NFTと法

第3回 NFTアートと著作権法の関係

IT・情報セキュリティ
片山 智晶弁護士 アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業 奥田 美希弁護士 アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業 鈴川 大路弁護士 アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業

目次

  1. はじめに
  2. 著作権法のポイント
    1. 「著作物」とは
    2. 「著作者」「著作権者」とは
    3. 「著作権」「著作者人格権」とは
    4. NFTアートを考えるうえで重要となる著作権法上の考え方

はじめに

 第1回でもご紹介した「NFTアート」とは、唯一無二のユニークなデータを作成できるNFTの特性を活かし、デジタルで表現したアート作品の保有者の履歴等をブロックチェーン上で記録したアート作品をいいます。

 キャンバスなど物理的媒体に表現したアート作品(以下「リアルアート」といいます)は、美術的表現の価値に加えて、「原作品はこの世にただ1つしかない」という希少性が価値を高めているという側面があります。しかし、リアルアートは有体物であるがゆえに、時の経過による物理的な劣化や、流通のスピードや流通範囲の制約などの問題点があります。

 他方で、デジタル媒体に表現されるアート作品(以下「デジタルアート」といいます)は、物理的な経年劣化はなく、流通性はきわめて高いものの、複製が可能であることからリアルアートに比べて希少性が低いとされてきました。

 「NFTアート」は、リアルアートの希少性と、デジタルアートの流通性を兼ね備えたいわばハイブリットのようなアート作品といえます。近年、「NFTアート」市場は急速な盛り上がりを見せており、従来はリアルアートやデジタルアートの場面で活躍してきた著名なアーティストも、多数「NFTアート」作品を発表しています。

 しかし、「NFT」や「NFTアート」の法的性質、すなわち何に対してどのような権利が発生するのかについては専門家の間でも確立した見解がまだありません。

 このような状況を踏まえ、第3回では、「NFTアート」に関する法的論点および実務上の留意点について、主に「リアルアート」との対比で考察していきたいと思います。

 本稿では、まず、「アート」を保護する著作権法について、ポイントを簡潔に整理します。そのうえで、第4回は以下の簡単な事例を題材に「リアルアート」に対する著作権法のルールと比較しつつ、「NFTアート」の法的課題を検討します。そして、第5回では検討結果を踏まえ、「NFTアート」の流通を促進する「NFTアートプラットフォーム」のルールのポイントを提案します。

リアルアート

画家であるAは、ひまわりを題材とした油絵を描いた。Aは、当該油絵をBに販売した。その後Bは、当該油絵を二次流通市場で販売し、C、D・・・と所有者が移転した。 リアルアート
NFTアート

クリエイターであるAは、NFTを活用して、ひまわりを描いた「NFTアート」を作成した。Aは、「NFTアート」を取引するプラットフォーム上において、当該「NFTアート」を出品し、Bが購入した。その後、Bは当該NFTアートをNFTプラットフォーム上で販売し、C、D・・・の手に渡っていった。 NFTアート

著作権法のポイント

 著作権法は、端的にいうと、創作的な表現である「著作物」について「著作者」ないし「著作権者」がもつ「著作権」や「著作者人格権」等の権利を保護する法律であるといえます 1

「著作物」とは

 著作権法は、保護の対象とする「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義しています(著作権法(以下「法」といいます)2条1項1号)。

 著作権法は、著作物の例として、「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」(法10条1項4号)をはじめ、小説、映画、コンピュータプログラム等を示していますが、「創作的な表現」である限り、保護対象は例示されたものには限られません。また、「著作物」として、著作権法で保護されるためには、「創作的な表現」がキャンバス等の有体物に物理的に固定されている必要もありません。

「著作者」「著作権者」とは

 「著作者」とは、著作物を創作した者(法2条1項2号)をいい、原則として創作行為を行った自然人がこれにあたります。著作権法は、「著作物」の創作者である「著作者」に対し、「著作権」および「著作者人格権」という権利を与えています(法17条1項)。

 後述するように、著作権は第三者に譲渡することが可能です(法61条1項)。したがって、「著作者」は基本的に変わることはありませんが、「著作権者」は「著作権」の譲渡によって変わっていくことになります。

「著作権」「著作者人格権」とは

 著作権、著作者人格権は、創作と同時に発生し、特許、商標、意匠等の産業財産権と異なり、出願や登録を要しません(法17条2項)。

 「著作権」とは、主に著作権者の経済的利益の保護の観点から、著作権者が著作権法で定める方法で著作物を利用することを独占する権利です。言い換えると、著作権とは、著作権者以外の第三者が著作物を著作権法に定める方法で利用することを禁止できる権利(禁止権)です。

 なお、「著作権」は一般的になじみのある言葉ですが、「著作権」という単一の権利があるわけではありません。著作権法では、著作物の利用形態に応じて、著作権の内容をいくつかの種類に分けて規定しており、これらを「支分権」といいます。すなわち、「著作権」とは、以下の権利を含む支分権の集合体であり、いわば権利の「束」を総称したものといえます。また、「著作権」は、一部または全部の支分権を譲渡することができる「財産権」でもあります(法61条1項)。

 これに対し、「著作者人格権」とは、著作者の人格的利益を保護する権利です。著作権と同様、著作者人格権も、著作物を公表する(あるいは公表しない)権利を保護する公表権(法18条)、著作物に著作者の氏名を表示する権利を保護する氏名表示権(法19条)、著作者の意に反する改変から著作物を保護し、著作物の同一性を保護する同一性保持権(法20条)等の権利の総称です。他方で、著作者人格権は、著作権とは異なり、著作者の人格を保護する「人格権」であるため、著作者のみに帰属し、譲渡することはできません(法59条)。

著作権法上の主な権利の見取り図

著作権法上の主な権利の見取り図

NFTアートを考えるうえで重要となる著作権法上の考え方

 以上が、著作権法の主なポイントですが、「NFTアート」を考えるうえで重要となる点をさらに2点補足します。

(1)著作権・著作者人格権は「表現」(無体物)についての権利である一方、所有権は有体物についての権利

 まず、著作権や著作者人格権は、あくまで「著作物」という創作的表現、すなわち、形のない無体物についての権利であり、「絵画」や「彫刻」等の「リアルアート」は、形のある「物」である有体物として「所有権」の対象となり、「所有権者」が別個独立に存在する点が重要です。

 所有権は、民法で「法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利」(民法206条)として規定されており、契約関係にない第三者に対しても行使できる絶対的な権利として保護されています。著作権法は、このような所有権の性質を踏まえ、著作権と所有権が抵触し得る場面においては、これらの権利を調整する規定を置いています。

 他方で、「NFT」は、「所有権」の対象にはならないことは第1回でもご説明したとおりです。したがって、一見、これらの規定は「NFTアート」には関係ないようにも思えます。

 しかし、これまで、所有権の対象となる「リアルアート」が、「アート」自体の取引ルールを形成し、著作権法に反映されていることは事実として存在します。他方で、「NFTアート」は、唯一無二のものとして希少性を高めている点で「リアルアート」とも共通しています。したがって、「NFTアート」のルールを考えるにあたっては「リアルアート」のルールをまず出発点として、「NFTアート」特有の性質に着目して議論するのが適切であると考えられます。

(2)「追及権」に類似した仕組みの構築

 次に重要な点として、日本の著作権法ではまだ認められていない「追及権」の存在があります。「追及権」とは、最初に譲渡された時にはきわめて低廉な価格であった美術品が、転々譲渡する過程で次第に価値が認められ、飛躍的に価格が高騰するアート作品の取引実態にかんがみ、著作権者に対し、作品の譲渡対価の一部を受領する権利を認めたものであり、例えばフランスなどではすでに法的な権利として認められています。

 他方で、日本では、美術品の取引を追跡することが技術的に困難であることなどを理由に、まだ法的な権利としては認められていません。しかし、NFTの基礎であるブロックチェーン技術によって取引の追跡が可能となるため、「追及権」またはこれに類似した仕組みを作ることが技術的には可能となっており、アーティストにとって「NFTアート」を創作する大きな魅力の1つとなることが指摘されています。
 「NFTアート」のルールを考えるうえでは、著作権法上の「リアルアート」のルールをベースにしつつ、「追及権」のような権利についても改めて議論していくことが望ましいと考えられます


  1. 著作権法では、レコード製作者、放送事業者、実演家が持つ著作隣接権も保護していますが、簡略化の観点から本稿では割愛します。 ↩︎

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