートアップ側も、投資家に権利を与えることによって生じる帰結を慎重に検討する必要があります。
 なお、株式に転換された際には、そのタイミングで投資契約や株主間契約の当事者になり、必要な権利を取得することが想定されています。

ご意見等
本解説シリーズに係るテーマにおいては、様々なお立場の読者の皆様がおられるかと存じます。ご意見・ご感想や、「ここは異なるのではないか」といったご指摘を以下にてお待ちしております。

takahiro.iijima★mhm-global.com
弁護士 飯島 隆博
(上記★部分を@に置き換えてください。)

すべてのご意見・ご要望にご対応・ご返信できるかはわからず恐縮ではございますが、いただいたご意見等につきましては、反映できる部分は反映し、スタートアップ・エコシステムの関係者の方々にとってより良い解説となるよう、アップデートしていければと考えております。

なお、本解説シリーズに記載した事項は、当職個人の見解であり、当職が所属する組織その他のいかなる見解も示すものではありませんのでご留意ください。

  1. Coral Capitalの公表しているコンバーティブル・エクイティのひな型である「J-KISS」投資契約5.2条(1)号参照。 ↩︎

  2. J-KISS投資契約1.1条(5)号では、500万円以上の払込をした投資家を「主要投資家」として、情報請求権や後述の優先引受権を有するものとしています。他方で、投資契約ひな形において、黄色ハイライトおよびブラケットがついていることからも、この500万円という金額は固定ではなく、出資する投資家の属性や人数などの事情に応じて、交渉や調整の余地が想定されているところです。 ↩︎

  3. J-KISS投資契約5.2条(2)号参照。 ↩︎

  4. J-KISS投資契約のひな型では、「参加上限額」として、コンバーティブル・エクイティ(新株予約権)の払込金額の2倍に相当する金額を、優先引受権の上限のデフォルトとして定めています。1.1条(4)号、5.2条(2)号参照。 ↩︎

  5. 包括的に、いわゆる「最恵国待遇」条項を設け、「今後の一番有利な契約内容に自動的に調整される」などの定めをしている例も見られます。これは、一見するとシンプルな規定であり、迅速な資金調達というコンセプトは達成できるかもしれません。しかし、一度定めると、その後に締結された投資関連契約のうち、有利な権利を投資家に一律に与えるという強い効果を持ちます。また、何をもって「有利」な権利とするかについての判断は必ずしも明確ではなく、後のトラブルの種にもなり得ます。そのため、最恵国待遇条項を設ける場合には、スタートアップと投資家双方に慎重な対応が求められます。なお、J-KISS投資契約のひな型では、「最恵国待遇条項」が定められています。ただし、これは「自動的に契約内容や新株予約権の内容が変更される」という建付けではなく、事後に別のコンバーティブル・エクイティやコンバーティブル・ノートなどによる資金調達を行う場合に、事前に投資家に通知することを義務付けたうえで、投資家の選択で、契約の内容を変更して事後の資金調達における契約条項と同内容の条項を含めることや、新株予約権を新たな内容の新株予約権に交換することを、スタートアップに対して請求することができる、という建付けになっています。5.1条各項参照。 ↩︎

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