コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートの具体的な設計(6)- M&Aエグジットの時の処理

ベンチャー
飯島 隆博 弁護士 森・濱田松本法律事務所

 コンバーティブル・エクイティ(新株予約権)とコンバーティブル・ノート(新株予約権付社債)において、株式に転換する前にM&Aや会社の解散・清算が生じた場合の処理について教えてください。

 コンバーティブル・ノートやコンバーティブル・エクイティにおいて、適格資金調達の前にM&Aが生じる場合には、株式ではなく新株予約権のままM&Aを迎えることになるため、その場合の定めをしておく必要があります。
 会社法上、新株予約権の内容として、一定の組織再編が生じた場合の新株予約権の引継ぎについて定めておくことが可能です。
 他方で、特にコンバーティブル・エクイティにおいては、M&A発生時を(新株予約権者である)投資家のエグジットイベントでもあるととらえて、出資額の1倍や2倍といった一定の金額を支払って新株予約権を取得するという定めをすることが多いです。また、一定の投資家の承諾があった場合には、株式に転換できるという定めを置くこともあります。

解説

目次

  1. 前提:新株予約権とM&A
  2. M&Aと会社法上の新株予約権の引継ぎ
  3. M&A時の新株予約権のエグジット
    1. M&A時の金銭の交付
    2. M&A時の株式への転換
  4. まとめ

 本解説シリーズの各論点の目次は「「コンバーティブル・エクイティ」をはじめとしたいわゆる「コンバーティブル投資手段」の概要および実務Q&A」をご参照ください。

前提:新株予約権とM&A

 コンバーティブル・ノートやコンバーティブル・エクイティにおいて、適格資金調達が生じる前にM&Aが生じた場合には、新株予約権のままM&Aを迎えることになるため、その場合の定めをしておく必要があります。M&Aの場面としては、たとえば、買主である会社が、対象会社であるスタートアップの株式の全部を株式譲渡で譲り受けるような場合などがイメージしやすい場面といえます。他方で新株予約権は、「株式を取得する権利」であり、まだ株式ではないため、M&Aの場合の処理についてイメージしにくい面があります。

 M&Aのうち、一定の組織再編(合併、会社分割、株式交換や株式移転)における新株予約権の取扱いについては、会社法に一定の定めがあります。コンバーティブル・ノートも、コンバーティブル・エクイティも、新株予約権付社債または新株予約権として発行された場合には、同様に会社法の定めに従うことになります(文脈は異なりますが、M&Aの時にストック・オプションをどう取り扱うか、といった場面でも同じような問題が生じます)。

 他方で、新株予約権の発行要項や割当契約において、M&A(上記の、合併や会社分割といった法定の組織再編に加えて、株式譲渡や事業譲渡なども含めた広いM&A)が生じた際の取扱いについて別途定めておくこともあります。コンバーティブル・ノートやコンバーティブル・エクイティでは、その定めに従った処理が行われることが少なくありません。

M&Aと会社法上の新株予約権の引継ぎ

 「コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートの具体的な設計(1)- 概要」の通り、新株予約権の内容(発行要項に記載する事項)として、M&Aの手法のうち、合併、吸収分割、新設分割、株式交換、株式移転が行われる場合に、元のスタートアップの新株予約権保有者に対して、存続や承継する側の法人や新たに設立される法人が新たに発行する新株予約権を交付すること、およびその条件に関する事項を定めることが可能です(会社法236条1項8号)。

 他方で、スタートアップ側がこのような定めを置いていたからといって、ただちに新株予約権が引き継がれるわけではありません。合併や会社分割などの組織再編が行われる場合は、その契約や計画で新株予約権の取扱いを定めることによって初めて、引継ぎ(これまでの新株予約権に代わって、買収者や新会社の新株予約権の交付を受けること)が行われます。そのため、M&A時の契約や計画に新株予約権の引継ぎに関する定めがなされることや、具体的な新株予約権の内容について、M&Aの対象会社であるスタートアップや売主である株主などと、買収者との間で交渉がなされることになります。

 では、あらかじめ新株予約権の内容として、新株予約権の引継ぎに関する事項を定めることに意味がないのかというと、そのようなことはありません。M&Aの契約や計画において、新株予約権においてあらかじめ定められた条件と異なる取扱いがなされた(新株予約権が引き継がれなかったり、もともとの条件と異なる条件で引き継ぐ定めがなされた)場合には、新株予約権の買取請求権が発生するという形で、新株予約権の保有者の保護が図られます(会社法787条1項各号・808条1項各号)1。なお、あらかじめ新株予約権の内容として新株予約権の引継ぎに関する事項を定めていない場合であっても、一定の場合には新株予約権の買取請求権が発生しますが、新株予約権の買取請求権が発生しない場合もあります 2

新株予約権の内容とM&A時の契約・計画における定め

組織再編時の契約や計画において新株予約権の引継ぎについて定めた場合(合併は義務) 組織再編時の契約や計画において新株予約権の引継ぎについて定めなかった(あるいは、元の新株予約権で定めた内容と異なる定めの新株予約権を発行する)場合
あらかじめ、新株予約権の内容として組織再編時の引継ぎについて定めた場合 組織再編後の法人の新株予約権が交付される
  • 組織再編後の法人の新株予約権の交付を受けられない(あるいは、異なる定めの新株予約権の交付を受けることに納得する)
  • ただし、新株予約権の買取請求権が発生する
あらかじめ、新株予約権の内容として組織再編時の引継ぎについて定めなかった場合 組織再編後の法人の新株予約権が交付される
  • 組織再編後の法人の新株予約権の交付を受けられない(あるいは、異なる定めの新株予約権の交付を受けることに納得する)
  • 一定の場合、新株予約権の買取請求権も発生しない(脚注2参照)

M&A時の新株予約権のエグジット

 特にコンバーティブル・エクイティにおいては(あるいは、コンバーティブル・ノートにおいても)、新株予約権の引継ぎを行うという形ではなく、M&Aの場面を新株予約権者にとってもエグジットの場面ととらえ、金銭でのエグジットや株式への転換イベントとして設定することがあります。

M&A時の金銭の交付

 まず、M&Aエグジットの場合には、M&Aを行うことを決定した時点で、スタートアップが新株予約権を取得し、その対価として新株予約権の保有者に対して一定の金額を支払うよう定めておくことで、新株予約権者のエグジットを確保する場合があります。コンバーティブル・エクイティのM&Aの場面における設計では、むしろ、これがメインシナリオということもできます 3 4

金銭を対価とする本新株予約権の取得条項(支配権移転取引) 当会社が支配権移転取引を行うことを決定した場合、当該取引の実行日までの日であって当会社の株主総会(当会社が取締役会設置会社である場合には取締役会)が別に定める日において、その前日までに行使されなかった本新株予約権をすべて取得するのと引換えに、各本新株予約権につき本新株予約権の発行価額の[X]倍に相当する金銭を交付する。

 この新株予約権の保有者に対して支払う「一定の金額」は、スタートアップと投資家との間の交渉ポイントとなり得ます。たとえば、日本のCoral Capitalの公表しているコンバーティブル・エクイティのひな型である「J-KISS」ひな形上は出資金額の2倍 5、アメリカのY combinatorが作成した「SAFE」ひな形においては出資金額の1倍と定められていますが 6、これらの数値は、スタートアップの実態や諸条件も踏まえて交渉・設定する余地があります。

 このM&A(上記タームシートサンプルにおける「支配権移転取引」7)におけるエグジットを定めておくことは、上記2で説明した、会社法上の新株予約権の内容として新株予約権の引継ぎを定めることができる組織再編(合併、吸収分割、新設分割、株式交換、株式移転)の場面に限らず、株式譲渡(により過半数の支配権が移転する場合)や、資産や事業の全部または実質的な全部の譲渡、解散・清算の場面といった、幅広いM&Aのエグジットの場面をカバーできるというメリットがあります。スタートアップのM&Aにおいては、むしろ株式譲渡によるM&Aが多く、会社法が柔軟に対応できない部分を補う定めであるともいえます。

 なお、スタートアップ自身には新株予約権の買取を行う原資がないこともあります。このような場合でも、買収者としては、新株予約権が残っていては、買収を実質的に完了することができないため、買収者自身が代わりに新株予約権の買取りを行うことがあります。そのため、このようなエグジットの定めをしておくことは、買収者による買取りを促す効果があります。

M&A時の株式への転換

 他方、M&Aの場面において、出資額の1倍や2倍といった決められた金額の金銭でのエグジットではなく、株式に転換する(そのうえで、M&Aにより買収者に譲渡などを行う)ことによって、規模の大きなM&Aによるアップサイドをとろうというニーズもあり得ます。

 そのため、金銭のエグジットではなく、たとえば、M&Aの決定を行った場合に、「新株予約権を行使して株式に転換できる」という定めを置く場合があります。

 ただし、真のメインシナリオが適格資金調達による転換であることを前提に、その手前でM&Aが生じた場合には、金銭でのエグジットが主たるシナリオ(また、その前提で、M&Aの買収者とも交渉を進める)になろうかと思います。仮に金銭によるエグジットをする投資家と、バラバラと株式に転換する小口の投資家が分かれると、M&Aの買収価格やストラクチャーが決定できないなど、M&Aが円滑に進まないリスクが生じるなどの問題があります。そのため、コンバーティブル・エクイティの出資額の過半数など、一定の割合を保有する投資家が承認した場合に限って新株予約権を行使して株式に転換するという定めを置くことが多いと思われます 8

新株予約権の行使の条件

(a)本新株予約権は、適格資金調達が発生することを条件として行使することができる。但し……適格資金調達の実行日若しくは転換期限以前に支配権移転取引を当会社が承認した場合はこの限りではない。

(b)適格資金調達が転換期限までに発生しない場合における本新株予約権の行使は、本新株予約権の発行価額の総額の[過半数]の本新株予約権の保有者がこれを承認した場合に限り行うことができる

 M&Aの場合、優先株式を念頭に置いた適格資金調達は生じていない状態であるため、(それまでに何らの優先株式も発行されていなければ)普通株式に転換されるのが通常です(「コンバーティブル・エクイティとコンバーティブル・ノートの具体的な設計(3)- 転換する株式の種類」参照)。

まとめ

 以上の通り、コンバーティブル・ノートやコンバーティブル・エクイティにおいて、適格資金調達の前にM&Aが生じる場合には、株式ではなく新株予約権のままM&Aを迎えることになるため、その場合の定めをしておく必要があります。

 会社法上、新株予約権の内容として、一定の組織再編が生じた場合の新株予約権の引継ぎについて定めておくことが可能である一方で、それには制約も伴います。そのため、特にコンバーティブル・エクイティにおいては、M&A発生を(新株予約権者である)投資家のエグジットイベントでもあるととらえて、出資額の1倍や2倍といった一定の金額を支払うことで新株予約権を取得するという定めをすることが多いです。また、その金額はスタートアップと投資家との間の交渉事項になり得ます。

 さらに、一定の投資家の承諾があった場合には、株式に転換することができるという定めを置くこともあります。

ご意見等
本解説シリーズに係るテーマにおいては、様々なお立場の読者の皆様がおられるかと存じます。ご意見・ご感想や、「ここは異なるのではないか」といったご指摘を以下にてお待ちしております。

takahiro.iijima★mhm-global.com
弁護士 飯島 隆博
(上記★部分を@に置き換えてください。)

すべてのご意見・ご要望にご対応・ご返信できるかはわからず恐縮ではございますが、いただいたご意見等につきましては、反映できる部分は反映し、スタートアップ・エコシステムの関係者の方々にとってより良い解説となるよう、アップデートしていければと考えております。

なお、本解説シリーズに記載した事項は、当職個人の見解であり、当職が所属する組織その他のいかなる見解も示すものではありませんのでご留意ください。

  1. 新株予約権付社債の場合、新株予約権の買取請求を行うときは、原則として、併せて社債の買取りも請求するものとされています(会社法787条2項・808条2項)。 ↩︎

  2. たとえば、合併の場合には、消滅会社が発行している新株予約権は当然に消滅し、存続会社や新設会社は対価(存続会社や新設会社の新株予約権か、金銭)を支払わなければならない(合併契約の内容として定めなければならない)とされており(会社法749条1項4号、753条1項10号)、仮にもともとの新株予約権の内容として組織再編時の引継ぎについて定めていなかった場合も、新株予約権の保有者は、新株予約権の買取請求権を行使することができるとされています(会社法787条1項1号、808条1項1号)。他方で、会社分割や株式交換、株式移転の場合に、分割契約や株式交換契約、株式移転計画において新株予約権の承継について定めないことは可能です。この場合には、もともとの新株予約権の内容として引継ぎについての定めがなければ、新株予約権の買取請求権を行使することはできないことになります(会社法787条1項2号ロ・3号ロ、808条1項2号ロ・3号ロ参照)。 ↩︎

  3. 「コンバーティブル投資手段」に関する研究会「『コンバーティブル投資手段』活用ガイドライン」(令和2年12月28日)p54等参照。 ↩︎

  4. タームシートのサンプルは、説明のわかりやすさを重視して、本来のタームシートを簡略化したり、用語の厳密さを排除している部分があります。本稿の例をそのままタームシートや新株予約権の内容として使うことはできないことにご留意ください。 ↩︎

  5. J-KISS発行要項5.(7)(a) ↩︎

  6. SAFE 1.(b)(c) ↩︎

  7. J-KISSにおいては「支配権移転取引等」という用語が用いられています(発行要項5.(2)(c) )。 ↩︎

  8. J-KISS発行要項5.(5)参照。 ↩︎

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