【法務キャリアの歩き方】スキルの身につけ方と法務の出世、弁護士資格について本音で語る 転職経験者の匿名座談会(後編)

法務部

目次

  1. 自分を「タグ付け」して戦略的にスキルを身につける
  2. 「法務出身の役員」を目標にする
  3. 弁護士資格の有無は重要ではない
  4. おわりに - 次の転職活動と今後のキャリア形成に生かす

20代、30代の法務担当者が転職で成功するためには何を知っておくべきでしょうか。
転職理由と入社後のギャップ、良い転職先の選び方、面接で確認すべき点、信頼できる転職エージェントの見つけ方について聞いた前編に続き、この後編では、転職に有利なキャリア形成のコツ、キャリアの目標、弁護士資格の有無の意味について聞きました。(2021年4月オンライン開催)

Aさん
ウェブサービス 転職満足度△
法科大学院卒。自らの成績に鑑み司法試験は受けず、専門商社の法務に就職。営業への異動を経て転職し、現在2社目。法務歴4年。

Bさん
メーカー 転職満足度◯
法学部卒。司法書士事務所での勤務司法書士6年を経て現職。法務歴2年。司法書士時代に感じた業務範囲の限界を突破すべく、司法試験予備試験勉強中。

Cさん
メーカー 転職満足度×
法科大学院卒。司法試験を複数回受験して敗れ、サービス業の法務に就職。転職して現在2社目。法務歴6年。

Dさん
外資系メーカー 転職満足度△
法学部卒。ヘルステック企業に就職して事業部門に配属。法務への異動を経て転職し、現在2社目。法務歴5年。

自分を「タグ付け」して戦略的にスキルを身につける

次の転職に向けた活動は始めていますか。

Cさん(メーカー・法務歴6年):
私は今、転職活動中です。業種が違っても法務としてやることはそれほど変わらないと思うのですが、選考が進むのは、現職と同じ業種であるメーカーが多いですね。1社目(サービス業)の経験にはあまり注目されないようです。

Aさん(ウェブサービス・法務歴4年):
私は情報収集を進めているところですが、現職で上場準備という経験をしたことで、期せずして、上場を考えている小規模な会社にウケのいいキャリアになってしまったなと感じています。はっきりした強みがあるのは良いことだと思いますが、これから先の道が絞られてしまった感もあり、複雑な思いです。

Cさん(メーカー・法務歴6年):
採用側はどんな経験を高く評価してくれるんでしょうね。契約審査を年間何件と言ってもあまり響いている感じはしないし、M&Aの経験もそんなに評価されていない気がします。経験やスキルを普遍化して伝えるのは難しいと感じます。

Bさん(メーカー・法務歴3年):
契約審査は誰もが担当する業務なので、職務経歴書に書いても注目されにくいでしょうね。

Cさん(メーカー・法務歴6年):
そうすると結局、年齢と法務歴のバランスしか見ていないんじゃないかと思うんです。つまり、「法務歴2年だけど大量の契約審査経験がある33歳」よりも、「特筆すべきことはないけど法務歴10年の32歳」のほうが高く評価されるのではないでしょうか。

Aさん(ウェブサービス・法務歴4年):
求人情報にも「法務経験◯年」という要素は必ず書かれているので、年数という要素はやはり大きいでしょうね。

法務担当者のスキルは伝え方が難しい。差別化するにはどうすればよいだろうか

Dさん(外資系メーカー・法務歴6年):
私は、経験年数以外にもアピールできる要素を作れるよう、自分に「タグ付け」することを意識しています。いろいろな分野を平均的に経験しているだけでは差別化しにくいと思います。
1社目で法務に異動になったときから狙いを定めていたのは個人情報分野です。もちろん最初は未経験でしたが、多少のハッタリも含めて「得意です」「担当したいです」と言い続け、その一方で、書籍などで知識を身につける努力を続けました。
そのおかげで、個人情報の取扱いに関する社内組織をゼロから立ち上げるなど、若手ながらそれなりの案件を振ってもらえるようになり、知識だけでなく経験や実績を蓄積することができました。

Bさん(メーカー・法務歴3年):
なるほど。その戦略は、一般的に需要のある分野と自分のやりたい分野が一致していればうまくいきそうですね。

Aさん(ウェブサービス・法務歴4年):
私はDさんのように戦略的にはできていませんが、前職で成り行き上、独禁法と下請法を担当していたのは、現職に応募したときにアピールポイントになりました。
現職は一人法務なので、担当したいですと手を挙げなくても全部降ってくる状況です。分野を選ぶ余地はありませんが、自分の強みになるような仕事の仕方を意識してみようと思います。

「法務出身の役員」を目標にする

今後のキャリアプランをどのように考えていますか。

Dさん(外資系メーカー・法務歴6年):
当面は法務としての専門性を高めていく方向で頑張っていきたいと思っています。近い将来には、数人のメンバーを部下に持つチームリーダーくらいのポジションで自分の力を試してみたいので、次に転職するとしたら、そういう経験ができそうかどうかというのを1つの基準にするつもりです。
一方で、中長期的には、法務の専門性を極めることがキャリアのゴールとは考えていません。少しずつスキルを横に広げていき、最終的には、経営企画を兼務する法務の管理職とか、リスクマネジメント全般を見る管理職とか、複数の専門性をかけ合わせてマネジメントに貢献する立場になれたらと思っています。

Cさん(メーカー・法務歴6年):
Dさんのように、法務以外の経験も持っていると横に広げやすいと思いますが、私の場合は、今さら法務以外に行ってもあまり戦力になれないのではないかと感じています。 しかし、法律知識などの専門性だけを強くしていく方向だと、究極的には社外弁護士で代替されてしまうので、存在価値が相対的に下がりそうです。そうなると、法務面の知見を有する部門長あるいは法務担当役員のようなポストがあれば、それが目指すべき姿になるかなと思っています。

Bさん(メーカー・法務歴3年):
私はそれほど具体的には考えていませんが、とりあえず出世はしたいですね。偉くなったらこれがやりたいというものがあるわけではありませんが…(笑)。
当社の場合、法務部ができてまだ何年も経っていないということもあり、法務出身で偉くなった人はいませんが、今の部長には期待しています。出世の道筋が見えるとやる気が出ますので、ぜひ役員まで上がっていただきたいと思っています。

Cさん(メーカー・法務歴6年):
当社でも、法務出身で部長より上に行った人はいませんので、そのルートはハードルが高そうです。
前職の法務部長は取締役でもあったのですが、法務以外の知識も独学で身につけるなど優秀な人だったので、かなり特殊なケースでしょうね。

Dさん(外資系メーカー・法務歴6年):
法務担当取締役って、経営陣の1人として、業績を上げるアクセルを踏みながら、同時にリスク管理のためにブレーキをかけることが求められるんですよね…? いつかやってみたいなという興味はありますが、いざその難しい立場になることを想像すると、プレッシャーに耐えられる自信がありません(苦笑)。

明確なキャリアパスが見えにくいことが法務担当者の悩みや不安の原因の1つかもしれない

弁護士資格の有無は重要ではない

Bさんは司法試験予備試験の勉強をしているとのことですが、キャリアアップのために弁護士資格は必要でしょうか。

Bさん(メーカー・法務歴3年):
予備試験の勉強は勤務司法書士時代から始めていて、企業に就職して弁護士資格を取ればポジションや給与が上がるのではないかと期待していました。
しかし部長からは、「いつか弁護士資格が取れても、役立つ場面はたぶんないし、給料の上乗せもしてあげられないと思う」という趣旨のことを言われました。たしかに、当社には弁理士資格を持つ人が在籍していますが、資格手当等はないようです。
これまで弁護士資格者が在籍した前例がなく、また、あまり必要ともされていないなかで、司法試験に合格したら逆に会社から煙たがられてしまうのではないかと心配しています

Aさん(ウェブサービス・法務歴4年):
社内弁護士のいる会社は多いですが、待遇や業務内容に関して資格を考慮しているケースはどれくらいあるのでしょうね。
私の感覚では、経営陣が弁護士資格の価値をあまり重視していないことが多いように思います。そういう会社では、資格者がいても持て余してしまうでしょう。

Cさん(メーカー・法務歴6年):
外資系企業では、結果的に法務部門のトップが日本やニューヨーク州等の弁護士資格者であることも多いようですが、少なくとも日系企業では、基本的には資格の有無はあまり重要ではないと思います。

Dさん(外資系メーカー・法務歴6年):
部長や課長の候補として、能力と経験が同程度の人が2人いたとして、資格の有無しか違いがなかったら有資格者が選ばれるということは考え得るでしょう。

Cさん(メーカー・法務歴6年):
一口に有資格者といってもさまざまな職歴の人がいます。ビジネスパーソンとしての能力も含めて総合的に評価されるなかで、それでも有資格者のほうが優遇されるとしたら、私たちのような非有資格者が、有資格者以上の価値を提供できていないことを示しているのではないでしょうか。

Aさん(ウェブサービス・法務歴4年):
結局、資格があるから優秀とか、資格がないから能力が低いとかではなく、優秀な人がたまたま弁護士資格者だった、というくらいのことなのではないかと思います。

Cさん(メーカー・法務歴6年):
法務として果たすべき役割は、ビジネスと法律の橋渡しであり、法律の専門家であることが求められているわけではないと考えています。法律面での知識や経験を極めるというより、ビジネスに近い立場から有益なアドバイスができるのが、優秀な法務パーソンだと思います。資格があってもなくても、この点を忘れてはならないでしょう。

おわりに - 次の転職活動と今後のキャリア形成に生かす

最後に、本日の感想を教えてください。

Aさん(ウェブサービス・法務歴4年):
参考になるお話が伺えて、また共感できるお話も多く、大変面白い会でした。
冒頭でCさんが言ったように、私も法務の仕事は業種にとらわれないのではないかと思っていました。でも皆さんのお話を聞いてみて、取り扱う分野や関わり方は業種や業態によってかなり違うということがわかったので、今後の転職活動では注意したいと思います

Bさん(メーカー・法務歴3年):
現職は、一般にはあまり知られていない非上場会社なので、知名度の高い上場会社がうらやましいと感じることもあります。しかし今日、皆さんのお話を聞いて、有名な上場会社が必ずしも働きやすい会社とも限らないんだなということがよくわかりました(笑)

Cさん(メーカー・法務歴6年):
私の場合は、初めての転職は成功とはいえない結果となりましたが、法務という職種自体は、努力して学んだことをダイレクトに仕事に活かせるのが面白いし、専門職で食いっぱぐれないという点でも気に入っています。
今日の皆さんのお話も参考にしながら、次に向けた転職活動とその先のキャリア形成を頑張っていこうと思います。

Dさん(外資系メーカー・法務歴6年):
この座談会は、普段漠然と考えていたことを言語化する機会となり、また、自分の考えに対する皆様の反応に触れることができ、非常に有意義な時間でした。
法務業界は今、大きく変化しようとしています。AIなどのテクノロジーによって、単調かつ大量の事務処理から解放され、重要な仕事に注力することのできる未来がもうすぐ実現するかもしれません。法務パーソンとして、そんな変化を楽しめるような仕事をできたらいいなと思っています。

長時間にわたりありがとうございました。

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